空の安全を確保する飛行機「チェックスター」を見に行った

アスキー 12月24日(土)12時00分配信

 鳥のように自由気ままに空を飛べる飛行機。でも個々の飛行機が自由気ままに飛んでいると、進路が交差してしまったり、前の飛行機に追いついてしまったりでとても危険。飛行機は車と違って速度を落とし過ぎると飛ぶ力(揚力)を失ってしまうので、車のようなフルブレーキをかけられないのだ。

 次の図は、世界各国の飛行機が飛んでいる瞬間を捕らえたもの。一種のレーダー画面だと思ってもいい。右側は日本で、左側はアメリカの南部まで表示してある。この一瞬にも世界には、これだけ多くの飛行機が空を飛んでいるのだ。

空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
右側が日本、左はヨーロッパ。この瞬間に世界中をコレだけの飛行機が飛んでいる。といっても一部出典:FlightAware

 一見無秩序に飛んでいる飛行機だが、実は道路よりも厳しいルールの元、秩序正しく運航されている。だから混雑していても、安心して目的地まで快適な空の旅を満喫できるのだ。

 その最たるルールが、空にある見えない道とインターチェンジ。先のレーダー画面を見ると、ありの大群が道を成すように、飛行機のマークが道を成しているのが見えてくるだろう。一番分かりやすいのは、アメリカ東海岸を出てヨーロッパに向かう大西洋横断。よく見ると6車線ぐらい軌跡が見えてくるはずだ。

空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
パイロット用の道路地図。これは近畿・四国地方だが、全国に見えない電波の道がある出典:国土交通省

 こうして空には、目に見えない電波の道が作られていて、高度や速度が厳しく守られている。今回は、見えない空の道を整備する、国土交通省の航空局 交通管制部 運用課の方から、驚きのメンテナンスを教えていただいた。

空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
実機を未ながらお話を伺った国交省の皆さん。左から飛行検査センター 飛行検査官の小黒 和哉さん、同センター 専門官(パイロット)の菊池 義人さん、航空情報・飛行検査高度化企画室 係長の高田 靖士さん、飛行検査センター 次席飛行検査官の水流 良一さん

 先に世界的なレーダー画面を見てもらったが、もう少し身近なところを見てみよう。それが下の画像だ。これは右側が千葉の房総半島、左が山口県までを示したもの。世界地図では無秩序に飛んでいるように見える飛行機も、拡大するとこうしてキレイに順序良く、いくつかのコースの上を飛んでいるのがよくわかるだろう。

空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
緑で表示されている飛行機は、羽田を出発した便、水色は羽田に向かう便を示している出典:FlightAware

 さらに羽田空港付近だけに着目すると、北から来る飛行機も、南から来る飛行機も、必ず同じ経路をたどって北進しながら羽田空港に着陸(水色の飛行機)している。

 また緑の出発機にも特徴がある。東西南北どちらに行くにしても、羽田を飛び立った瞬間に右旋回するのだ。西に向かっている飛行機ですら、羽田を飛び立つとまず東に旋回する。

空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
直進して飛んでいる飛行機は、画面中央が神奈川県。矢印部分が羽田空港出典:FlightAware

 このように空港周辺には、まるでインターチェンジのように複雑に入り組んだ道筋があり、飛行機は必ずその筋に沿って飛ぶようになっている。

 また、空港と空港を結ぶ大動脈は、高速道路のように直進する道筋が設定されている。いわば高速道路のようになっているのだ。そして飛行機は前の飛行機を追い抜かないように、一定の距離を置いて順序よく飛んでいるのがよく分かる。

空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
夜になるとよく分かる着陸機の隊列。ここから写真右側奥に大きくターンして羽田に着陸する。羽田空港北側の埋め立て島から撮影

 さらに言うと、国と国をつなぐ国際高速道路も設定されていて、これらは一番高い高度を飛ぶようになっている。なので日本上空を通過するアメリカ-韓国や中国間の飛行機と、国内線の飛行機が同じ経路をたどっても、高度が違うため衝突することがない。

 空港周辺はさらに低空を飛行するので、空港間を結ぶ高速路線と交差していても、これまた衝突することがないように、うまく道が作られているのだ。

空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
白い飛行機は成田発着便もしくは日本上空の高高度の国際高速道路を飛行中の飛行機。羽田発着便と一部交差しているが、高度が違うので衝突しない。よくできてるなぁ出典:FlightAware

電波で作った見えない道のゆがみを修正
なんとその誤差はcmオーダー!!

