レトロゲームの“プロ”達にとっての『TAKERU』

アスキー 2016年11月08日(火)12時00分配信

レトロゲームの復刻事業に取り組む『D4エンタープライズ』
中の人とTAKERUの出会い

「いつまでも出ないPC-88版のおまけディスクが初めてのTAKERU」

 レトロゲームの復刻を手掛けるD4エンタープライズの社員にも、TAKERUを利用したことのある人物がいる。店頭にTAKERUがあるのは知ってはいたが、見た目がキレイでおまけも多いパッケージ版の方に魅力があり、なかなか利用するに至らなかったというのが鈴木氏だ。

 当時『メルヘンヴェール』というゲームが好きだったのだが、PC-98版では『Ⅱ』まで出ているのに、当時所有していたPC-88版としては『Ⅰ』しか出ていなかった。どうしても『Ⅱ』がプレーしたかった鈴木氏としては、歯がゆい思いをしていたという。

「そんなときに、『メルヘンヴェールⅡ』につながるストーリーや音楽だけを収録したおまけディスクみたいなものが、TAKERUで発売されたんですよね。これを購入したのが、TAKERUを初めて使った時だと思います」

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システムサコムのアクションロールプレイングゲーム『メルヘンヴェール』。ⅠはPC-88やMSXなどでも発売されたが、ⅡはPC-98版のみの発売となった。なお、後日PC-9801VMを入手した後に、Ⅱもしっかりプレイしたとのこと
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TAKERUで購入したソフト。ラベルはタイトルだけでなくイラストを多色で描いていたりと、作品への思い入れの強さがよくわかる。TAKERUのソフトは汎用のラベルシールしかないため、ラベルを自作する人も多かった

 とはいえ、それほどTAKERUを頻繁に使っていたわけではなかった。何より、パッケージ版ならレジに商品を持っていけばすぐに買えるのに、TAKERUで購入する場合はFDへの書き込みを待たねばならず、長時間その場にいる必要があったからだ。当時は今ほどゲームやPCへの理解がなかっただけに、「あいつ、パソコンゲーム買ってるオタクだ!」と思われるのが嫌だったという。とくに多感な中高生であれば、なおさらだ。わざわざ電車に乗って遠くの人通りの少ないお店で購入していたという話に、うなずく人も少なくないだろう。

 それでもTAKERUでちょくちょくソフトは購入しており、印象深かったというのが『ソーサリアン』のシナリオ集。とくに『セレクテッドソーサリアン』は1~5まで販売され、すべてそろえて応募券をTAKERU事務局に送ると、専用ケースとラベルシールが送られてくるというサービスがあったのだ。

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『セレクテッドソーサリアン』シリーズ1~5。ラベルがイラストの印刷されたものなのでパッケージ版かと思いがちだが、TAKERU専売のソフトだった。ケースやラベルは購入特典として送られてきた

小さな会社でもすぐにソフトを販売できたのがTAKERUのよさ

 TAKERUでソフトを買ったのは、「パッケージと比べて安かったから」というのが丸山氏。当時高校生だったので、時間はあってもお金がないという状態。同じゲームが遊べるのであれば、少しでも安い方がいいということから、TAKERUをよく利用していたという。初めて購入したのは、『ユーフォリー』というX1用のゲームで、正確には覚えていないが、パッケージ版と比べて1000円くらい安かったそうだ。

「購入すると生メディアが出てきて、自分でドライブに入れて書き込むというのがものすごく斬新に感じました。マニュアルもその場でガーガーと印刷されるという……かなりのインパクトがありました」

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システムサコムのアクションアドベンチャーゲーム『ユーフォリー』。システムサコムはパッケージ版だけでなく、TAKERUにも積極的にソフトをリリースしていた

 X1turboを所有していた時はあまりTAKERUは利用していなかったが、後にX68000へと買い替えるとTAKERU専売ソフトが結構多く、それ目当てで利用することが増えていったそうだ。例えばウィンキーソフトのシューティングゲーム『オルテウスⅡ』など、手ごろな価格でかなり遊べるソフトが多かったという。

