【対談】人工知能は教育をどう変える? 2020年に向けた日本の「学び方」と漆紫穂子校長が気づいたこと

アスキー 11月17日(木)17時00分配信

 人工知能の産業への応用は、ディープラーニング(深層学習)の発展で急速に進み始めています。'80年代のパーソナル・コンピューターがそうであったように、「人が人工知能を身につけること」を前提した教育は、きっと今までにないものになるはずです。

 現実の企業との共同制作「企業コラボ」など、まったく新しい社会体験をカリキュラムにもつ品川女子学院の漆紫穂子校長は、人工知能プログラマーにどんな疑問をぶつけるのか? 短期集中連載でお届けします。

※このシリーズは、2016年11月17日(月)に開催した「『よくわかる人工知能』発売記念セミナー」での対談を編集・記事化したものです。

人工知能は教育をどう変えるか?「よくわかる人工知能」発売記念セミナー開催
「人工知能は教育をどう変えるか?」というテーマのなか、教育者として語る品川女子学院の漆紫穂子校長(左)。右は「よくわかる人工知能」著者の清水亮氏。「よくわかる人工知能」発売記念セミナーにて。

漆 皆さん、こんばんは。品川女子学院の校長やっております漆と申します。この本を(清水さんに)「よくわからない」と言ったのは、私なんですね。「難しい話じゃないから来てくれ」と言われて、発売されたばかりなので、今日読んだんですよ。全然わからなくて、これ。私、今日まずいなと思ってますので、横文字禁止でお願いします。

 私、ビデオの予約するのがやっとぐらいの機械音痴なんですけど、この前ばったり清水さんに会ったときに、「今一番興味があるのが人工知能だ」って言っちゃったんですよ。なんで興味があるかというと、中高生を教えてるので、松尾 豊さん(「人工知能は人間を超えるか」著者。東京大学大学院 特任准教授)のお話を何度か聞いて、すごいショック受けたんです。

 たとえば英語教育って、いまは一番大事だって偉そうに言うじゃないですか。だけど、この子たちが大人になるときにも必要な力として残ってるんだろうか? と思ったときに、人工知能に何ができて、何ができないのか、というのを見極めておく必要があるのかなと。

清水 英語はもう自動翻訳のほうが良くなっちゃいますから。今でも下手な人間より自動翻訳のほうが良いかなと思いますけどね。

漆 今、私、教育再生実行会議という教育改革をするところの委員をやってるんですが、教育界ですごく注目されている能力に、「非認知能力」というのがあります。認知能力というのは数字で認知できる力、IQとか、偏差値とかなんですけど、実はそれ以外の力のほうが大人になったとき役に立つと。それがいろんな国で教育調査とかが進んで、はっきりしてきたんです。

 ちなみに日本でも教育経済学の調査があって、今から言う4つのしつけを全部している家としてない家では、大人になったときの年収が86万円ほど違うというんですよ。そのしつけというのが、「嘘をつかない」「約束を守る」「人に親切にする」「勉強する」。

 そういうことで、数字じゃない、記憶じゃない力というのが最後に残るのかなと思っているんです。AIでも「親切にする」ってできるんですか?

清水 「親切にする」は、結構数値化しやすいので、できちゃいそうな気がします。今この瞬間のAIができないのは、答えがない問題を解くこと。つまり、正解がない問題ですね。人工知能が学習する際に使う学習データセットって、基本的には(たとえば)「この写真はネコですよ」という答えがあるわけです。それは学習できる。同じように、「その行為は親切ですか」というのは、かなり客観的に評価できますよね。

漆 できますね。

清水 ですから、たぶんできます、それは。「非認知能力を育てる」の範疇である「嘘をつかない」「約束を守る」「勉強する」も......。

漆 全部できちゃう(笑)。

清水 でもこれ、非認知能力と言いながら、あまり今までやってることと変わってないですよね。僕は、嘘ついたほうがいいかもしれないなと思ってますし。だって小説とか、全部嘘じゃないですか。嘘の中に真実がある、みたいな。

 実は嘘をつくことってすごく難しくて、嘘つくことほどクリエイティブな才能ってないですから。「この見積もりは、なぜこの金額なんだ」と言われたときに、大人って「いや、それはですね」「ここに来るまでに何年かかったと思ってるんですか」みたいな、そこは口からでまかせであっても、言わなきゃいけない可能性もあるじゃないですか。そっちのほうが生きる力として役に立ちませんか。言い逃れとかね。

 勉強する? 何を勉強するんですか、一体全体。僕、むしろ勉強する能力なんていらないと思う。なぜかっていうと、それはコンピューターにやらせればいいわけで、この先勉強する能力というのは、ほぼ役に立たなくなる可能性が高い。むしろ僕だったら、非認知能力を育てるのだったら、「遊ぶ」「さぼる」「嘘をつく」。

漆 清水さんの場合はね。私だったら、打たれ強さとか。

清水 打たれ強さ、大丈夫ですかね。打たれ強すぎると、ブラック企業でこき使われて、それでも真面目だから限界まで働いて、ついに病気になったり、悪くしたら自殺してしまったり……というところまで追いつめられちゃうんじゃないですか。そういう生真面目さというのは、まさに「約束を守る」「嘘をつかない」「勉強する」っていう、3要素を忠実に守った結果ですよね。でも本当は、会社の仕事なんて人生より大事なわけがない。

