業界に痕跡を残して消えたメーカー IDEと栄枯盛衰を共にしたPromise

アスキー 10月31日(月)11時00分配信

 前回のAdaptecの対抗といえば、Symbios Logic Incが思い出される。

 NCR Corporationの1部門としてSCSIコントローラーの開発を始めるが、AT&TによるNCR Corporationの買収にともない、同部門はHyundai Electronicsに売却。Symbios LogicとしてHyundaiの傘下でビジネスを継続するものの、同部門は1998年にLSI Logicに売却。

 LSI Logicは別に買収したSyntax SystemsとSymbiosを合併させてLSI Storage System(後にEngenioに改称)を形成するが、これも2011年にNetAppに売却、ということで流転の運命をたどっているが、53C810という型番に記憶のあるユーザーも多いだろう。

 これよりだいぶ知名度が落ちるものとしてはTekram(実はまだ会社があり、SCSI HBAを販売している!)や、QLOGIC(こちらも会社はあるが、SCSI HBAからは撤退)といったあたりは比較的メジャーだろうか。

 細かいところでは富士通<6702>もSPC(SCSI Protocol Controller)という名称でいくつかSCSIコントローラーを出している。他にも何社かSCSIコントローラーを製造・販売しているが、Adaptecに対抗できるほどの規模で製造・販売をしていたメーカーは存在しない。

 ということで今回は、Adaptecと同じく規格標準化の初期に製品を投入、圧倒的なシェアを握りつつもその規格の衰退に合わせて見事にシェアを失ったPromise Technologyを紹介したい。ただAdaptecと異なり、同社はいまだに健在である。

IDEコントローラーで
75%ものシェアを獲得

 Promise Technologyは現在は台湾の会社として認知されている。というより、実際台湾の会社であるのだが、創業そのものは米国である。1988年にサンノゼで創業され、Promise Taiwanが開設されたのは3年後の1991年となっている。

 ただ新規公開株式は米国でなく台湾証券取引所で行なっており、現在も台湾以外には上場していない関係で、一般には台湾の会社とされる。

 もっとも1997年頃の同社のページでは、本社はサンノゼにあると記されており、2001年にはミルピタスに移動、現在は台湾の新竹に置かれているので、どこかで本社を移動したのだろう。

 Promise TechnologyはIDEに特化した会社だった。創業3年後の1991年、同社は世界初のキャッシュ搭載IDEコントローラーを発売する。DC100/200/300というシリーズで、このうちDC300は秋葉原にも入ってきていた。というより筆者も持っていた。

 これは一見普通のISAハーフサイズのIDEカードなのだが、30ピンSIMMスロットが確か4つ用意されており、ここに自分でメモリーを増設することでディスクキャッシュとして利用できるという画期的な製品だった。

 ただこの初期のDC300の場合、ファームウェアがアップデートするたびに対応するHDDの種類が減っていくという謎の進化(退化?)を遂げていた製品ではあるが、それでもキャッシュ付IDEコントローラーは当時他にはなく、なんだかんだ言いながら筆者も長期間使った記憶がある。

 1992年には、SIMMが2枚に削減された廉価版のDC99も発売されていた。その1992年には、上位モデルであるDC2031も投入された。

業界に痕跡を残して消えたメーカー 規格の衰退に合わせてシェアを失ったPromise
キャッシュ搭載IDEコントローラー「DC99」。Promiseの直販ではなく代理店経由での販売だった

画像の出典は、“InfoWorld 1992年5月18日号

 この当時のPC Magazineのレビューを見ると、多くのメーカーがi486DX/50MHzのマシンにDC2031を組み合わせる形で出荷している。DC2031のキャッシュは標準が4MBで、最大16MBまで拡張可能だった。

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これはAce Cache 486/WB/50というマシンのレビュー。PC Magazineのこの号はi486DX/50を搭載したマシンの一挙レビューという号で、他にもいくつかのPCがDC2031を搭載している

