実践している先達に学び、山形で新しい働き方について考えた

アスキー 12月13日(火)11時00分配信

11月はテレワーク月間なのだそうだ。テレワーク、リモートワークといえば、クラウドが欠かせない。AWS界隈でもリモートワーカーは増えつつある。そんな背景からか、東北芸術工科大学とJAWS-UG山形が手を取り、re:Work meetup Yamagataが2015年に引き続き開催された。

働き方を見直そう!11月はテレワーク月間

 総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省、学識者に民間事業者などからなる、テレワーク推進フォーラムという団体がある。毎年11月をテレワーク月間と定めて、働き方の見直すきっかけづくりをしている。東北芸術工科大学の教授でありテレワーク月間実行委員長でもある松村 茂さんは開会の挨拶で、その取り組みについて軽く触れた。

SD
東北芸術工科大学 松村 茂教授

 同様のイベントを昨年も開催したが、「昨年から今年までにテレワークを実施する人が増えたかどうかと山形県庁の人に聞いたら、両手に余る程度だったのでちょっと残念」語った。今年のイベントを受けて、来年にはリモートワークを実施している人が増えているといいのだが。

 フリーランスを中心ターゲットとした仕事受発注のマッチングサービスを提供するランサーズ。クラウド(Cloud)の世界にクラウド(Crowd)ソーシングの場を作ったことで、新しい労働市場を生み出した企業のひとつだ。そのランサーズに勤める金澤 裕毅さんが、最初の登壇者だ。仙台出身で、山形大学の卒業生。JAWS-UG山形のメンバーでもある。金澤さんは、自身の経歴から語り始めた。

「大学卒業後に入社した会社で、札幌への転勤を経験しました。そのころにリーマンショックが起こり、景気が悪くなってきたので札幌に移住して転職しようと考え始めました」(金澤さん)

SD
ランサーズ 金澤 裕毅さん

 ITの仕事ならどんな場所でもできるだろうと最初は軽く考えていたという金澤さんだが、札幌にはその技術を生かせるような企業はなかった。IT技術を使えばどこでも仕事ができるはずなのに、東京に戻らなければならないのかと、忸怩たる思いを胸に札幌を離れることになった。この経験は、のちに金澤さんがランサーズに入社する動機にもなったという。

 そんな金澤さんが勤めるランサーズはフリーランサーが仕事を探す場を提供しており、その発注方式には3つのタイプがある。ひとつはコンペ方式で、発注者が求める条件に対して素案や見積もりを提示し、それを見て発注者が依頼先を選ぶ。単発の案件で選ばれる発注方式だ。もうひとつは、プロジェクト方式。こちらはプロジェクト単位でコミットしてくれる人材を求めるもので、仕事内容によっては成果報酬ではなく時給方式での発注も可能。そして3つ目は、タスク方式。大量のタスクに対して、必要な人材を複数人募るもので、テンプレートが決まっている大量のコーディングやライティングなどが発注されるという。

「それから、こちらは会社の同僚からぜひ紹介してこいと言われたので紹介するんですが、ランサーズストアというサービスもスタートしています。自分に合う仕事を探すのではなく、フリーランサーの側から自分のスキルを売り込んでいくサービスです」(金澤さん)

SD
ランサーズストアの紹介

 サービス活性化のため、社員もランサーズストアに登録することが推奨されているそうだが、金澤さんの専門分野はITインフラの保守運用。会社員をしながら空き時間だけでできる仕事ではないため、まだ売れたことはないということだった。一言にITスキルと言っても、クラウドソーシングに向いている技術とそうでない技術があるという、わかりやすい実例だろう。

 金澤さんに続いて登壇したのは、ランサーズの利用者でもあるanori(アノリ)の高橋 天央さん。山形市内でデザインショップanoriを経営するかたわら、フリーのデザイナーとしてランサーズを通じて仕事を請け負っている。

 高橋さんが最初に勤めていた企業は残業が多くて育児を手伝うこともままならなかったという。そこで自身の実家がある山形へUターンし、家具制作の会社に転職した。山形でもプロダクトデザインの仕事を続けられるならと、選んだ会社だった。

「中小企業は下請けが多いので、指示された通りにきちんとモノを作るのはとても上手で、技術もしっかりしています。しかしオリジナル商品を作ったり、自分たちで売ったりするのはうまくありません」(高橋さん)

SD
anori 高橋 天央さん

 デザインの力で売ることを手伝えないか。そう考えて高橋さんは、家具製作で生じる端材を使ってオリジナル商品をデザインし始めた。家具に使う丈夫な生地の端材でバッグを作ったりしているうちに、独立に至ったという。

「おじが経営しているお店に空きスペースがあり、そこを使って何かやってみてはと言われたので雑貨店を始めました。でも、店頭では物がなかなか売れません。それでオンラインショップを開き、デザインの仕事もランサーズで受け始めました」(高橋さん)

 実店舗を持ち山形市内の事業者からもWebサイトデザイン依頼などはあるが、オンラインショップやランサーズ経由でのデザイン依頼などネット経由の売り上げが高い割合を占めるそうだ。

