「MOVERIO BT-300」 - エプソンが挑むAR / スマートグラスのあるべき姿

アスキー 11月22日(火)11時00分配信
AR、スマートグラスのあるべき姿 - エプソンはなぜ「MOVERIO BT-300」を作ったか

 エプソン<6724>のスマートグラス「MOVERIO」(モベリオ)の最新モデル、「BT-300」が11月30日に発売される。大幅な小型軽量化を実現し、さらに「メガネ」に近いスタイルとなったBT-300。なぜ、エプソン<6724>がスマートグラスを作っているのか。そして最新製品は何が進化したのか。セイコーエプソン<6724> ビジュアルプロダクツ事業部 HMD事業推進部 部長で、MOVERIO事業を主導する津田敦也氏、同設計担当である髙木将行氏と鎌倉和也氏に話を聞いた。

AR、スマートグラスのあるべき姿 - エプソンはなぜ「MOVERIO BT-300」を作ったか
スマートグラス「MOVERIO」(モベリオ)シリーズFの最新モデル「BT-300」
AR、スマートグラスのあるべき姿 - エプソンはなぜ「MOVERIO BT-300」を作ったか
セイコーエプソン<6724> ビジュアルプロダクツ事業部 HMD事業推進部部長 津田敦也氏
AR、スマートグラスのあるべき姿 - エプソンはなぜ「MOVERIO BT-300」を作ったか
セイコーエプソン<6724> ビジュアルプロダクツ事業部 HMD事業推進部 髙木将行氏
AR、スマートグラスのあるべき姿 - エプソンはなぜ「MOVERIO BT-300」を作ったか
セイコーエプソン<6724> ビジュアルプロダクツ事業部 HMD事業推進部 鎌倉和也氏

世の中になくて、人が驚いてくれる製品を開発できないか

 MOVERIOは、メガネのように装着すると、眼前に情報が浮かび上がるように表示されるスマートグラスだ。一時期話題になった「Google社製 Google Glass」と同様の製品だが、MOVERIOが登場した時期は古く、初代BT-100は2008年に企画が開始され、2011年に発売された。なぜ、エプソン<6724>がスマートグラスの開発に着手したのか。津田氏は、「液晶ディスプレイ事業の譲渡がきっかけだった」と話す。

 エプソン<6724>は長く液晶ディスプレイの開発・製造を行なっていた。その事業を他社に譲渡することが決まり、直視型のディスプレイを開発・製造ができなくなった。エプソン<6724>自体には有機EL、高温ポリシリコン、半導体の技術が残ることになったものの、大型のディスプレイは製造できない。そこで、これら技術を活かし「世の中になくて、人が驚いてくれる製品を開発できないか」(津田氏)と検討が開始されたという。

 そこで選ばれたのがメガネ型のスマートグラスだ。装着すると、メガネのように外界が見えるが、その一部にディスプレイの映像が表示され、空中に映像が浮かんでいるように見える。今の言葉でいえば、まさに「AR」(拡張現実)である。VR(仮想現実)ゴーグルとは異なり、外界がまったく見えないということはないため、映像を見ながら周囲の状況も確認できる点がメリットだ。

 このスマートグラスに使われているのは、小さなディスプレイだ。映像を反射させてメガネに表示する仕組みで、プロンプターにも近い仕組み。そのために必要なのが小型のディスプレイで、ここにエプソン<6724>の技術を活用したというわけだ。

コンシューマ向けに開発、その後法人向け展開という「真逆の戦略」

 初代「BT-100」は、「メガネ型」というには大ぶりのボディで、装着すると「黒い目線」のような見た目になった。津田氏は、「メガネの形にできなくて、思いきって大きくした」と笑う。企画段階では、「シースルーで外界が見える」という状況がなかなか理解されず、人気マンガに登場したアイテムの「スカウター」のようなもの、と説明していたそうだ。

 企画の検討を開始した2008年当時、「ARという言葉はまったく浸透していなかった」(津田氏)。スマートフォン用として同時期に出てきたARアプリもヒントになったという。さらに、法人向けではなく当初からコンシューマ向けを想定して開発したのも「当時としては珍しかった」と津田氏は言う。新しいことにチャレンジする場合、法人向けで足場を固めていくのが主流の時代だったが、結局それがうまくいっていなかった、というのが津田氏の認識だ。まずはコンシューマ向けをやってから法人向けに展開するという「真逆の戦略をとった」(同)のだ。

エプソン<6724>「MOVERIO」シリーズを後押しした他社製品

 そうした流れの中、BT-100は、1年半の設計期間を経て11年に発売。津田氏は、開発期間が短く「だいぶ無理をした」と話す。「1回、モノを作ると反省点が山ほど出てくる」と振り返る津田氏。しかし、このBT-100があったからこそ「短期間でここまでこれた」と胸を張る。