 道を作るにはどうしたらいいか? それは2つ以上の点を作ればいい。今でこそGPSが発達したので、地図上に「ここ!」と点をいくらでも設定できるが、以前はそんなことができなかった。そこで考えだされたのが、電波による(点)ポイントだ。それがVORという地上の無線施設。

空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
特徴的な形をしているVOR。写真は後述する距離のマーカーも併設したVOR/DME。通称ボルデメ出典:国土交通省

 向かいたいVORに無線のチャンネルをセットすると、計器に飛行機の進行方向とVOR局の位置(ラジアル)が表示される。また2局のVORを捕らえると、その直線から左右どれだけ進路がずれているかも表示できる。

 目的のVOR局を通過したかどうかを見極めるのは簡単。VOR局を通過すると、計器の針が進行方向と正反対にクルッっと回る(通過したので進路の反対にVORがある)のだ。そこで改めて次のVOR局を指定してやれば、地球上のすべての陸地の上に電波の道が作れるというわけ。

空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
これは検査機器の画面だがコクピットにも表示できるVORの計器。緑が2点のVORを結ぶ線で、他印に向きがVOR局の方向を示す。この場合、自機は道筋のちょっと左を飛んでいるという意味

 ただ、向きだけだと不便なので、DMEという局と飛行機の間の距離を示す電波局も併設している場合が多い。これで距離と向きがわかるので、巡航速度で割り算すればあと何分で次のVOR/DMEに到着できるかもわかるのだ(実際には高度が加味された距離が出るので、地上での距離をピタゴラスの定理や三角関数を使って計算する)。

空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
飛行機の安全運航と円滑な輸送を可能にする無線局の数々。これらはすべて検査対象となる出典:国土交通省

 こうして真っ暗の夜でもVOR/DMEの電波をたどって飛行すれば、世界中のどの空港にもいける飛行機だが、それはあくまで「VOE/DMEが正しい電波を出している」という前提の元。老朽化で精度が低くなることもあれば、自然災害などで正しい電波を出せなくなる場合もある。

 そんな超重要な道しるべを日夜検査しているのが、国交省のチェックスター。中部セントレア空港に基地を置き、日本のあらゆる無線航行施設を検査する、いわば空の「ドクターイエロー」だ。

空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
国交省が配備している全6機のうちの1機。プロペラ小型機で有名なセスナ社の小型ジェット、サイテーション525C-CJ4。キャビンは大型ワゴンぐらいなので立って歩くのは無理
空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
超カッコイイ、コクピット!
空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
いやー、飛ばしたいなぁー。着陸できんだろうけど……

 世界に名だたる大企業の社長が乗るビジネスジェットのようなこの飛行機。実は自機の位置をGPSや、それを補正する地上のさまざまな無線局やデータリンクを使って数cm単位で把握できるという、軍用機も真っ青のハイテクマシン。

 これを使って「本来のあるべき値」と実際のVORの向き、DMEとの距離を測定し、電波の誤差を発見・報告するのだ。

空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
ミッションは測定器を使ってこんなデータを取ること出典:国土交通省
空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
そしてこんな報告書を作ること。この地味さが国交省なのだが、これが飛行機の安全を守る基盤となっている出典:国土交通省
空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
検査対象は数知れず。1週間のうち4日飛んで、1日3、4空港のチェックを行なうという。お疲れ様っす!出典:国土交通省
空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
検査中の測定器。ここではVORとTACANの複合局のVORTAC(ボルタック)を検査中の様子出典:国土交通省

