大強度陽子加速器施設J-PARCの陽子ビームは世界一ィィィ!

アスキー 11月12日(土)12時00分配信

 茨城県東海村にJ-PARC(Japan Proton Accelerator Research Complex)という実験施設がある。高エネルギー加速器研究機構と日本原子力研究開発機構の共同プロジェクトで幅広い分野の最先端研究を行なう施設だ。

 2008年から動きはじめたばかりの施設であり、今回はそのJ-PARCの主要6施設すべてを取材してきたので、文字数は多いのだがレポートしていく。

大強度陽子加速器施設J-PARCのプロトンビームは世界一ィィィ!

 J-PARCの和名は大強度陽子加速器施設。ASCII.jpではKEK(大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構)の取材回数が多いので加速器施設について、ぼんやりながらも把握している読者も多いと思うが、CERNはダークマターを確認するためにエネルギー重視、KEKBはB中間子・反B中間子の生成能力重視といったように、加速器施設ごとに得意とする部分が設けられている。

 予想から逆算して、この性能があれば効率良く特定の実験ができるという考えのもと決まっているため、だいたいどこの研究所も世界一である部分を持つ。

大強度陽子加速器施設J-PARCのプロトンビームは世界一ィィィ!
茨城県東海村にある大強度陽子加速器施設J-PARC(写真提供:J-PARCセンター)

 ではJ-PARCはというと、世界屈指の陽子ビームの性能と多彩な二次ビーム利用が特長だ。まず3つの加速器施設があり、付随する3つの施設に陽子ビームを渡すことから複数の研究を効率良く実行するための総合加速器施設といった認識でいい。

 核変換実験施設の建設も予定されており、使用済核燃料を異なる元素に変換する技術なども研究するマルチっぷりであり、J-PARCってなんだ? となると説明しにくい部分もあるのだが、世界で1番ぽんぽんと陽子ビームが作れて、さらにムダなく利用している施設となる。

 なお、ニュートリノビームを約295km離れたスーパーカミオカンデに撃ち込んだりもしている。

 1粒で3度美味しいといった説明を受けたが、今回の取材の過程で各所の担当者に話をうかがった限りでは「研究に都合がいいところ」といった雰囲気を強く感じた。

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取材の様子。入域カードをAPD(Alarm Pocket Dosimeter)貸出装置にタッチ。以下の流れは各施設ごとで実行する
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ADPは警報付個人線量計のことで、点灯したランプのADPを受け取る
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さらに制御キーを受け取る。このキーがすべてそろっていないと加速器は運転できない
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ゲートを抜けて施設内へ
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退域するときは線量チェック
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機材は別。あまり大型の機材だと写真の線量チェッカーに入りきらないので、別途チェックが必要

線形加速器でビームを光速の71%まで段階加速!

 J-PARCには、LINAC(Linear accelerator)、RCS(Rapid Cycling Synchrotron)、MR(Main Ring)の3つの加速器施設がある。いずれも淡々と加速器と電磁石が並んでいるわけだが、3つの加速器施設を利用して段階的に陽子ビームを加速させている。

 これは最適なエネルギーの陽子ビームを効率良く、必要な施設に送り、ターゲットに衝突させて研究に必要な粒子を生み出すためだ。

 LINACからRCSに陽子ビームが入射され、RCSからはMRと物質・生命科学実験施設に入射。MRからはハドロン実験施設とニュートリノ実験施設に陽子ビームを送っている。

 ビームというと延々と照射される光線をイメージするが、バンチ(塊)を連続して射出している。

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今回取材する6施設の位置関係

 まずはLINAC(リニアック)から見てみよう。全長300mの線形加速器になり、L字を描いてRCSに接続されている。基点は負水素イオン<8267>源で、水素を高周波<5476>で加熱して負水素イオン<8267>を生み出す。

 次に電場を利用して負水素イオン<8267>源の外に負水素イオンビームを取り出す。ビームの強さは、この時点で50keVであり、複雑な構造を通せない速度なので、ストレートな道を作り、段階的に加速していく。

