AbemaTVはどのように立ち上げられたか?

アスキー 11月07日(月)09時00分配信
会議

 ITは「情報技術」の意味ではなく、ITと略された意味しかない。それは、米国のスタートアップや業界関係者が判で押したように口にする「世界を変える」ためのものだ。それに対して、日本のITは「効率化」しか考えていないと言われるが、2016年に日本で登場した商品で、世界を変えようとしたものはどれか?

 もちろん、それに該当するものはいくつかはあるが、サイバーエージェント<4751>が4月に開始した「AbemaTV」は、間違いなくその1つだろう。HuLu、Netflix、Amazon ビデオと、米国製のコンテンツ配信系サービスが始まるなか、まったくオリジナルな形の動画メディアの開始に、業界関係者をも驚かせた。

 2016年10月現在、約30チャンネルを24時間放送をしており、アプリのダウンロードも11月2日時点で1,000万件と発表されている。この規模の配信サービスは、どのように開発され技術的には何が課題だったのか? 株式会社サイバーエージェント<4751> 執行役員で、株式会社「AbemaTV」 開発局局長の長瀬慶重に聞いた。

「AbemaTV」は桁違いの予算を投下したサービス

―― まず、長瀬さんのバックグラウンドをお聞かせください。

長瀬 私は、もともとNTT<9432>ソフトウェアという会社にいて、NTT<9432>武蔵野研究開発センターで、IP電話や無線タグの実証実験サービスの開発をするなどの仕事をしていました。それを5年くらいやったところで、実家の家業を継ごうかとなったのですね。それが、電柱を立てるなど、NTT<9432>の仕事をやっている会社なのですが、いろいろと考えるところがありました。

―― 電柱じゃないだろみたいなことですか? 失礼な言い方ですけども。

長瀬 いえいえ、本当にそうなんです。それが2005年頃で、ちょうどインターネットが2000年くらいから来ていましたからね。それで、サイバーエージェント<4751>に入社をしたわけです。

―― 当時の御社はどんな感じだったんですか?

長瀬 サイバーエージェント<4751>というと、もともと広告代理店の営業会社でしたので、技術職は私が1人だと思って入社したんですが。実は、30人くらいの技術職がいました。それも、ものすごくなんか尖った有能な技術者がたくさんいました。ただ、当時は、1億PVくらいで落ちてしまうような状況でして、開発を完全に外注に依頼しているような体制でした。それが、1年くらいで15億PVくらいまでは行けるようになって、そのあとあと、佐藤真人というその後CTOになるような人材が入ってきました。彼に「アメブロ」のシステムの内製化のプロジェクトを渡して、私自身は、2007年からサービス開発とエンジニアの組織作りの2つがメインの仕事になりました。

―― 2007年というとiPhone国内発売の前年ですね。

長瀬 「アメーバピグ」やガラケーのソーシャルゲーム事業、そのあとはスマートフォンのアプリ事業とか、うちの会社のメディアサービスの企画開発を一通り、うちの代表藤田晋の下でずっと経験して来ました。

―― ずっとチーフエンジニア的なお立場なんですか?

長瀬 僕自身はどちらかというとプロジェクトとサービスの企画の両方をやっている感じです。なので、技術者の採用や評価、それからエンジニアが考える技術的なアーキテクチャの説明を受けて、最終的にこうだよねというようなお話をする。うちのグループは、文系出身の経営者がやっぱり多いものですから、現場のエンジニアと経営層の間に立って翻訳をして伝えながら開発と組織をずっとやってきた感じです。100までは行かないですけど、50以上は、この会社でサービスを企画、開発して立ち上げてきました。

―― 10年で50以上だと年がら年中立ち上げている感じじゃないですかね?