漆 サボるが大事ですよね。

清水 「遊ぶ」「サボる」「嘘をつく」という要素を守ったら、絶対そうはならないですよ。だって、約束を守らなきゃいけない、嘘をついちゃいけないから、言われたとおりにやって、勉強しなきゃいけない、勉強するってことはどういうことだって言ったら、偉い人の言うことを聞いて覚える。興味があろうがなかろうが、意味があろうがなかろうが、何百年も前の人が適当に書いたラブレターや戯言を暗記する。それをすることでしか勉強したと言えない。社会に出てもそういうやり方しかしらない。すると、もう逃げ場がなくなっちゃうってことになるんじゃないでしょうか。

 僕だったら、疲れたなーと思ったら「私、昨日徹夜で2時間しか寝てません」みたいなこと言いながら、カプセルホテルのデイユースに行きますね。それは自分の人生が一番大切だから。それを見つかって怒られても、仕事がきちんとできてれば問題ないわけで。成果だしてなきゃダメですよ。でも成果を出しているのなら方法はなんでもいい。

漆 いるんですよね、そういう生徒っていうのは(笑)。でも私、人工知能の教育と子供の教育がすごく似てるなと思ったのは、本番に弱い子、本番に弱いAI。真面目な子で、一所懸命演習して、本番になると応用がきかない子がいる。そういう子ですよね、このAIちゃんはね。

清水 そうですね。「勘違いちゃん」と僕は呼んでます。

漆 「勘違いちゃん」。そういうのもあるのかなぁ。

学習の過程で「勘違いしちゃうAI」、そして人間の「意識」とは?

清水 勘違いしちゃうAIは本番に弱いんです。原因は教材が悪い。要は視野が狭いんです。視野が狭いというのが、彼(人工知能)が勘違いしちゃった理由で、要するに同じものしか見てない。たとえば訓練用のデータセットで使った飛行機ばかり見てる。だから、なにを見ても飛行機に見えちゃうようなことが起きます。人間にも居ますよね。

漆 それでもう一つ、本を読んでいて思ったのが、局所解というのに陥って、ぐるぐる考えちゃうという話。だけど20%ぐらい、適当でいいんだよという風に教えておくと、そうはならないっていうのがありましたよね。あれも面白いなと思って。

清水 面白いですね。AIの世界って極めていい加減で、「なぜなのか」というのは誰も考えてんです。なんとなく、「こいつバカっぽいから、たまにランダムに動かしたらどう?」みたいな感じで試したらうまくいっちゃったね、みたいなノリなんです。本当に(ランダムの割合が)20%が正しいかどうかもわかってなくて、10%でもそこそこまで学習できたりとか。まさに総当たりで探していくグリッドサーチの世界です。50%はさすがにやり過ぎでしょ、とかそういう感じです。

漆 (学習の結果)ダメになったAIはどうなるんですか。

清水 削除です(笑)

漆 (観覧者を向いて)怖いですよねぇ。

清水 だって、AIの動作に使うメモリーは有限ですから。

漆 それはサヨナラしちゃうってことですか?

清水 そうですね。そこに罪悪感を感じるほど、まだ行ってないですけど。

漆 そのへんが、心ってどうなんだってすごく最近考えてて。というのは、さっき、人工知能は人に親切にはできるって言ってたじゃないですか。たとえば人間だって、好きじゃなくても好きって言えますよね。心がなくても心があるように振る舞うことはできますよね。そしたらあんまり変わらないのかなとか。

清水 「よくわかる人工知能」のテーマ全体としては、極論すればもうAIは心を持っていると考えてもいいかもしれない、そう判断するなら好きにすればって感じの内容なんです。なぜかというと、実は人間も、自分たちが考えているほどたいして複雑なことを考えてるわけじゃないということがわかってきたからです。

 人間が、思いやりとか心とか親切心とか愛とかあるっていうけれど、それを生まれつき持ってる人ってそんなにいないわけです。やっぱり周りの環境から学習して、「これが思いやりがある人の動き方なんだよ」とか「これが女の子らしい生き方なんだよ」とか「これが優しい人なんだよ」というのを、すごい勢いで学習するじゃないですか。幼稚園児なんて、明らかにそういう心は持ってないですよね。

 思いやりなんて持ってなくて、「あるように振る舞う」こともあるけど、それはあくまでお姉ちゃんの真似とか、テレビの真似です。そうすると実は心というのは、所詮その程度のものという。ヤだな、こんな考え方(笑)。

 ヤだなと思いながらも、所詮その程度のものである可能性が、AIを研究するとわかって来てしまうんですね。嫌なんだけど。

漆 いろいろ考えちゃいますね。本の中に映画の字幕をずっと学習させていくと、すごくしゃれた会話ができる、というのが出てたじゃないですか。たとえば自分が死んだ後に、自分がしゃべったこととか、書いたこととか、学ばせる、死語も私と語れるような、私みたいなことを言うようなAIってできるんですかね。

清水 それは全然できるでしょうね。新しいことを言ってくれるかはともかくとして。そういうアーキテクチャーは考えられると思います。

 そもそも、いろんなやり方で、自分の考え方とか魂を後世に残すということはできてるんです。そもそも本とか作品ってまさにそうで、誰か死んだ後で、僕らがたとえば芸術家の誰それってこんな人だった、なんて考えるのとあまり変わらなくて。それが今までは、人間の想像力の中でやっていた。イタコの口寄せっていうと言い過ぎですが、ある種妄想の中で、生きてる人が降りてくる場合もありますよね。人工知能の場合、「こういう傾向の人は、こういう風に言うだろうな」みたいなことを、機械が模倣するのは相当簡単にできますから。