 また管制官と通信するための音声用無線通信局、飛行機のコンピューターとデータリンクするための無線施設など、さまざまな無線によって運航は見守れている。これらについても不具合がないかを、日夜検査している。

空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
管制に利用するレーダーなども検査の対象となる出典:国土交通省

空港周辺は安全に離着陸するための無線だらけ
目視に計器測定に大忙しのチェックスター

 さて先に見てもらった羽田空港周辺の飛行機が、同じ軌道を描いて着陸してくるレーダー画面があった。VOR/DMEの仕組みが分かった今なら、ぴたりと軌跡が一致する不思議がよくわかるだろう。

 次の地図は、世界のパイロットに向けて国交省が提供している「空港着陸ガイド」だ。通称「STAR」という地図。

空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
STARを日本語にすると標準着陸経路。矢印部分が羽田空港でグレーが東京湾。東京湾南に飛び出た細い道が東西に伸びる国際線D滑走路D。416と書かれたあたりに南北に2本あるのが、第1、2ターミナルから見える滑走路出典:国土交通省 AIS
空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
先のレーダーの画面と見比べると、千葉の富津岬をかすめて着陸してくる姿がよく分かる出典:FlightAware

 ここにマークされているのがVOR/DMEではなく、GPSを使う通過ポイントだが、次々に点を追っていくという航行はどちらも同じだ。これに先のレーダーを重ねるとピタリと一致しているのがわかるだろう。

空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
これは東北・北海道方面から羽田に着陸する場合の広域地図。楕円が書かれているのは、飛行場がいっぱいで空中待機する場合の指示。ここで旋回して待ちなさいということ出典:国土交通省 AIS

 また次の地図は通称「SID」という「空港出発ガイド」だ。冬は北風を受けて、地図の下から上に向けて飛行機は離陸するので、どの飛行機も必ず右旋回しTORAM/PLUTOを通過するように指定されている。

空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
矢印が第1、2ターミナルの滑走路。国際線D滑走路は必ず東に飛び立つ。その後みんなPLUTOを経由して、SEKIYADO VOR/DMEへ向かうように書かれている出典:国土交通省 AIS
空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
羽田出発機。このあと大きく右にターンしてPLUTOと目指す

視界不良でも着陸できるようになったのは
ILSのおかげ!

 大空の上から見る滑走路に飛行機を着陸させるのは、針の穴に糸を通すより、1000倍難しい。いやもっとかも? なにせ滑走路のどこに着陸してもいいというわけではなく、滑走路端の中心に着陸しなければならないのだ。

 なので霧が出たり大雨や雪で視界が悪くて滑走路が見えなくなると、代替空港に着陸(ダイバード)したり、引き返して欠航ということが一昔前はよくあった。でも最近「視界不良のため欠航」という便が少なくなったのは、これもILSという電波よる誘導で、視界ゼロ(実際には50m)でも安全に着陸できるようになったため。

 もちろん羽田や成田などの国際空港には、ILSの電波誘導着陸が可能になっている。それ以外でも霧がよく発生する釧路や青森空港などには、羽田以上の高精度ILSが導入されている。だから欠航便が少なくなったというわけ。その仕組みを示したのが次の図だ。

空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
滑走路の左右中央に導くのがILSローカライザー。着陸地点に適切な侵入角で下ろす坂道がILSグライドスロープ(グライドパス)。そしてマーカーと呼ばれる距離計もついている出典:国土交通省

 着陸時は、まず滑走路の中心に進入しなければならないので、左右それぞれ3度の範囲で中央に案内する電波が出ている。これを格好よく言うと「ILSローカライザー」。

 対して滑走端までの進入角度(大地に対しておよそ3度の坂道)を電波で示すのが「ILSグライドスロープ(またはグライドパス)」という。

空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
滑走路の両端についているILSローカライザーのアンテナ。これで滑走路の中央に機体を誘導する出典:国土交通省
空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
滑走路の中ほどにあるILSグライドスロープのアンテナ(左)。3つの箱状のところから電波が出る。右に立っている短いものは、ここまでの距離を示すDMEのアンテナ出典:国土交通省

