1650台のSurfaceを導入した畿央大学、3年目の現場を見た

アスキー 11月01日(火)07時00分配信

学生1人に対して1台のSurfaceを貸与している奈良県の畿央大学。1650台のSurfaceが教育の現場になにをもたらしたのか? 畿央大学 教育学部教授を務めている西端律子さんに学内を案内してもらうと共に、タブレット教育の現状と課題を聞いた。

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住宅地の中にある畿央大学のキャンパス

Surfaceのある畿央大学の教育現場を見る

 古墳の多い奈良盆地に位置する畿央大学は2003年に設立された私立大学。健康科学部と教育学部の2つの学部で構成され、就職に強い大学として評価が高い。そんな同大学がSurface導入を決めたのは、今から2年前の2014年にさかのぼる。しかも、学校が購入したSurfaceを学生全員に在学期間中貸与するという思い切った導入施策である。現在は約1650台のSurfaceが学生の手元に行き渡り、授業に根付いているようだ。

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星図アプリを使って、星座観察の模擬授業中の子ども役の学生たち
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紙芝居を撮影し、デジタル保存している様子
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書き方のアプリで、筆順の模擬授業をしている学生と子ども役の学生たち

 学生が使っているSurfeceは、3年生がPro 2、2年生がPro 3、1年生はSurface 3で、それぞれWiFiモデル。学生たちはWordでレポートを書いたり、PowerPointやSwayでプレゼンを作ったり、いろいろな方法で活用している。利用制限は特にかけておらず、アプリのダウンロードも自由。学内の無線LANも通常のID・パスワードの運用で、利用制限などはかけていない。トップの方針もあり、基本的には学生の自主性に任せられているのが、運用の大きな特徴だ。「私が見ている限りでは、怪しいゲームをダウンロードしている学生はいません。授業中ではほかの学生と画面を共有して使うこともあるので、変なアプリが入っていたら、それなんやねんという話になる(笑)」と西端さんは説明する。

 1650台という端末を利用するための強靱な無線LANインフラも2012年度から整備されており、教室や食堂、会議室などあらゆる部屋にAPが設置されている。上流の回線もキャパシティ面も配慮されているため、基本的にはストレスなく利用できるが、アップデートがかかるときはさすがにネットワークも重くなるという。

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1650台のSurfaceをカバーするため、強靱な無線LANインフラを整備しているのもポイント

 Surfaceを全員に貸与することで、大きかったのはすべての学生が同じ環境で課題に打ち込めるようになったことだという。「パソコンを持ってない学生がいなくなり、パソコン教室が空いていないといった問題が解消されました。みんな同じ条件なので、こちらも遠慮なく課題を出すことができるようになりました」と西端さんは語る。日々持ち歩いて使えるため、高校時代に生じた学生間のデジタルデバイド(情報格差)が1年生の間に解消し、日常のツールとして根付くという効果があるという。

 もちろん、学校としても、パソコン教室が要らなくなり、空いたスペースを有効活用できるといったメリットがある。しかも同学は出席管理、学務、経理などのシステムをMicrosoft Azureのクラウドに移行しているため、サーバールームもない。40台のサーバーがなくなり、年間で700万円の電気代が節約できているという。モバイルとクラウドのメリットをフル活用しているわけだ。

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タブレットが全学年に行き渡った現在、パソコン教室はSurfaceの充電やサポートなどに利用されている

タブレットに魂を入れる西端さんの授業

 畿央大学でのSurface導入の背景には、当然ながら教育現場のデジタル化が挙げられる。PCやタブレットの導入が加速している小中学校の教員を育成する畿央大学の教育学部では、デジタルが当たり前のこれからの時代に適応できる先生を育てる必要がある。単に教育のプロというだけではなく、ネットやデジタルに明るい先生を育成することが、結果的に卒業後の学生の価値を高めることになるという。

