唯一無二の音、日本人製作家の最高ギターを販売店はどう見る?

アスキー 11月12日(土)12時00分配信

 自分のためのレッド<3350>・スペシャルを作る。ブライアン・メイ本人からシグネチャー・モデル製作を依頼されるという形で、ついにその夢を叶えたギター製作家、伊集院 香崇尊(いじゅういん かずたか)氏は、新たな目標として、次世代の新しいスタンダードとなるギターを目指した。

 その第一弾がKz Guitar Works初のフルオリジナルとなる「Kz One Standard」。演奏性の高さ、オールハンドメイドによるフィニッシュの良さ、そして意欲的で斬新な設計。間違いなくほかにはないギターで、現在ではイケベや島村楽器という大手のショップも取り扱いを決め、実際に店頭で手にとって見ることもできる。

「唯一無二の音」日本人製作家による最高ギターを販売店はどう見る?
Kz Gutiar Worksは11月4~6日に東京ビッグサイトで開催された「楽器フェア2016」にも出展。詳しくはこの記事の最後で!

 とはいえ、一般的には無名でインディペンデントな工房の製品である。しかも価格は38万円。いくらできが良くても「はい作りました」「じゃあ売りましょう」という話にはならない。ではプロのギターの目利きである楽器店のバイヤーは、このギターをどう評価したのか。

 そこで、まず最初にKz One Standardの取り扱いを決めた、渋谷のプロ御用達ギターショップ「フーチーズ」に伊集院氏とともにお伺いした。取材に対応してくれたのは、楽器専門サイトのデジマートなどで気鋭のレビュアーとして知られている村田善行氏。ギターの取り扱いを決めた理由を通して、市場の特殊性や、楽器製作を仕事にすることの難しさ、そしてなによりこのギターのどこが魅力なのかを語ってもらった。

このギターを買わないと出ない音がある

―― Kz One Standardのお客さんの評判はどうですか?

村田 みなさん興味はあるみたいですよ。ちょうどさっき「1本押さえてくれ」という連絡もあったし、これ目当てで試奏に来るお客さんもいるし、ウェブにも結構なアクセスがあるし、ウチでも実際に何本か実売が出ています。

伊集院 僕はもう心配で心配で。もうぜんぜんダメって言われたら、どうしようかと思っていました。

村田 わかります、それは。でも、まだほとんどなんにもプロモーションしていなのに、こんな高額なギターが売れてるんだから、それでいいじゃんって思いますけど。うちだって50万を超えるようなギターは月に何本も出ませんから。まだまだ、これからじゃないですか。

「唯一無二の音」日本人製作家による最高ギターを販売店はどう見る?
ギターを前に心配そうな伊集院氏(右)と、まだまだこれからと言う村田氏(左)

―― 村田さんはこのギターのどのへんがいけそうだと思いました?

村田 ハンドメイドの良さがあるんです。ハンドメイドって、やっぱりクオリティーが一定にならない。どうしても作家のコンディションが出てしまうから、製品的に安定しないんですね。それは100万円、200万円を超えるようなギターでも同じです。でも、このギターは木材のコンディションがすごく良くて、木にストレスをかけずに作られている感じが音にも出ている。だから弾いていても気持ちいい。ものすごく研究されて作られているギターだと思います。

―― 音に関してはどうですか?

村田 単純に同じような音のするギターがないんです。「これとこれに似てるよね」というところに当てはまらない。でも、やっぱりヨーロッパ、ブリティッシュ系の音なんですよ。アメリカの音じゃない。そこがおもしろいですね。

―― すでに買われたお客さんはどのへんが気に入られたんでしょうか。

村田 やっぱり音でしょうね。このギターを買わないと出ない音がありますから。いろんなギターを持っているけど、この音の出るギターはない、ということで選んでもらえた。そこはクオリティーのひとつを示していると言えます。

 お客さんは難しくて、本気で弾く人と、買うのが好きな人、弾けないけど音色が好きという人もいます。うまくは弾けないけど鳴らしたときの音が好きという。僕はそういう方が一番マニアックだと思っていますけど、その人達は音が好きで買うから、結局いいギターを沢山持っている。このギターもそういう人が一本、買ってくれています。

―― ストラトやレス・ポール、テレキャスなら何年型のあの仕様、みたいなことでイメージできる音がありますけど、これはそういうイメージが持てない。そのへんを表現するとしたらどうなりますか?

村田 僕が一番おもしろいと思っているのは、このピックアップの特性がギターと合っていることです。ホロウボディーなので、普通のシングルコイルを載せると、チャキチャキのパキパキ。しかもダイレクトにボディーにマウントしているので、本当に使う人を選ぶギターになってしまう。

 ところがこのピックアップは、普通のマイクと同じような特性でレンジが広い。これでヴァン・ヘイレンをやれと言われたらできるかもしれない。クリーンでジャズやれと言われてもできる。ハムバッカーみたいな太い感じも出しやすいシングルコイル。かなり幅広く使えます。

誰も使ってないからおもしろいんじゃん

―― 38万円という値付けはどうですか。

村田 適正か、かなりがんばっている値段だと思います。自分たちだけでギターを作るって、みなさんが想像しているより、ずっと大変なことなんです。場所も器具も必要で、いい材料を海外から取り寄せて。そう考えると高くはない。実際、この値段で何本かは売れているわけで、購入したみなさんは高いとも安いとも言わずに買ってくれた。だから、これでいいんじゃないですか。

―― 知名度の低さが弱さになったりはしない?