リモートワークを推進する企業、テレワーカーと東京勤務者の視点

 フリーランスではなくでも、地方で仕事をする人は増えている。特にIT界隈では、リモートワークをしているという人は珍しくなくなりつつある。ベーシックの渡辺 信生さんも、そうしたテレワーカーのひとりだ。

「社会の問題を解決するのが会社のミッションです。だとすれば、もっとも身近な社会である家庭の問題から解決すべきだと思い、ワークライフバランスを考えて山形にUターンしました」(渡辺さん)

SD
ベーシック 渡辺 信生さん

 Uターンを決めたものの、困ったのは転職先だった。ITエンジニアにとって東京の企業で経験できる仕事は、新しい技術に触れる機会が多く刺激もある。そんな経験を知っている渡辺さんの思いを満たせそうな企業は、地方にはなかなか見つからない。収入も東京の企業に比べて下がることを覚悟しなければならない。

「だったら転職ではなく、今の会社のまま山形に引っ越せないかと相談したところ、社長が快諾してくれて山形でリモートワークをすることになりました」(高橋さん)

 筆者のようなフリーランスもそうだが、自宅での作業はパフォーマンスの自己管理が難しい。一方で電話や会議などの割り込みは減るので、集中したい時間に邪魔されることは減る。高橋さんには、後者のメリットが大きかったようだ。リモートワークになってからの方がパフォーマンスがいいと同僚から言われることもあるという。

「しかし、ひとりで作業に没頭するのはいいことばかりでもありません。同僚との雑談から得られる情報や、ちょっとした会話から生まれるアイディアというのも多くあります。そういったものから遠くなってしまいました」(高橋さん)

 そういった経緯もあってか、ベーシックは山形で新たにエンジニアを採用し、サテライトオフィスを開設した。渡辺さんはいまではそのチームとともに山形オフィスで仕事をしている。

 地方でリモートワークをする高橋さんに次いで登場したのは、サーバーワークスの“ぎょり”こと永渕 恭子さん。サーバーワークスはリモートワークを推進している企業のひとつで、リモートワークで業務に当たる社員や少人数地方オフィスを数多く持つ。そんなサーバーワークスの東京本社で働く永淵さんは、「恋愛とテレワークは似ている」と語り始めた。

「好きな人がいたら、会いに行って、自分のことをたくさん知ってもらいたいと思いますよね? テレワークでも同じです。一緒に働く好きな仲間とはいっぱい話したい。一杯話す時間を作るために、ツールを活用します」(永渕さん)

SD
“ぎょり”の愛称で親しまれるサーバーワークス 永渕 恭子さん

 リモートワークが一般化している企業だからこそわかる、スムーズに業務を進めるためのコツ。それが、コミュニケーションをおろそかにしないこと、コミュニケーションロスを減らす努力をすることだと永渕さんは言う。

「サーバーワークスでは全員がslackでコミュニケーションを取っていますが、いくつかのルールを設けています。といっても、slackで2回説明して伝わらなければWeb会議などフェイス<4295>・トゥ・フェイス<4295>で話をする、など簡単なことばかりですが」(永淵さん)

 簡単なことと言うが、これは実に重要なことだ。文字だけのコミュニケーションではうまく伝わらなかったり、勘違いされてすれ違ったりしてしまいがちだからだ。読者の中にも、仲のいい人との間でさえ、TwitterやFacebookでうまく真意を伝えられずにやきもきした経験を持つ人はいるのではないだろうか。そんなときは、顔を合わせて話をする方が早いし、間違いも少ない。その目安を行き違い2回ときちんと決めているところに大きな意義がある。

SD
ツールの活用にはルールづくりが大切

「社内外を問わず、情報発信も推奨しています。たとえばサーバーワークスのブログもそうですが、どんな情報であっても必要とする人はどこかにいます。情報発信を続けるのは難しいと考えがちですが、発信していればフィードバックがあり新しいインプットが生まれ、そこからまた発信するネタが得られます」(永淵さん)

参加者からの質問も多く、リモートワークの実態が語られた座談会

 それぞれのセッションののち、永淵さんと同じくサーバーワークスに努める赤塚 誠二さんも交えて、リモートワークについて語る座談会が開催された。松村さんが司会を務め、筆者や参加者からの質問にリモートワークの現場を知る人たちが答えていく。その中からいくつかのやりとりを紹介しよう。最初の議題は、松村さんから投げかけられた。

SD
会場となった東北芸術工科大学の講義室

松村:みなさん、会社とはどういう契約で働いていらっしゃるんですか?

永渕:私は正社員です。サーバーワークスには定時制で働いている人もいれば、育児中で時短労働の人もいます。そんな中で私はなんか適当に……。

松村:適当(笑)。裁量労働ということですね。同じ会社の中で裁量労働の方と時間労働の方が分かれているんですか?

