QUEENブライアン・メイのギターは常識破りの連続だった

アスキー 10月15日(土)12時00分配信

 神奈川県逗子市のギター工房、Kz Guitar Works(ケイズギターワークス)が、初のオリジナルモデル「Kz One Standard」を発表した。

 セミホロウ(中空)の軽いボディーにセットネック。動きのなめらかなケーラー製のトレモロユニットに、ゴトー製のロックペグという、チューニングの安定に配慮したモダーンなパーツ構成。直列接続された3つのピックアップは、オン/オフとフェイズ切り替えの組み合わせで、13通りのサウンドバリエーションが得られる。

 Kz One Standardは、逗子の工房で製作されるオールハンドメイドのギターで、細かいオーダーも効く。価格は税別35万円からスタート。まったくもって安くはないが、ほかのギターには代えがたい魅力がある。

 このギターを設計したKzの伊集院 香崇尊(いじゅういん かずたか)氏は、ブライアン・メイのアイコンでもある「レッド<3350>・スペシャル」のオフィシャル・シグネチャーモデル「Brian May Super」を制作したことで世界的にも知られている人だ。

 レッド<3350>・スペシャルは、少年時代のブライアンが、父親のハロルドとともに作り上げたもの。「世界一有名な自作ギター」と言われ、クイーンの独創的ギターサウンドの秘密を握る鍵として、長年憧れてきたファンも多いはずだ。しかし、ギターを設計した経験がない父子が考えたもので、普通のギタリストには扱いにくいと言われてきた。

 そうした点を熟知している伊集院氏が、一般的なギタリストにも扱いやすく、かつレッド<3350>・スペシャルのサウンドキャラクターを維持できるギターとして、ゼロから設計したモデル、それがKz One Standardなのだ。

 今回は、そのKz One Standardについて語る前に、そのトリガーとなったレッド<3350>・スペシャルとは、そもそもどのようなギターなのか。私の友人が、限定生産されたレプリカモデル「Kz Pro」の1本を持っているというので、まず、その実物を見せてもらいに行った。

インターネットで暴かれる「あの音」の謎

 ところで、このKz Proの所有者である私の友人については、単に友人と呼ぶのみに留めておきたい。先を読めばわかるが、この友人には素性を知られてはならない理由がある。そのため、私と同い年でありながら、今は一部上場企業の代表取締役であるという、極めて大雑把なプロフィールしかお伝えできないのが残念である。

 しかし、Kz Proは会社の社長室にあるというので入ってみると、壁にはコードフォームの一覧表、床にはVOXのValvetronix、VOXのワウ型ドアストッパー、Ampegのロゴ入が入った椅子、棚にはフライヤーのトレブルブースターやVOXのブライアン・メイ・シグネチャーモデルのVBM-1が並んでいて、いろいろわかりやすい。いいのかこれで。

てあしくちびるは日本の音楽シーンを打破する先端的ポップだ

 そして、これがKz Guitar WorksのKz Pro。美しい!

てあしくちびるは日本の音楽シーンを打破する先端的ポップだ

―― で、これ、いくらしたの?

友人 90万くらいですかね。

―― きゅ、きゅーじゅーまんえん! しかしまたなんで、そこまでブライアン・メイにハマりましたか。

友人 音ですよ。あの変な音。ほかのギタリストとはぜんぜん違う音じゃないですか、クイーンのギターって。小学校のときに聴いて感銘を受けて、どうやってこんな音を出しているんだろうと。我々の世代って、大体そうじゃない。

―― ジャケ裏に「No Synthsizers」って書いてあったりして。それで、あのギターさえあれば、あの音が出るんだと思ってたよね。

友人 まあ、いまになって思うんだけど、まったく同じ機材を揃えたからって、同じ音が出るとは限らない。信号<6741>を解析すると同じような音は出ているのかもしれないけど、やっぱ指使いとか手癖みたいなものが、一番大きいのかなって。

―― 一度、追い込んでみるとわかるよね。でも、僕らが子供だった1970年代には「100年前の暖炉の木を使ってお父さんと作った」みたいな朴訥とした話しかなかったけど、まあ最近はいろんな情報が出てきて、それがおもしろかったりするんだろうね。過去の謎解きみたいで。

友人 やっぱりインターネットのせいじゃないですか。いままで謎のベールに包まれていた事実が続々と。私がKz Guitar Worksを知ったのもインターネットだし。

―― それ、いつ頃の話ですか。

友人 10年ちょっと前。探していたんですよ、ブライアン・メイのギターのレプリカを。そしたらBurnsから安いコピーが出ているというので、まずそれを買ったんだけど、どうも本物と違う。

