ITツールはどう売るべきか 顔と名前を一致させる『カオナビ』の一点突破力

アスキー 11月25日(金)07時00分配信

 社内スタッフの顔写真が一覧で確認できる。たったそれだけのシンプルなサービスが多くの企業から評価を受けている。提供しているのは、マネジメント層に向けたシンプルなソリューションだ。

 社内のコミュニケーションロスは、ビジネスにも当然影響してくる。特に経営陣などのマネジメント層ならなおさらだ。急成長をとげ拡大したスタートアップは急速に人員が増え、廊下で会った部下の名前がわからない、なんてことはざらにある。1000人単位での従業員がいるような大企業では当たり前過ぎて見過ごされているだだろう。

 そんな課題を真っ向から解決してくれるのが『カオナビ』だ。サービス提供を行う株式会社カオナビの前身となったジャパンオペレーションラボは2008年に設立されたベンチャー企業。代表取締役の柳橋仁機氏はアクセンチュアからアイスタイル<3660>を経て独立した。しかし、実際にカオナビのサービスがスタートしていたのは2012年。雌伏の時を経てカオナビが生まれ評価され、そして同サービスの将来はどのようになっているのか。柳橋氏に伺った。

カオナビ
株式会社カオナビ代表取締役の柳橋仁機氏

「暗黒の4年間」を耐えサービスのコンセプトを磨きあげた

 『カオナビ』は、BtoBのクラウド型人材管理サービスで、顔写真を並べていることによって、社内人材マネジメントを解決するコンセプトをもつ。だが、最初から整えられたビジョンを掲げて成り立ったサービスではない。

 柳橋氏は2002年、アクセンチュアからコスメ情報ポータルサイト『@cosme(アットコスメ)』を手掛けるアイスタイル<3660>にエンジニアとして入社する。当時はベンチャーで人数が少なかったため、何でもやっているうちに最後は人事部長になっていた。

 そのとき柳橋氏が注目していたのは企業の成長度合いだ。同時期に生まれた多数のベンチャー企業を見ていると、うまくいっているところとそうでないところの差が大きく、これに驚いて個人でも調べ始めた。たどり着いたのは、マネジメント次第で会社はいかようにでも変わるのではないか、ITとマネジメントを掛け合わせればビジネスになると考え、2008年に独立。株式会社ジャパンオペレーションラボを設立した。

 だが、「設立から4年は暗黒の時代だった」と柳橋氏は笑い飛ばす。当初は、人事業務コンサルタントとして、人事システムの導入などを手伝いながら日銭を稼いでいたという。「暗黒」とはおだやかではないが、時代背景でいえばリーマンショックの直後。ベンチャーへの投資も一気にしぼんでいた時期だ。食いつなぐための受託案件に谷間があったときは、給料がなくなったりしたこともあった。その間も、ぼんやりと思い浮かんでいる、IT×マネジメントというツールを言葉にすべく、考え抜いていた。

カオナビ

 きっかけは、人事システムの受託を受けていたサイバーエージェント<4751>の担当者から「顔写真が並ぶのだったら使ってみる」と言われたことにある。言われるがまま機能を実装し納品してみたところ、きちんと取引先は使ってくれたが、作った柳橋氏本人は「なぜ使っているのか」がわかっていなかった。ヒアリングを行うと、「顔と名前を一致させることで部下とのコミュニケーションが活性化した」との答えが返ってきた。当時のサイバーエージェント<4751>は、まさに急成長の最中で、社内にいるいい人材を抜擢、配置するための解決方法を求めていた。

 「そこで、顔写真が並ぶ人材マネジメントをコンセプトにしよう! となった。それが『カオナビ』だと。そう言えたときに、すごくすっきりした」(柳橋氏)

カオナビ
カオナビでのデモの流れ

 だが、「マネジメントには顔と名前を一致させることが第一歩」だと言葉にするまで時間がかかった。言われてみれば当たり前のようにも受け止められるが、あくまで「言葉にする」という点を柳橋氏は重要視している。