長瀬 失敗してきました(笑)。その時代その時代のサービスを作って10年ぐらいたちますから。中には「アメーバピグ」や「アメブロ」のように数千万人に使ってもらえるようなサービスをみんなで作ることもできたんですけど。それ以上に失敗経験も多くてですね、そういう意味もあって「AbemaTV」というのは、集大成に近いような意味合いで臨んだというのは凄くありますね。

―― やっぱり、「AbemaTV」は、大型企画なんですよね。

長瀬 僕の知っている限り桁違いですね。たとえはよくないですけど、2009年に黒字化した「アメブロ」は、それまでの累損が約80億円くらいあったんです。で、今回、「AbemaTV」って初年度で100億円投資すると対外的にお伝えしています。関わっている人の数はもちろん、その質的な部分、もちろんお金、藤田自身の時間もつぎ込んでいます。テレビ朝日さんという強力なパートナーがいることもありますが、この規模のサービスは、過去うちの会社では前例がないのものでした。ということで、開発も相当のプレッシャーのかかった中で、この半年でなんとか立ち上げをやったんですね。

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長瀬慶重(ながせのりしげ) 1975年生れ。2005 年 8 月に株式会社サイバーエージェント<4751>に入社。2014年4月にCA18、2015年4月に執行役員に就任。2015年10月に株式会社「AbemaTV」に出向。開発局の責任者としてプロダクト開発に従事。

250個のモックアップ(試作品)を、作っては壊す、作っては壊す

―― 地デジへの切り替え以降、テレビとネットの関係が物凄く注目されていて、HuluやNetflixというようなテレビに近い性格のサービスが米国からやってきた。あるいは、4K、8Kとか、「コピーネバー」なんてキーワードも飛び出してくる。TVerも、重い腰をあげた感じでとりあえず始まった。ただ、そいう動きの中で「AbemaTV」が出てくるとは、まったく予想していなかったんですよ。そもそも誰が言い出したんですか?

長瀬 もともとはですね、去年のはじめに、テレビ朝日の早河洋会長とうちのうちの藤田で「一緒に事業を立ちあげましょう」という話があったんですね。そこから、10人ほどのプロジェクトチームが発足しました。その中では、NetflixやHuluに近いようなオンデマンドサービスももちろん検討しましたし、モックアップにいては250個作っては壊し、作っては壊しで、いまのプロダクトの形になるまで約半年間もエンジニアとデザイナーがひたすら試行錯誤を繰り返していました。

―― それってどのレベルのモックアップですか?

長瀬 動くプロトタイプですよ。試作品をそれぐらい作って、ようやくヨコ画面に行きついたんですね。

―― ああ、ヨコ画面というのも驚いたことでした。携帯以降のタテ画面化への流れに真っ向から逆らうような! それはいつ頃なんですか?

長瀬 去年の8月、9月くらいに、試作品250個の中からヨコのUI、UXに着地した感じです。この結論に到達するまでに4カ月くらいかかりました。

タテヨコ
試行錯誤の末、ヨコ画面に着地した

―― モックアップは五月雨式に作っては壊しという感じなんですか?

長瀬 そうですね。エンジニアとデザイナーがひたすらモックを作って、藤田と一緒に見て、やっぱり16:9をタテ画面では迫力がないとか。藤田からは、とにかく「受け身視聴で観たい」ということなんですね。オンデマンドのように「何か見たいものを探す」ようなサービスではなく、テレビのように受動型のサービスであってほしいというのと、映像の美しさをきちんとユーザーに伝えたいということの2つでした。

―― ちなみにモックってどうやって書いてるんですか?

長瀬 pixateというプロトタイピングツールがありまして、それを基本的に使って動かしていましたね。

―― それを10人くらいで試行錯誤した。

長瀬 はい。同時に、テレビ朝日さんの方々とディスカッションをするんですけど、彼らの放送に対する品質の考え方がもの凄いんです。たとえば、配信現場から3秒で必ずテレビに到達するようにする。そのときに、この3秒というのは、全世帯で漏れなくそれができるようにするというレベルのことなんですね。