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負水素イオン<8267>源。写真ほぼ中央にあるフィラメントからビームがスタートする
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高周波<5476>4重極型線形加速器

 まず高周波<5476>4重極型線形加速器で3MeV(光速の8%)まで上げて、アルバレ型ドリフトチューブ線形加速器で負水素イオンビームを収束させつつ、50MeV(光速の30%)まで加速させる。

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アルバレ型ドリフトチューブ線形加速器

 分離型ドリフトチューブ線形加速器で181MeV(光速の55%)、環状リングを結合させたACS線形加速器(Annular-ring Coupled Structure Linac)で、400MeV(光速の71%)に到達させる。

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分離型ドリフトチューブ線形加速器。同じものが設置されているが、徐々に長くなっていく
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青い電磁石は収束用だ
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ACS線形加速器。環状リングで長さを変更できる
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パイプの長さは現場で決定されており、基本的にバラバラ

 RCSに入射する手前にある荷電変換膜で電子をはぎ取られ、負水素イオンビームから陽子ビームになる。加速器が一直線に並ぶだけの場所だが、用途に応じて段階的に加速器が変更されているため、大変かっこいい。

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ACS線形加速器を抜けたあとは、ビームをゆっくりと90度曲げてRCSに向かう
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分岐している部分もある。右は試射用のライン
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分岐点
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90度曲がったところにも試射用のラインがある
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緩いカーブを描いているのは、ロスを減らすためだ
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この壁の向こうにRCSがある。補助用の穴もあり
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RCSへの入射直前はこんな感じ
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ACS線形加速器の途中で、GatewayのノートPCを発見。Core i7のシールも確認できた

周長350mのRCSで
光速の97%にまで加速

 RCSは周長350mの加速リングで、ビームを曲げるための偏向電磁石とビームを収束させるための4極電磁石、ビームエネルギーの広がりによるズレを補正する6極電磁石が主要構成となる。

 LINACから入射された陽子ビームを周回させ、高周波加速装置で1秒間に25回加速して、3GeV(光速の97%)までにする。周回数は約1万5000回。

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黄色が6極電磁石、赤4が4極電磁石、青が偏向電磁石になる
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ずんぐりむっくりとした電磁石で、すべてHITACHI製
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高周波加速装置は12台ある

 RCSからMRと物質・生命科学実験施設への分岐点には、キッカー電磁石とセプタム電磁石、パルス電磁石があり、これらで進行方向を変えて、陽子ビームを送っている。ポイントとしては、他に比べて電磁石がずんぐりむっくりで、どこか愛嬌のあるところだろうか。

 この時点での出力は1MW。RX78-2ガンダムのビーム・ライフルは1.9MWの出力なので、およそ半分ほどの出力というと、なんとなくイメージできるかもしれない。ただ、陽子ビームは大気中では即時拡散してしまうため、あくまで出力の話だ。ミノフスキー粒子があれば、また話は別かもしれないが(ミノフスキー粒子で思い出したが、他の研究所取材でも、まず話に出てくる存在になっている)。

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分岐点。左が物質・生命科学実験施設、中央がMRへの入射になる。また電磁石の色が派手になっているが担当者が好きに決めているとのこと
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LINACからの入射部。右にふたつの試射ラインも見える
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左がRCSの加速リング、右がLINACからの入射ライン
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ビーム径は最大20cmになるため、真空バルブが太い
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取材時はメンテナンス中だった
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物質・生命科学実験施設とMRへ送るビームラインの分岐点。キッカー電磁石でバンチを弾いている
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地上部の管理棟の一角にてLenovoの法人向けPCとThinkplus USBトラベルキーボードを発見

周長1600mのMRでさらに加速
ビームは光速の99.95%に!