漆 たとえばAIって、過去のデータを分析して答えを出すじゃないですか。急に起きた、過去にないようなことの答えというのはどうなんですか。

清水 AIの学習には、特定のデータを何度もみせて賢くしていく「訓練」と、その学習済みデータを使って物事を判断させる「本番」があるんですが、漆先生が今おっしゃったのは、「本番」なんです。見たことないものを見せるというのが本番ですから。

 まだまだそういう見たことないものに突然対応するのは難しいですけど、人間も同じですよね。人間の場合それこそ、真面目にやってると未知のことに対応できることはほとんどないですよね。真面目にやってる人で未知のものに対応してるのは見たことないです。ちょっとメチャメチャな奴じゃないと、訳わかんないことが起きたときに、対応するというのは難しいですよ。

漆 それはわかりますね。クラスの中で普段破天荒な子が、いざというときに肝が坐っていて、頼りになることありますよね。

清水 誰かが責任かぶってくれたほうが、子供であっても楽じゃないですか。「あいつが言ったとおりにやってダメだったら、あいつが悪かったことにすればいいや」みたいな。その程度の社会意識は子供でもあるから、「めちゃくちゃな奴が遊びのつもりでやることに、真面目な奴らが付いていく」というのが、今の社会の形成のされ方なんじゃないかなと思いますね。

漆 それはありますよね。

清水 たとえば企業の社長は職業柄たくさん知ってるんですけど、真面目な人ほどうまくいかないですよ。

漆 でも、真面目だけど経営者にはなったんだ、その人は。

清水 真面目だからなっちゃったんでしょうね。

漆 どうしてですか?

清水 真面目にやった結果、俺の人生は経営者になることだって思っちゃう人って、結構いるんですよ。ただ、真面目であるが故に、向いてないんですよ、本当は。それで、どうにもならなくなって倒産しちゃう。僕、会社作って今年で14年ですけど、そういう例はものすごく見てきました。

漆 「20%」のランダムさが入ってなかったって感じですかね。

清水 経営者の場合は、50%ランダムじゃないと成り立たないと思います。生き残ってる社長って、むちゃくちゃな人が多い。

漆 AIだとどうなんですか。むちゃくちゃなAIのほうが、いいAIになる?

人工知能の最初の反応は、人間がつくるわけではなく、
すべてランダムで決まる

清水 たぶん、それは消すでしょう(笑)。こいつは失敗してしまった、って。電源を維持するのに時間とお金かかるから、むちゃくちゃなAIを褒めたたえる気はまったくないです。ただ、それこそ逆に、AIの世界では認知ができることがすごく大事なので、あることが起きたときに、反応するニューロンがあるというのはありがたい話です。たとえ間違っていても、ですよ。

 面白いのは、最初の反応は全部ランダムから始まるってことです。最初はめちゃくちゃな反応だったものを、なにかしらの最適解に導いていく。それがAIの学習法なので。

 たとえば、面白いのがゲームの学習法。ゲームを学習するエリアってすごく面白くて、グーグル傘下のディープマインド社がつくったゲームを攻略する人工知能は、最初はレバーをガチャガチャやるだけなんです。画面の動きを見て、ずっとガチャガチャやって、点数が入ると、「いいぞ」って褒められる。死んじゃうと「ダメだ」と怒られる。それだけで、強化学習するとゲームを解けるようになるんですよ。

漆 ご褒美と罰があるのね。

清水 そうそう。でも基本的にガチャガチャやってるだけなので、それが4時間ぐらいすると人間の名人と同じぐらいの攻略になっていく。覚えていっちゃうわけです。

漆 「敵対学習」の話がありましたが、集団で勉強すると、ライバルがいると強くなるというのも、子供たちと似てるかなって気がしますね。最初は集団ってカオスなんですけど、やってるうちに最適解が出るとか。子供に「どういうときにやる気になりますか」とアンケートをとると、「ライバルがいるとき」って書く子がいる。

人工知能は教育をどう変えるか?「よくわかる人工知能」発売記念セミナー開催
敵対的生成学習の概念図。画像生成のAIの例では、「嘘の映像を作るAI」と「嘘の映像を判別して騙されまいとするAI」を競わせながら学習させていくことで、人間が手を加えることなく精度を上げていく。

清水 敵対学習でライバルをつくる話は、別のAIと戦うと考えることもできるけど、同じAIと考えることもできます。人間の中にもいろんな心があるじゃないですか。お絵描きするときって、絵を描こうと思う心と、その絵を見て下手くそだと思う心と両方あるはずで、それがお互いせめぎ合いながら葛藤してるというふうに見ることもできる。

 面白いのは、AIのプログラミングをやってると、AIっていくらでも分けられるんです。絵を描くAIと、絵が本物かどうか見分けるAIにも分けられるし、この2つを一緒だと考えることもできる。これって人間にも適応できて、人間も自分の中の葛藤と組織としての葛藤ってありますよね。意見が違うとか。それも組織という一つの大きなAIの仕組み、知能の仕組みと捉えることができる。そんな考え方もできます。グーグルの囲碁AI「AlphaGo」の内側では複数のAIが走って競い合ってるので「AlphaGoは学校だ」って僕は言ってますが、それはそういう意味です。