―― なるほど。

長瀬 なにかしらのトラブルで数秒止めたら、放送の世界は「事故」と呼ぶわけです。ネットの世界はSLA(サービスレベル品質保証)って、「99.9いくつ」の世界じゃないですか? それが、テレビの世界って、「99.99999」くらいの世界なんですね。その映像を配信する、届けることにおける彼らのプロ意識というものをディスカッションで見せつけられた感じでしたね。インターネットの技術でテレビを再現することが本当に我々の挑戦なんだということだったわけです。タイムラグに関しては、実は、いま30~60秒という状況なのでもちろんテレビ品質からは随分ずれています。ただ、僕らの中では一回これぐらいの品質で出して、そこからどんどん短くしていくということなんですね。

―― なるほど。

長瀬 それに加えて、テレビ放送のビジネスモデルを持ち込むわけですから、「当たり前のようにCMを配信する技術」に向き合わなくてはいけないわけです。

―― ここはテレビを目指す「AbemaTV」的には、実に、キモとなる部分ですね。

長瀬 そうなんです。通常のインターネットにおけるオンデマンドとかYoutubeの動画広告の仕組みというのは、シンプルにクライアント側が動画広告を表示をするリクエストを出して表示するものですけど、それだとあらゆるデバイスでユーザーが同時にコマーシャルを見るという体験を実現できないんですよね。

―― どの家庭にも同時に同じコマーシャルがドカッと流れるのがテレビであると。

長瀬 ええ。ところが、テレビだと当たり前のことが、今のインターネットの動画広告の仕組みだとできないわけです。それを、僕らは今回、配信サーバー側で動画の広告を挿入できるようなシステムを開発して、同じようにユーザーに届けるということを実現しました。いわゆるインターネットの技術でテレビを再現すること自体が、高い難易度でした。思い出したくないくらいですよ(笑)。

―― ディスカッションには、テレビ朝日さん側はどんな人が出てくるんですか?

長瀬 僕らは、基本的にサービスの設計・開発、アプリの開発をやります。テレビ朝日さんは、映像を撮って、音声のチューニングとか画質のチューニングをして、僕らのサーバーに映像を届けるというところまでを担当されています。

―― そこから先はすべてやるわけですね。

長瀬 ええ。それで、10月から開発チームを強化しようと、とにかく4月11日に間に合わせてくれと、藤田が明確に開始時期も含めて話をしまして、11月末、正確には12月に入っていましたけど、30人まで一気に開発チームを増やしました。

―― いまサイバーエージェント<4751>さんって、開発チームはどのくらいの人数がいらっしゃるんですか?

長瀬 約3,000人のうちエンジニアは3割を超えるので1,000人くらいですね。

―― 1,000人も技術者がいたら、エンジニアリングの会社じゃないですか?

長瀬 そうですね。だいぶモノ作りの会社になってきたと思います。

―― それで、実際の開発は30人の体制でやられたわけですね。

長瀬 ええ。12月に中間報告会というのをやったんですけど、その時にまだ裏側のテレビ局でいう「配信管理ツール」と呼ばれている、番組表を編成してこの時間に何を配信するかという管理システムの基盤がまだなかったんですね。通常は開発に1年近くかかるようなのですが、3か月で作りました。年明けから簡単な配信設定ができるようなり、PC用を作り、アプリを作り、広告機能を作りという形で、約4カ月でギリギリバタバタとリリースした感じですね。

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「AbemaTV」の番組表画面

タブレットで見ても凄いけど、テレビで見たら本当に凄い。

―― いままでこのような動画配信サービスは世の中にあったのですかね?

長瀬 ないですね。この形態のシステムは僕らも経験がないですし、本当にこのサービスを実現していく上で国内外の配信ソリューション(ASP)を持っている会社に色々ヒアリングしたんですけど、このような形態のシステムは見当たりませんでした。

―― こういうテレビの番組表をそのままサービスにしたようなものはなかったということですね?

