社員が辞めたら補充すればいいという発想は悪しき文化

アスキー 2016年10月25日(火)09時00分配信

 キヤノンシステムアンドサポート(以下、キヤノン<7751>S&S)の業績が好調に推移している。2016年1~8月は、前年同期比増収増益で推移。とくにITソリューション事業は前年同期比2桁増で、その成長の原動力になっているのがセキュリティー関連だという。

 キヤノンシステムアンドサポートの久保邦彦社長は「中小企業においてもセキュリティー対策は経営の問題のひとつになっている。だが、どうしたらいいのかわからないといった声や、専門知識を持った人材がいないといった声もあがっている。キヤノン<7751>S&Sでは、そうした中小企業が持つ課題にワンストップで応えることができる」とする。

 同社では、FortiGateのUTM(Unified Threat Management=統合脅威管理)アプライアンスの販売台数では国内トップシェアを持つほか、キヤノン<7751>ITソリューションズが国内総販売代理店として展開するウイルス対策ソフト「ESET」による提案、セキュアとの連携による入退出管理ソリューションの提案に加えて、クライアント統合管理ソフト「SKYSEA」でも高い実績を持つ。さらに、ドキュメントセキュリティーの提案でも、同社ならではの提案によって、差別化しているという。

 「社内では、作業課題でモノを売るなといっている。これまでは、複合機のコピースピードが速いとか、スキャンスピードが速い、あるいは電子化することでの業務の効率化を実現するといった提案が多かったが、生産性を高める提案はすで限界に達している。経営層やIT管理者が持つ経営課題や業務課題を解決する提案が求められており、セキュリティーはそうした観点からの提案を進める必要がある。ラムサムウェアによる被害は、中小企業にも及んでおり、こうした事態に陥らないための対策も、経営課題のひとつとしてとらえて提案していくことになる」とする。

 セキュリティー提案が業績向上につながっているほか、同社が持つ全国195ヵ所の拠点を活用したIT保守の体制を持っていることや、継続的に実施している新規顧客開拓の積極的な取り組みも、ITソリューション事業の拡大につながっているという。

 キヤノンマーケティングジャパン<8060>では、2020年を最終年度とする「長期経営構想フェーズIII」を発表。そのなかで「グループ総力によるITソリューションビジネスの拡大」を基本方針のひとつに掲げており、グループ全体のITソリューション事業の売上高を、2020年度には2500億円にまで拡大。売上比率を2015年度の26%から、31%に引き上げる考えを示している。キヤノン<7751>S&Sはその実行において重要な役割を担う。

 一方、久保社長が、2016年1月の社長就任以来、取り組んでいるのが、現場との会話を増やすことだ。

現場に赴くのは事業品質を高めるため

 1月の社長就任時、久保社長は社員に向かって「私はキヤノン<7751>S&Sの歴代社長にように威厳も貫禄もない。だが、いままでの社長との最大の違いは、社員の一番近くにいる社長である」と宣言してみせた。

 もともと複写機の営業一筋だった久保社長は、営業現場の状況を熟知している。社長就任前から最前線の現場を訪れ、社員とのコミュニケーションを通じて事業を成長させてきた手法は、社長就任後もそのままだ。

 実際、社長就任以来の8ヵ月間で、全国約30拠点を直接訪問。2年以内に全国185拠点をすべて訪問する考えだ。

 「全拠点を訪問することを目標に掲げた社長は私が初めて」と久保社長は笑う。

 もちろん、訪問することに目的があるわけではない。その場で社員との会話を通じて、会社の方針を直接伝えることで、キヤノン<7751>S&Sの事業品質を高める狙いがある。

現場の社員と話し、社員を育てる

 「5000人を超える所帯とはいえ年間約100人の社員が辞めている。なぜ、これらの社員が辞めることになったのか。その理由のひとつには、社員をしっかりと育てられなかったのではという反省がある」とする。

 一般的に営業会社は3年で3割、5年で5割の社員が退社するとも言われている。長続きしない職種のひとつでもある。

 「仕事についていけない」、「先輩のように働けない」などの理由も多い。だが、なかには「社員を育てようという意識が感じられない」という厳しい声もあったという。

 「年間100人という数字は、10年継続すれば1000人。それだけの人がキヤノン<7751>S&Sに不満を抱いて去っていった。辞めた社員から、次の職場に行ってキヤノン<7751>S&Sを辞めなければ良かったという声も聞くこともあるが、一度でも強い気持ちで辞めたいと思わせてしまったことは事実。言うは易しであることはわかるが、社員を育てること、もっとコミュニケーションを強化することに力を注ぎたい」