「就職した会社がM.N.M Software(現マインドウェア)といいまして、そこはTAKERUでソフトを販売していたんですよね。つまりTAKERUには、ユーザーとしてはもちろん、ソフトを提供するソフトウェア会社側としても接していました」

 就職して最初に発売されたのが、TAKERU専売となる『アルガーナ』というアクションロールプレイングゲーム。音楽に古代祐三氏の曲を採用するなど力の入った作品で、かなり好評を得たという。大手のソフトウェア会社であればパッケージで大々的に売り出し、全国ショップで販売できるが、小さな会社は資金力がないことが多く、コストのかかるパッケージソフトはなかなか作りづらい。そういった会社でも立ち上げ時からソフト販売ができるプラットフォームとして、TAKERUは大きな役割を担っていたのではないか、というのが丸山氏の見解だ。

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1989年にX1版を発売、後にX68000にも移植された『アルガーナ』。アルガーナの楽曲は、EGG MUSIC RECORDSから発売されている『Yuzo Koshiro EarlyCollection 1ST+』に収録されている

 また、M.N.M Softwareは積極的にTAKERUでソフトをリリースしており、丸山氏も新人プログラマーとして採用された直後から、ソフトを作成したという。

「X68000用のスプライトエディターですが、『ぴくせる君』というのが私の商業デビュー作です。「こんなのを作ってるんですよ!」と社長に見せたら、一瞬で「これ、TAKERUで出そうよ」といって決まりました」

 このフットワークの軽さが小さなソフトウェア会社のよさであり、そしてこのスピード感を支えていたのがTAKERUならではといえるだろう。

 後年はTAKERUで同人ソフトも扱うようになったため、会社でなく個人でも広くソフトを販売できるというのが強みになっていく。丸山氏の友人もいつの間にかTAKERUでソフトを販売していたそうで、感想の手紙などが結構届いていたという話だ。

当時のゲームは音楽まで魅力があった

 当時はゲームミュージックの黎明期。ゲームの内容はもちろんだがプレイ中の音楽にも魅力があり、有名タイトルであればサントラCDが発売されるというのは珍しくなかった。また、当時は機種ごとにハードウェアが大きく変わるため、同じタイトルのゲームでも、機種によって音がまったく違うということも多かった。

「プロジェクトEGGでも『ソーサリアン』をPC-98版とX1版の両方出しているのですが、やっぱりX1のオープニングはまったく違うんですよ。音数が違うのもありますが、深みがあるんです」

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アクションロールプレイングゲームの代表ともいえる『ソーサリアン』。追加シナリオで長く楽しめるというのが斬新だった。移植も盛んに行われ、MSX2版はTAKERUで販売された (C) Nihon Falcom Corporation. All rights reserved.

 ソーサリアンを含むドラゴンスレイヤーシリーズ、イース、英雄伝説など、とくに日本ファルコム<3723>のゲームミュージックにはファンが多い。2009年からは全曲を自由に使えるという『ファルコム<3723>音楽フリー宣言』を実施しているので、テレビや街中のBGMや効果音などで昔プレイしたゲームの音を耳にし、ゲーム画面がフラッシュバックしたという往年のファンもいるだろう。

 また、ガイナックスファンでもある鈴木氏の一押しは、KAJA氏の曲。先日復刻された『サイレントメビウス』の戦闘シーンをはじめ、『プリンセスメーカー』や『夢幻戦士ヴァリス2』など、多くのタイトルで曲を提供している。FM音源ドライバーである「PMD」の作者といって思い出す人もいるだろう。

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美少女育成シミュレーションというジャンルを開拓した『プリンセスメーカー』。赤井孝美氏がキャラクターデザインをしたことでも有名

「当時ガイナックスネットという草の根ネットみたいなものがありまして、そこでKAJAさんがコミケで同人ゲームを売るという情報をたぶん書き込んでいました。どうしてもそれが欲しくて、それだけのために初めてコミケに行きました。そのゲームの音楽もすっごくいい曲なんですよ」

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『サイレントメビウス』の26年ぶり復刻版が発売中。KAJA氏による曲もしっかり収録されている

