“老舗”シスコに新たな息吹を、イノベーション戦略担当役員

アスキー 10月27日(木)07時00分配信

 多くの業界、ビジネスが変革期を迎えている現在。大手企業と言えども、自ら積極的な変革を図っていかなければ、その将来は危うい。「イノベーションを起こせ、さもなくば死あるのみだ」。シスコ会長のジョン・チェンバース氏はそう語った。シスコ自身に対する危機感でもある。

 そのシスコには“イノベーション戦略”を担当する役員がいる。どのような目的で、またどのような手法で社内のイノベーションを喚起し、また社外にあるイノベーションの“種”を発見、自らに取り込んでいるのか。米シスコシステムズ コーポレート・ストラテジック・イノベーション・グループ テクノロジー戦略担当シニアディレクターのヘルダー・アンチューンズ氏、同社 イノベーションセンター東京 シニアマネージャーの今井俊宏氏に話を聞いた。

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シスコシステムズ コーポレート・ストラテジック・イノベーション・グループ テクノロジー戦略担当シニアディレクターのヘルダー・アンチューンズ(Helder Antunes)氏

破壊的なイノベーションを発掘し、育成、マネタイズする組織

――まず、アンチューンズさんが率いる「コーポレート・ストラテジック・イノベーション・グループ」とは、どんな組織なのでしょうか。

アンチューンズ氏:CSO(最高戦略責任者)オフィスの配下にあるコーポレート・ストラテジック・イノベーション・グループ(CSIG)は、シスコ全社のイノベーションに対して幾つかの役割を担っている。主なものを紹介しよう。

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シスコ コーポレート・ストラテジック・イノベーション・グループ(CSIG)の主要テーマ

 まず「全社におけるイノベーションの中心的な指揮役」だ。各事業グループと協力しながら、社内/社外に向けたさまざまなイノベーションプログラムを実施している。これは後で紹介しよう。

 次に「次世代テクノロジーの検証」である。今後3~5年を見通して、シスコに関係してくるであろう新たなテクノロジーを発掘し、検討や検証を行う。これに関連して、先進的テクノロジーの年次レポート「Cisco Technology Radar」も発行している。

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CSIGが最近注目しているテクノロジーの例。ネットワーキングやコンピューティング以外のテクノロジーもテーマとなる。なおアンチューンズ氏はOpenFog Consortiumのチェアマンも務めている

 もう1つ、「イノベーションセンターの指揮」という役割もある。シスコでは、東京を含む世界9つの拠点にイノベーションセンターを開設しているが、CSIGが中心となって全体の方向性をまとめ、すべてのセンター間で一貫したシナジーが生まれるよう図っている。APAC、欧州、北米、南米に点在する9つの拠点が、仮想的な“1つのイノベーションセンター”として機能しているわけだ。

――世界9拠点のイノベーションセンターでは、具体的にどのような取り組みを行っているのですか。

アンチューンズ氏:イノベーションセンターには世界でおよそ60名が所属しているが、テクノロジストやフェロー、プログラムマネージャー、マーケティング、事業開発など幅広い分野の経験豊富な人材が揃っている。ここにスタートアップやアクセラレーター、企業顧客、大学の研究者などを招き入れ、共同開発を行うことで“破壊的な(disrupted)イノベーション”を生み出すことが目的だ。

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シスコ イノベーションセンターの目的。イノベーションを生むことだけでなく「それを迅速にマネタイズすること」も重要視している

 そのため、イノベーションセンターではそれぞれの地域でイノベーションを生みそうな分野やスタートアップを見いだすとともに、「イノベーションエコシステム」を構築することを目指している。地域のスタートアップやインキュベーター、アクセラレーター、大学研究機関、そして顧客とシスコが手を組み、共同でイノベーションを進めるための枠組みだ。

今井氏:たとえば東京のセンターの場合は、IoT関連のソリューション開発を促進するため、3つのスタートアップやアクセラレーターに投資をしている。またエコパートナーは現在、慶応大学の研究室なども含めて11パートナー。加えて、シスコ東京オフィスにはショーケース<3909>の部屋も備えている。

アンチューンズ氏:各地域のイノベーションセンターは、エコシステムパートナーと共に新しい事業の“種”を見つけたら、ラピッドプロトタイピング(短期間での試作)や共同開発を進め、シスコ製品との統合を行ったうえで、ビジネスソリューションとして迅速なGo to Market戦略を展開していく。

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シスコ自身、あるいはスタートアップが持つアイデアを具体的なかたちにし、顧客に提供可能なソリューションにまで仕上げていく

 こうした役割は、かつてはシスコ米本社など少数の拠点に集約されていた。しかし今では、イノベーションが生まれる可能性は世界中のいたるところにある。だからこそ、世界9拠点のイノベーションセンターを通じて、それぞれローカルのイノベーションコミュニティにリーチしていく活動が重要だと考えている。

今井氏:現在、東京センターではローカルエコパートナーとのPOC(実証)が中心だが、今後はこれを製品/ソリューション化し、実際に販売していく取り組みも進めていく。世界9拠点のイノベーションセンターを通じて、東京で開発したソリューションを海外で、あるいは海外のソリューションを東京で販売するといった、双方向のシナジーも生かしていきたい。

CEO指揮のもとで社内アイデアコンペ、内発的なイノベーション力を育む

――社内向けのイノベーションプログラムは、どのようなものでしょうか。それを始めた理由も教えてください。

アンチューンズ氏:これまでのシスコは、新しいコンセプトを立てるのは得意でも、それを製品化するまで育てていくのは上手いとは言えなかった。そこで、特に今年は、新事業をインキュベーションしていくためのプラットフォームづくりに注力している。