人工知能は教育をどう変えるか?「よくわかる人工知能」発売記念セミナー開催
DeepMindのAlphaGoの内部では、複数のAIがより正答率が高い判断を競わせながら、最終的に確からしい答えを出していくようになっている。

漆 そういうAIの話を聞いてるとよく我が子を、「どういう性格に育てたらいいですか」と聞かれるんですけど、それは「気前のいい子」だなってすごく思うんですね。

清水 気前がいい。めちゃくちゃなほうですね、どっちかというと。

漆 というのは、昔は自分の知識は自分の知識で、お弁当を隠して食べるみたいな感じで、勉強して知識を自分のものにしましたよね。それはそれでうまく働いてた時代があると思うのですが、今、集合知の時代に入ってきてると思うんです。

 こういう話がありまして。うち(品川女子学院)で、テスト前に生徒と面談してたら、「LINE<3938>が活発になって困る」というのがあったんですよ。なんでかというと、皆さんもやってませんでした? ノート貸してくれとか、あのプリントなくしちゃったからくれとか。あれをLINE<3938>でやってるんですよ、今。

 禁止してないしそれでいいんですけど、悪いことが1つ起きて、30人ぐらい同じ間違いを一気にしちゃうんですね。それで今、サイボウズ<4776>上で共有してるんです。教員にもオープンになっていて、奇特な子が「ココがわからない」と言うと解説スライドまで誰かが作ってくれる世界になっていて。

 そうなると、ケチな子はダメなんですね。自分のノートもバーンとオープンにしちゃうような子のところに、ある種プラットフォームのように、情報がどんどん集まってくる。そういう感じになってるので、ましてやAIが発達してくると、知識も知恵みんなで共有していく時代なのかなと強く感じますね。

清水 それは面白いですね。実は僕もそういうやり方で情報を集めているんですよ。自分がよくわからないから、自分のブログとかにチョロチョロとAIの話を書いて、「ここがわからん」とか「これがスゴそう」と書いたら、どんどんいろんな人がやってきて教えて帰っていく。気がつくとものすごく詳しくなってるんですね。これ恥ずかしがって「わからない」と書かないと、こうはならない。

漆 この本もそれでできちゃった、みたいな感じの本ですよね。

清水 そうそう。この本は僕が色んな人にAIについて聞きに行っただけですから、基本的には。それで気がついたら「あなた、詳しいですよね」みたいになっちゃって。結局僕は、昔からその手口で、なんか知りたいことがあったらブログに書く。知ってる範囲を書く。みんな恥ずかしいから、ここまでしかわかってませんとか書かないんですよね。ここで詰まってますとか。でも、書いちゃっても、たいして差がないから、実は書いたほうが得なんですよ。

 そうすると、「ここ間違ってるよ」とかね、悪口であっても、その悪口が僕にとってはものすごいプラスになることがよくあります。「ああ、そうか。ここ間違ってるんだ」というのがわかる。大人になると恥ずかしいから、なめられないように、どんどんバリアを張っていって、俺は勉強してないけどしなくても大丈夫だ、みたいな感じになっちゃう。

漆 わかります。知らないことが出てきても、ちょっと聞けないんですよね。私、この本読んでるときのイメージが、ロシア文学読んでるみたいな感じで(笑)。横文字の知らない言葉が出てくるのが、ツルゲーネフの作品の名前みたいな感じで。そうすると最初の注のところに戻って、これなんだっけ、とやらなくちゃいけなくて。でも読み飛ばしはできなかった。ゆっくり読まないとわからない。

清水 あの本、最初によくわからなかったら、後ろから読んでいいって書いてあるんですよ。

漆 あ、ほんと?そこ読まなかった(笑)

清水 前半読むのは苦痛な場合もあるんですよ。結構、技術的な話とかガチな話が多いので。

AIを研究すると、人間の意識の仕組みがわかってくる

人工知能は教育をどう変えるか?「よくわかる人工知能」発売記念セミナー開催

漆 私、AIにホルモンの概念を入れるって話が面白くて。

清水 文系の人はみんなそう言いますね。ホルモンとサーカディアンリズム(体内時計)を持ち込む話ですね。これはやっぱり、女性の研究者じゃないとなかなか言い出せないことですごいなと思いました。

漆 心ってなんだろうって考えたときに、人間の心って結構ホルモンに支配されているというか、特に女性ね。今、私55歳なんですけど、更年期を通ってきてるので、性格が変わっちゃったぐらいになったときあったんですよ。

 そうすると、「私ってこんなに怒りっぽくて意地悪だったんだな」と思ったときに、性格とか心というのはすごいホルモンに支配されてるな、と気づいて。その経験から、心って何だろう、AIって何だろうとかいろいろ考えたりしました。あのお話は面白かった。

 あとは、サイコパスって、またこれも興味がありまして。サイコパス度、心がないかのように、あまり対人関係について配慮しないようなサイコパス的な素質というのはグラデーションになっていて。本当のサイコパスという人は、(それこそ)猟奇殺人とかしちゃったりするんだけど、どんな人にもちょっとずつ要素があるって話を聞いたことがあって。もしかしたらものすごいサイコパス度の高い人って、AIとすごく近いのかな、なんて。

