「お金を増やすサービス」のあるべき姿 将来不安の解消目指すWealthNavi

アスキー 12月23日(金)15時00分配信

 テクノロジーを使ってお金をいかに増やせるか、資産形成できるか。と聞くと株やFXの自動売買がまず思い浮かぶ。だが、より学術的な要素を織り交ぜ、高度なテクノロジーを使い、自動売買よりも賢い仕組みを作る動きがある。それこそが、Fintech(フィンテック)の「資産運用」領域である。中でも頭角を表してきているスタートアップが、『WealthNavi』を運営するウェルスナビ株式会社だ。

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 「ロボアドバイザー×国際分散投資」と銘打ち、中長期での資産形成をサポートしてくれるサービスを提供している。老後の年金に不安を感じる人が多い一方で、家計資産の50%以上を現金・預金として保有しているのが日本人の特徴だ。資産を形成しようにも、形成のための取り組み自体ができていない国内の現状に切り込み、中長期での資産形成を誰でも安心してできるサービスを目指す。

 同社はすでに、金融商品取引に関わる免許取得や登録をすべて済ませているため、金融機関の業務効率化を目指すようなITツール主体のフィンテック企業ではないことに注目したい。メディアなどでの打ち出され方も「ロボアドバイザー」となっているため、投資アドバイスのためのツールを作っていると思うかもしれないがそれは間違いである。ビジネスのコアには、金融領域で培ったノウハウが凝縮されており、それをITで具現化しサービスを提供している。

 2016年10月にはSBIホールディングス<8473>などから約15億円の資金調達を発表し、2017年上期には「おつり」に注目した新しいサービスを提供する予定の同社が目指す「資産運用」のサービスとは何か。柴山和久代表に聞いてみた。

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ウェルスナビ株式会社の柴山和久代表取締役

ただのロボアドバイザーではない
WealthNaviの提供サービス

 ウェルスナビで検索すると「ロボアドバイザー」とか、「国際分散投資」などというキーワードが目に入る。「投資に関するアドバイスをしてくれる。しかも日本だけではなく、世界の株に投資できそう」と思ったら半分正解だ。

 もう半分の正解を知るためには、「投資に関するアドバイス」という部分が重要だ。アドバイスというと、「この株が買いだ!」「この株はそろそろ売らないとまずい!」というような、取引に関するアドバイスを思い浮かべてしまうが、ウェルスナビが提供しているのは「ポートフォリオ」という指標だ。もともとポートフォリオは、画家などが自分の作品を並べて展示する「ポートフォリオ」と同じ意味。投資対象となる株や金融商品の中から、自分の好みにあっているものを自動で選んでくれる(=ロボアドバイザー)。

 「自分の好み」というのは、「大きく損するリスクを抱えてもいいから大きく儲けてみたい」、「手堅く少しずつ増やせればいい」といった投資に対する好みのことで、「リスク許容度」と言ったりする。

WealthNavi
WealthNaviがリスク許容度を無料で診断し、提案してくれるポートフォリオの例。資産クラスが投資対象となる金融商品で、日本や欧州、新興国、米国といった世界中の国々が並んでいる。

 ここで投資における「リスク」というキーワードの誤解を解いておこう。「リスク」というとネガティブな危険度の事を思い浮かべないだろうか。しかし、投資においてはプラスに増えることもリスクとして考えてよい。

 データや確率変数のばらつきを示す「標準偏差」という言葉を聞いたことがないだろうか。標準偏差を株価で例えるなら、一定の期間で上下する価格の上限と下限の幅を数値で表したものとなる。これを統計学では「σ」(シグマ)という記号を使って表す。

 普通、標準偏差は「%」を使って表すので、σ=5%という表記がなされる。この場合は、株価がプラスマイナス5%の範囲で変動するという意味になる。したがって、プラスマイナスになるのだから、その変動の幅自体がリスクといえる。

 このリスクは、ポートフォリオの組み合わせによって値が異なり、ポートフォリオの中の投資商品数が多いほど、統計的にはリスク値が小さくなることが知られている。投資を行うユーザーの好み(WealthNaviの場合は質問結果)から最適なポートフォリオを選んでくれる部分が、「ロボアドバイザー」なのだ。

 ちなみに、リスクに対して言われる「リターン」も一定期間経過後に得られた収入または損失の結果なので、こちらもプラスマイナスの振れ幅がある。

WealthNavi
WealthNaviの無料診断で聞かれる質問例。シンプルな質問からリスク許容度を分析してくれる。

 さらに重要な点として、WealthNaviでは、ポートフォリオ提案に使う金融商品に米国で上場している「ETF」(Exchange Traded Funds)を用いている。ETFは、「複数の株に投資をする運用会社が発行している証券」のこと。ETF自体が、世界中で発行されている複数の株でポートフォリオを作っているので、おのずと国際分散投資が実現できるわけである。さらにWealthNaviでは、提案したポートフォリオに対する取引を自動発注するサービスや、一定期間後にポートフォリオを見直すサービス(「リバランス」という)、取引で得た利益に対する税金を最適化する「DeTAX」などのサービスを提供している。

 露骨な言い方をすれば、最先端の金融の仕組みやIT技術を総合的に使った「お金を預けておくと勝手に増やしてくれるサービス」だといえる。

資産形成の必要性が高いのに、
それを払拭できない金融機関のジレンマを解消

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 だが、そのような「お金を預けておくと勝手に増やしてくれるサービス」は、大手証券会社やネット証券会社でもすでに提供している。たとえば、「ラップ口座」というサービスを聞いたことがないだろうか。「ラップ」とは包むという意味で、預けたお金をまるっと証券会社に渡して(=包んでもらって)、運用などをお任せするサービスのこと。お任せしてしまうので、どのような手法で、どんなときにどの商品を売買するかがわからない。

