ネットメディアは良質な投稿とレスポンスじゃないといけない

アスキー 01月01日(日)12時00分配信

 インターネットが普及するはるか前に、インターネットのようなものを作った男がいた。彼の名を橘川幸夫(きつかわゆきお)という。

 大学在学時の1972年に渋谷陽一、松村雄策、岩谷宏らと「ロッキング・オン」を創刊。その後、完全投稿制による雑誌「ポンプ」を1978年に創刊というのが彼の主なプロフィール。彼が辞めて以降のロッキング・オンは当たり前の商業音楽誌になったが、ポンプは最初から現在のソーシャルメディアのプロトタイプのようなものとして設計されていた。早過ぎたインターネットだったのだ。

「ロックはミニコミ」早過ぎるインターネット作った橘川幸夫が語る
「おしゃべりマガジン ポンプ!」。発行社は、現代新社。JICC出版局(現在の宝島社)の子会社だった。現代新社は現在は洋泉社になっている。刊行期間は1978年12月から1985年7月まで

 しかし、現在のインターネットはポンプの刊行時に思い描いていたようなバラ色の世界をもたらさなかったし、良くも悪くもソーシャルメディアの雰囲気が世界の行方を左右するような兆候すら見られる。この先、インターネットやメディアはどうなればいいのか。

 よし、早過ぎたインターネットを作った人に聞いてみよう!

 ということで連載第7回は、ポンプ創刊から導き出された参加型メディアの本質、その正体にせまるの巻。いつものように、聞き手は若者代表20代の編集部西牧くん、それに橘川さんとは長い付き合いの四本が適当にチャチャを入れながらで進行します。

過去の記事はこちら。
1回目 「ロックはミニコミ」早過ぎるインターネット作った橘川幸夫が語る
2回目 深夜放送はイノベーション、橘川幸夫が語る1960年代のラジオ
3回目 「締切は不愉快」 いま明かされるロッキング・オン創刊秘話
4回目 新しい技術を使って儲けるために知っておくべきコツ
5回目 デヴィッド・ボウイからパンクの移行は商業ロックへの反動だった
6回目 まるで2ちゃんねる、すべて投稿で成り立たせた雑誌「ポンプ」

デヴィッド・ボウイからパンクの移行は商業ロックへの反動だった
ポンプから生まれた有名人の代表が漫画家の岡崎京子。プロの漫画家としてデビューする以前から常連投稿者として人気が高かった。2015年に世田谷文学館から始まった巡回展示「岡崎京子展 戦場のガールズ・ライフ」が福岡天神の三菱地所<8802>アルティアムで開催中。会期は2017年1月22日(日)まで。彼女のエピソードは橘川幸夫近著「ロッキング・オンの時代」でも読める(画像は公式サイトより)

完全投稿雑誌の創刊号は無理ゲー

四本 ポンプ創刊のときは、橘川さんはプロモーションで11PMに出てたよね。中学生の時に見たぞ。

西牧 なんですかイレブンピーエムって。

橘川 淫靡な中学生が見るような深夜番組です。東京は日本テレビで大橋巨泉が、関西は藤本義一が司会やってね、僕が出たのは関西の読売テレビのスタジオ。司会は藤本さんで、泉谷しげると、当時関西情報誌で有名だったプレイガイドジャーナル(ぷがじゃ)の林くんらが一緒に出たな。読者が撮影して送ってくれたテレビ画面の写真もあるぞ。

ネットメディアは良質な投稿とレスポンスじゃないといけない
宣伝のために淫靡な番組に出た20代の橘川さん

四本 あのね、俺はただセーラ・ローウェル見たさのピュアな気持ちですから!

西牧 なにもかもまったくわかりません……。

橘川 まあ、いろいろメディアにも取り上げられてポンプは業界的にも話題になって、創刊号は8万部ですからね。

西牧 ほー。

橘川 おまけに僕がやってたときは、一回も赤字を出したことがない。

四本 はい、注目です。これは橘川さんにしては、珍しいことですよ。

橘川 だって原稿料がタダだもん。

西牧 あ、そうか。

橘川 そしたら新聞社やら出版社やらの人が様子を覗きに来るわけだ。「君が橘川くんかね、やるねえ」とか言ってさ。それで「完全投稿制の雑誌、実は俺も考えていたんだよ」とか言うヤツ出てくるんだよ、必ず!

西牧 あはははは!

橘川 ウォークマンのときもいたじゃん。実際に製品が出てくると「実は我が社も研究開発していました」とかさ。じゃあなんでお前はやらなかったんだって、思うわけじゃない。

西牧 負け惜しみみたいなものですよね。

橘川 それもあるけど、完全投稿の雑誌は創刊号が作れないんだよ。

四本 創刊前に投稿を集めるのは無理だから。無理してやってもヤラセになっちゃう。

西牧 あ、そうか!

橘川 じゃあなぜ俺らができたか。それは俺の家がロッキング・オンの編集部だったからだ。

西牧 ん?