村田 うちの場合はないです。ナショナルブランドのギターは、いまやどこでも売っています。特に渋谷は、世界中のいい楽器が全部見られる街です。超ハイエンドから、入門編まで。海外の人は「アメリカでもよっぽど回らないと、これだけの楽器は見られない」って言います。そういうところにほかにない楽器がポンとあるのは、お店としても大事なこと。ブランドは後から付いてくる問題です。

 このギターを弾きに来たお客さんに、なんで試奏に来たんですかって聞いたら、やっぱり「ギブソン、フェンダー以外でおもしろいギターを探していたら、たまたま動画で見つけた」と。そういう風にスローに広げていくのはウチの店の仕事ですね。

 きっと楽器屋はこういうギターが大好きですよ。ギター的におもしろいし、弾きやすいし。マホガニーネックでシングルコイルのギターというのが、そもそもほかにない。音的にも必要な人がいるはずなんです。有名な人が使って「あのギターはなに?」という話から大ヒットというパターンもあるでしょうけど、それでは長続きしない。長く売っていくには「どうやらあのギターは音が良いらしいぞ」という評判を、徐々に広めていかないと。

―― 誰が使っているかは、みんな気にしますよね。

村田 誰も使ってないからおもしろいんじゃん、この音を使って、なにか新しいことをやんなよって、僕は思うんですけど。それがなかなか通じないのが日本ですよね。それが海外のミュージシャンに使われると、急に「あの音なんですか?」って始まる。だからずっと言ってんじゃんって。

―― わはははは!

村田 そういう意味では幼い市場で、新しいものをフラットに理解して使える人は少ないです。このギターは、僕のイメージではプロ向けか、結構なギター好きが買うもの。だから海外のギタリストが急に「これ最高!」と言って使いだしてもおかしくない。昔のグレコだって、いきなりキッスの人が使って注目を集めたりしたわけじゃないですか。

―― ポール・スタンレーの「アイスマン」ですね(1970年代末の国産オリジナルギターで、神田商会がグレコ・ミラージュとして国内販売していたものと基本デザインは同じ)。

村田 日本のビッグなアーティストも、やっぱり他人の使っていないものが好きです。自分の使いたい楽器を使いたいから、エンドースメントも嫌う。そういう人達が興味を持ってくれるとおもしろいなとは思いますけど、その人達がステージで持つとなると、それに見合う絵になっていなければならない。ギターってまずは見た目がカッコいいから買うわけですよね? だから、このギターのルックスが好きな人がどれくらいいるか。そこですね。

―― ところで村田さんはレビューがいつも的確で鋭いですが、実はミュージシャンだったとか元は楽器メーカー勤務だったとか?

村田 いえいえ、とんでもないです。普通にバンドをやっていただけです。それで、下北のシェルターというライブハウスで働いていて「楽器が好きならいい店紹介してやるよ」とあるドラマーに言われ、この会社に入りました。それで社長に「お前はエフェクターが好きなら、好きなものを仕入れてきて売れ」と言われて売っていたんです。それ以外に楽器屋に勤務した経験もなにもないです。

 アメリカのインディー・ロックみたいなのばかり聴いていたんですが、会社に入ってからは、お客さんが店で弾いている超うまいギターを身近に聴いて、なんであんな音するんだろう? 同じ楽器に触ってもあの音しねえぞ? みたいなことをずっとやっていました。会社でボーヤ(ローディー)をやっていた感じです。それでいろんな楽器の音を調べたり、カッコいい音の出るギターの弾き方も覚えたり。先入観がないので、こういうギターをポンと渡されても、なんとなく狙いはわかるんですね。

ポール・リード・スミスも最初はこんな感じだった

―― このギターをどう売っていきたいですか。

村田 うちは、クソ真面目に、音色的なところで広めていきたいです。それがうちの看板なので。でも「僕は音に対してそんなに真剣に考えていないし、ちょっと暑苦しいです」っていう人も少なくない。だから伊集院さんは嫌かもしれないけれどブライアン・メイ云々のキャッチーなところでやっていっても全然いいと思うし、それに「うわー、これカッコいい!」と言って買っていくのはもしかしたらほかのお店のお客さんかもしれない。だから、伊集院さんはギターを作るのも大変だろうけど、いろんなお店に営業もがんばってもらわないと。