画像の出典は、“PC Magazine 1992年6月16日号

 ちなみにDC2031は下の画像のように、1本のIDEコネクターと4本のSIMMスロットをもつ「だけ」の製品だが、上位モデルのDC2030は、合計16本ものSIMMスロットを持つお化け製品だった。

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「DC2031」。J1がIDE、J2/J3はFDDのコネクターである

画像の出典は、“TOTAL HARDWARE 1999

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上位モデルの「DC2030」。J1/J2はメモリー拡張カード用のコネクター、J3がIDE、J5がFDDでJ4はマザーボード上にIDEコネクターがあった場合にそれをつなぐためのものとされていた
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J1/J2はメモリー拡張カード用のコネクター(表裏貫通だろうか?)。12本のSIMMスロットが壮観である

画像の出典は、“TOTAL HARDWARE 1999

 このDC2030/2031に搭載されたVan Goghと呼ばれるVESA IDEコントローラーは、OEM市場で75%ものシェアを獲得するに至る。

 当時はまだチップセットにIDEコントローラーは内蔵されておらず、もしマザーボードベンダーがIDEコントローラーを搭載したいと思ったら、なにかしらチップを購入する必要があり、ここにVan Goghが入った形だ。

 ただ当時はまだオンボードのIDEは一般的ではなく、拡張カードの形でIDEコントローラーを搭載するのが普通で、ここに向けてさまざまなカードが出ていたが、この市場でもPromise純正以外にさまざまなカードにVan Goghが搭載されていたというわけだ。

 翌1993年にはEIDE(Enhanced IDE)の規格が一般的になった。EIDEは標準的な規格があるわけではなく、従来のIDEにLBA(Logical Block Addressing)やCHS/LBAロランスレーション、ATAPIのサポート、FAST ATA-2の転送モードなど、さまざまなIDEへの拡張機能を含んだ総称だ。

 HDD側ではLBAのサポートやCHS/LBA Translation、FAST ATA-2のサポートを、確かWestern Digitalが率先して行ない、他のHDDメーカーもこれにすぐさま追従したと記憶しているが、コントローラーの側でこれに最初に対応したのがPromise Technologyだった。

 やや後になるが、Promise DC4030VL-2にこのEDIE対応コントローラーが搭載されていた。こちらもVan Goghの後継ということで、さまざまなOEM向けにも幅広く採用されることになった。

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DC4030VL-2ということは、初代のDC4030VLも存在したのだが、あいにく写真が見つけられなかった

画像の出典は、“ebay.ca

安価なRAIDカードが人気を博す

 さて、このあたりまではISA/IDEがメインであったが、PC市場にPCIが導入されたことで、次第にPCIに向けたラインナップが求められるようになって来た。ちょうど都合よく、IDEの側も16.7MB/秒のEIDE(FAST ATA-2/3)から、DMA Mode 2をサポートして速度を倍にしたATA-4ことUltra DMA/33の標準化に向けての作業が進んでいた。

 最終的にATA-4(ANSI INCITS 317-1998)が制定されたのは1998年であるが、これを先取りする形で1996年11月にPromiseはUltra33を発表する。

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IDEインターフェースカード「Ultra33」。なにがすごいって、これをまだ米Amazonで購入できることだろう

画像の出典は、“Amazon.com

 さらに1997年には、このUltra33コントローラーをベースにRAID 0/1/0+1を可能にするFastTrak33を発表した。FastTrak33は、ドライバーレベル(つまりソフトウェア)でRAID 0/1/0+1を実装するものだ。

 CPU負荷率はそれなりに高かったものの、価格はRAID処理をハードウェアで行なうカードに比べて大幅に安かったこともあり、手軽にRAID構成が組めるということで人気を博した。

 ちなみにUltra33とFastTrak33は、一見すると同じコントローラーが載っており、基板上のチップ抵抗の設定を変えるだけでUltra33がFastTrak33に化ける(逆も可能だが、意味はない)ということで、その情報が流れた途端にUltra33に半田ごてを当てるという遊びが流行ったりもした。