清水 そうなんですか(笑)。

漆 いろいろ考えないでバッと判断できるとか。最近本当にAIと人間の境目、心のあり所の境目ってなんだろうと考えるようになりました。

清水 確かに。特に「よくわかる人工知能」の中盤は心や意識の話が多いですからね。とにかく視床下部にある「腹側被蓋野」を刺激したら人の恋心を支配できますよ、と言われちゃうと、人間ってそんなもんなんだって感じでしたよね。

漆 意識が受動的だって話(慶應義塾大学 前野隆司教授の「受動意識仮説」)もあったじゃないですか。あれも考えさせられて。難しいけど面白かったです。

清水 自分がやったことに対して、後付けでつじつまを合わせる、という作用が意識にはあるという話ですね。意識は海馬でできてると言われてるんですけど、情報が海馬を通ったときに、ちょっとしたいろんな断片的な情報を見て、後付けでつじつまを合わせるから夢って不可解なものになってくる、というふうに解釈できるわけです。その不可解からいうと、やる気スイッチみたいな話になっても、「実際にやらないと、やる気スイッチは入らない」という話あるじゃないですか。

漆 それわかるなー。

清水 実際にやると、やってるという自分を肯定するようなつじつまが合ってくるわけです、たぶん。

漆 わかる。私、トライアスロンやってまして、8月にコペンハーゲンでアイアンマンレース、完走したんです。おかしいでしょ、55歳の校長が一日に226キロ泳いで、自転車漕いで、走ったら、ちょっとおかしいですよね。ところがやり始めると、つじつまが合ってくるの。なんか私、すごい意義のあることしてる、みたいな感じになってきて。だからわかりますよ、それ。

清水 逆に言うと、軍隊式の、動かされるとやっちゃうみたいな、ああいう洗脳教育みたいなやつができちゃうのも、なるほどなって感じじゃないですか。

漆 人間にも機械と変わらないようないろんな仕組みがあって、そういうことを知ってることって、大事なのかなと感じました。

清水 「よくわかる人工知能」を書いていて思ったのが、結局のところ、解剖学的に考えたときに、人間ってとことん機械なんですね。ただ単に部品が生物というか、生体組織なだけであって。シリコンじゃないだけで、機械。

 実際、ディープラーニングの恐ろしいところというのは、あんまり根拠がないところなんですよ。人間や動物がこういう構造だから、こんな感じでやったらうまくいくんじゃないでしょうか?程度の根拠しかなくて、それを真似したら結構似たようなものができちゃうことに、むしろ僕は恐怖しか感じないんです。人間って上等な気持ちでいたけれど、上等な気持ちになるような意識が追認的に働いてるだけであって、実際には昆虫と変わらないような行動原理で動いている。「お腹空いたな」とか「眠いな」とか、そんなんで動いてんじゃないかな、というような実感があります。

 次に行きたいと思いますが、本書に出てこない話ですけど、僕は「知能サイボーグ」というのを最近テーマで考えていて。2001年ぐらいに「Natural Born Cyborgs」(邦題:「生まれながらのサイボーグ: 心・テクノロジー・知能の未来」)という本がアメリカで出まして、2015年に春秋社が日本語版を出版しました。

 この本が何を書いてるかと言うと、人間と動物の主な違いは、道具を使えることだと。道具を使えることが、人間と他の動物の違いなんだよ、という話なんです。これが面白いのは、人間って特別な存在という考え方をするじゃないですか。ところが人間の知能って、そんなに他の動物と比べて、めちゃくちゃ高いかどうかっていうと、結構厳しくて微妙なわけです。脳の神経細胞の数とか大きさとか。もちろん確かに多いんですよ。でもその多さでここまで違うかというと……。

 人間の半分の脳のサルがいたとして、そのサルが人間の半分の文化的生活を送ってるか、といったら送ってないじゃないですか。何かどこかでスレッショルド、日本語でいえば「閾(しきい)値」、要はハードルがあるはずなんです。たとえば、教育ってひとつのサイボーグ化の方法だと思うんですけど、数学ということを考えても。品女ができて100年くらいですよね。

漆 91年。

人工知能は教育をどう変えるか?「よくわかる人工知能」発売記念セミナー開催

清水 創立91年、すごいですね。100年前の人たちがどういうことをやってたかと言うと、大正時代なので「生まれながらのサイボーグ」の中には出てこないんですけど、幾何学が取り入れられたのって明治後半なんです。ただ昭和・戦前のこの時代って、実は数学教育はものすごく進んでたらしいですね。でも、よく考えたらこのときって、まだほぼ教えてることが和算なんですよ。鶴亀算とか。今の小学校はわかんないけど、僕の頃はまだ残ってました。

 和算だったにもかかわらず、世界一の高機動戦闘機のゼロ戦とか世界最大の戦艦であるヤマト<1967>とか造れたわけですから、ものすごい技術力が高かった。第二次世界大戦が終わると、GHQが占領下の国を見に来て「なんで戦争に勝った我が国より、お前のところのほうが数学力高いんだ」と驚いた。

 これはこいつら放っておいたらまた何を企むかわからん、と思ったらしく、もっとロクでもないことを勉強しなさいみたいな学習指導要綱に変わったらしいんですね。天皇陛下を頂点とする価値観を教えるのをやめさせるという大義名分で、実は数学力や理数系の能力を削ぎ落とすことが真の目的だった。それで、日本の数学力が落ちちゃった。要するに僕の小学校、中学校時代の先生とか両親とかは、ある意味で戦後の愚民教育みたいなのを受けてるとも言える。