 MRは周長1600mの加速リングになっており、ここで30GeV(光速の99.95%)にまで加速させる。1周5マイクロ秒。ここでもグルグルと陽子ビームを周回させて加速、キッカー電磁石やセプタム電磁石でニュートリノ実験施設とハドロン実験施設に送る流れだ。

 速度が上がるほど、加速するには規模が必要になるため、RCSよりも周長が長くなっており、また電磁石も長いものが増えているのが写真でもわかるだろう。

 なお取材時、時間が足りなくなり1周できなかったので、また機会を作って踏破してみたいところ。今回はニュートリノビームラインへの分岐点までだ。

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超高性能金属磁性体コア装填型空洞。設置前のもの
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MRに入ったところ。青色のものが偏向電磁石。RCSのものと比べるとサイズが異なる。最大磁場1.9T、重量33tと世界最大級のもの
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黄色の4極電磁石でビームを収束させている
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電極。基本的に剥き出し
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自転車で走ると楽しそうな広さ
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真空バルブはフォーマットがあるのだが、場所によって微妙に異なる
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左が設置された状態の超高性能金属磁性体コア装填型空洞
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超高性能金属磁性体コア装填型空洞は最終段増幅器の裏側にあるため、ほとんど見えない。超高性能金属磁性体コア装填型空洞と最終段増幅器はセット運用で7台あり、1.67~1.72MHz駆動だ
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超高性能金属磁性体コア装填型空洞を設置中だった
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大変カッコよくてよろしい
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すごい速そう
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左に見えるものが、キッカー電磁石。横方向の力を与えて、ニュートリノビームラインへ陽子ビームを送る
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陽子ビームには、キッカー電磁石によって横向きの力が加わっているので、セプタム電磁石で大きく曲げる
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キッカー電磁石のひとつは、後付けで水冷パイプがあった
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とても好みのコなのだが、詳細不明
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左がニュートリノビームライン、右がMR周回ライン。5マイクロ秒の世界でビームを制御している
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周長1600mであるため、各所に案内板があった
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非常出口

研究室や民間企業が実験を行なう
物質・生命科学実験施設

 RCSから陽子ビームを受け取る物質・生命科学実験施設(Materials and Life Science Experimental Facility、以下MLF)は、陽子ビームから中性子とミュオンを生成し、それらを利用して研究室や民間企業が研究する目的の場所だ。

 そのため、小さな実験室がミッシリと集まっており、具体的にどういったことをしているのかは、その時々で異なる。

 たとえば、ASCII.jp読者に身近なものとしては、非破壊リアルタイム観測で充放電するリチウムイオンバッテリーの内部挙動を解析したり、全固体セラミックス電池につながる超イオン<8267>伝導体を発見したり、セラミックコンデンサー中の水素不純物が絶縁劣化を引き起こすメカニズムを解明したりなどがある。

 また住友ゴム工業<5110>の「ADVANCED 4D NANO DESIGN」開発ではゴムの運動解析に利用されてもいるほか、タンパク質の動きを見ることもできるため、パーキンソン病発症につながるタンパク質分子の異常なふるまいの発見など、多くの成果を出している。

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MLFの構成図。細かいので大きめの画像を掲載しているので、とりあえず、数の多さを見てほしい
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MLF実験ホール。写真左の壁の向こうに同スペースがもうひとつある
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奥の青い壁の向こうに中性子ターゲットステーションがある。番号が振られており、複数の実験室で同時に実験が行なえる仕様。陽子ビームが水銀ターゲットにヒットした際、放射状に中性子が飛び散るのを有効活用するレイアウトだ
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起重機の先端部は旋回式

 さて、施設はというと、上記のように巨大な空間に小さな実験室が並ぶため、上から見ると密度が高い空間、下りてみると迷路のように複雑な構造となっている。

 実験室には写楽や大観、アマテラスといった名称がつけられており、法則性がなさそうだったので聞いてみたところ、担当者が自由につけており、機器が多いのでニックネームを付ける習慣があるとのこと。

 いくつか並べてみると、冷中性子ディスクチョッパー型分光器・アマテラス、特殊環境微小単結晶中性子構造解析装置・千手、試料垂直型偏極中性子反射率計・写楽、大強度型中性子小中角散乱装置・大観といった具合に、声に出すとテンションが上がる系であり、明朝体でテロップ入れると無条件にかっこよくなる系でもある。