 「給与計算や勤怠管理システムは世の中にごまんとあるが、その中でも確実にナンバーワンの地位を占めている大手企業向けERPパッケージソフトがあった。なんでそんなに売れるのか、というのが当時の僕のテーマだった。機能で言うと、ほかの製品とたいした違いはない。『なぜ売れるのか』と買っている人に聞いても明示的な答えが返ってこない。結局、顧客は機能で買っておらず、コンセプトを買っていることがわかった。ITツールを売るなら、何を目的にして、どういう思いで作られているのか、を明示的に出すべきだと」

 それから2012年まで、柳橋氏はコンセプトに磨きをかける。顔と名前を一致させ、マネジメントに活かすという一点突破だ。結果カオナビは、人事システムでありながら、人事の担当者向けに作られていないというユニークな特徴を備える。あくまでマネジメントを行う立場の人間が、部下の評価や抜擢のために使う目的となっている。

 一般的な企業では、人事情報は給与計算や勤怠管理システムに紐づいて格納されており、人事部以外では簡単に閲覧できないのが普通だ。新しい事業をするときに、担当者は最初から社内にいるスタッフの情報などがわかるわけではなく、誰を抜擢してどういう配置がいいのかと考えることすら難しい。人事部に問い合わせて、2日後に資料が来ても遅い。その点をカオナビでは、「ぱっと見られる」ことを重要視している。

カオナビ

細かい閲覧権限の設定と表示項目の柔軟なカスタマイズ性が特徴

カオナビ

 『カオナビ』の特徴は、クラウド管理で顔写真を並べるだけでなく、顧客側のニーズによってそれを徹底的にカスタマイズできる点にある。

 そもそもカオナビとしてはターゲットを設定しておらず、顔と名前が一致しないという課題を抱える会社すべてが顧客候補となる。一般的にマネジメントに支障が出てくるのは、従業員100人くらいが閾値と言われており、結果的に中堅・大手企業がターゲットになる。そのため、求められるソリューションも各社で異なってくる。

 クラウドサービスのため、PCやスマートフォンのブラウザで、社員の顔写真を一覧表示できる。「商品開発本部に誰がいるか」「支社には誰がいるのか」など、誰がどこにいるかを一発で把握できるのは当たり前だ。

 登録時データはかなり細かい情報まで入力できるうえ、項目や順番設定も自由だ。たとえば、新卒文化を重視する企業なら入社年度のステータスを前の方に表示すればいい。また、アパレルメーカーだと身長が重要になるケースもある。人事データに「身長」が入るのには驚きだが、店舗ごとにバランスのいい人材を配置し、最適なコーディネートを顧客にそのまま見てもらうためだという。また、社内に新規制度を導入する場合でも、プルダウンメニューから入力するだけで追加ができる。これら項目の追加で追加料金などは発生しない。

 また、それぞれの項目には細かい閲覧管理権限を付与することもできる。店長に見せられない項目は隠す、部長にはここまで見せられる、といった切り分けができるのだ。そのため、これまで見えなかった人事情報をオープンな形で有効活用できるようになる。

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 実際にデモを拝見してみた。まずは顔写真をずらっと表示し、「評価」で切ってみる。S、A、Bと事前に評価されたメンバーが一覧表示される。この一覧性は衝撃的だ。顔が見えるので、理解度も違うし、顔に見覚えがなくてもわかったような気になれる。次のデモは、アパレル企業を想定。横軸に店舗を設定し、縦軸に身長を設定。どの店にどのくらいの身長のスタッフが割り当てられているかが、一目でわかるのだ。

 従来であれば、「五反田支店のAさんが……」と言われて、誰だっけそれ、となるところを手軽かつ確実に情報共有できる。大人数を抱えていたり、多店舗展開している企業には、確実に需要がある機能だと感じた。

 「店舗ビジネスは物理的に拠点が離れているので、遠隔地のスタッフの名前を知りたいというニーズは大きい。大手企業の場合、1万人全員の顔と名前を一致させたいというよりはスクリーニングが目的になっている。TOEICスコアが800点以上とかで検索してフォルダーとして登録しておけば、手軽に新規事業のための候補として提出でき、素早く経営陣に見てもらえるメリットがある」(柳橋氏)