 ところがコンピューターが出てきて数学力がないと国家としてマズい、という危機意識から昭和52年に、急激にまた難しい詰め込み型教育が復活するんですね。そうすると、高度な詰め込み型教育を愚民教育受けてる人たちが教えるんで、まったくうまく教えられない……とある文献に書いてあったことなんですけど(笑)。とすると、僕の子供の頃に先生方の数学力が信じられないくらい低く見えた理由はそれだったのか、と思いましたね。

 要するに、元々高度な教育を受けてない先生が、突然難しいことを教えようとしても「そもそも、俺の時代は学校でこの内容をやってない」みたいな先生が続出して、それで教科書丸読みとか、理解してないのに子供に教えるみたいな先生が続出したせいで、僕ら詰め込み世代というのは、先生に頼らず塾に行ったり、自分で参考書読んだりして、ひたすら概念を自力で獲得しない限りは上に行けないという世代になった、らしいんです。それで今度子供たちがどんどん落ちこぼれるから、これはまずいということで、ゆとり教育が生まれた、という話。

 そう考えると、100年前の13歳と、今の13歳って、全然扱える道具が違うわけです。当然100年前の品女で三角関数を教えていたとは思えない。

漆 思えないですね。

清水 品女は授業が進みすぎてますけど、iPad使ったりMac使ったりした授業も(多くの学校では)ないわけじゃないですか。そこで獲得できる能力とか、行使できる実力というのは、まったく現代とは違うわけですよね。そうすると実は教育って、一番大きな道具である可能性、つまり人間をサイボーグ化するときに一番重要な道具である可能性があるんじゃないかな、と思うわけです。品女の場合、新しい取り組みを山ほどやってるんですけど、どれが一番変わってるんですかね。起業体験プログラムとか変わってるんですね。

漆 学校の中だけに頼らない、外の力を借りてるというのが大きいかなと思って。中1が今、enchantMOONを全員持っててプログラミングで使ってます。あれ、面白いですね。渡しておくと自然と、なんかできちゃうんですね、子供ってね。

清水 はい。子供って基本的に天才なので、説明いらないんです。大人は「使えない」と言う人もいるけど、退化した人類なんですよ。別にenchantMOONがいいというわけじゃなくて、どんな変なものでも使いこなすのが、子供なんです。どんな良いものを与えても、使いこなす前に「俺の知ってる世界と違う」って言っちゃうのが大人。それは、さっきの過学習してしまって使い物にならなくなったあとの人工知能みたいなものかもしれません。若い頃は、ちゃんとロス(エラー率)が下がっていくんだけど、年とってくると、「俺の知ってる世界、ここだけだから、ここでいいや」と殻に閉じこもってしまう。そうなっちゃうと、どんどんバカになっていっちゃう。

漆 新しいものをとりあえず入れてみると、子供たちが反応したり、逆に無反応だったりとそこからいろんなことがフィードバックされますね。(品川女子学院の)「企業コラボ」「総合学習」というのは、企業の社員の人たちと一緒に共同開発をしたりするんですけど、そういうのをやると、大人だと学習し過ぎていて固まっているところの概念が、子供はルールを知らないから新しいことが出てくるんですね。冷蔵庫を伝言板に使おうかとか。大人は、「いや、そんなこと言ったら、製造の人に怒られる」とか、そっちの方を考える。それを見ていると子供が大人に与える影響も大きいな、と思いますね。

人工知能は教育をどう変えるか?「よくわかる人工知能」発売記念セミナー開催
品川女子学院の企業コラボの一例。キユーピー<2809>の公式サイトより。

清水 僕、実はね、遺伝学的な影響も無視できないなと思っていて、そもそも遺伝学って、大量の交配を繰り返すことによって、いい遺伝子をつくるために今まで何十億年も我々進化してきたって話じゃないですか。

 そうすると、100年前だと3世代違うので、今の子供って、100年前の子供よりも、10%ぐらい賢くないとおかしいんですね、生まれつき。基本的にはそういうことのはずなんですよ。品女の場合は偏差値も上がってるので、さらにレベル上がってるかもしれない。ただそういう世界の中で、僕がいつも思ってるのが、子供のほうが常に正しいってことなんです。ただ、学習が足りないから、反社会的なことやるときもあって、そういうときには懲らしめないといけないんだけど、基本的には子供というのは僕の想像を常に超えてる。

 僕は今もやってますが、プログラミング教室を通じてたくさんの子供に教えるなかで、彼らが理解できないというのは、本当は僕が悪いんですよ。残念ながら劣った人類である僕は、最先端の人類である今の子供にやっぱり勝つことはできなくて、僕らがわかる範囲で頑張って教えてあげるしかない、というふうに思ってるんです。

 一番僕がそれを思ったのが、人工知能を子供に教えたときです。今年の8月に10歳から19歳まで、人工知能を教える、というのをやってみたんです。

漆 ここにいるかもしれませんよ(笑)。

清水 それがすごくよかったなと思ったのは、子供って想像を絶する使い方をするんですよ。

漆 ああ、わかる。

清水 たとえば、今日来てる人も思ってると思うんですけど、人工知能で簡単にできることって画像を分類するだけじゃんと。ネコが映った写真を分類できるって話を例に出すと、よく言われるのは、「ネコをネコだってわかるのは俺だってわかるし、うちの子供だってわかる。それどこがすごいのよ?」