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ミュオン実験エリアはさらにゴチャゴチャしていた
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実験室には看板が掲げられており、場所がわかりやすくなっていた
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施設のあちこちには段階的に起動ステップを踏むためにキーが多用されていた。目印のためか、かわいいキーホルダーが目立った。冷中性子ディスクチョッパー型分光器用だから、チョッパーなのだろうか
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かわいいキーホルダー
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ラベルに動物アイコン。カワイイ
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メンテナンス中で、ディスプレーの表示チェックをしている途中だった
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各所には「BEAM On」のアイコンがあった。点灯するものと思われる
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大強度型中性子小中角散乱装置・大観。金属やナノ磁性材料、タンパク質などの立体構造を解析できるもの。担当の博士曰く「新鮮な中性子がやってくるので、研究が進みやすい」とのこと
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ソフト界面解析装置・SOFIA。鏡面に中性子を当てて、その反射で表面の数10ナノ~数100ナノのごく薄い部分の構造を解析できる装置。ポリマーコートや電極界面などの構造を解析する。サンプル台は昇降式だ
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ミュオンは荷電粒子なので電磁石を利用してビームを運ぶ。崩壊して、陽電子になるまでは2.2μs
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サンプルを電磁石の中において、出てきた陽電子を検出するためのもの。ビジュアルが大変よろしい。またMLFのミュオンビームは大強度で実験をやりやすいものなのだそうだ

 さて、RCSから入射された陽子ビームは、グラファイト製ターゲットにあたり、生成したミュオンはミュオンビームラインに送られ、また水銀製ターゲットに当たって生じた中性子は、先に紹介した大観やSOFIAなどに分配される。

 今回は水銀ターゲットを管理するエリアも取材できた。このエリアはもっとも線量の高いエリアで、分厚い遮蔽壁に覆われているが、内部の機器移動やメンテナンスのために、鉛ガラス越しにマニピュレーターで内部の作業を行なえる。

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マニピュレーターは8基。X/Y/Z軸の独立した調整レバーやハンドルがあり、軽く見た程度では操作方法は分からなかった
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鉛ガラス越しに作業エリアを見たところ
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マニピュレーターの先端。いくつか種類がありそうだ
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取材時は作業の様子も見られた。ちょうど内部作業員の補助をしているところ
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水銀ターゲット。20世紀のシューティングゲームの主役機みたいなビジュアルだが、これまでの水銀を格納する容器は、中性子を作る過程で生じる強い圧力の波で傷付きやすく、長期間の使用することが難しかった。そこで気泡発生器を搭載し、圧力を吸収させることで長期的な運用を実現したものだ
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中性子源を地下に下ろすためのスペース。塔のように立っているものがそれで、重量は約100t
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とても用途の分かりやすいボタンを見つけた

基礎研究を並行で行なえる
ハドロン実験施設

 MRから陽子ビームを受け取る施設その1であるハドロン実験施設。MLFが産業向けの研究中心であるのに対して、ハドロン実験施設は複数の基礎研究を効率よく行なえる施設である。

 ハドロンとは、強い相互作用で結合した複合粒子のことで、2つ以上の素粒子が結びついた粒子のこと。ただハドロンのうち、陽子や中性子はその辺に多くあるのだが、中間子やΛ粒子などは地球上で自然に生じておらず、2次宇宙線の中に存在している。

 効率よく実験するために、陽子ビームを金属製ターゲットに当てて、人工的に必要なハドロンを作り出し、質量の起源や中性K中間子稀崩壊探索実験、ハイパー<3054>核の性質を探るなどをしている基礎研究の場という覚え方でいいだろう。

 なおハイパー<3054>核は、通常には存在しないクォークを含む原子核のこと。Λハイパー<3054>核やΛΞハイパー<3054>核ダブルΛΞハイパー<3054>核などがあり、音読するとテンションがアップする不思議ワードでもある。とりあえず「だぶるらむだくすいーはいぱーかく!」と唱えてみよう。

 内部はというと、大半が遮蔽体の中にあり、一部の実験室が露出しており、遮蔽体の隙間を移動するような感じで通路が形成されていた。

 ステキな空間なのだが、取材時は時間の関係もあってごく一部を駆け足で巡っただけであり、正直、なんだかスゴイところ、ホイストがデカくてカッコイイで頭が止まってしまっているので、また機会を作ってウロウロしてみたい。