―― そうやって伊集院さんがどこまでふんばれるか。

村田 そこですよね。ギターの評判よりも、伊集院さんが心配ですね。真面目にやりすぎていて、身体大丈夫? これでお金になるの? っていう。うちも自社で楽器を作って売っているのでわかるんですが(Crews Maniac Soundのブランド名でギターやエフェクターを販売)、全然楽器って儲からないんですよ。変な話、輸入品の200万円するギターを売ったところで、利益率を言ったら本当に……たかが知れている。

伊集院 また、そんな厳しい話ばかり……。

「唯一無二の音」日本人製作家による最高ギターを販売店はどう見る?
激励と厳しい現実の両方を直球で投げてくる村田氏と、プロのアドバイスに聞き入る伊集院氏

村田 でもあのPRSギターのポール・リード・スミス社長も最初はこんな感じだったらしいですよ。最初は「オレはいいギターを作れるんだ」というところから始まる。でも思ったようにギターは売れない。それでいろいろなギタリストの元に押し掛けて「このギターを弾いてみてくれ、気に入らなかったら返してくれ」ということを繰り返しやっていたら、欲しいという人が出てきて、それがあのサンタナだった。そういう時代を経ていまやアメリカを代表するギターブランドとして認知されるほどになった。すごい話ですよね。

 それと、僕らはよく言うんですが、ギターなんかなくたって、普段の生活には一向に困らない。だから作りのいい、音のいいギターをただ100本並べても売れません。逆に雰囲気の良いギターであれば、音なんか良くなくてボロでも売れることがある。そこらへんは美術品と一緒です。だから、うちもいい加減にはやってられないな、という感じです。きちんとこの楽器のことを理解して、必要だと思うみなさんに届けたい。それに、自分の好きなギターを作って生活するのは、簡単なことじゃない。でも、もうやり始めちゃっているんだから、このクオリティーでいかに数を作っていけるか。問題はそこですね。

伊集院 まったくそのとおりです(苦笑)。

試奏するなら強い覚悟が必要

 ならば、まずはいろんな人に見て触ってもらうのが先決。というわけで、Kz Guitar Worksは、11月4日から6日まで東京ビッグサイトで開催された「楽器フェア2016」に初めて出展。Kz One Standardを多くの人が試せる、国内では初の機会となった。初参加のブースとしてはなかなかの盛況で、ブース前には試奏待ちの来場者が並ぶほど。

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ブースで来場者の対応に当たっていた伊集院氏とギタリストの清水 一雄氏
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清水氏のデモ演奏が始まると、老若男女国内外のさまざまな人が足を止め、周囲にいるスタッフに質問をしていた
「唯一無二の音」日本人製作家による最高ギターを販売店はどう見る?
セミホロウのボディー構造がよくわかるモデル。そんなところにまで穴が空いていたのかという部分も
「唯一無二の音」日本人製作家による最高ギターを販売店はどう見る?
さまざまなカラーバリエーション。一番手前はレフティー(左利き)仕様
唯一無二の音、日本人製作家の最高ギターを販売店はどう見る?
現在のKz One Standardの基本仕様

 おもしろいのは、試奏のために恐る恐るギターを手にした人も、試奏が終わると「気持ちがいい」「弾きやすい」「Great Sound!」と笑顔で口にしていたこと。実際に良くできた楽器なので、触って音を聴くだけで説得されるものがあるのだ。かく言う私も、このブースで数分間試奏して、ずっと抑圧してきたなにかが、プチッと切れてしまった。

 ネックの手に当たる部分が綺麗に加工されていて、スライドやフィンガリングになんのストレスもない。フェンダーとギブソンの中間という独自のスケール、指板の幅、グリップのカーブ、弦のテンション感もすべてが絶妙で心地良い。このギターを持っただけで普段の3割増しくらいうまく弾けるような気がする(もちろん気がするだけ)。

 そして、やっぱり音がおもしろい。全体的にシングルコイルとしては太いサウンドで、全部オンにすればウーマントーン、リアだけでもジャキーンというロックっぽい音が出る。音のバリエーションも幅広いが、それぞれの音がユニークで使いでがある。

 ただ、私はストラトキャスターを弾き慣れているので、どうしてもセンターピックアップにピックが当たってしまう。これは弾き方の工夫でどうにかなりそう。というか、しなければならない。このギター、ボヘミアン・ラプソディのソロのような、あのフェイズアウトサウンドがいとも簡単に出てしまうのだが、それはセンターピックアップのセッティングに負うところが大きく、高さを下げたり、外したりしては意味がないからだ。

「唯一無二の音」日本人製作家による最高ギターを販売店はどう見る?
清水氏のピッキングポジション。やっぱりセンターピックアップのちょっと後ろを弾いている

 おかげで、楽器フェアが終わった翌日には「一見すると黒っぽいけど、光を当てるとシースルーの濃紺みたいな塗装できますか?」と伊集院氏にカスタムオーダーのメッセージを投げていた。現在、細かい仕様を詰めているところ。みなさんにも、ぜひ楽器店に行って試していただきたいが、その際はそれなりの強い意志と覚悟で臨むことをオススメする。



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    最終更新: 11月12日(土)12時00分

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