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畿央大学 教育学部教授を務めている西端律子さん

 もちろん、Surfaceは単なるツールに過ぎず、ここに魂を入れるのは西端さんら教職員の腕の見せ所だ。「電子黒板やタブレットを使って教える前に、黒板で教えることももちろんやっています。加えて、情報モラルですね。大学生はもちろん、小学生に情報モラルを教えるにはどうすべきか。今日の午後は、ポケモンGOをいっしょにやりながら、小学生がARを使う5年後になにを指導すべきか、自ら気づいてもらう授業をやろうと思っています」と西端さんは語る。

 過去には「タブレットを使った朝の活動を考える」「Excelで問題を作ってみる」「動画編集をやってみよう」など、とにかく学生が自発的に考える授業をやってきた。「今はちょうど自己紹介ビデオを作っています。これ自体は最近の高校でもやっているんですが、5年後くらいには小学校でやることになると思うので」と西端さんは語る。

 もちろん、先進的な使い方だけを知った学生がそのまま教育現場に降りていっても、現場のデジタルリテラシーの差で孤立するのは明確だ。実際、学生の送り先となる小学校では、タブレット利用の制限も多い。「教育委員会の考え方にも寄るので一概には言えないのですが、私物のタブレットは持ち込めないし、学校のタブレットはアプリも勝手にインストールできない。導入時にインストールされたアプリだけでなんとかやってねといっても、学校の先生も困ってしまうし、小学生も興味を持てないと思います」(西端さん)。

 学生と同じく、教員の間でもデジタルに対する抵抗感や迷いが存在する。一部の先進的な先生が私物を使っていた過去と異なり、現在は国や教育委員会の方針の下、さまざまな制約のある中、利用しなければならない。そのため、西端さんが教えているのは、操作というより、制限の中での活用方法や運用ルールの話だ。「アプリも自由にダウンロードできず、ネットワークの制限も大きい。この環境の中で、どうすればええねんという悩みも多いのですが、実際はカメラだけでも授業はできます」と西端さんは語る。実際、先日は「丸と三角、平行四辺形を学内で探して、カメラに収める」という課題例を説明してきた。これは算数や図工の授業につなげることができるという。

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靴の模様に平行四辺形を見つけて撮影している学生

 こうしたユニークな発想を裏付ける技術知識と市場動向を西端さんはユーザーコミュニティから得ているという。「『なにを今さら勉強するの?』と言われることもありますが、自分自身もつねに勉強していかなければならない。たとえば人工知能や機械学習も、理論そのものは私が学生時代からあったはずだけど、今なぜ手軽に利用できるようになったのかは、きちんと学んでいかないと」と西端さんは語る。

教育現場でのWindowsプラットフォーム採用の背景

 畿央大学ではWindowsプラットフォームのSurfaceを採用している。ただ、教育系アプリはiOSのプラットフォームの方が先行しているのは事実だ。実際、「iPhoneにあるアプリがWindows Storeにはないんやけどーと聞いてくる学生もいますが、そこは大人の事情やと答えています(笑)」(西端さん)ということもあった。

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共有プリンターもSurfaceから利用できる

 とはいえ、教育系アプリ数が多いから、iOSがよいかというとそうでもないのが教育現場の難しい部分。「たとえば、大学にもiPadが15台ほどあります。授業はもちろん、小学校の先生方の研修用に使っています。iPadを使い回していますので、授業や研修後はユーザーのデータが混ざることになります。学校現場でも同じことが起こるのではないかと危惧しているので工夫が必要です」と西端さんは語る。なにより校務の多くはWindows PCで行なわれているので、教職員が慣れているというのが大きい。

 現場でSurfaceを使いこなしてきた西端さんは、マイクロソフトが認定するMicrosoft MVPでもある。2015年は「Microsoft MVP for Surface」、今年は「Microsoft MVP for Windows and Devices for IT」を受賞しており、教育現場でのWindowsデバイス活用が高い評価を得ている。「研修会などの講師をやらせていただく機会がとても増えています。小学校にタブレットが来たんだけど、どうやって使ったらいいかを話に行くこともありますし、先生方に大学に来てもらって講習することもあります。ご存じの通り、今の教員免許は10年に1度更新しなければならないので、そこではタブレットの操作を含めています」(西端さん)。