 加えて、シスコという会社のDNAそのものに「内発的なイノベーション力」を組み入れていこうとしている。

 たとえば、CSIGが運営する「Innovate Everywhere」という社内プログラムでは、全社員が業務時間の一部をイノベーティブなアイデアの創出などに充てられるように図っている。もちろん、各事業グループは既存の業務でも成果を出さなければならないわけだが、このプログラムの実施はCEOから“必須事項”として社内に伝達されており、各グループがどれだけイノベーティブかという点はリーダーの業績評価にも反映される。

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社員の約半数が参加したシスコの社内イノベーションコンテスト「Innovate Everywhere」

 未来のソリューションに結びつく素晴らしいアイデアが生まれた場合には、当該社員に報酬が与えられるだけでなく、インキュベーションプラットフォームを通じてそれをさらに育成していく。シスコとしての投資検討、当該社員の一時的な異動(インキュベーションへの参加)、さらにはスピンオフ(分社化)といったことも可能で、実際にそうなったケースもある。

 Innovate Everywhereプログラムにはすでに社員の48%が参加しているが、今後はアイデアを出すというだけでなく、集まったアイデアを審査する、コーチングやメンタリングを行うといった形での参加も募り、参加率をさらに高めていきたい。

――なぜ、社内イノベーションを喚起するこうした取り組みに大きな力を入れる必要があるのでしょうか。

アンチューンズ氏:シスコは30年以上の歴史を持つ会社だが、既成概念や常識を超えた破壊的なイノベーションがなければ生き残っていけない。当社会長のジョン・チェンバース(John Chambers)の発言を引用すれば「20年後には、現在のFortune 500企業の半数は残っていない」「イノベーションを起こせ、さもなくば死あるのみ(Innovate or Die)」なのだ。

 一方で、才能ある若い人材をひきつけるためにも、シスコは「古い会社」ではないこと、すぐれたアイデアを迅速にかたちにできる“イノベーションマシン”であることをアピールしていくことは重要だと考えている。

 実際、こうした取り組みを外部にもアピールしたことで、ボストンコンサルティンググループが行っている「世界のイノベーティブなハイテク企業50社」という調査では、2年前の39位から昨年は17位に順位を上げることができた。

自社開発や買収だけではない、外部のすぐれたイノベーションの取り込み方

――ところで、イノベーションは社内だけで生まれるわけでありませんよね。実際、シスコはこれまで多くの企業買収を行ってきました。

アンチューンズ氏:シスコはこれまで累計で190社を買収してきている。各事業グループの技術ギャップを埋めるために有効な手段だ。

 ただし現在のシスコは、イノベーション戦略を「5つの柱」で考えている。古くから行ってきたのは「自社開発(Build)」や「買収(Buy)」だが、最近ではそれらに加えて「提携(Partner)」や「投資(Invest)」、「共同開発(Co-Develop)」にも積極的に取り組んでいる。

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シスコのイノベーション「5つの柱」

 “ビジネスのデジタル化”時代に突入し、イノベーションもますます加速する今日の市場においては、すべてを自社開発や買収だけでまかなうというアプローチは難しい。そこで、先進的なテクノロジーにはより早期から投資したり、イノベーションセンターを通じてローカルパートナーとの共同開発を推進したりしている。

 もっとも、自社開発や買収というアプローチも、これまでと変わらず重視している。シスコは、ハイテク企業としては最大規模の年間60億ドルをR&Dに投資し、2万8000人規模のエンジニアリンググループを抱えている。つまり、時代の変化によって、アプローチにダイバシティ(多様性)が必要になっているわけだ。

――外部のイノベーションを取り入れるために、スタートアップを対象としたコンテストも開催していますね。

アンチューンズ氏:投資/パートナー対象となるスタートアップの発掘を目的とした、グローバルなイノベーションコンテスト「Innovation Grand Challenge」も毎年開催している。賞金総額は25万ドルで、3年目となる今年は100カ国以上の5000社超から応募があった。11月には優勝者を発表する。

 社内コンテストと同様に、こちらもすぐれたイノベーションに対しては、賞金の授与だけでなくイノベーションセンターにおけるインキュベーション、シスコからの投資、シスコ事業部門へのアプローチ機会、シスコのチャネル経由での市場投入といった、幅広い特典が受けられる。ほかのコンテストに見られるような、優勝したときだけ少し話題になっておしまい、というものではなく、さまざまなかたちで優秀なスタートアップが軌道に乗るための機会を提供している。賞金額を何倍も上回るようなメリットがあるだろう。

――まだ3年目とのことですが、Innovation Grand Challengeの実績はどうですか。

アンチューンズ氏:2014年の同コンテストで優勝した、IoT開発支援ツールを提供するドイツのRelayr(リレイヤー)が良い例だ。優勝後、シスコがRelayrに対して投資を行い、共同で開発も進めている。現在では、シスコのソリューションにもRelayr製品が組み込まれている。

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2013年創業のスタートアップ、Relayrのサクセスストーリー

今井氏:これまで日本ではあまり告知してこなかったこともあって、日本のスタートアップからの応募はまだ少ないのが現状。来年はもっと積極的に告知し、応募を増やしていきたいと考えている。

アスキー
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    最終更新: 10月27日(木)07時00分

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