2ヶ月ぶりのバークレーから、オークランドの倉庫火災の背景を探る

アスキー 2016年12月09日(金)12時00分配信
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何かが変わってしまったような、バークレーの夕暮れ。すっかり秋も終わり、冬の景色です

 移動日が月曜日だったので記事を書くのが遅くなりましたが、2ヵ月弱過ごした東京から、北カリフォルニア・サンフランシスコ近郊の都市、バークレーに戻ってきました。

 戻ってきた日の翌日から寒波が押し寄せるタイミングで、最低気温は摂氏2度、最高気温も一桁台という寒さです。雪こそ降りませんが、真冬の寒さ。しかし、ここ5年では、これぐらいの気温が一番寒いぐらいなので、また気温が上がってくることでしょう。11月の雪の東京を経験していますので、驚きもさほど大きくないと言いますか。

 感謝祭も終わり、街はクリスマスに向けて、というシーズンですすが、さほどワクワク感が伝わってこないのは、寒さのせいか、それとも2つの大きな変化のせいか。

トランプ新大統領に身構えるカリフォルニア

 本連載でも触れましたが、先の米大統領選挙で勝利したドナルド・トランプ氏。威勢の良いTwitterも復活し、最新の話題は老朽化した大統領専用機の発注をキャンセルしよう、というもの。記者からの質問には「(ボーイングに)一杯食わされた」と発言していました。

 そもそも自分の任期中に間に合うかわかりませんし、お金もかかるしということなのですが、古いボーイング747は飛ばすにも修理するにもコストがかかるだろうし、飛行機を製造しなかったぶんの雇用はどうするんだろうという話もあり。バランスを取らない政治というのが、2016年のハイライトなのかもしれません。

 都市部に住む筆者の回りで、トランプ氏の支持層を見つけることは困難を極めますが、車で1時間ほど内陸に行った果樹園の街ブレントウッドあたりに行けば、夏の段階でもトランプTシャツを着ている白人青年に会うことができたわけで、ニューヨーク/カリフォルニア両州の都市部がいかに相手にされていなかったか、あらためて感じる次第です。

 先週弾丸で訪れたニューヨークの14丁目・ユニオンスクエア駅の構内には、トランプに反対するメッセージが書かれた付箋が、壁一面に張られていました。ただし、激しい言葉ではなく、だんだんと「愛」(Love)という言葉が目立つ付箋が上から貼られるようになっており、変化を感じることもできました。

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ニューヨーク、14st-Union Square駅の壁一面に張られた付箋紙。トランプ批判からLoveへと、メッセージの変化が見られました

 ちなみにバークレー市の大統領選挙の投票結果は、クリントン氏が5万7750票で9割の得票、2位はアメリカ緑の党の大統領候補で内科医のジル・スタイン氏で2947票、3位がようやくトランプ氏で2031票という結果でした。アパートの隣人によると、結果が出た日からしばらくは、道行く人同士でハグして悲しみを分かち合っていた、といいます。

 デモが長く起きていたバークレー、果たして人々の心は前向きになってきたのでしょうか。

オークランドの火災が起きた場所とは

 もう一つの大きな事件は、日本でも報じられているオークランドの倉庫街での火災です。オークランドはバークレーの隣町で、友人によると仲間のDJが命を落としたという話も聞いた、非常に身近な事件だったのです。最新の数字では犠牲者は36人、まだ捜索を終えていないとしています。

 オークランドは港町で中南米や中国方面からの荷物も多く届く場所です。ただし、港周辺のエリアは治安が悪化しており、ダウンタウン周辺では様々な再整備が試されています。最近では高層マンションと店舗の誘致で雰囲気も良くなっていました。

 その原因となっているのは家賃の高騰。サンフランシスコに住めなくなり、周辺の地域に住居を求めて、人が移動してきています。急速に住環境が整えられ、高級化が進んでるのです。高速鉄道のBARTが通っているエリアはサンフランシスコの通勤圏となっており、バークレーでもここ5年で家賃が1.5倍から2倍近くになっていました。

 しかしこの高級化によって、若いアーティストや作家、詩人などは、住居やスタジオを確保する事が難しくなりました。そこで、倉庫を改装して、アーティストの住処と創作の場を確保したのが、今回の悲劇が起きた場所だった、というわけです。

 ローリングストーン誌では、火災前の内部の様子を写真で紹介しています(http://www.rollingstone.com/music/pictures/inside-oakland-ghost-ship-warehouse-before-the-fire-w453774/safe-haven-for-artists-w453778)。

テック企業とベイエリアのアート

 このような家賃高騰の一因として、高給取りのシリコンバレーの人々がサンフランシスコに住んで通勤するようになった点が挙げられています。

 土地が狭く、また湾をまたぐ橋が少ないサンフランシスコの地理的・交通面の要因も挙げられますが、GoogleやApple、Facebookなどの通勤バス(もちろん社員無料でWi-Fi完備)は、サンフランシスコの住民の批判の的になってきました。

 サンフランシスコ市内でも、同じようにギャラリーやアーティストのスタジオが閉鎖や移転に追い込まれる事態が起きてきました。サンフランシスコのアートシーンは、「アーティストが自由に成長する場」とされてきました。

 どちらかというとパトロンが付いて……という欧州なニューヨークのようなエコシステムでもなければ、ロサンゼルスのようにエンターテインメント寄りの商業的な文脈とも違います。ストリートアートも重視され、地元の仲間が認めてくれる作品が素晴らしいという独自の価値観があったからです。

 そうしたアートシーンも、家賃高騰で崩壊の危機にありました。そこで、いくつかのアートを支える活動が生まれています。

ミネソタ・ストリート・プロジェクトと
Facebookのアートプロジェクト

 サンフランシスコの港湾地区の「ミネソタ・ストリート・プロジェクト」は、シリコンバレーのベンチャーキャピタリスト、アンドリュー・ラパポート氏は、妻のデボラ・ラパポート氏とともに立ち上げたアートプロジェクトです。

 アートコレクターでもある両氏は、倉庫3つ分を買い上げ、ギャラリーやアーティストのスタジオを、長期間安い家賃で貸し、拠点の面でのサポートをスタートさせました。当然こうした拠点ができれば、そこに人々が集まり、シーンが生まれてきます。何よりサンフランシスコから流出しそうだった人々を食い止める役割を担っているのです。

 またFacebookは、若手気鋭のアーティストを周辺の地域から集めて、社内でアートプロジェクトを展開してもらう「アーティスト・イン・レジデンス」プログラムを展開しています。日本人のアーティスト、ミキ・マサコ氏も、アジア人としてはじめて選ばれました。

 ミキ氏は6ヵ月間のFacebookでの活動について、「社内のコミュニケーションのためのポスター作りや、社屋の壁に巨大な壁画を描くなど、社員に、創作のパワーや苦しみを含む、アーティストとしての仕事ぶりを生で見せることも、その目的の1つだった」と振り返ります。

 そうした中で、社員との交流や、作品を中心にした会話や新しいプロジェクト、ビジネスが花咲き、社員はもちろん、アーティストにとっても良い刺激を与えてくれたそうです。

 こうしたテック企業からの歩み寄りは歓迎されていますが、サンフランシスコのアート業界全体が、家賃高騰の問題から切り離されるわけではありません。それだけに、ゴーストシップでの悲惨な事件は、やりきれない思いが募るのです。


アスキー
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    最終更新: 2016年12月09日(金)12時00分

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