長瀬 ないんですよね、なのでもう自前で作るしかないっていう。

―― 総務省が2019年に、テレビ同時配信とかっていう話もしてるじゃないですか。要するににライブのものをそのままエンコードして中継しているものはあるけれども、チャンネルと考えてそこに流してるのって意外にないってことですね。

長瀬 インターネットの動画サービスで、このようなリニア放送の形態でやっているモデルはたぶん本当にないですよね。

―― テレビの最初って1930年代のベルリンオリンピックの中継で、ベルリンのラジオタワーにテレビ博物館みたいなのがあるんですけど、かなり初期にテレビってチャンネルなんですね。ラジオは、チューニングだけど、テレビはチャンネルです。

長瀬 インターネットでは、そのチャンネルも、開局当時は24チャンネルだったのが今はもう30チャンネル近くなっていて増やすことができたりします。

―― なるほど。

長瀬 ちょうどいま、アマゾンのFireTVとかAndoroidTVとか、AppleTVとかのプロダクトがこれから年末にかけてどんどん出て来るわけですけど、テレビで「AbemaTV」を見ると地デジよりもまず画面の切り替えが早いです。あと、たとえば民放5チャンネル、NHKの2チャンネルとかで一気に30チャンネルまで無料で見れる番組が増えるんですよ。「AbemaTV」をテレビで映すと。テレビ画面で観れることでこんなにメディアの可能性が広がるんだということは、まあ僕らが一番感じて驚いてます。それをメーカーさんに見せると、メーカーさんも目の色を変えてこれはすごいって言ってくれるんですよね。反応がとてもいいんですよ。タブレットで見てもそうでしたけど、テレビで見たら本当に凄いんですね。

―― テレビといういままで限られたコンテンツしか流れてこなかったものの中に、テレビ的な文法のまま新しいチャンネルがドバッと入って来ると受け取り方は確かに全然違いますね。

長瀬 アメリカのようにケーブル放送で本当に多チャンネルの中で生活しているんじゃなくて、地上波がメインの日本では限られたチャンネルでしたからね。

GoogleのクラウドでマイクロサービスをGo言語で開発した

―― システム的にはどんな構成になっているんですか?

長瀬 全体的には、Googleのクラウドプラットフォームを活用しておりまして、その上で昨今言われているマイクロサービスというアーキテクチャのもと、クラウド上でサービスを組んでいます。広告の配信のシステムも、基本的にはすべて自前で作っていて外部のソリューションを使っていないってところは結構驚かれますね。もちろん映像のトランスコードをやるとことなどは外部の技術を使っていますけども。

―― なるほど全部クラウドにのっている。御社にマシンはないんですね。

長瀬 ないですね。

―― それいつぐらいからそうなったんですか?

長瀬 たとえば、ツイキャスとか生放送を気軽にスマートフォンからできるような時代になってからは、あとはストリーミングを受けるのをクラウド上に置いちゃえば基本的にはできるようになったんですね。ここ数年でしょうかね?

―― 今回の場合は、テレビ朝日の人たちが自分たちのテレビ番組をエンコードして、それをクラウド上の御社の管理領域に送るわけですね。

長瀬 そうです。映像を受けて、そこから映像を最適にトランスコードしていきます。僕ら画質を5つ作っているんですよ。ユーザーの回線スピードに合わせて、画質を落としたりあげたりしているんですね。それと、通常のNetflixさんとかYoutubeさんは、1個の動画に対して1つのURLが対応していますが、大きな違いは、1チャンネルが1つのURLなんです。たとえば、12~13時はこの映像のストリーミングを流してここには広告を流してというふうなことをやるわけです。このストリーム<3071>を作る作業をやったら、あとはAkamaiさんのCDN(コンテンツデリバリーネットワーク)を介して映像をユーザーに届けているわけです※1

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録画済み番組・生放送・ニュースなどが1つの流れになる「AbemaTV」の配信システム

―― やっぱり、Akamaiなんですね。

長瀬 ええ。Akamaiを介さないと、全部のアクセスをGoogleのクラウドで受けてしまってレスポンスが悪くなるので、CDNを使ってキャッシュをインターネット上にばら撒くと言った感じですね。

―― テレビ朝日さんから番組ごとに送られてきたものを、Googleのクラウド上でベルトコンベアのように流れていくチャンネルの上に順番にのっけていって、その出ていく先がAkamaiであると。

長瀬 そんな感じですね。

―― 5つの画質はどこで選択されるんですか?