 パイロットは管制官にILSを使って着陸することを宣言すると、ILSの電波の範囲内まで誘導してくれる。そして飛行機の計器がこの電波を捉えると、副操縦士は「ILS(ローカライザー)キャプチャー!」とコール。

 飛行機の姿勢制御する画面には、十字のマークが表示され画面中央に十字がくるように操縦すれば、視界が悪くても電波で着陸できるというわけだ。

 最近の飛行機は、ILSと自動操縦をリンクさせて完全に自動着陸できるまで技術は進歩しているが、万が一のために備えパイロットが操縦かんを握っている。

空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
一番上のG/Sは、グライドスロープの電波をキャプチャー中という意味。DME 8.7は、先のグライドスロープアンテナの隣にあったDMEからの距離。つまり着陸地点までの距離を示す。中央の十字は、飛行機の姿勢指示器に重ねて表示され、画面中央になるように操縦すれば、外の景色を見なくても滑走路の正しい位置に着陸できる出典:国土交通省
空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
実際の計器。上段が姿勢指示器。下段はILSローカライザの電波をキャプチャしている。今チェックスターは、滑走路に対しておよそ90度で駐機しているので、ILSのローカライザが横矢印で表示されている

 ILSは先に紹介した着陸ガイドにもしっかり記載されている。

空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
斜線部分がローカライザーの電波が飛んでいる部分を示す。なお下段は上の地図を横から見たところで、GP3.0°とあるのが、グライドスロープ3度で進入せよという意味出典:国土交通省 AIS

 管制官は左下の千葉県富津市のマザー牧場近くにあるマーカー「ARLON(アーロン)」(矢印)経由で北北東337度(実際には下1桁を四捨五入して34)に頭を向けるように指示。向かう先には、先に紹介したHANEDA VOR/DMEがあるのがわかるだろう。

 チェックスターはこれらの着陸用ILSの無線設備も厳重にチェックして、あるべき値になっているかを確認している。

 万が一ILSが故障してしまったり、飛行機側がILSに対応していない場合用に、ILS導入空港ではPAPIと呼ばれる進入角度指示灯も備えている。似たような装置が、空母の着艦デッキにも備えられてるほど、万が一のときに有効なものだ。

 正しい進入角度で降下してくると、白白赤赤のライトが見えるように調整されており、高度が高すぎたり低すぎたりするとパターンが違って見えるようになっている。

空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
矢印部分がPAPI。白白白赤は、やや高すぎ。エンジンを絞って高度を落とす必要がある出典:国土交通省
空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
オール赤なので高度低すぎ。エンジンをMAXにして、ゴーアラウンドする必要がありそうだ出典:国土交通省

 チェックスターはこれらの光学系の装置もチェックする。滑走路を横断するように弓形に飛行。機長は、布を糸で縫うように高度を上げ下げして飛行。隣の副操縦士は、PAPIが白白赤々になった瞬間に「マーク!」とコール。これを受けてエンジニアが電波高度計の値を調べ、正しい進入角を示しているかをチェックするのだ。

 また空港にはこれ以外にも運航に必要なランプがたくさんあるが、実際に上空から見てキチンと見えるかどうかも確認している。

空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
上の飛行経路のように、滑走路を横切るように弓状に飛行して、PAPIやILSグライドスロープのチェックをする。なにぶん飛行経路を横切ることになるので、早朝の5~6時ごろの民間機の飛んでいないタイミング狙ってチェックするという出典:国土交通省

東京オリンピックに向けて
羽田の発着枠を確保せよ!