永渕:そうですね。サーバーワークスではマネジメントとスペシャリストのふたつの道があり、どちらもランクが進むと裁量労働制になります。

SD
永淵さんと赤塚さんのサーバーワークスチーム

渡辺:ベーシックは基本的に定時制ですね。打ち合わせなどを考えると、時間が決まっている方が便利なことも多いので。育児中の方は時短勤務で。リモートワークでも定時なんですけど、本当に仕事をしているのかどうかというところが課題になります。そこで常々言っているのは、結果を出すということ。責任感を持って自分の仕事をしっかりやる代わりに自由にやらせてもらうというのが、リモートワークでは大事だと思います。

松村:高橋さんは本当に自由でいいですよね。

高橋:そうですね。家族とお店の都合だけ考えればあとは自由に。ただ、それが全部自分の給料に跳ね返ってくるので(笑)。

松村:ランサーズさんは?

金澤:裁量労働制ですね。サーバー管理者の仕事って夜もあったりするので、そういうときはあらかじめ仲間に言っておいて翌日はのんびりするとかして、調整してます。

 参加者からの一投目は、こんな質問だった。

質問者:いま皆さんがこうしてご登壇されてるんですけど、仕事としていらっしゃってるのか、個人としていらっしゃってるのか、どちらですか?

金澤:休暇を取って個人としてここに来ています。ただ、こういうイベントに参加することは周囲に知らせているし、資料も広報のものをベースに作っています。

高橋:一応、仕事としてきています。自分の心づもりだけですけど(笑)

松村:ノーギャラだと聞きましたけど?

高橋:あっ、その辺のところはちょっと(笑)。

SD
一応、仕事としてきている高橋さん

松村:渡辺さんはどうですか?

渡辺:定時で、仕事中ですね。こういう場や多様な媒体への取材に応えることで、ベーシックが多様な働き方に応える会社だと知ってもらうことも、採用などにつながる大切な仕事だととらえてます。

永渕:仕事としてきています。ぶっちゃけた話をすると、登壇の機会を赤塚さんからいただいたけど交通費辛いなー、会社から出してもらえたらなーと思って、稟議を上げたら通ったっていう。通ってホッとしてます(笑)。

赤塚:僕はちょっと複雑ですね。JAWS-UGの赤塚としては個人で企画をしてここに参加しています。一方でいま、業務時間中なので、いまこの姿がリモートワーク中だと思ってもらっていいです(会場笑)。常にslackを見てますし、お客さんとやりとりしながら、こうやって登壇もしていると。オン/オフがゆるやかに切り替わっている状態です。

 筆者からは、離れたオフィスにいる人たちをどのようにつなげてパフォーマンス向上につなげていくのか、またAWSなどクラウドで開発することがリモートワーク推進に影響しているのかという質問を投げかけた。

赤塚:会社が目指す価値観など、コンテキストとして共通の価値観を持っていることが、社内の人と人のコミュニケーションを円滑にしているところはあると思います。あと、リモートオフィスを展開するときには、偉い人がリモートにいることが大事です。そうすれば、リモートワークならではの課題を社内で共有しやすくなります。とにかく、リモートワーカーがマイノリティにならないようにすることです。

金澤:クラウドだからできることは確かにありますね。社内にサーバーがあるとリモート開発はできないけど、クラウドならリモート開発ができるし、ランサーズを使ってフリーランサーに依頼もできます。

SD
クラウドだからこそできるリモート開発やクラウドソーシングについて語る金澤さん

渡辺:社内のつながりって難しいですよね。リモートワークをしていない会社でもセクショナリズムはあるし、本社勤務とリモートワーカーの温度差もあります。でもこれは話をすることである程度緩和されるし、適度に東京に行って顔を合わせてコミュニケーションすることが大切だと思います。

 他にも、リモートワークを進めていきたい参加者が具体的なアドバイスを求めたり、地域コミュニティとの関わり方について語り合ったりと、約2時間にわたって座談会が繰り広げられた。最後にはそれぞれ、次のような感想を述べていた。

高橋:私が山形に戻ってきた頃に比べると、いまはテレワークやリモートワークの前例があって場が整っているのがうらやましいですね。

渡辺:そうはいっても、リモートワークの環境は会社が準備してくれるのを待つものではないと思います。やりたい人が、自分が会社に掛け合えばいい。その一歩を踏み出せば、意外と会社って話を聞いてくれると思います。

赤塚:JAWS-UGは基本的に技術のコミュニティなので、今回はスピンアウトした感じですが、これもクラウドのエンジニアがどんな働き方をしているのかっていうところから生まれたコラボレーションだと思います。地方のコミュニティでは、数を目指すのではなく、濃い出会いを求めていきたい。

松村:メディアにはJAL<9201>やトヨタがリモートワークを始めたという話は出てきても、アメーバのように拡大していくサーバーワークスやベーシックみたいな話は出てこないんですよね。時間があれば、もっと聞きたかったなと思います。

SD
大手企業の事例だけではなく、中小企業でのリモートワークの実態を知りたいと語る松村さん

 松村さんの言う通り、2時間も語り合ったにも関わらず、もっとたくさん話を聞きたいと思わせる座談会だった。

アスキー
もっと見る もっと見る

【あわせて読む】

    最終更新: 12月13日(火)11時00分

    【関連ニュース】

    【コメント】

    • ※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

    【あなたにおススメ】