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遮蔽体が目立つ施設。内部にはビームラインがあるのだが、どんな構造になっているのか、とても気になる
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天井にある起重機が巨大
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K1.8ビームラインから入射される粒子を精密に測定するSKSスペクトロメータ。分解能が高く、ハイパー<3054>核の分光実験もしている。取材時は検出機器は外された状態だった
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K1.8BRビームラインは、パイ中間子やK中間子、反陽子などの観測したり、K中間子をターゲット内に静止させて利用する実験をしたりしている。泥くさい実験環境でステキ
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測定器。KEKにあるBelle測定器の小型版のようなものなのだそうだ
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測定器周辺を上から見たところ
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acerのPCがあった。養生テープにOSアップデートやメモリー増設タイミングが書いてあり、自宅のPCを見ている気分だった(自作PCファンの一部には、PCケースに養生テープを貼って、更新メモを残す派もいるハズ)
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移動中は写真のような光景が続いたのだが、急に機器が出てくるので楽しかった
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スパコンにデータを送る前にアナログ信号<6741>をデジタル信号<6741>に変換する場所。ASCII.jp読者には見慣れた光景である可能性が高そうだ
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COMET実験の準備も進んでいた。同実験は、ミューオン原子を作り、ごく稀にニュートリノではなく、決まった運動量の電子がひとつ放出される「ミューオン-電子転換過程」の探索を目的としている。写真はミューオン輸送ソレノイド磁石で、長さ7m

ニュートリノビームラインは1000兆個/sの
ニュートリノを撃ち出す

 MRからの分岐した先にニュートリノビームラインがある。他と異なり、常伝導コイルではなく、超伝導コイルを採用している。これは高エネルギーのニュートリノを生成するために、高エネルギーの陽子ビームを強い磁場でロスなく約90度曲げるためだという。

 設計に関わっているのは、以前にASCII.jpでも取材をしており、ミリタリー方面でも有名な多田将博士。またニュートリノビームラインの写真の一部は、2008年に取材したもので、PC Watchにその記事があるのだが、異なる写真の用意のしようがないので同じものを掲載している。こちらはこちらで建造中の様子がわかるものになる。

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MRから入射された陽子ビームは写真でいう左側のラインから、ニュートリノビームラインへと進む
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収束電磁石や偏向電磁石が並ぶ
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青とシルバー機器からニュートリノビームライン用の機材である三菱製ニュートリノ超伝導ビームラインマグネットシステムが並ぶ

 ますます長くなってしまうが、ここでニュートリノについても触れておこう。ニュートリノは素粒子のひとつ。

 最寄りの分かりやすいニュートリノ大発生源である太陽から、地球表面1m2あたり600兆個/sのニュートリノが降り注いでいるにも関わらず、地球を抜ける過程で反応する確率は0.00000002%。

 つまり、ほぼすべてが通り抜けている。身近といえば身近な存在である。これから素性がわかりはじめてくる物質という認識でいいだろう。

 ちなみにニュートリノは発生源が多くあるため、太陽からの場合は太陽ニュートリノ、高エネルギー宇宙線が大気と反応して生じるものは大気ニュートリノ、超新星爆発によるものは超新星背景ニュートリノというように由来が冠になっている。そして、J-PARCの場合は加速器ニュートリノだ。

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わりとメモ書きが多い

 ビームの向かう先は、スーパーカミオカンデであり、東海村から飛騨の神岡に対して打ち込むため、T2K(Tokai To Kamioka)実験と呼称される。前身は2004年までは行なわれていたK2K実験(KEK To Kamioka)。

 ニュートリノは飛距離によって、ミューニュートリノからタウニュートリノになり、電子ニュートリノと変化するようだと判明していた。では長くニュートリノを飛ばしてみようということで、世界初となる長基線ニュートリノ振動実験を実施。

 そのK2K実験で「ニュートリノに質量があると確信が持てたから」、T2K実験は「より効率よくニュートリノを撃ち込んで決定付けよう」という目的からスタートした。2013年にニュートリノ振動を確認しており、2015年のノーベル物理学賞「ニュートリノ振動の発見」にも寄与している。