 鈴木氏が、曲そのものではなく音楽の使い方ですごいと感じたのが、データウエストの『サイキック・ディテクティヴ・シリーズ』だ。単純にCDを再生したりFM音源を鳴らすわけではなく、その2つをうまく組み合わせて、街の中のざわつきや空気感などを演出していたという。これ以外にも、マイクロキャビンの『エルムナイト』が音楽をちゃんと楽しませようとしているのが感じられて、記憶に残っているという。

復刻するのが難しいレトロゲームも数多くある

 D4エンタープライズでは『プロジェクトEGG』としてレトロゲームの復刻を手掛けているが、いくつかの問題でゲームを復刻できないことがある。一番の問題は、権利関係だ。とくに古いゲームになるほど権利関係がわかりにくくなり、そもそも誰に権利があるかもわからないことが多くなる。また、複数の人が権利を持っている場合は全員の許諾が必要となるため、難航してしまうこともしばしば。

 それでもプロジェクトEGGでは毎月コンスタントにタイトルを追加配信し続け、その数は900本以上に及ぶ。無料で遊べるタイトルも多くそろっているだけに、レトロゲーム好きであれば、一度はのぞいて見て欲しい。

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対応機種の違いを含め、900本以上のレトロゲームがそろう「プロジェクトEGG」サイト。思い出のゲームが見つかるかも!?

当事の人より詳しい!?若きレトロゲームファン

衰退していく機種のソフトまで購入できたTAKERU

 秋葉原パーツ通り先の地下に店を構えるBEEPは、家庭用ゲームやアーケードゲーム基板、PCゲームまで扱うレトロゲーム専門店。店長の駒林氏はTAKERUを直接使ったことこそないものの、周囲のレトロゲームファンに当時の話を聞いていたり、買い取りで持ち込まれるTAKERUのソフトを数多く触っているだけに、実際に使っていた人よりも深くTAKERUを知っている人物だ。

「TAKERUを使っていた別のスタッフの話になりますが、当時すでにMSXの衰退が始まっていてソフトの入手が難しくなっていたそうです。さらにパッケージ版ソフトが次々と発売中止になっていく中でも、TAKERUでは新作ソフトがリリースされるという状況に救われたといっていました」

 多くの機種向けにソフトをそろえてくれるショップが近所にある人は幸運だが、ショップといえど商売。売れないものはいつまでも置いておけないし、当然、売れる機種向けのソフトが多くなってしまう。コアなファンが多いMSXもその例外ではなく、コーナーは次第に端の方へと追いやられ、ソフトが入手しづらくなっていったというのは想像に難くない。

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1995年8月あたりのTAKERU PRESSから抜粋。この時にはすでに新作ソフトのリリースは激減していたが、TAKERUのソフトリストにはMSX用が多数ある。最後の方までMSXのソフトが数多く扱われていたことがよくわかる

 パソコンショップが数多くあった秋葉原であれば状況は違うのだろうが、誰もがそう簡単に秋葉原へと行けるわけでもない。関東近郊に住んでいても、秋葉原までの電車賃や移動時間はバカにならないからだ。

 そういう状況のユーザーにとって、在庫と関係なくソフトを購入できるというのがTAKERUのメリットだ。新旧ソフトはもちろん、さらに同人ソフトまでを手ごろな価格で入手できたため、とくに地方在住の人にとってTAKERUはありがたい存在だったに違いない。

TAKERUで販売されていたソフトの買い取りは意外に多い

 BEEPではゲーム機からPC本体、ソフトまで幅広く買い取りしているが、TAKERUで購入したソフトも多く持ち込まれるという。TAKERUのソフトはメディアだけでなく、印刷されたマニュアル、シールまでそろって完品と考えて買い取っているそうだ。

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購入特典だったソーサリアンシナリオ集のラベルシールなども、そろっていると価値が高い。なお、これはPC-88VA版でしかも未使用というレア品