 この着陸・出発ガイドは頻繁に更新が行なわれる。冬は北風が多いので、南から北に向けて着陸・出発を行なうが、夏になると北から南に向かって行なう傾向がある。

 ここまで飛行機の離着陸に詳しくなったあなたなら(笑)、どうすれば枯渇する羽田の発着便枠をもっと広げられるのが理解できるだろう。

空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
現在の羽田:北風時の離着陸機。赤が着陸、青が離陸機出典:国土交通省

 羽田空港の展望デッキで空を見上げたことがある人は、よくご存知のとおり。北風のときは千葉側に十分な直進区間があるので、ほとんど2機同時に着陸させている。コレすごく効率的。

 でも出発機は、かなり右に急旋回して飛んでいくので、2機同時に離陸させるのは危険(車を運転しててカーブだと2車線あっても隣のレーンに気を使うのといっしょ)。なので離陸機は、片方の滑走路しか使わなくなり、離陸機の大渋滞が発生。すると滑走路が空かないので着陸機が降りられないという悪循環にはまるのだ。

 それでもD滑走路(もの凄いUターンをさせて、着陸機の進路を横切るのでかなり荒業)を使って発着枠をなんとか増やしているというのが、今の羽田現況だ。これでさばける飛行機は、80機/時間が限界。

空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
オリンピックまでにはこうしたいという案:北や西に向かう離陸機は荒川沿いに飛ばし、騒音を抑えながら高度を稼ぐ出典:国土交通省

 新案は、問題の根源となっている出発機の急カーブをなくし、荒川沿いを飛びながら高度を上げていくという方法だ。さらにD滑走路からの出発機は、着陸機の進路を横切らない南へ向かう便と国際線が使う(ただしコレは昼間の時間帯で、早朝と夜間は騒音防止で、海上を飛行させる)。

 こうするとさばける機体が90機/時間まで増えるため、昼間の8時間の発着枠を広げると10機×8時間で80機の枠が増えるという計算だ。

 そこで、電車で言う試運転をチェックスターが行ない、うまく荒川沿いをトレースできるのか? パイロットや飛行機のロードワークに問題がないか? VOR/DMEの精度に問題はないか? などをチェックしていくのだ。

 ちなみに次は南風の場合。どこが問題なのかはすぐにおわかりだろう。離着陸機が互いの進路を横切るという大技を繰り返し、無理くり飛行機をさばいているのだ。

空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
現在:南風時。もう進路交差しまくり。お盆は離陸も着陸も相当待たされるはず。これも捌けるのは、80機/時間出典:国土交通省
空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
オリンピックまでにはこうしたいという案:都心上空をILSを使って誘導して2機をほぼ同時に下ろせる。これで90機/時間捌けるようになる出典:国土交通省

 一方、飛行機のエンジンは新型機の登場でどんどん静かになっている。空港見学をしたことがあればおわかりのとおり、ボーイング777や787などは、飛び立ってしまうとかなり大きく見えていても音は小さいのだ。おそらく昼間に都心の上空を旅客機が通過したとしても、うるさいと感じる人は昔よりも少ないだろう。

空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
最新機種はどんどんエンジン音が静かになっている。また昔ほどキーン!という高い音がしなくなった

 現在は、できるだけ都市の上空を飛ばないよう、グニャグニャ曲がって離着陸している。先に紹介したレーダー画面で、飛行機の軌跡がややこしかったのはこのためだ。

 羽田国際線増便の目的は以下のとおりで、海外からの渡航客も爆発的に増えるため、羽田の発着枠を増やす必要性がある。

 そこで、離着陸ルートの変更を検討しているわけだ。新ルートが決まった際にはチェックスターが安全運航に問題がないかチェックするのだ。

空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
2020年には都心の上空を羽田に向かって同時に着陸する勇士を見られるだろう

これであなたもチェックスター博士!
全アンテナをまるっと紹介!

