「レッド・スペシャルにないものを」日本人製作家が作った最高のギター

アスキー 11月05日(土)12時00分配信
レッド・スペシャルやめた日本人製作家が作った最高のギター
伊集院氏とKz One Standard。渋谷の有名ギターショップ、フーチーズ店内にて。Kz One Standardのお値段は37万8000円

 自分のためにブライアン・メイの愛器「レッド<3350>・スペシャル」を作りたい一心で、ギター製作家になった伊集院 香崇尊(かずたか)氏。その腕の確かさはブライアン・メイ本人の知るところとなり、オフィシャル・シグネチャーの製作を依頼されるまでにいたった。

 その伊集院氏が主宰するギター工房、ケイズギターワークスは、2016年1月のNAMMショーで初のオリジナルモデル「Kz One Standard」を発表。レッド<3350>・スペシャルを手掛けた次のステップとして、新しい時代へ向けてのスタンダードとなるべく、ゼロから設計されたギターだ。

 完成度の高さからプロのバイヤーの評価も得て、一般の店舗販売もスタートした。しかし、同工房として初のオリジナルモデルということもあって、当初は考えもしなかった壁が立ちはだかっているという。

 レッド<3350>・スペシャルを作るためにギター製作家になった伊集院氏は、どのような理由でどんなオリジナルの楽器を発想したのか。今回は、Kz One Standardの成り立ちとコンセプトについて。

レッド・スペシャルやめた日本人製作家が作った最高のギター
濱野賢一氏。フェルナンデスやゾディアックワークスでギター製作に携わってきたプロのギタービルダー。Kz One Standardのコンセプトに共鳴して、Kz Guitar Worksに入社。製造主任として伊集院氏と製作にあたっている

工房をやめると言った途端に仕事が激増

―― 伊集院さんは、レッド<3350>・スペシャルのためにギター製作家になったわけですよね?

伊集院 17歳の頃の夢は、オフィシャル・シグネチャーの製作で叶ってしまったんですね。最初からそんなに長く続けるつもりもなかったし、だからいつか工房をたたもうとは、オフィシャル・シグネチャーを作りながら、ずっと思っていたんです。

―― 伊集院さんのブログを振り返ると、2011年末で工房をやめると宣言。その後、2012年末までの営業延長を宣言したものの、結局は工房を再開していまにいたっています。

伊集院 やめると発表した途端に、たくさんの励ましや応援をもらったんです。「レッド<3350>・スペシャルを修理してほしい」とか「その前にこれをやってくれ」とか。年齢的に新しいことをする最後のチャンスと思っただけで、特になにがしたかったわけでもなかったですから。お客さんに必要とされている限り仕事はしなければならないし、頼まれた仕事をこなすには、1年半はかかる状況になってしまったんですね。

レッド・スペシャルやめた日本人製作家が作った最高のギター
頼まれたら断れない律儀な性格の伊集院氏

―― それで執行猶予期間ができてしまった。

伊集院 言ってみれば、僕はレッド<3350>・スペシャルを追ってきただけ。でも、自分の中に蓄積した知識や技術、お客さんとのやり取りの中で得たものから、僕にしかできない新しいギターもいまなら作れるんじゃないか。僕がレッド<3350>・スペシャルに惚れ込んだ部分を取り入れた、新しいギターを作って世の中に広めたい。だったらこの仕事を選んだ意味もあるんじゃないかなと。

―― レッド<3350>・スペシャルではいけない理由は?

伊集院 いい楽器なんですが、一般に言われる扱いにくさ、弾きにくさもあるし、やはりブライアン・メイのアイコンなので、イメージとして強過ぎるんですよね。

―― 確かにあのギターは、トリビュートバンドでもなければ、持って上がれないですね。

伊集院 そうそう。あれを持っちゃうとクイーンを演らなきゃならない雰囲気になってしまう。でも、それではあまりにもったいない、いい部分がたくさんあるんですよ。そこがもどかしい。特に市販されているギターで、あんな音の出る楽器はないわけですから。

―― でも、弾きやすいように仕様を変えて、狙った音を出すのは大変なんじゃないですか?