 直接現場をみて、若い現場の社員と会話をすることに力を注いでいる理由のひとつはここにある。

 一方で、社員が辞めたら補充すればいいという発想が社内にあることも悪しき文化のひとつだと位置づける。

補充という考えはしない

 「育てるという意識が低いため、辞めたら補充すればいいと考えている。これでは事業品質は高まらない」

 今年の新人配属に、久保社長は口を挟んだ。

 「社員が辞めた組織の課長の下に、新たな社員を配属しても育てることができるのか。優秀な営業マンが、優秀な管理者であるとは限らない」とし「補充という考え方はしない。もう一度、配属を見直してほしい」と語った。

 久保社長の要請に、約7割を変更した配属案が示されたという。「こんなに変わるとは思わなかった」と久保社長は苦笑いする。

 「私が求めている営業はモノを売れる営業ではない。モノが売れるのは当然のことであり、むしろマネジメントができ、チームの力を高めることができる営業が必要」とする。

166人にそれぞれ3時間かけた地獄の説教

 久保社長は大学卒業後、最初に入社した会社の社長に「俺がシロといったら、カラスもシロだ」と言われ、その考え方に違和感を持って退社した経験を持つ。その経験をもとに、社員が正しく働くことができる環境づくりを目指す。

 久保社長は今年度上期中に、166人の部長に対してそれぞれ3時間をかけて、自らの考えと方針を説明した。

 「社内では、これを『地獄の説教』と呼ばれていた」と久保社長は笑う。

 徹底した議論は社員にとって地獄だったのかもしれないが、一日中ずっと喋っていられるぐらい話好きと自ら語る久保社長にとっても「地獄」だったようだ。

 さらに7、8月は、営業/サービス部門の本部長を対象に、全国10ヵ所の支店で対話を実施。さらに10月からは3ヵ月をかけて、600人の課長を対象に中期経営計画の狙い、目指す事業品質などについて直接説明する場を設けるという。

 そして、事業品質を高めるという点で、顧客に対する姿勢についても変革をうながす。

キヤノン<7751>の原点に戻り、事業品質の改善へ

 決算月には極論すれば「手段を選ばず」と表現されるような営業活動を進め、それによって予算を達成するという馬力は、営業会社には必要だ。だが、一度注文を獲得したものの、それ以降のつながりが薄れ、顧客を失うといったこともある。

 そうした事態を生むのであれば、無理をせず、顧客とのリレーションをしっかりとつなぎ、次の受注へとつなげる方がお互いにプラスになると判断するのが久保社長のやり方だ。

 「決算月というのは当社側の事情。お客様の事情をしっかりととらえた営業をする必要がある」とする。

 顧客との継続性の維持を優先することが、経営品質の向上にもつながり、それが社員や顧客の成長にもつながるというわけだ。

 キヤノン<7751>の創業者である御手洗毅氏は、「新家族主義」という考え方を打ち出した。ここでは、「社員はキヤノン<7751>という大家族の一員であり、キヤノン<7751>は社員全員のもの」と位置づけた。当時は、「Go Home Quick」という言葉の頭文字を取り、「GHQ」と呼ばせたユニークな一手も打っていたほどだ。

 そうした言葉を引き合いに出しながら久保社長は「家族に接するような形で、部下に接してほしい」と呼びかける。

 「出来が悪くても自分の子供ならば、叱ってでも良くしようとする。だが身内でないからこそ、社員は辞めてしまってもいいとなる。叱ったときには、一時的には嫌なムードになるときもある。だが育てるという意識が伝われば、それは解決する。父親と険悪なときには、母親が間に入って取り持ったり、解決したりする役割を担うこともある。そうした関係を組織で構築してほしい」

 キヤノン<7751>の創業の原点に戻りながら、新たな社員との関係、顧客との関係を構築し、それによって事業品質の改善に取り組むのが久保社長の手法だ。もちろん、成長戦略の手綱を緩めるつもりはない。

アスキー
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    最終更新: 2016年10月25日(火)09時00分

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