橘川 つまりだな、ロッキング・オンの編集部にはバックナンバーの注文が来るわけだな。それを俺とおふくろ2人で宛名書きして発送していたんだよ。

西牧 なにか、家内制手工業のようで、しみじみとしますが。

橘川 そこに手紙を一緒に入れたわけ。俺は全面投稿雑誌をやりたい。ついては原稿を書いてくれと。そこでネットワークという言葉を俺は体で覚えたんだ。読者3000人ぐらいが協力してくれた。いろんなレベルがあるんだけど、創刊号にはその協力者の名前も書いたよ。あまりに多すぎて、「あ」「い」の行だけで載せきれなかったが。

西牧 じゃあ、元はロッキング・オンの読者?

橘川 そう。そのときに出したのがこれ。自腹で作ったポンプへの呼びかけパンフレット。これを自腹で作って送ったから、JICCの社長は、橘川は本気だ、と認めてくれた。これは貴重だよ、おい四本、撮っておけよ。

四本 へいへい。でもさ、これって一種のアジビラだし、クーデターみたいなもんだよね。

ネットメディアは良質な投稿とレスポンスじゃないといけない
バックナンバーを注文した人に送られたポンプ創刊趣意書

橘川 その中に、レビューとかインタビューとか、こんなフォーマットがあるよという例を出したわけだ。で、創刊前に、3号分いっこも投稿来なくても出せる原稿が貯まった状況にして創刊した。

西牧 じゃあ、結構反応が良かったんですね。

橘川 うん、良かった。みんな書いてきてくれたからね。準備を始めてから1年半はかかってるけど、この協力メンバーがいたおかげで創刊できたんだ。で、そのときにデジタルメディアとオールドメディアの根本的な違いを知っちゃったんだ。

西牧 と、いいますと?

ネットメディアの本質はレスポンス

橘川 最初に言ったジャズとロックの違いなんだよ。旧来の音楽は、才能のある人がやるものなの。才能がある人というのはオリジナルなものを作れる人のことね。ところがロック以後というのは、そうじゃないんだよ。あれはなにかにインスパイアされて、自分の表現を見つけてきたコラージュみたいなものなんだ。だいたい演奏がヘタじゃん。

西牧 あ、それはまあ確かに。

橘川 たとえばなにもない広場でね、ここでなんでも好きなことをしゃべってくださいと言われて、好きなことをしゃべるやつというのは、まあ頭おかしいんだよ。

西牧 はははは!

橘川 それができる人は天才なんです。マイルスなら演れるかもしれないけどさ。なんでもいいから書いてくださいと言われて、普通の人がおもしろいものなんか書けるわけないんだよ。ところが、すでに書かれたものについてなら書ける。「俺はそうは思わない」とか「もっと良い情報がある」とか、ね。レスポンスが実はネットワークメディアの本質なんだ。

西牧 うーん、なんだか示唆深い話ですね。

橘川 最初のネタが腐っていると腐ったレスポンスしか来ないんだよ。連鎖していくの。

四本 最近のPost-truthとか、まさにそれですよ。

橘川 だから最初に良質な投稿がなければならない。ヤラセじゃダメなんだ。女子高生の実態は、女子高生自身が書かなければならない。逆に、オリジナルを書ける人は書けばいい。普通に旧来の出版社に原稿を持ち込んで、小説家は小説を書けばいいんだ。ネットというのはそういう世界ではなくて、必ずなにかのレスポンスで派生したものなんだ。コンテンツは自分のもののようであって、そうじゃない。旧来の表現は「クオリティー」で勝負だから、その競争をすればよい。しかし、ネットワークの表現は時代を共有するという「ライブ感」で勝負なんだよ。

 1980年代にアスキーネットやNiftyが始まってね、俺も相談を受けたけど忙しくてさ。やれば良かったと思うんだけど、システム屋が主導したからね、みんな「メディアは無限の白紙状態です。みんなが好きなことを言える広場です」と言ったんだよ。そんなことを言ったら変なやつしか集まらない。変なやつが集まれば、変なやつの連鎖しか始まらないわけだよ。その果てがあわわわわのほにゃららだろ?

四本 なんでそこで固有名詞をボカすんですか!

西牧 まあ、いずれにしても、良質なメディアのためには良質な元ネタが必要ということですね。

橘川 そう。雪だるまの中心に固い石ころをいれておくようなものだ。その石ころを転がして雪を積み重ねていく。それをやるのがネットワークメディアの新しい編集者。いままでは何々の権威とか、偉い人、有名な人を呼んできて、それをクオリティーと称して売ってきたんだ。でもネットはライブ空間なんですよ。ライブは個々人の実感であり、体験なんです。他人ごとではいけないんだ。ということをね、ポンプで学んだんだ。

四本 人生、いろいろ学ぶことは多いですね。

ネットメディアは良質な投稿とレスポンスじゃないといけない
ポンプで学んだ男、橘川幸夫。これは、その謙虚な姿勢を示すポーズです

(では引き続き学んでいきましょう、また次回!)



アスキー
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    最終更新: 01月01日(日)12時00分

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