業界に痕跡を残して消えたメーカー 低価格チップセットの雄C&T

アスキー 11月07日(月)11時00分配信

 業界に痕跡を残して消えたメーカーは、ストレージ編が一段落したところで、違う分野をとりあげたい。今回からはマザーボード関連ベンダーということで、まずはCHIPS & Technologies(通称C&T)を紹介したい。

 C&Tの名前は、何度か連載の中でも取り上げている。例えば連載20回連載52回、そして連載137回である。ただどれもちゃんと説明はしていないので、改めて紹介するにはいい機会だろう。

業界に痕跡を残して消えたメーカー 低価格チップセットの雄C&T
買収直前の同社のトップページ。CHIPSは全部大文字なのが正式であるが、Copyright表記は“Chips and Technologies Inc.”となっているように、わりといい加減

画像の出典は、“Web Archive

世界初のファブレス半導体企業

 C&Tは1985年、カリフォルニア州のサンノゼ(正確にはNorth San Joseのあたり)で創立された。

 創業者のGordon Campbell氏は、C&Tを立ち上げる前にSEEQ Technologyという会社を立ち上げており、ここではインテル互換のEPROMを製造・販売していた。

 さらにその前はインテルに勤めており、この時に自身でビジネスを立ち上げるチャンスがあると思ったのだろう。ただ理由は不明ながらCampbell氏は1985年に同社を辞して、改めてC&Tを立ち上げた。

 ちなみに同社は1999年にLSI Logicに買収されているが、この頃の主力製品はLAN用のLSIであり、EPROM部門はAtmelに買収された。

 そのC&Tであるが、同社は世界最初のファブレス半導体企業である。もっと正確に言えば、ゲートアレイを利用して成功した世界最初のファブレス半導体企業というべきだろう。

 最近ではファブレスが当たり前で、むしろ自社工場(ファブ)を保有している半導体企業の方が少ないが、この当時は主要な半導体ベンダーはみな自社でファブを保有していた。

 これらの企業はいずれも、自社の製品をフルカスタムのASICで設計・製造しており、ファブレス半導体企業も、やはりフルカスタムASICを利用するほうが一般的だった。

 ではゲートアレイは誰のためかというと、半導体メーカー以外の企業が自社の製品用に設計・製造する、例えば産業用機器を製造しているメーカーが、自社用のコントローラーの製造に利用するといった用途向けで、半導体企業向けとは考えられていなかった。

 ただフルカスタムASICは設計・製造に時間がかかるので、スタートアップ企業向けとは言いがたかった。C&Tはこのゲートアレイを使って、半導体企業として成立することを示した最初の例となったわけだ。

 ではC&Tはなにを目指したかというと、低価格なPCのインフラである。同社が最初に手がけたのは、80286用のチップセットである。

 オリジナルのIBM-PC/ATの場合、94個のロジックチップがボード上に搭載されていた。ところがC&Tのチップセットは、このうち63個分の機能を5つのチップにまとめることに成功する。この結果としてAT互換機の製造コストを大幅にコストダウンできるようになった。

 マザーボードのサイズを小型化できるし、部品コストそのものも下がる。さらに(当時はあまり重要視されていなかったが)消費電力も下がった。この特徴は、後にノートPC用チップセットとして結実することになる。

日立<6501>のファブを格安で利用

 話を戻すと、この低価格化という特徴に最初に飛びついたのがDellで、C&TはDellからかなりの注文を受けることになった。

 C&Tにとって幸運だったのは、この当時日立のファブのゲートアレイ用のラインが、注文がなくて遊んでいた時期だったことだ。

 DellからC&Tが受けたチップセットの注文は日立<6501>のファブの生産ラインを埋めるのに十分だった。その見返りとしてC&Tは通常よりかなり安い価格でチップセットの生産を委託できた。

 他の互換機メーカーもこれに追従するが、皮肉なことに当時互換機メーカーのトップだったCOMPAQは自前主義が災いしてか、安価なチップセットの導入には2年ほど遅れをとることになった。

 ちなみに当初のチップセットはCMOSではなくバイポーラベースだったそうだ。これは当時のCMOSではESD(静電気放電)耐性が低く、PCなどではしばしばこれが問題になったためだ。