伊集院 やってみないとわからないですからね。だから何種類か試作機を作って、ザグリの深さを変えてみたりとか、ザグリありとなしで2本作ってみたり、いろんなことをやって、比較はしました。

サスティンのためにセットネック

―― では実際の製品を、伊集院さんと見ていきましょう。まずホロウボディーですけど、ここにコストかかってません?

伊集院 手間はかかりますよ。

―― ソリッドにして薄くして共振させるんじゃダメなんですか? って蓮舫さんみたいに言いますが。

伊集院 もう、ぜーんぜん、まるっきりサウンド違いますから。それはこのギターのいちばん大事なところです。セミホロウ、トレモロユニット、そしてピックアップにコントロール系統。そこは外せません。このギターの存在意義みたいなもので、絶対に必要なものです。

レッド・スペシャルやめた日本人製作家が作った最高のギター
くり抜かれたホンジュラス・マホガニーに、メイプルorホンジュラス・マホガニーのトップ材を貼り合わせたセミホロウボディー構造。トップ材の周囲にはバインディング材が巻かれる。これはfホール付きの仕様

―― わかりました。では、ボルトオンではなくセットネックにした理由は?

伊集院 音の良さ、サスティンで有利なこと、そして生産性の良さからです。Kz One Standardは「未来のスタンダード」にしたいギターですから、作りやすさも意識しています。

――  一般的にはボルトオンのほうが簡単に作れるイメージもありますけど。

伊集院 レッド<3350>・スペシャルに比べれば、このセットネックの方が作りやすいということです。確かにボルトオンの方が生産性はいいし、後で調整が効くという利点もあるのですが、このギターにはセットネックのサスティンが不可欠だったんです。

レッド・スペシャルやめた日本人製作家が作った最高のギター
工房内の塗装ブース。Kz One Standardは極薄のウレタン塗装。ボディーの鳴りの良さからラッカー塗装にこだわる人もいるが、塗膜が十分に薄ければウレタンでも同じ。耐久性を考えると極薄のウレタンに分がある
レッド・スペシャルやめた日本人製作家が作った最高のギター
塗装を終えて乾燥中のギター本体

研究を重ねたボディー構造とネックのバランス

―― やや太めのネックシェイプを残しているのはレッド<3350>・スペシャルを意識したものですか?

伊集院 それはまったく違います。このギターはセミホロウボディーなので、可能な限りネックは太くしたかった。その中で一般的なネックの範疇に収まるよう設計しました。スケールは635mmというフェンダー系(648mm)とギブソン系(628mm)の中間に設定して、どちらから持ち替えても違和感がないようにしています。

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製作中のネック。ホンジュラス・マホガニーにローズウッドを貼った仕様。ネックシェイプは「太かった時期のレス・ポールやPRSのミディアムファットグリップくらい」とのこと。ご参考までに

―― では「セミホロウボディーだからネックを太くしたい」という理由は?

伊集院 ボディーを大きく響かせると、サスティンの点で不利になる。そこをネックの太さというより、質量で補うということです。セミホロウのサイズも大事で、大きすぎると響く代わりにサスティンが足りなくなる。バランスを研究して、いまの形状にたどり着いたんですね。

―― ボディーを鳴らすと、弦の振動エネルギーが食われてサスティンが犠牲になる、そういう反比例の関係なんですか?

伊集院 その考え方もあながち間違いとは言えないですが、重要なのはボディーとネックのバランスです。そこに材質や指板といった要素も関係してくるので、なかなか複雑です。

直列配線とコントロール系統

―― パーツ類に移って、ピックアップはバーンズ(Burns)じゃなくてアデソン(Adeson)というメーカーですが、これは?

伊集院 アデソンはイギリスのメーカーです。で、いまはアデソンが作ったものをバーンズに卸しているんです。僕はアデソンから直で買っているということですね。

レッド・スペシャルやめた日本人製作家が作った最高のギター
ストラトのセンターPUはイマイチ使いどころが見当たらないが、このギターはセミホロウボディーにダイレクトマウントされているせいか、センターはアコースティックギターのようなサウンド。おもしろい使い方ができそう
レッド・スペシャルやめた日本人製作家が作った最高のギター
初期型は「Classic British」というカバーにポールピースの穴が開いたタイプだったが、現在の標準仕様は穴なしの「Done-Top」タイプ。オプションで「Classic British」も選択できる。両者の音の差は「聴いた限り違いはありません」とのこと

―― ピックアップは直列配線で、ピックアップのオン/オフ、フェイズの組み合わせで13とおりのサウンドバリエーションがあります。この仕組みも外せなかったものですよね?