「TAKERUの買い取りで数が多いのは、やはりX68000用。とくに満開製作所のディスクマガジン『電脳倶楽部』は人気があったみたいで、よく見かけます。また、X68000用としてはTAKERUでしか出ていなかったソフトはプレミア<8956>がついていて、『スタートレーダー』とか『ハイドライド3スペシャルバージョン』とかがそれですね。あと珍しいのは『オルテウスⅡ』でしょうか。『Ⅰ』がPC-88VA用で、『Ⅱ』がX68000用のTAKERU専売ソフトというのが面白いです」

 レアなソフトが持ち込まれることがあるのが、買い取りをやっている専門店ならでは。あまり数を見ない、TAKERUのMSX用ROMもたまに出てくるとのことだ。また珍しいソフトといえば、『T&Eマガジン Disk Special』がある。2まで発行されたMSX用のディスクマガジンで、サイオブレードのヒント集やミュージック集、新作情報として『ハイドライドX』(後の『ルーンワース』)があるなど、T&Eソフトファンであれば手に入れたいと願うソフトとなっている。これもTAKERU専売ということで数が少なく、過去に数回扱ったことがある程度だそうだ。

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TAKERUでの専売だった、『T&Eマガジン Disk Special』(http://www.beep-shop.com/blog/4401/)。幻ではないものの、見かけることは少ないという。

レトロPC本体は1台ずつ修理してから販売

 BEEPではレトロゲームソフトだけでなく、当時のPC本体も販売している。それも、単純に買い取った本体を動作確認して売るのではなく、電源コンデンサーの交換といった修理やオーバーホールをしてから販売しているのだ。そのぶん価格は高めになってしまうが、古いまま使うよりも長く、安心して使えるというメリットがある。なお、修理は店頭販売品だけで手いっぱいで、持ち込み修理相談などは受けていないとのこと。

「レトロPCの売れ筋は、拡張することなく当時のゲームがそのままプレイできるものが人気です。MSXなら2+、X68000はXVI、PC-88はmkIISR以降、PC-98なら386以降でしょうか。とくにPC-98はDAからサウンド機能を内蔵しているので、それ以降の機種がいいですね」

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CPUを16MHzへと高速化した『X68000 XVI』。デザインが丸みの少ないものへと少し変更されている。この後、3.5インチFDD搭載の『X68000 Compact』や、『X68030』へと続いた
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1989年、EXPERTやPROが登場したときのX68000カタログ。なぜかイメージキャラがツタンカーメンだった
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レトロゲームの話題では陰に隠れがちなTOWNSだが、初代は1989年発売。CD-ROMドライブを標準装備していたのが新しかった

「動作品のソフトは年々少なくなってきています」

 レトロゲームの購入時に気になるのが、メディアの品質。FDは磁気データとなるだけに消えてしまっている心配があるし、物理的な破損なども気になる。BEEPではゲームの動作確認まで行って販売しているため、購入したけどプレイできなかったということはほとんどないという。

 しかし、買い取り時のメディアの保存状況は必ずしもいいものばかりとは限らないようだ。高温多湿なうえ寒暖差の激しい日本ではメディアの保存が難しく、驚くことに、買い取り時にFDがカビていることは半数くらいあるという。もちろん、古いソフトは普段使わないものだけだけに、風通しの悪い押し入れの奥に押し込んでいるというのも原因のひとつだろう。

「こういったものはゲームが動作しないため、不良品ということで買い取り額は減額になってしまいます。クリーニングも難しいため、チャレンジする人用に安く販売することが多いですね。ゲームだけでなくパッケージが目当てのコレクターもいるので、そういう人は買っていくと思います」

 なお、ROMはFDと違って耐久性に優れていることもあり、MSXは他機種のレトロゲームよりも集めやすいそうだ。

「MSXのレトロゲーなら、今から始めても十分間に合います。ROMが多いので、FDのようにカビだ傷だ読まないだので悩まされることなく遊べますから」

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MSX最後の規格となったMSXturboRの『FS<2159>-A1GT』。CPUが16bit化されて高速化しているものの、製品は松下電器産業(現パナソニック<6752>)からしか登場しなかった
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    最終更新: 2016年11月08日(火)12時00分

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