 C&Tはこの問題の解決に3年をかけ、1998年には20KVの耐性を持ったCMOSチップセットをリリースし、このあたりから製品はすべてCMOSベースになっている。

 チップセットビジネスは、その後しばらくはC&Tの屋台骨として同社を支えることになった。AT向けのチップセットに続き、XT向けのチップセットや、後には386用のチップセットであるCHIPS AT/386などもリリースすることになる。

 このCHIPS AT/386は、HPやNEC<6701> America、Tandy Corporationなどに採用された。さらに後にIBMとのライセンス契約を結ぶことで、IBM PS/2 Model30の互換チップセットを発売する。

 このチップセットは、リバースエンジニアリングの技法を利用して(つまりIBMの権利を侵害せずに)開発され、これを基にIBMと割安で契約を結ぶことに成功している。

ビデオカード事業に進出
SCSIやLANなどあらゆるパーツにチップを供給

 チップセットに続き同社が手がけたのがビデオカードである。今でこそビデオカードはワンチップで構成されているが、IBMのEGAカードはこんな感じであった。

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これだけ部品が載ってれば、フルサイズカードになるのも無理ないところ

画像の出典は、“IBM 51xx PC Family Computers

 これもチップセット同様に複数のチップをまとめることで、大幅に低コスト化や省サイズ化が期待できる。1987年に出荷されたEGA CHIPSetはこの膨大な数のEGA用の部品を4チップに集約し、これも好評を得る。

 IBMがPS/2向けにVGAをリリースすると、すぐにVGA互換のチップセット(これはI/FはMCA)を作り、さらにXT/ATバス上でVGAを利用できる互換チップとして82C411をリリースする。さらにこれを拡張したSuperVGAチップとして82C451をリリース、これはベストセラーとなる。

 実際初期のPC市場では、この82C451がある種の標準になっており、例えばWindows 3.0のGDIエンジンの内部では、Cirrus Logic GD542xとS3 911、それにこの82C451用向けに専用のBitMap操作用アクセラレーターが標準で搭載されていた。

 このあたりは連載137回でも触れたが、ATIの最初期の製品であるVIP VGAは、82C441のOEM供給を受けて名前だけ変えたものである。

 他にもStarLANと呼ばれる、ツイストペアケーブルを利用したEthernet(*1)のチップセットを1986年に出荷したり、SCSIコントローラーや3270通信コントローラー、IDE/SCSIのディスクコントローラーと、初期にはPCに関わるものすべてに製品を出していた感がある。

(*1):IEEE 802.3eに準拠し、1BASE-5などとも呼ばれる。1Mbpsで最大500mまでの配線が可能だった。

 さらには自社内でLSIを設計するためのCAE(Computer Aided Engineering)システムを開発し、これを利用してのICの設計サービスなども始めている。

 これは今で言えばデザインハウスに相当するもので、顧客の要望を聞いたうえで、それにあわせてLSIの論理設計と物理設計を行ない、外部のファブで製造して納品するというものだ。

 半導体業界はちょうどこの頃からいわゆるファウンダリービジネスが成長を始めており、これにあわせて、例えばパッケージだけを行なうベンダーや、テストのみを請け負うベンダーなど、LSI製造に必要なさまざまなサービスが立ち上がっていたため、C&TはLSI製造に関わるすべてを自社で抱え込まずに、設計のみに特化する形でビジネス行なうことが可能になった。

ライバルの出現で
売上に陰りが見え始める

 こうしたさまざまなビジネスを一挙に展開したことで、同社のビジネスは1980年代に急速に伸びたが、1990年に入ると環境は次第に厳しくなってきた。理由は簡単で競合の出現である。

 1987年には台湾のVIA TechnologyやSiS(Silicon Integrated Systems)が創業し、それぞれPC向けチップセットビジネスに乗り出す(製品が出てくるのは1990年代前半の遅い時期である)。

 米国でもOPTiやAMi(American Megatrend Inc.)、ETEQ Microsystemsなどがやはりチップセットを自身で製造し始めていた(AMiは自社製品向けのみで外販はほとんどなかったようだが)。

 もっと厳しいのがビデオカード向けであり、例えば1990年にはS3 86C911が出荷されている。これに先立ち1987年にはCirrus Logicも製品を投入している。あとは細かいところでOAK TechnologiesやTrident Microsystemsなども安価な製品を投入し始めていた。