長瀬 クライアント側で「ネットワークに余力があるなぁ」と思ったら画質を上げていきます。「AbemaTV」見ていただくと最初画質の荒いところから始まって、キュッと綺麗になるんですけども、それはUX的に早く画像を表示したいという狙いもありますし、ユーザーのネットワークの環境に応じて画質を最適化したという側面もあるんですね。

―― 30秒〜1分ぐらいの遅延といわれましたが、5つの画質を同時にやっていて、高画質のエンコードやるための負担が大きいのですかね?

長瀬 回線スピードの速いところはどんどん先読みして行ったり、逆に悪いところではパケットが溜まってしまって、うまく映像がコントロールできなくなる可能性があるんです。なので、僕らの中で映像を溜め込んでそれを流すっていうことで安定的にユーザーが映像が途切れずにどんな環境でも見れるようになっています。そこのためてる時間が30秒とかなんですね。

―― なるほど。マイクロサービスは、どれくらい数としてはあるんですか。

長瀬 基本的には、機能ごとにシステムを作っているので、200いくつのポッドを立ててると聞いています。

―― アーキテクチャ的には、マイクロサービスを採用することで開発がシンプルでいいという側面もある一方で、それだけ増えるとあっちを変えるとこっちも五月雨式に変えなきゃいけないというようなことが起きるのではないかと思うのですが。マイクロサービスを最初に方針として選ばれたポイントっていうのは?

長瀬 200と言ったのはサーバー単位だったりするので大きくは数個の機能が立ち上がっている形になると思います。

―― とはいえそれだけあると、たとえば、一回テストコードをバーっとユニット回すなど、結構時間かかったりとかするものではないですか?

長瀬 テストに関して言うと、今は自動化をどれだけやっていくかっていうのが開発において重要ですよね。あとはテスト自体のカバレッジ的なものも、基本的には開発の中で自動的に見れるような状態にして、品質を高めていくってことだったりしますので、開発の流れの中でキチッと対応していると言った感じですね。テストコードキチッと書いて、開発の延長の中でそれも回すと言った感じですね。「テストコードかけないやつはダメだ」っていう雰囲気が最近ありますよね。

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Googleのグラウド上で多数のマイクロサービスが動く「AbemaTV」のサーバー側のアーキテクチャ

―― そうですね。テストコードを書くことが仕様を書くことなので、コードを書くのとテストコード書くのは当たり前だよって最近なってきましたね。ちなみに、マイクロサービスのバックエンドは、言語って何がメインになるんですか?

長瀬 いまGo言語でやってます。

―― それは、選定をする上で何かポイントがあったんですか?

長瀬 技術者に基本的に言語とかは全部任せてるんですよ、アーキテクチャとか使うライブラリもですが。彼らの中でGo言語がいいという声があって採用しました。

―― 最近、よく聞くのはGo言語の採用事例が増えてきてライブラリとかも充実してるとかもあると思うんですけど、ここであの面白そうな言語で1回でっかいサービスを作ってみたい、今までやってた言語と違うやつにチャレンジしたいっていうモチベーションもあるんじゃないですか?

長瀬 そうですね。GCP(Google Cloud Platform)もうちは、AWS(Amazon Web Services)を使ってきたところがあって、最初に「GCP使おうと思ってるんですよ」って言われた時は、結構「え、大丈夫?」っていうのは正直思っていたんですけどね。価格面も事業的なメリットはありましたし、マイクロサービスなどそういうようなGoogleのクラウドならではの特徴や相性みたいなものも含めて結構良かったというのもありました。

―― 大変だったことや課題などもお聞きできるとうれしいのですが。

長瀬 年末年始は元旦しか休めませんでしたし、特に3月は休まず働いてたような状況でしたが、いちばん難しかったのは、やっぱり広告の配信のシステムや映像自体を時間通りに番組表に沿ってユーザーに届けていく裏側の配信の仕組みですね。

長瀬

―― テレビ対応というのは?