 このBT-100から、エプソン<6724>では左右のディスプレイの表示をひとつに合成して表示する方式を採用した。その後登場したGoogle社製 Google Glassは、片目に装着するタイプで、まさに「スカウター」タイプだったが、結局、コンシューマ向けとして発売されることはなかった。

 当時Google社製 Google Glassを知った津田氏は、実は「考え方には疑問を持った」と明かす。その理由は、片目だけに表示する単眼の仕組みを採用したことだ。片目だけに表示すると、どうしても「視野闘争が起きる」(同)。そのため、「エプソン<6724>では両眼タイプを採用した」と津田氏は強調する。

AR、スマートグラスのあるべき姿 - エプソンはなぜ「MOVERIO BT-300」を作ったか
視野闘争という現象を考慮し、「エプソン<6724>では両眼タイプを選択した」と津田氏は強調する

 人間の脳は片目からの情報のみを処理するため、左目と右目で異なる画像を見たとき、視野闘争として知られる現象が発生する。片方の画像のみが意識に上り(もう片方の情報は遮断される)、しかもランダムに意識に上る画像が入れ替わるというもので、そのメカニズムはいまだ解明されていない。そのためユーザーの快適さや安全性を考慮し、「MOVERIO」シリーズのような両目タイプを選択した。

 「Google社は発信がうまい」(同)こともあり、結果的にMOVERIOのようなスマートグラスに対する注目につながり、感謝しているそうだ。

両目タイプにこだわり続けた「MOVERIO」

 エプソン<6724>が両目にこだわったのは、先に挙げた快適さや安全性は当然ながら、「映像を見てもらうのが主眼だった」(津田氏)からだ。外出先や移動しながらでも大画面で映像を見られるのはスマートグラスの特徴であり、そのためには「目隠し」状態にはできないというのが原点にあった。

「BT-300」 - スマートグラスのあるべき姿の始まり

 その後「BT-200」を経て開発されたのが今回の「BT-300」だ。最大の特徴は、独自開発のシリコンOLED(Si-OLED)を採用したこと。シリコンOLEDによってバックライトが不要になり、小型軽量化を実現。さまざまな工夫も盛り込むことで、デバイス全体で大幅な小型軽量化を実現した。

画素密度が驚異の3415ppi、新世代MOVERIO「BT-300」はシリコンOLEDで超見やすい!
BT-300(写真中央)は、前モデル「BT-200」(写真右)から約20%の軽量化を実現した。BT-300がヘッドセット重量約69g、BT-200が約88g、BT-100(写真左)が約240g(それぞれケーブル、シェードは含まず)

 エプソン<6724>がディスプレイ事業を譲渡したとき、残された技術の中に有機ELがあった。これを発展させた独自技術を採用した製品がBT-300なのだ。しかも単なる有機ELではなく、シリコンを採用したシリコンOLEDであり、0.43型という小型ながら高輝度で長寿命のものが実現でき、量産化のめどが立ったことも、BT-300の開発を後押しした。「実は世界で最も明るいクラスの有機ELディスプレイ」と津田氏。この明るさに加え、コントラスト比10万:1というコントラストの高さも重要で、「これによって画面が表示されているという感覚がない映像表現ができた」と髙木氏は明かす。

AR、スマートグラスのあるべき姿 - エプソンはなぜ「MOVERIO BT-300」を作ったか
「画面が表示されているという感覚がない映像表現ができた」と髙木氏
画素密度が驚異の3415ppi、新世代MOVERIO「BT-300」はシリコンOLEDで超見やすい!
画素密度が驚異の3415ppi、新世代MOVERIO「BT-300」はシリコンOLEDで超見やすい!
写真左は、従来のスマートグラスで見える映像のイメージ。BT-300では、写真右のように画面表示用のスクリーン表示枠を意識させない映像表現が可能だ

 また、シリコンOLEDを利用した商品化の第1号がこのBT-300であり、その結果、ヘッドセットの重さは約69gまで軽量化。サイズもさらに小型化し、よりメガネに近いデザインになった。津田氏は、「企画当初に想定していた製品ができた。(スマートグラスの)あるべき姿の始まりがBT-300」とアピールする。

軽量化追求のためのデザインをふんだんに盛り込む

 メガネ型デザインを追及することによる難しさもあった。「(実際の)メガネと比べられるので、どうやって重さを感じずに軽くしようかと工夫した」と鎌倉氏。約69gと軽量化したとはいえ、やはり一般的なメガネよりは重い。そこで、BT-300を支えるツルの形状を工夫。従来よりも巻き込みを大きくして、後頭部から頭を抱えるような設計を加えた。これによって、頭を振ったりしてもズレにくく、安定して装着できるようにした。