 競争が激化すると、しばしば価格競争に陥るというのはよくある話である。C&Tの1986~1992年の売上と営業利益を見てみよう。

 1992年の営業損益は数字不明なのだが、1991年における粗利は36.7%の8250万ドルだったのに対し、1992年には12%の1700万ドル、という数字があるので、おそらく相当赤字だったと思われる。

386DX互換CPUを投入

 Campbell氏はかなりチャレンジャーであり、ここでさらに一歩ラインナップを先に進める。1992年、同社は386DX互換となるSuper386こと38600DXや、386DX互換となる38600SX、あるいは387互換のSuperMathこと38700DXを投入する。

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Super386こと38600DX。一応ピンは386互換

画像の出典は、“HARDWARE COP CPU MUSEUM

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38700DX。Super386にしてもSuperMATHにしても、国内ではほとんど出回らないほどにわずかな数量の出荷でしかなかった

画像の出典は、“cpu-collection.de

 これらのCPUは、これもまたクリーンルーム技法を利用したリバースエンジニアリングによって開発されたもので、直接的にインテルの特許を侵害したりする心配はなく、さらに完全互換ではなく機能を向上させている部分もあったりした。

 しかし、こちらはインテル、AMD、Cyrixといったさらに大きなメーカーが凌ぎを削っている市場でもあり、結局数ヵ月後には互換CPUのマーケットから撤退することになる。

チップセットとビデオチップに専念

 互換CPUから撤退したC&Tは原点回帰とばかりに、再びチップセットとビデオチップに専念することになる。1993年、同社は486向けの低価格チップセットを発売する。

 これに先立ち1991年頃に投入していたSCAT(Single Chip AT controller)やELEAT(Entry-Level Enhanced AT)といったチップセットはこの時点でも好調であり、こうしたワンチップの低価格向けチップセットの対応を486にまで広げた形だ。

 一方ビデオカード向けでは、連載137回でも少し触れたWinGineという独自アクセラレーター機能付ビデオチップを発表する。

 ただあまりに独自すぎて、バスからして独自のものが必要になり、ほとんど市場はないに等しかった。皮肉にもNextStepで採用されて成功したので、その意味では無駄にはならなかったのだろうが。

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実はこの記事を書くために調べていて、初めてJCISからWINGINE対応マザーが出ていることを知った。右がそのWINGINE搭載ビデオカード

画像の出典は、“Blake Patterson氏のFlickr

 こうしたことと並行して、会社のリストラ(*2)や、いくつかの特許をめぐる訴訟(*3)などを行ないながら財務状況を改善していくことで、1993年末には赤字幅もだいぶ小さくなり、会社が存続する目処が立つようになった。

(*2):1992年11月から開始され、最終的に従業員の20%が削減対象となった。
(*3):OPTi Computer/Eteq Microsystems/Elite Microelectronics/Sun Electronicsの4社を、C&Tが保有している特許の不正利用で訴えた。

 ただこのあたりから、チップセットはどんどん難しくなるということで、製品は主にビデオチップ側に傾倒していく。Intel 740に関しての共同開発もその一環だ。

 ほかにも、液晶パネルをつなぐPanelLinkコントローラー(*4)や、HiQVideoというMPEG再生チップ、WINGINEとは別系統の65500シリーズと呼ばれる2Dグラフィックアクセラレーターチップなどを1997年頃まで出荷している。

(*4):この技術そのものはSilicon Imageのもので、C&Tはライセンスを受けてを製造していた。

インテルがC&Tを買収

 1996年末の売上は1億5079万ドル、営業利益は2575万ドルというところまで立ち直ってきた。ちなみに1995年末はそれぞれ1億473万ドル、939万ドルという数字なので、売上げ規模は1990年頃にはまだ及ばないものの、経営状態は大分改善していることがわかる。

 ただこの分野も1996年ともなると競合が激しくなっており、特に3DアクセラレーションではC&Tは遅れを取っていた。最終的に2Dコアと低消費電力のチップセット技術を評価したインテルが、1997年7月にC&Tを買収する。買収金額は一株あたり17.50ドル、総額4億2000万ドルである。

 買収にともないCampbell氏はC&Tから離れたわけであるが、そのCampbell氏が次に興したのが3dfxである。その3dfxの後にはCobalt NetworksやHotRail、NetMind、PortalPlayer、Resonateと、わかる人にはわかる会社を次々に興しているあたりが、なんというかバイタリティーを感じさせる。

アスキー
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    最終更新: 11月07日(月)11時00分

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