―― 形だけ似たようなものじゃ嫌だと。

友人 それで、インターネットの掲示板があるのね、アメリカの。そこにマーク・レイノルズという、実際にブライアン・メイのギターのレストアに付き合ったイギリス人がいて。いろいろ細かい話をしていたら、もう全然違うものに思えてきて。そうしたらスティーブ・ターピンという人がカリフォルニアにいて、その人がRS Guitarsというブランドで、レッド<3350>・スペシャルスタイルのギターを作っている。2000ドルちょっとだったかな。それを買ったの。でも、それも本物とちがう。

―― なんかもう取っ替え引っ替え大変ですな。

友人 で、日本にはKz Guitar Worksという工房があると、その掲示板に載っていたんですよ。

―― 灯台下暗しっていうか。

友人 まず「Kz Junior」というモデルを買ったわけね。それはKz Proの廉価版というポジションなんだけど、フィンガーボードはエボニー、トレモロユニットはウィルキンソンのローラーサドル付きだったりして、逆にギターとしては、そっちの方が当たり前でよくできている。こっち(Kz Pro)は、その廉価版を元に、普通そういう風には作らないだろうってところまで、本当にオリジナルの細かいところまで再現しているんですよ。

普通そうは作らないだろ ネック編

―― じゃ、構造はオリジナルと一緒ってことですね。ちょっと触っていいですか。

友人 いいよ。

―― あ、やっぱ軽いね。さすがセミホロウだ。

友人 でもポジションおかしいでしょ。膝に乗っけるとヘッドが手前に来ちゃう。

―― ショートスケールだし、すごい狭い感じが。フレットボードはフェノール樹脂みたいだな。

友人 エボニーを買うお金がなかったから、オークを黒く着色して塗装したっていう、そういう貧乏臭いところまで再現しているんですよ。あとオリジナルと同じ、ゼロフレット仕様なんです。

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フレットボードはツルツル
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これがゼロフレット。通常は牛骨や樹脂に弦の溝を切ったナットというパーツが弦の支点に使われるが、ゼロフレットは開放弦でも弦がフレットを支点にしているので音の違和感が少ない

―― 凝ってますねえ。で、ネックが太い。いや、ほんと太いな。

友人 バットのようにね。で、こいつが6ペンス硬貨です。これで弾いてみましょう。

てあしくちびるは日本の音楽シーンを打破する先端的ポップだ
ブライアン・メイはピックの代わりに6ペンス硬貨で弾いているのだった

―― おーっ、6ペンス硬貨初めて見たぞ。

友人 で、このギターにはブライアン・メイがいま使っている弦と同じものを張っています。これ。

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「オプティマ ゴールド」ドイツ製。ゲージは.09/.11/.16/.24/.32/.42で、一般的なスーパーライドゲージと同じ

―― あれ、.09なの?

友人 そうなんですよ。昔は.08だったけど。今は.09らしい。

―― ネックはボルトオン……って、ホントにぶっといボルト1本でオンなのね。

友人 木にいきなりワッシャーでボルトナットで止め。どういうことって思うんですけど。

―― これネックの角度、左右にブレない?

友人 ネックジョイントがボディーのセンターまで伸びていて、そこでネジ止めしてあるんで、そこの調整は効くんですけどね。

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―― ヘッド裏に伊集院さんの名前入ってるのね。あれっ、これって最近のロックペグじゃん。

友人 最初にレッド<3350>・スペシャルをレストアしたグレッグ・フライヤーという人が、シャーラーのロックペグに変えたんですよ。これもそれと同じものを使っていて。でもシャーラーのオリジナルのボタンはこの形じゃなくて、ゴトーのボタンをシャーラーに合うように削って付けてる。だから伊集院さんも同じことをしていて、ゴトーのパーツを削ってシャーラーにハマるようにしているの。

てあしくちびるは日本の音楽シーンを打破する先端的ポップだ
ヘッドの裏に製作者の名前とKz Guitar Worksのロゴ。ここだけオリジナルと違う

90万円ならラッキーといえる作り込み

―― しかし、リアのピックアップとブリッジが近いね。ショートスケールで24フレットもあるから、ピックアップのレイアウトに困っちゃったのかな。

友人 ブリッジに近すぎて、リアだけではろくな音はしないんですよ、弦振動のエネルギーが一番少ないところだから。それで常にセンターを同時に鳴らして、ハムバッカーとして使うしかない。でも、それで結果的にほかのギターにはない、いい音が出ちゃってる。強運の人ではありますよね。

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3つのピックアップはBurnsのトライソニックで、それぞれオン/オフと位相を切り替えるスイッチがある。ピックアップは通常は並列接続だが直列接続なのが特徴。センターのみ磁極が逆のため、リア+センター、センター+フロントの組み合わせで、ハムバッキング効果を生む。また位相を反転した組み合わせでは極端なローカットが効き、ハーモニクス成分の多い特徴的なフェイズアウトサウンドが生まれる

―― この時代でローラーサドルは画期的だね。クルクル回ってフリクションをなくしてチューニングの狂いを抑えるっていう。少年ブライアンすごい。でもローラーはブリッジに切られた溝に乗っているだけだし、弦が切れたら飛んでくじゃん。やだなあ。

友人 やでしょ。サドルの調整もローラーを外して移動したりとか、すごくない? あとブリッジの高さも、シムを入れたり抜いたりで決めていく。でも、伊集院さんはそこまで同じにしたかったんでしょうね。あと不思議なのは、ブリッジの足がピックガードの上に乗ってるんですよ。普通ボディーの上に乗せませんか。

―― じゃなに、これピックガードの上に浮いてるの?