 でも、子供に触らせると全然違って、「これ、こういうふうにやると、それがピカチュウか、ジバニャンか、AIがわかるんだよ」と言うと、ものすごい興奮するんです。「えー!! すげえ!」と。彼らに1週間好きに使っていいよ。夏休みの間、さくらインターネット<3778>さんのご厚意で、ずっと子供たちに、(さくらインターネット<3778>のサーバーリソースを)使わせてもらったんですけど、そうするとどんどんサーバーに変てこなものがアップロードされる。

 一番僕が感銘受けたのが、レタスとキャベツとブロッコリー<2706>を識別する人工知能をつくろうとした子ですね。「人工知能、どこまでできるんだ、僕はそれが知りたいんだ!!」みたいな感じで。ああ、やっぱり子供はいいなって思いましたね。僕は思いつかないです。それをやろうとも思わないし。

漆 それもわかる。家庭科の時間に、最近ほんと食育やらないとまずいなと思うのは、レンコンとサツマイモが、外から見ただけじゃ、区別がつかない子がいるんですよ。

清水 それ、僕も判別できるかあやしいですよ(笑)。

漆 白っぽいサツマイモもあるじゃないですか。確かに言われてみればそうで、最近カット野菜で売ってるから、少人数の家庭だと、まるごと野菜を見たことがない子がいる。

清水 それを人工知能に勉強させようというモチベーションが僕には浮かばない。その電気代、いくらかかると思ってるんだろう(笑)。1台2キロワットですからね。

漆 でもわかるようになった?

清水 わかるようになりました。

漆 じゃないと、料理できないもんね、AIがね。

清水 これは結構、うちの会社の中でもざわついた学習データセットでした。

漆 レタスとキャベツ、どうやったらわかるのかな。遠目に見たらわかんないですね。人工知能って結局、視覚だけですか。聴覚もあるのかな。

清水 なんでもできるんですけど、これまで一番難しかったのが視覚なので。だから視覚ができるようになったということが今、注目されてます。

漆 でも嗅覚、味覚、触覚はダメでしょ。

清水 それはダメですね、今のところ。

漆 そのうちわかるようになるのかな。ロボットのセンサーとかつけてやったらできるようになるんですかね。

清水 触覚はたぶんできるんですけど、嗅覚は……。嗅覚もちょっと研究されてるんですけど、ものすごい酒臭いとか、そういうのはいけるんですけど、微妙な匂いというのはまだセンサーが開発されてないので、難しいというふうに言われてますね。

この先残る仕事、人工知能にはできない仕事ってなんだろう?

漆 未来永劫の人工知能にできないって思うことって何ですか。これは学校の先生として聞きたいんですけど。

清水 一番難しいのは、成長していく自分の体で人生を経験すること、年老いていくということ。それは半永久的に人工知能の憧れでしょうね。改良することとか、他の肉体に乗り移ることはたぶんできるんですけど、なにしろシリコンでつくられてるものだから、オーガニックな生命体として年を重ねていく、つまり老化するということに憧れを持つと思います。

漆 だんだん老眼になるとか?それって、プログラムしておけない?

清水 人工知能には、それがイミテーション(嘘)だってわかっちゃうから。

漆 老人の悲しい気持ちとかを学習させられないんですか。

清水 それはできなくないんですけど、それは偽物だって、本人たちもバカじゃないんでわかっちゃうから。それってイメージ的に、映画の主人公に自分がなれないってわかってる感じ。映画を見ることはできる、という状態ですかね。それが一番、AIにとっては難易度が高いことじゃないかと思います。逆にいうと、ほとんどのことはできちゃうんですね。たとえば、人を感動させるとかね。

漆 そうすると、中学生高校生が、あとで人工知能にとって代わられない仕事というのは、何を勉強しておけばいいんでしょうか?

清水 難しいですよね。一番最後まで残るのは、介護かなって思いますけど。

漆 介護だって、人工知能にできるようになるんじゃない、優しく振る舞ったり。

清水 あとは、もしかして残るのはバーのママかなとか。

漆 (それも)大阪大学の石黒 浩先生みたいなアンドロイドをつくって、銀座のナンバー1ホステスの会話術を入れ込めば、親切な受け答えができる会話能力が発達する……。

清水 それは僕がここで言うのも変ですけど、そんなところで遊んでる男はたいした人間じゃないです(笑)。そうじゃないんです、真のバーというのは。

漆 バーじゃないですね、それはね。

清水 イデオロギーの問題ですから。僕は相手の話をちゃんと聞きたいから、恋愛前提みたいな感じでいくのは嫌なんです。もっと普通に彼氏の悪口とか聞きたい、みたいな。どういう人なのか知りたい。そうするとバーのほうが、他のお客さんの人生とかを聞くほうが、僕にとっては楽しい。自分では体験できないことだから。

漆 深い会話が人工知能にはできないってことですか?