長瀬 本当は、開局時にテレビデバイス全部に対応したかったのと、いろんな機能を全部入れたかったんですけど、結局、機能を落とさざるを得ませんでした。現在、テレビデバイス対応を順次やっていますが、思ったよりも開発自体難易度が高かったですね。

―― ただ、こうしてお聞きしていると、現場的には大変だったんだろうなと思いつつ全体的には、サラリとできたみたいな印象になってしまいます。

長瀬 僕らプロジェクトが集まった時には動画のことなんて知らなかったんですよ。

―― じゃ、勉強から始まってるってことですか?

長瀬 はいそうです。なので、僕はこの10年間サイバーエージェント<4751>でいろんなプロジェクトを見てきて有能だった人間を引っ張ってきたんですね。こうみんな信頼できる仲間なので、みんなで動画のことを勉強して、ゼロから技術検証して、それで開発してきたという感じなので、サラっといっているようで本当に大変でしたね(笑)

―― なるほど、失礼しました。課題としてはどうでしょうか?

長瀬 目に触れない部分ではあるんですけど、さきほどのSLAというか、ネットではサービスが落ちたりするんですよね。先日もGoogleさんのクラウドの障害があって、それによって視聴障害が起きたりとかっていうのはやっぱり良くないことです。


注釈

  1. 「AbemaTV」 のシステム構成や技術詳細については、Developer Conferenceでの資料が閲覧できるようになっている?

キラキラ女子だけが、サイバーエージェント<4751>じゃない!

長瀬 さきほども言いましたが、うちの会社は、本当にこの10年でエンジニアの会社になったと思うんですね。それは、とにかく大量のサービスを作ってきて、沢山のサービスを潰してきたのが、経験として技術者や組織に根付いているというのがあると思います。1つのサービスでやっている会社とは、そこがちょっと違っていると思います。それによって、新しいサービスを作る時に、Node.jsが出てきたなら使ってみようとか、今であればGo言語使ってみようとか、MongoDBで新しいデータベースのアーキテクチャ出てきたらそれ使ってみようとかやってきた。そういう社風ができてるって感じですね。

―― エンジニア主導でモチベーションを持って、いろいろチャレンジしていくっていうのは当初からあったんですか?

長瀬 そうですね。2006年から藤田が「技術者の採用を真剣にやって、外注じゃなくて内製化しよう」という方針を打ち出しまして、すごいペースで技術者を中途採用したんですね。その中で、技術に挑戦することが技術者として正しいだとか、裁量を与えるけど責任もキチンと持ってくれというような方針を固めました。

―― なるほど。

長瀬 面白いのは技術的な取り組みももちろんそうなんですけど、例えば技術者が働く環境とか制度とかもある程度、裁量を持って決めているというのがあります。世の中最近ではリモート開発とか当たり前という風潮あるじゃないですか。サイバーエージェントグループの中でも「AbemaTV」は、とくにリモート開発を積極的にやっているんですよ。

―― リモート開発というのは、要するに会社にこないで仕事している。

長瀬 そうです。僕は2010年くらいからグローバルでは優秀な人が世界各地にいて、その人たちが時差も関係なく1個のプロダクトを作るのが理想ではないかと思っていたんですね。「AbemaTV」でチームを作るときに、それに近い環境を作りたいと。ちょうどGitHubも当たり前になって、Slackも出てきて、電話会議もどこでも簡単にできますからね。そこが回り始めてくると、もう組織でマネジメントすることはなくて、基本的には技術者に自己管理してくれと、生善説の元でどんどんやってもらっている感じですね。

―― 「AbemaTV」で、はじめてそういう感じになったんですか?

長瀬 そうですね。うちのグループだと多分そうだと思います。

―― その「AbemaTV」の30人ってあんまり会社に来ていない感じですか(笑)。

長瀬 だいたい、週1、2回はリモート開発をしています。

―― 「今日あいついないけど」っていうのも病欠とかではなくて、今日は家でやったほうがいいかなって……。

長瀬 一応、報告するんですよ。「今日リモります」って(笑)。

―― リモります(笑)。動詞化してるんですね。

長瀬 あとはその流れとして、「精神とテクの部屋」っていう、技術者向けの図書館があります。

―― 「精神とテクの部屋」!!