 では、現在はというと、反ニュートリノでも振動実験を行ない、2008年にノーベル物理学賞でも話題になったCP対称性の破れの探索に入っている段階だ。

 CP対称性の破れは、思いっきり要約すると、物質と反物質はビッグバン直後には等しい数があったハズだが、いまの世の中には物質しかない。その原因は、物質と反物質の性質がわずかに異なっていること。なぜ性質に差があるのかは、いま研究が進んでいる。

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超伝導を採用して、ぐいっと短い距離で陽子ビームを90度曲げているので、延々とこの光景が続く
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写真右手の約295km先に、スーパーカミオカンデがある
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溶接の精度は極めて高そうだ

 では、どうやって観測するのかというと、1000兆個/sのニュートリノを撃ちだして、反応数を稼ぐというシンプルなものだ。ニュートリノモニターとスーパーカミオカンデに当たるニュートリノは3000万個/s、検出できるのは10個/日になる。先のK2K実験では3ヵ月で10個ほどの検出であっため、圧倒的な性能向上だ。

 前述のように、あちこちからニュートリノが飛んできているのをどうやって識別するかだが、入射角は一定なので、ニュートリノモニターで通過した際のタイムカウントを利用している。

 またスーパーカミオカンデ側では、ミューニュートリノと電子ニュートリノが反応し、チェレンコフ光を放った場合、そのできる円の性質が異なるため、J-PARCからミューニュートリノを撃ちだし、スーパーカミオカンデで電子ニュートリノとして検出できれば、ニュートリノ振動が起きているのかわかるというわけだ。

 なおJ-PARCの陽子ビーム強度の上昇も進んでいるため、今後、1日あたりの検出数増加を期待できる。

 機器の並び順は、ニュートリノビームライン→ターゲットステーション→ディケイボリューム→ハドロン吸収体→ニュートリノモニター。その約295km先にスーパーカミオカンデだ。

 このうち、ターゲットステーションは立ち入りが困難なほど放射化が進んでおり、またディケイボリュームとハドロン吸収体は土中なので見ることはできない。

大強度陽子加速器施設J-PARCのプロトンビームは世界一ィィィ!
ニュートリノビームラインの末端。穴の先がターゲットステーション
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ターゲットステーション内にある電磁ホーン。これでパイ中間子の収束を行なう
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多田将博士が持っているものが、グラファイト製のターゲット。ビームがヒットするごとに徐々に削れていくが、ここで陽子ビームのうち約80%が反応してパイ中間子が発生する
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ディケイボリューム。パイ中間子はディケイボリューム通過中に崩壊。このときにミュー粒子やミューニュートリノが飛び出る。またターゲットに反応しなかった残り20%の陽子もここを進む
大強度陽子加速器施設J-PARCの陽子ビームは世界一ィィィ!
ディケイボリューム末端にあるハドロン吸収体。陽子やミュー粒子など、ミューニュートリノ以外を吸収するためのもの
大強度陽子加速器施設J-PARCのプロトンビームは世界一ィィィ!
ニュートリノモニター。2009年の建設中のものなので、現在は形状が異なるが、ともあれ、このあとミューニュートリノはスーパーカミオカンデに向かう

高効率重点の研究施設

 さて、全容が把握しにくい施設だと感じた人もいるだろう。実際のところ、筆者もそうだ。陽子ビームに特化し、それを上手く活用している施設であり、並行して研究する内容は多岐に渡るが、いずれも最先端の研究ばかりだ。

 民間が入っての研究(比較的身近)なものもあれば、基礎研究もあり、ぼんやりと全容がつかめてくると楽しい施設になる。2016年の一般公開は終了しているが、2017年も開催される見通しなので、本稿を読んでから行くと、より楽しめるだろう。

大強度陽子加速器施設J-PARCの陽子ビームは世界一ィィィ!
大強度陽子加速器施設J-PARCの陽子ビームは世界一ィィィ!
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    最終更新: 11月12日(土)12時00分

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