清水 人工知能は、生きてないですからね。

漆 生きてないから。そこは最後に人間だけに残る能力だってことですかね。

清水 可能性としてはあるかなと。自分の人生を謳歌するってことは、人工知能にはかなり長い間できないんですよ。生きてて楽しいって思うことを人工知能が感じられるのは、相当時間かかるでしょうね。逆に言うと、ここは微妙なんですけど、ドラマとか映画とかで、人工知能が書いた脚本で人間が感動するというのはたぶんあり得るんです。

 ただ、詩で感動するというのは相当難しいと思う。人工知能が書いたってわからなかったとしても、相当難しい。詩を作るのは、すごく簡単なんです。すぐできます。今、僕らが打ってるパソコンを買ってきたら、バーッとすぐ詩っぽいものは出てくるんだけど、それ見て全然感動しない。

漆 それってドラマや映画の場合、こういうシーンで感動します、というのをずっと勉強させていけばいいわけですか? 詩も、この詩はみんなが感動しますよ、というのを勉強させていけないんですか。

清水 できるんですけど、ツボが違うんですよ。同じ作品を見てても、男性と女性って感動するポイント違う。なので、どうやってその間をとるかとか。もちろん男でも、全部の男が同じ場所で感動するわけじゃないとか、いろいろ人によって違うので。

 一番問題なのは、詩は情報量が少ないからだと思いますね。情報量が多いと、人間ってごまかせちゃうんです。たとえば、アニメとかでも話はメチャクチャな話なんだけど、感動的な曲が流れて、きれいな空とか出てると、「私、泣いちゃった」みたいな人が続出するわけですよね。そういうミュージックビデオの良さみたいなものはあるわけで。

 そういうものならAIでも作れちゃいそうな気がするんですよ。だって、歌詞に意味はないし、ストーリーも人間って行間を読もうとしますからね。行間を読ませたら(感動させるのは)勝ちなんですよ。ところが詩は短いから、そこに書いてあることって、ものすごく深いことを読ませなきゃいけなくて、それは相当人間の体験がないと無理かなと思って。

 たとえばですよ、最近松田聖子の「赤いスイートピー」を初音ミクが歌ってるのを見て感動したんです。結構やばいですよ。半分感動してるわけですから。AIじゃないけど、機械が歌ってる歌に感動するわけです。なんで自分がこれに感動するのかな、と思って、「赤いスイートピー」についていろいろ調べたんです。そしたら実はあれって、男の人が作詞してるんですね、松本隆さん。驚いたことに、僕が好きな斉藤由貴の「卒業」も同じ人なんです。単に彼のファンだけなんじゃないか、ということがわかって(笑)。

 なんでそう思ったかというと、「赤いスイートピー」のサビで、僕が一番心をつかまれたのは、「今日まで逢った誰より……あなたの生き方が好き」というセリフなんです。でもある日、大人になってから気づくんです。こんなこと言う女性なんかいないなって。妄想の産物だな、これはと。

漆 言われたことないんですね、たぶんね(笑)。

清水 こんなこと言う女性はいないんですよ、地球上には。だから感動しちゃう。それでみんなアイドルにハマっちゃうんだなって、今さらながら思って。「卒業」のサビもかなり高度です。卒業によって起こるさびしさとか別れとかがないじゃん、って言わせないためには、まずロボットの学校があって、まったく人間と同じように教育を受けて……。

漆 スカート折るなとか、靴下を下げるなとか、服装の注意もうける。最初からそういう学校の日常を経験して。

 最近、紺のソックスを下げるって変な流行あるの知ってます? ソックタッチ世代には考えられない。本当にゴムが伸びちゃってるのと区別がつかない(笑)。「どうやって区別するの?」って言ったら、「先生、かかとの落ちてる子は本当に伸びてます」。すいませんね。そういう日常に生きてるものだから。でもAIに認知できるのかな。伸びた子と下ろしてる子と。

清水 でもそれちょっと面白いですね。ロボットが足を出そうが、靴下をどう履こうが、僕なんか何の興味もないですから、もしAIによってそういう状態が起きたら、知性というものが大したものじゃなかった、ということがわかってしまうわけですよね。だんだん話がずれてきちゃったんですけど(笑)。

 感動させるとかは、ものによってはできるけど、人生経験がないというのが、どんな場面でも足かせになると思います。たとえば、人工知能が「わかるよ、わかるよ」といくら言ったところで、「わかるわけないだろ」って思っちゃうじゃないですか。たとえば誰かの相談を聞いたときに、「いや、俺も辛いことあってさ」「わかるわかる、私もさ」みたいなことがあるんだったらまだしも、「いや、おまえ、昨日製造されたじゃないか」とかね。お前の人生に辛いことなかっただろう、って。

漆 でも、面と向かったらそうだけど、メールや電話で相手がAIって知らなかったら、いけるんじゃないですか。

清水 完全にそれは「チューリング・テスト」(アラン・チューリングが1950年に考案した、機械に知性があるかどうかを計るテスト)ですね。出会い系のサクラみたいなもんじゃないですか、それって。まさに嘘をつかなきゃいけないわけですよ。相手に「人間ですよ」って言いながら、機械がやってました、って。「女の子ですよ」って言いながら、おっさんがやってましたというアルバイトと同じですよね。

 そういうのは、闇の世界では残るかもしれないけど、表立ってそういうことできないから、カウンセラーとかは残る気がします。僕、一番生存率高いと思ってるのは、やっぱりAI先生ですよ。

漆 AIが残る。先生がいなくなる?

(思わせぶりな「AI先生」の言葉の意味とは? 第2回に続きます!)

アスキー
もっと見る もっと見る

【あわせて読む】

    最終更新: 11月17日(木)17時00分

    【関連ニュース】

    【コメント】

    • ※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

    【あなたにおススメ】