精神とテクの部屋
精神とテクの部屋

長瀬 隣のビル(渋谷区道玄坂沿い)に、エンジニアしか入れない100人ちょっとくらいの本当に静かな落ち着いた空間があるんです。みんなそこに行っていた。そこで、プチリモートをしていたのが、リモート開発の前段階としてあったんですね。

―― 自分の席じゃなくて、社内の別のところでモクモクとやる。

長瀬 そうです。それだったら自宅やカフェでやるのも同じようなものですよね。

―― 「精神とテクの部屋」はどうやってできたんですか?

長瀬 藤田は、積極的に技術者に「何が欲しいのか?」っていうのを直接提案させるんですよ。そういう中で、「精神とテクの部屋」を作って欲しいというのが出たんですね。『ドラゴンボール』で、「精神と時の部屋」っていうのがありまして、そこに入るとめちゃくちゃ訓練するんですよ、悟空が。

―― なるほど、そういうことなんだ(笑)。

長瀬 はい。なので、集中して「ガーーーッ!」とプログラミングする空間です。

―― そこでは、会話やミーティングはやらないんですね。外資系であるリラックスとか気晴らし系とは違うんですね。

長瀬 はい。最近は、技術者で優秀な人にはコンシェルジェがつく制度がスタートしたりですとか、どんどんエンジニアの待遇がよくなっていますね。

―― 本当ですか? コンシェルジェは、コンビニ行ってジュース買って来たりとかそういう感じですか(笑)?

長瀬 経費精算が面倒臭いとか、そういう細々とした開発外の業務を振り分けられる人がいるっていう。

―― 1人に1人ついてるんですか?

長瀬 さすがに10人に1人って感じですね。

―― IBMのチーフプログラマーチームとか昔から数人に1人秘書がついててみたいなのありましたよね。

長瀬 そうですよね。そういう環境だけのサポートエンジニアっていう役職もあったりしますからね。

―― できるだけ開発に集中するのがいいですからね。

長瀬 あと「フリーエージェント権」を行使できたりとかします。一定期間一個のプロジェクトで働くと、FA権を行使できるんですよ。「異動したい」ということですね。それで、「こっち来いよ」とかなるわけなので(笑)、どんどんいい待遇になってきてますね。

―― なるほど。

長瀬 なので、真面目な技術者がうちにはたくさんいるんですよ。キラキラ女子と言われがちですが(笑)。

―― そっちは、あんまり言われてなくないですか?

長瀬 手前味噌ですが、うちのビジネス職の人材も優秀ですし、すごく真面目で一生懸命仕事してますね。彼らと技術力の高い技術者が同じチームになると、ものすごくワークしますね。一生懸命仕事してるプロデューサーとかがいるチームの技術者は、「もっとこういうことやろうよ」ってうまく補いながらやってくんですね。

―― これからどうしたいとかお聞きできますか?

長瀬 アスキーさんも、子供とか若い人のプログラミングに取り組んでいるということですけど、日本は、技術職は30~40歳になったら管理職になってずっとコードが書けないんですね。それに対して、40~50になっても素晴らしいプログラマーが高い報酬を得て現役で活躍しているというような状況を僕らは作りたいと思っています。エンジニアそのものがとても魅力のある職業だということをきちっと世の中には届けていきたいと思っていますね。それには、それでサービスを作って事業化していかないといけないわけですが。

―― ちゃんと稼げないとお金を払えないですからね。御社は、エンジニアの給料は高いんですか?

長瀬 比較的高いと思いますね。

―― エンジニアの職業的ポジションとかそういったことが上がるべきだ、ということですかね?

長瀬 いまって若い人がスタートアップで何かサービス作って一発当てるということができる世の中じゃないですか? そういうような時代にどんどんなっていくと思うんで、エンジニアはとても夢のある職業だと思うんですよ。そのための待遇だったり環境だったり整備みたいなことは必然だと思いますよ。

アスキー
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    最終更新: 11月07日(月)09時00分

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