友人 下にネジで止まってるんですけど、その間にピックガードがかんでる。だからピックガードを外そうとすると、ブリッジも一緒に外さなければならない。それでブライアン・メイは何をしたかというと、ピックガードの下の一部を切って、ブリッジを外さずピックガードを外せるようにしたんです。ほら、よく見ると下に切れ目入ってるじゃん。

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―― あー、両脇に微妙な線が。こういう現物合わせで本人がやったようなところまで再現しているのね。

友人 そうなんですよ、ほぼ再現。アームの曲がり方も同じだと思いますね。オリジナルを形どったものをグレッグ・フライヤーが持っていて、それに合わせて作っているので。細かいところで言えば、あちこちネジも統一されていないじゃないですか。多分、そこら辺にあったものを使ったんでしょうけど、それも再現している。そこがすごいんですよ。

―― これはすごいな。トレモロやブリッジみたいな、ワンオフの変態パーツも全部再現して、90万で買えてラッキーくらいの感じじゃない。

友人 その値段は秘密ですけどね、家族には。

―― えっ。

日本のおとうさんとギター

―― ではこのギターを買うにあたってご家族のみなさんにはどう説明しましたか。

友人 あの、そういう細かい話をここでするんですか。

―― とても大事なことです。懺悔なさい。

友人 欲しいギターがあったからというので、まあ普通に話したですよね。一応、家族には良くしてもらってます。ブライアン・メイが好きだって知ってるんで。

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KzでチューニングしたVOX AC30も社長室に。運搬用にフライトケースまで用意していて海外出張にも対応できる状態

―― でも値段は言っていない。ここ(社長室)にギターを置いているのは、なにか罪の意識があるからなのでは。

友人 家もそんなに広くないので、全部は置けないんですよ。でも、ここで大きな音も出せませんから。隣の部屋では普通にみなさんが会議をされていたりするので、「グイーン」なんて音を出した日には、それはもう大変なことに。

―― 総会でやり玉ですね。

友人 それで家にある2、3本と、ここに置いてある2、3本を入れ替えて、家で音を出しているというわけです。

―― なるほど。で、まさかそのギター全部レッド<3350>・スペシャルのレプリカとか。

友人 いやいや、1本しかないです。ほかはこんな高いギターはないです。それに、これを買うときに、BurnsやRS GuitarやKz Juniorは売りました。

―― バンドとかやってないの?

友人 やってみたいですよね。時間がなくてほとんどベッドルームギタリストと化しているからな。

―― 俺たちおっさん、みんなそうなんだって。ギター買っても家で弾くだけ。でも、あともう10年ちょいしたらリタイアして好き勝手できるじゃないですか。

友人 そしたらバンドやりましょうか、ヨツモトさん。

―― そうしましょう。ところで、伊集院さんのところの今度の新しいやつ、Kz One Standard、どうですか。いまものすごく悩み中です。

友人 私も悩み中です。すごく使いやすいし、良くできているギターだし、あの音も出る。だけど、すでにこれ(Kz Pro)があるので、同じような音のするギターが2本あっても、という気もするし。そこで悩んでいます。

―― 僕はお金がないから悩んでるんで、社長だったらそこは悩まずに行ってくださいよ、ポーンと。

友人 あのね、社長を決めるのは株主のみなさんなので、お給料も総会で決まっちゃうので、オーナーさんで非公開企業なら別ですけど、雇われ社長で結局サラリーマンなので、私もお金ないの。

―― はい、わかりました、はい。

友人 でも、実際にモノを見て、作っている現場とか、作っている人の話を聞くと、むしろよくあの値段でやってるなあって気がする。これ(Kz Pro)を見てもわかる通りで、本当に丁寧に作ってるからね。だからヨツモトさん買ってください。

 そうすると、ますます欲しくなるだけなのでヤバいとは思いつつ、次回は逗子にあるKz Guitar Worksの工房にお邪魔し、ギターを作っている現場を見学しながら、設計した伊集院さんにKz One Standardについてうかがっていきたいと思う。お楽しみに。



アスキー
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    最終更新: 10月15日(土)12時00分

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