伊集院 はい。

レッド・スペシャルやめた日本人製作家が作った最高のギター
三連トグルスイッチが各PUのオン/オフ。フェイズの切り替えは、ボリュームポットのプッシュ/プルでネックPU、トーンポットのプッシュ/プルでセンターPUが切り替わる。ブリッジPUのフェイズが固定なのは、切り替えても全ピックアップオンの正相・逆相が切り替えられるだけで、音に差はなくて無駄だから

―― トレモロユニットにケーラーを選択した理由は?

伊集院 1984年にGuildから発売されたレッド<3350>・スペシャルのシグネチャーモデルにも採用されていて、レッド<3350>・スペシャルのトレモロユニットに使用感が一番近いんです。が、最終的にこれを選んだのは「ほかのギターでは、ほとんど使われていない希少性」、そして「ほかでは得られない滑らかな使用感」が理由です。

レッド・スペシャルやめた日本人製作家が作った最高のギター
ローラサドルのケーラー「7300」ユニット。ボディーを貫通するような大きなザグリ穴も必要ないので、セミホロウ構造のギター向き。浅いヘッド角、潤滑性のあるTUSQ XLナット、ゴトーのロックペグと合わせて、チューニング安定性も高い
レッド・スペシャルやめた日本人製作家が作った最高のギター
コントロールはギブソン系のギターのように、背面のカバーを外すと直接アクセスできる。メンテナンス性も良さそう

いままでは売るための努力が必要なかった

―― いよいよKz One Standardの店舗販売が始まりましたが、どんな感じですか。

伊集院 いま、僕がしなければいけないのはギターを作ることです。

―― えっーと、まあ、それはそうでしょうね、伊集院さんはそれが仕事だから。

伊集院 それが、なかなかギターが作れないんです。営業に行って、ウェブサイトも作って、その合間にちょっとギターを作って。そんな感じになっている。いろいろ読みが甘かったんですね

―― 甘かった、と言いますと。

伊集院 レッド<3350>・スペシャルは、みんなが知っているんです。どういうギターなのかを。みなさん20年、30年、40年と恋い焦がれてきたわけですから。だから、ちゃんとしたものを作りさえすれば、お客さんは理解してくれる。これだけ忠実に作っている、なんて僕が言わなくても。だから、うちのレッド<3350>・スペシャルは、売るための努力をする必要がなかった。

―― なるほど。レプリカはどこまでホンモノに近いか、ですからね。

伊集院 それと同じ感覚で、黙ってオリジナルを作っていてもダメなんです。いままで買ってもらえたのは、僕がいいギターを作っていたからではなく、あれがレッド<3350>・スペシャルだったから。Kz One Standardは最高のギターで、これ以上のものはないと僕は確信しているんですが、その良さは自分から世の中に説明していかなければならない。

―― なるほど、オリジナルはそこが難しいんですね。

伊集院 でも、ほかとはまったく違うオリジナルということ、僕はそこに突破口があるような気がして。結局、日本人が作る高品質なギターのイメージは、丁寧に作ったギブソンだとかフェンダーみたいなものですよね。

―― ストラトやテレキャスの定番仕様が中心ですね。音の見当が付くし、使いどころもはっきりしているから。

伊集院 Kz One Standardの「Standard」というのは、そこを目指しているんです。そういう「新しいスタンダード」として認めてもらえるまでやりたい。僕もギター職人になって、なんだかんだと16年もやってきましたから、この後も自分の作ったものとして、20年、30年後に残っているようなギターにしたいんです。

 とはいえ、見た目も音も、まったく新しいオリジナルゆえに、認知を得て定着させるには時間も必要。では、実際に取り扱いを決めたショップ側は、このギターの商品性をどう評価し、どう売ろうとしているのか。次回はごく初期の段階でKz One Standardの取り扱いを決めた、東京都渋谷区にあるプロ御用達のギターショップ、フーチーズを訪ねた様子をお届けしたい。

※ 取材後、2名のスタッフが加入し現在は貴重な戦力として量産に貢献してくれているとのこと。



アスキー
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    最終更新: 11月05日(土)12時00分

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