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三井住友信託銀行で提供する「ラップ口座」。ラップ口座を提供しているのは証券会社だけにあらず。ラップ口座は投資一任運用とも呼ばれている引用元

 証券会社にお金を預ければ、勝手に増やしてもらえるため資産形成に活用できると、資産形成初心者にはうれしいサービスかも知れない。だが一方で、日本投資顧問業協会が2016年12月に発表したラップ口座運用残高は今年の9月末時点で約6.2兆円。金額的には大きく見えるが、投資信託の運用残高が約89.6兆円であることを考えると、その普及率はまだまだ低い。やはりすべてを証券会社にお任せしてしまうのは抵抗があるという表れかもしれない。

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日銀が発表している家計の金融資産残高。家計の金融資産は約50%が現金・預金で占められている。(棒グラフの一番長い部分)「貯蓄から資産形成へ」の取り組みがされている原因であり、WealthNaviのビジネスチャンスがここにある引用元:P4最上段の画像

 ではWealthNaviはどうなのだろうか。言ってしまえば同社もやっていることは、海外に分散するETFを投資対象とした「ラップ口座」と言える。しかし、「ラップ」の根幹である資産運用のアルゴリズムを公開することで、顧客が不安に感じる「金融サービスのブラックボックスな部分」を払拭することを目指したサービスを提供している。

 「お客様のニーズを満たせない今の金融サービスの真逆のことを考えた。手の内を見てもらって安心して資産を増やしてほしい」と柴山代表は語る。

 同サービスの最低投資額は100万円からで、手数料は投資額の1%。現在の顧客層は30~50代が中心だが、2017年に開始予定の「おつりを自動的に投資に回す新サービス」の展開などで資産運用からは縁遠い若年層にとっての投資機会の提供も狙っている。

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WealthNaviが提供するサービスの概要図。投資目標を決めて自動運用し、さらに取引で得た利益の節税までをアドバイスしてくれる引用元

ニューヨーク証券取引所と接続する取引システムをAWS上で実現

WealthNavi

 金融事業としての勘所も押さえつつ、自動運用サービスを徹底的に推し進める同社のサービスが始まったのは、2016年の7月。ベータ版から半年での本格稼働だが、フィンテックが流行しているとはいえ、金融サービスとは思えないスピードで創業から歩みを進めてきている。

 代表である柴山氏の来歴はまさに、金融サービス企業の経営者になるために歩んできたエリートだと言っても過言ではない。日本やイギリスの財務省や、戦略コンサルの最高峰であるマッキンゼーで機関投資家向けの資産運用に関する業務に携わった人物。そんな来歴を見てしまうと、権威主義的な人物を想像してしまうが、そうではない。WealthNavi のプロトタイプや2017年上期にローンチ予定の新サービスは、柴山氏自らがプログラミングを学んで作ったという。社長業をしながら学んだというから驚きだ。

 現在社員数は30名程度で、うち6割がエンジニアという構成になっている。金融業界で長年業務系システムを開発してきた社員もいれば、IT系企業で最先端の技術を扱ってきた社員もいて、柴山氏いわく、「金融とITのいいとこ取りができる組織」になっているという。

 一般に、金融機関は外部ベンダーにシステム開発を委託しているため、金融関係の仕事をしていた人がテクノロジーに疎いというのは、よく言われている周知の事実。そんな折で開発の実作業を経験してかつ、金融省庁とのつながりを持つ社長が経営する同社は、当然システムを内製化している。

 ミスが絶対に許されない金融システム作りの大変さを現場目線で理解している一方で、金融省庁とのつながりも深いのは大きなメリットだ。「革新的な金融サービス」を法令制度とシステムの両方向から実現可能性を考えられるため、収益を生みやすい体質といえる。

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WealthNaviが公開する取引アルゴリズムのホワイトペーパー。初心者でも読み進められるくらいにやさしく書かれている引用元

 ところで、WeatlhNaviはテクノロジー面でも革新的だ。アルゴリズムをホワイトペーパーで公開しているのに加え、ニューヨーク証券取引所と接続する取引システムをAWS上に提供している。クラウド上での基幹システム構築であれば他のスタートアップでもすでに行っているが、証券取引システムは、その性質上AWSへの構築が難しい。取引の始まりと終わり頃に処理が集中する特殊な環境であり、平常時の10倍以上、時として100倍以上の負担がかかるためだ。

 日本を例にすると、朝8時に東京証券取引所での注文受付が始まり、朝9時から取引が始まる。この時間帯は、取引所に大量の注文を送信しなければならないし、取引所から大量の約定の通知が届く。これらをすべてさばくのに、膨大なリソースが瞬間的に必要となる。

 AWSでも「バースト」という想定以上の処理が来ても耐えられる仕組みを用意しているものの、最大キャパシティを考慮して設計したオンプレミスのサーバー群でなければ通常は耐えられない。ゆえに、クラウド上に取引システムを構築するのは革新的なのである。

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WealthNaviのAWS導入事例。ニューヨーク証券取引所と接続する取引システムが構築されている引用元

 WealthNaviは、SBI証券や住信SBIネット銀行との業務提供を発表し、資産運用のみならず、銀行APIを活用するフィンテックサービサーとしての地位を確立しつつある。また、2017年には「おつり」を自動的に積み立てるサービスにより、無意識的に資産形成するチャンスを増やしてくれるようになる。2017年から2018年にかけてが、WealthNaviの勝負の年になる。貯金・預金が多く資産形成に消極的な日本人に寄り添った同社ならではの温かみのある「資産運用」は果たして実現されるか、期待したい。

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    最終更新: 12月23日(金)15時00分

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