 実のところRAIDの処理はドライバー側で行なっているため、ハードウェア側はUltra33のままで問題はなく、コストを考えればこうした実装なのは当然なのだが、Ultra33/FastTrak33に続きUltra66/FastTrak66でも同じ実装にして、さらに多くのユーザーが半田ごてでチップ抵抗の設定を変える遊びをした。

 これにはPromiseも「これはたまらん」と思ったのだろうか、途中からコントローラーのリビジョンを上げてチップ抵抗を変えてもFastTrakに化けないような配慮がなされたのは当然だろう。

 ちなみにこの世代では、IDEのためのPHY(物理層)をワンチップで2つ内蔵することが難しかったようで、PD20246(PCIのI/F兼IDE #0のコントローラー)とPDC20247(IDE #1のコントローラー)という2チップ構成で2つのIDEポートを構成している。

 このPDC20247は省略可能で、実際マザーボードにPDC20246のみを搭載し、従来のEIDEとは別にUltra DMA/33を1ポート搭載したマザーボードもそこそこ見かけた。こうしたマザーボード向けのOEMも活発であった。

IDEの規格標準化に貢献
多くのマザーボードに実装される

 これに続き、1999年2月にはUltra66が、6月にはFastTrak66が発表される。こちらは2000年にANSI INCITS 340-2000として標準化されたUltra DMA 3/4を先取りする形になっており、最大66MB/秒のUltra DMA/66をサポートした。

 ちなみにリリース時のメーカー希望小売価格はUltra66が59ドル、FastTrak66が149ドルになっていた。チップ抵抗の付け替えでUltra66をFastTrak66にできないような工夫がなされるはずである。

 国内では、1999年3月頃にUltra66が9380円、FastTrak66の価格が1万9000円程度となっていた。こちらではついにワンチップで2ポート分のIDEのPHYが内蔵され、カードそのものは若干シンプルになっている。

 こちらもまた、結構な数のマザーボードにオンボードで搭載されていた記憶がある。売れ行きは好調で、Ultra66は出荷後9ヵ月で100万枚を販売したそうだ。

 2000年6月にはUltra100とFastTrak 100が投入された。これは最終的にANSI INCITS 361-2002として標準化されたUltraDMA/100に対応した製品をQuantumが前倒しして投入するのに対応した形である。

 ただ、UltraDMA/100あたりから、そろそろHDDの側が間に合わない(100MB/秒を使い切れない)という感じになりつつあった。

 それもあって若干需要が低調になったためか、2011年に入って値下げし、FastTrak100を124ドル→99ドル、FastTrak66を99ドル→69ドルにしたり、新しくホットスワップに対応したドライブベイを発表したり(対応はWDの一部機種だけだった)、66MHz PCIに対応したFastTrak100 TX2や、同年10月には4chのIDEポートを持つFastTrak100 TX4をリリースしている。

業界に痕跡を残して消えたメーカー 規格の衰退に合わせてシェアを失ったPromise
32bit/66MHzのPCIバスに対応するIDE RAIDカード「FastTrak100 TX2」
業界に痕跡を残して消えたメーカー 規格の衰退に合わせてシェアを失ったPromise
4チャンネルIDE RAIDカード「Fasttrak100 TX4」

 このFastTrak100 TX4は、2つのFastTrak100 TX2をPCIバスブリッジ経由で接続するというだけのものである。ドライブ数は最大4つだが、これはホットスワップをしようとすると1つのポートに2つIDEドライブをつなげるのは具合が悪く、1ポート1つに制限されていた。

 そこでむりやりIDEポートを4つにするため、バスブリッジを使ってFastTrak 100を2つ搭載したというだけの話である。

SerialATAに移行し
IDEは影響力を失う

 このあと同社は2001年末、FastTrak TX2000を発表する。こちらは最終的に2005年にANSI INCITS 397-2005として標準化されたUltra DMA/133を前倒しでサポートした製品だが、これに対応した製品はMaxtorの一部程度で、ほとんどのHDD製品はUltraDMA/100どまりだった。