タブレットを活かす西端さんの3つのチャレンジ

 現在、西端さんは3つのチャレンジを抱えている。1つ目はタブレット導入初年度の学生の教育実習だ。

 タブレットを使いこなした学生たちが初めて実習に向かう今年度、実習させていただく小学校や教育委員会のレギュレーションに対応しつつ、創意工夫を求められた場合に、いかにユニークな授業を展開できるかという難しい課題に日々西端さんは学生ともども立ち向かっている。実際、畿央大学でも導入当初はタブレットに対する抵抗感が教員の間でもあった。しかし、紆余曲折を経て今ではすっかり教育現場に根付いている。この過程は、学生たちが向かう学校でも必ず起こると西端さんは語る。

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小学校の教室を模したスペースも用意されている

「学生にはSurfaceを教育実習に持ち込んで欲しい。便利そうという先生もいるかもしれないし、そんなもん使うヒマあったら、子どもたちや黒板に向かえとおっしゃる先生もいるかもしれません。でも、そういう世代を超えたコラボレーションがそろそろ始まり、持っているノウハウを相互に吸収しつつ、現場で活用する方法をきちんと見出してきて欲しいです」(西端さん)

 次にチャレンジしているのが、日本学術振興会や日本マイクロソフトから助成を受けている特別支援教育分野における教材データベースの開発だ。特別支援教育の分野では、発達段階や特性に合わせた自作教材が作られており、たとえば、ある子どもはおにぎりが大好きなので、おにぎりからスタートするようカスタマイズされている。一方、別の子どもは、間違ったときにビープ音がするとパニックを起こしてしまうので、教材から外される。「こうしたカスタマイズされた教材をいろいろなお子さんで利用できるデータベースを作っているんです。そしてマシンラーニングを使ってお子さんの好みを学習したり、動画配信には自動的にモザイクをかけるといったことを試しています」と西端さんは語る。

 3つ目のチャレンジは、初等教育におけるプログラミング教育を推進することだ。現在、プログラミング教育に対しては、「プログラミングで何を学ぶのか」という教育意義に対するさまざまな意見や「そもそも誰が、何を教えるの?」という課題などがある。「これって10年前、小学校に外国語活動のときと同じ。でも、現在外国語活動がまがりなりにも浸透しているのは、電子黒板とデジタルコンテンツの普及があると思っているんです」と考える西端さんはこうした課題を解消すべく、プログラミング教育でもハードのみならず、コンテンツが重要だと考える。「朝の活動など、ちょっとした時間に、本当に少ないステップで簡単なゲームを作ってみるとか、安心感のあるコンテンツをタブレットで供給する必要があるだろうなと思っています」(西端さん)。

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カフェテリアにSurfaceを持ち込む学生たち

 Surfaceをツールとし、西端さんが目指しているのは、学生が自ら5年先に自分で新しい教育方法を考え、実践するための教育。そのため、学生に身近なモノゴトからテクノロジーに近づき、現在の学生が持っている認識と最新技術のギャップを埋めていく。ポケモンGOからAR、回転寿司の話からICタグの話、最近では顔写真から人物や年齢を特定するアプリで遊んでから、目の不自由な人がSmartglassを使って目の前の人物の表情を識別する人工知能プロジェクトを紹介したという。

「最新技術も、単に紹介するだけだと、学生も『そんなことできるんやー』で終わるんですけど、私はその世界に行くためのステップを教えていきたいんです。そのとき未来として描いた世界も、5年経ったら当たり前のことになっています。学生時代に聞いた話を思い出して、次の世界を描けるようになってもらいたいんです」(西端さん)

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    最終更新: 11月01日(火)07時00分

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