 いろんな無線機器を調べるチェックスターだけに、機体に搭載されているアンテナの数が旅客機以上にパネェ。なので、1個1個のアンテナを解説しているサイトは、世界中を探してもほとんどないと思うので、無線技師の小黒さんに、全部教えてもらった。

空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
コクピット上にある右側の平たいアンテナはGPSアンテナ。その左にある羽の形をしたのがトランスポンダ(飛行情報などのデジタル情報リンク用)用のアンテナ
空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
トランスポンダのさらに後ろにある平たいアンテナは、TCASと呼ばれる「空中衝突防止装置」用アンテナ。近くを飛行する飛行機に自機の高度と進行方向を知らせ、互いに衝突する危険性がないかを判断する。もし進路が交わる場合は、自動的に回避行動を取る安全装置
空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
羽根型で1本飛び出ているいかにもアンテナ!っていうのは、通信用のVHFアンテナ。地上にいるときは高さを稼げる屋根のアンテナを使う。電車の先頭車の屋根上にもよく付いているヤツ
空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
赤いロゴの上にあるのは、GPSアンテナを補強するOmniSTARの電波を捕らえるアンテナ。これでGPSの精度は20cm以内となる!
空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
機体後部のアンテナは、右がVHFアンテナ、左がVHFとUHF共通のアンテナとなる。VORやDMEなどを捕らえる
空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
機体屋根と尾翼に張っているロープのようなものは、遠距離通信用のHFアンテナだ
空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
下に回ってコクピット足もとには、トランスポンダ
空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
ノーズギア(車輪)後ろは、地上に向けたVHFアンテナ
空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
TACANと呼ばれるVOR/DMEの進化版マーカー受信用で左右で遂になっている。もともとアメリカ軍が使っていた方式なので、和名は「戦術航法装置」と物騒なものに
空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
羽の付け根下の機体ほぼ中央にあるのは、マーカー用アンテナ。着陸時に空港からの距離を測定する
空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
こちらも衝突回避用のTCASアンテナ。自分より下にいる飛行機と通信する。その後ろに見えるのは、アンテナでなく排水口。左上のLEDライトは、着陸時に灯すランディングライト
空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
データリンク用UHFアンテナ。GPSの精度を高めるOmniSTARでは20cmほどの誤差まで精度を上げたが、これをさらに補強する地上とのデータリンク(RT測位)を使って、数cmの誤差まで精度を高める。移動しながら測定するため、その移動距離やドップラー効果もジャイロで補正するという
空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
最後尾についている地上向けVHFアンテナ2本と、それにはさまれたアンテナに見間違える排水口
空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
垂直尾翼の左右についているILSのローカライザーアンテナ。これで滑走路中心への電波をキャプチャー!
空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
ちなみにこれはアンテナじゃないけど、電波を地上に向けて発射し、跳ね返ってくるまでの時間を調べて高度を調べる電波高度計

空の基盤を作り空の安全を担保するチェックスター
それは仕事でなく愛情のような姿勢の上にあった

 誰にも見えない裏方で、もくもくと飛行機の安全運航を支えるため、日夜電波の道をメンテナンスするチェックスターのクルーたち。当たり前の空の安全は、たくさんの人々の日々の仕事の積み重ねで確保されていることに感謝したい。

空の安全を確保する飛行機「チェックスター」
空の安全を確保する飛行機「チェックスター」

 なにより驚いたのは、国土交通省なのにお役所じゃないところだ(失礼!)。今回取材させていただいた皆さんは、空や飛行機や無線が大好きで、とかく「仕事」としてやってしまう緻密で面倒な検査を、「まるで趣味のように嬉々として」やっているところだ。筆者はヒコーキマニアでもあるため、取材と趣味の話がごっちゃになって、今年一番慌しいインタビューになってしまった。

 最後にいい意味で、国土交通省らしくない「チェックスター」のPV(出典:国土交通省)を見て欲しい。管制の声も入っているので、左下の英字幕を読むとよく分かる。

 年末に飛行機で帰省する人は、cmオーダーで飛行機が飛んでいるということや、離着陸経路に注目して乗ってみて欲しい。そこには新しい「飛行機」を見つけられるだろう。

アスキー
もっと見る もっと見る

【あわせて読む】

    最終更新: 12月24日(土)12時00分

    【関連ニュース】

    【コメント】

    • ※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

    【あなたにおススメ】