AR、スマートグラスのあるべき姿 - エプソンはなぜ「MOVERIO BT-300」を作ったか
BT-300を支えるツルの形状設計を工夫し、頭を振ったりしてもズレにくく、安定して装着できるようにしたと鎌倉氏

 さらに、メガネメーカーと協業することでメガネの技術を投入したという。特に、鼻あての部分では、鼻パッドの面積を大きくするなどして、BT-300を支えても鼻が赤くなったり痛くなったりしないように工夫した。もともと、メガネは装着性が定量的にデータ化されておらず、個人個人が自分に合わせて購入する。BT-300はそれができないため、これまでの経験を生かして重量バランスを計算してきた。そうした蓄積したノウハウも生かされているのがBT-300だ。

光学設計とディスプレイ設計の双方を垂直統合で開発

 さらに、「ディスプレイにとんでもない小細工が入っている」と津田氏。本来、ディスプレイの光は直進するか散乱方向に拡散する。これは視野角を確保するためだ。しかし、BT-300ではこれを中心部分に向かうように設計した。それは、「ディスプレイの光を受けるレンズを小さくできる」(津田氏)ためだという。こうした工夫ができたのは、光学設計とディスプレイ設計の双方を垂直統合で開発できるエプソン<6724>だからこそ、と津田氏は強調する。

独自のマーケットにより、アプリ開発者を強力に支援

 MOVERIOシリーズは、Android™を搭載したコントローラーによってスマートグラスとしての機能を実現しており、BT-300ではAndroid™ 5.1を採用した。津田氏自身は、スマートグラスを活用する観点ではAndroid™ OSのバージョン自体はそれほど重要ではないという認識で、OSよりもCPUが問題になるという。BT-300ではインテル製のSoCであるIntel® Atom™を採用。アプリ開発者にとって、開発しやすくなるメリットがあるという。

画素密度が驚異の3415ppi、新世代MOVERIO「BT-300」はシリコンOLEDで超見やすい!
画素密度が驚異の3415ppi、新世代MOVERIO「BT-300」はシリコンOLEDで超見やすい!
コントローラー部に新たに静電容量十字キー(タッチセンサー)を搭載し、操作性が向上している点も特徴だ

 MOVERIOは独自のマーケット「MOVERIO Apps Market」によってアプリを追加できるようになっている。他社のデジタルコンテンツ配信サービス(Google Playなど)ではMOVERIOに無関係なアプリが膨大にあり、せっかく開発したMOVERIOのアプリが埋もれてしまう。津田氏は、「MOVERIOの価値を認めてアプリ開発に取り組んでくれている人たちを大事にしたい」と話し、そうしたアプリを適切にユーザーに届けられるように独自マーケットを選択した、という。現在のアプリ数は「150ぐらい」(同)だが、BT-300になってDJIやU-NEXT、楽天<4755>といった企業もアプリをリリースしており、「BT-300で可能性が上がった」と津田氏は力を込める。

AR、スマートグラスのあるべき姿 - エプソンはなぜ「MOVERIO BT-300」を作ったか
MOVERIO用の独自マーケット「MOVERIO Apps Market」

ARを活用したビジネスへの取り組み

 コンシューマー市場だけでなく、法人市場に対しては、例えば航空機メーカーが整備向けに採用するなど、ARを活用したビジネスへの取り組みも行ない続けている。「ARはB2Bにとってすごい価値がある」と津田氏。

 こうした用途に加えて、ARを観光地などのアピールに使うことも考えられる。昨今では、VRを観光アピールに使う例も出てきているが、VRはユーザーが現地に行けないことが前提で、それを自宅で楽しむ、というもの。

 一方ARでは、ユーザーが観光地に行き、現地の付加情報を表示することが基本的な使い方となる。実際の景色に、風やにおいといった五感への刺激がある、と津田氏。「ARはVRを越えるもの」というのが津田氏の考えだ。

VRのその先にAR、スマートグラスの「BT-300」がある

 現在はVRが流行の端緒に立ったところだが、その先にはARがあると津田氏。外国人観光客市場など、インバウンド需要を想定した多言語翻訳アプリにより外国からの訪問客に対応するといったコミニュケーションツールにも可能性があると津田氏は見る。

 「製品を進化させるだけでなく、常に新しい使い方、市場を創出することを念頭に置いて設計開発をしている」と津田氏はアピール。「あるべき姿」となったBT-300で、スマートグラスの市場拡大を狙っていく考えだ。

(注):Google 、Androidは、Google Inc. の商標です。
(注):Intel、Atomは、米国およびその他の国における Intel Corporation の商標です。

(提供:エプソン<6724>販売)

アスキー
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    最終更新: 11月22日(火)11時00分

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