業界に痕跡を残して消えたメーカー 規格の衰退に合わせてシェアを失ったPromise
「FastTrak TX2000」

 これはHDD側だけでなくコントローラー側もそうで、VIAのチップセットなどは後追いでUltraDMA/133をサポートしたが、インテルのサウスブリッジはついに最後までUltraDMA/100までのサポートだった。

 理由は簡単で、SerialATAへの移行が見えていたからだ。実際ANSI INCITS 397-2005にはUltraDMA/133と一緒にSerial ATA 1.0の規格も統合されている。2002年頃からはぼちぼちSerial ATA関連製品も登場し始めており、もうIDEケーブルの時代ではなくなりつつあった。

 結果、FastTrak TX2000はそれまでのUltra33/66/100やFastTrak33/66/100ほどには売れなかった。

 もちろんPromiseもこうしたことはきちんと理解しており、2002年のIDFではSerial ATAに対応したプロトタイプを発表したり、同年10月にはネイティブでSerial ATAに対応したFastTrak S150 TX2/TX4を発表(国内では2003年3月に発売)するなど努力はした。

 しかし、FastTrak S150は発熱が多く、チップ上にヒートシンク必須な上に価格も高かったため、あまり流行しなかった。

業界に痕跡を残して消えたメーカー 規格の衰退に合わせてシェアを失ったPromise
Serial ATAに対応したプロトタイプ。この時には既存のIDE RAID 5コントローラーの先にMarvellの88i8030(PATA/SATAブリッジ)を4つ並べるという力技での対応だった

 むしろSerial ATAでは早くからSerial PHYの技術に定評のあったSilicon Image製コントローラーが広く利用されており、Promiseはどんどんシェアを落としていく。

 もちろんPromiseはIDEに特化といっても、いろいろやっていた。初期にはOctet StationなるHDDのデュプリケーターや、LS120ドライブ(フロッピーに似た構造だが120MBの容量がある独自のもの)をサポートするFloppyMAX I/Fカードなどを販売していたし、1998年にはSimpleSCSIやSCSIPlus、SCSIULTRA40/SCSIULTRA80といったSCSI I/Fも手がけていた。

 またFastTrakの上位機種としてRAID 5に対応したハードウェアRAIDエンジンを搭載したSuperTrak66/SuperTrak SX6000などのカードもラインナップ。さらにはこのSuperTrakをベースにしたRAID SubsystemであるUltraTrakシリーズなども手がけたが、ことコンシューマー向けのビジネスではどんどん影響力を失っていく。

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2001年頃に発売されていたUltraTrak RM15000。15台のSATA HDDをRAID 5構成にできるストレージ。外部I/FはUltra160 SCSIだった

画像の出典は、“Web Archive

ストレージサービスに業務を転換し
業界で生き残る

 IDEの影響力を失っていく代わりに、2004年からV-Trakと呼ばれるiSCSI向けの製品を順調に拡充しており、最近はこれに特定用途向け製品(監視カメラ向けのVESSシリーズ、クラウドストレージ向けのFileCruiserなど)やストレージ関連ソフトウェアなど、完全にビジネス向けのストレージサービスを提供する会社になっており、もはやI/Fカードの会社ではなくなっている。

 ただ、会社そのものは安定している。下のグラフは2003年以降の同社の売上をまとめたものだが、日本円換算で1兆円を超えたのは2013~2014年のみとはいえ、2008年以降はそう悪くない売上が続いている。

業界に痕跡を残して消えたメーカー 規格の衰退に合わせてシェアを失ったPromise
2003年以降の売上

 2016年の落ち込みが激しいのは、9月までの分しか集計されていないためで、同社の場合12月の売上が増える傾向にあることを考えると、実際には昨年より微減程度で収まると思われる。

 浮き沈みが激しいPC業界を捨ててエンタープライズ向けに振ったことで、安定したビジネスができているということかもしれない。

アスキー
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    最終更新: 10月31日(月)11時00分

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