1000社導入でデファクトスタンダートになることを目指す

カオナビ

 カオナビの提供価格は、100ユーザーまでは月額3万9800円(税別)。最大で21万9800円となり、その先はまたオプションサービスとなっている。

 「最初は価格感がわからず、金額設定はやっている間に自然とそうなった。取締役の佐藤(カオナビの佐藤寛之氏)と話して、営業から1~2ヶ月でクロージングできる価格体系でやっていこうと決めた。顔写真のマネジメントソリューションはブルーオーシャンなので、導入スピードが重要。いかに早くお客さんを獲得したかが勝負で、我々に先行優位性がある」(柳橋氏)

 2016年11月現在、『カオナビ』のサービススタートから4年半が過ぎたところで340社に導入されている。直近で目指すのは1000社の導入だ。

 「1000社に導入してもらえれば、収益的にも安定するし、デファクトスタンダード<3545>になれる。BtoBのサービスはある程度広まると、みんな使ってるからそれでいいよ、と考えずに導入してくれるようになる。まずはそこまで行くというのが戦略」

 営業戦略としては、完全にプルマーケティングを採用。メディアに露出し、問い合わせが来たところにアタックしていく。

 「我々は、プロダクトビジネスなので、こっちがどう言うかがすべて。そのためお客さんに『どう言うか』というチューニングはものすごく行った」

カオナビ

 結果、契約数は増え、従業員1万人オーバーの企業までが顧客となった。サイバーエージェント<4751>から日清やメルカリまで幅広い企業に利用されている。たとえば、牛丼の吉野屋を展開する株式会社吉野家ホールディングスでは、社長が店長会議に参加する際、スマートフォンで『カオナビ』を使うという。各店舗の店長の顔と名前、情報を頭に入れておくのだ。

 もちろんあくまで一例だが、名前で話しかけられるというのはコミュニケーションの基礎としてとても重要だ。カオナビを導入することで、離職率が低下した、という声が寄せられることもある。特に対面でのマネジメントを重視する介護や保育といった業界では重宝されはじめているそうだ。また、ビジネス以外の領域ではラグビーU20日本代表といったスポーツ分野や、学校法人にも導入され始めている。先生が生徒を把握する、理事長が先生を把握する、などニーズが多い。

 開発で大変なのは、顧客の要望をいかに取捨選択して製品に反映させるかと言う。

 「インターネットのサービスは出した時点では60点でいいが、改善をいかに効率よく的確にやるかによって、ゴールが変わってくる。そこは、プロダクトの発案者でなければできないと思う。自分は、営業から開発までやっていたので、バランス感覚があるから判断できる。特に、社長でなければできない重要な仕事としては、捨てること。使ってない機能は切らなければ駄目。機能は存在するだけで開発者はメンテナンスしなければならないし、使ってなくても営業はお客さんに聞かれたら、説明しなければいけない」

 もともとは柳橋氏自らの発案だったが、顔写真を装飾する機能やPCのウェブカメラで撮影した顔写真を登録する機能などはどんどん切られていったという。

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 好調にユーザーを増やしている『カオナビ』は、日本ベンチャーキャピタルや大和企業投資などからこれまで3回の調達を実施。直近では、2016年6月に3億円を調達したばかりで、マーケティングと開発費用に充てる形だ。現在のスタッフは、正社員30名と業務委託20名の合計50人による中堅ベンチャーとなっている。

 「現時点では、機能をリッチにするより広く導入してもらってから高機能にしていく戦略を取っている。ビジネスシーンでスタンダードになったら、別のパートナーと組んで教育やスポーツの領域に広げる。機能を追加するという点では、SalesforceのようにAPIでつなげていくサードパーティモデルを導入したい。人事マスターがあるのだから、研修履歴を記録しているなら研修を売ればいいとか、人事がらみのサービスはカオナビでやったほうが合理的だと考えてもらいたい。将来は、カオナビ上でできるいろんなファンクションを解放する予定」(柳橋氏)

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●株式会社カオナビ
2008年5月27日設立。2013年にカオナビに社名変更。クラウド人材管理ツール『カオナビ』の製造・販売・サポートを展開している。
2016年6月、大和企業投資、日本ベンチャーキャピタルから第三者割当増資による総額約3億円の資金調達を実施。
スタッフ数は2016年11月時点で50名。マーケティング活動をさらに強化して、2019年3月末までに1000社導入を目指す。

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    最終更新: 11月25日(金)07時00分

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