業界に痕跡を残して消えたメーカー サウンドカードでCreativeと競ったMedia Vision

アスキー 2017年01月09日(月)11時00分配信

 新年最初の、業界に痕跡を残して消えたメーカーは、Media VisionとAureal Semiconductorを取り上げたい。建前上は別のメーカーで、少なくとも経営陣には継続性はないのだが、実質的には1つのメーカーである。

 どちらもサウンドカードを扱っていた会社であり、Creative Technologyと長く争ったメーカーでもある。いきなりMedia Visionの話をする前に、まずCreative Labsを中心にサウンドカード市場の生い立ちを簡単に解説しよう。

 ちなみに、古い読者の方にはCreative TechnologyではなくCreative Labsの名前の方が親しみがあるかもしれない。Creative LabsはCreative Technologyの子会社にあたり、本社はシンガポールにあるCreative Technologyである。

 現在ではCreative Labs America/Europe/Asiaという3つの子会社があり、それぞれがその地域における営業やサポート、トレーニングなどを担う形になっている。Sound Blasterなどの製品には両方の表記があったりする関係で、どちらでも間違いではないのだが、本稿ではCreative Technologyで統一する。

業界に痕跡を残して消えたメーカー サウンドカードでCreativeと長らく競い合ったMedia Vision
ジャンク箱の奥から出てきたSound Blaster X-fi Xtreme Audio。左上に“CREATIVE TECHNOLOGY LTD”の表記があるのがわかる
業界に痕跡を残して消えたメーカー サウンドカードでCreativeと長らく競い合ったMedia Vision
裏面のシールのいちばん上には“Trade Name: Creative Labs”の表記がみえる

ビジネスをPCからサウンドカードに切り替えた
Creative Technology

 Creative Technologyは1984年、Sim Wong Hoo氏とNg Kai Wai氏の2人によって創業された。なお、創業に当たって集めた資金は6000ドルほどだったようだ。

 当初はショッピングモールの小さなパソコンショップで、おもにApple IIに向けた拡張カード類などを扱う店だったが、そのうちApple IIをベースにしたCubic 99なるマシンを製造した。

 Cubic 99は、独自のサウンドチップを搭載して音を鳴らしたり喋ったりできたのがApple IIとの違いで、“Talking Computer”として知られたらしいが、商業的に成功したか否かは不明である。

 1986年、同社は50万ドルあまりを投資して、IBM-PCのマーケットに参入する。特にシンガポール地域に向けて英語と中国語を翻訳できるようなマシンとしてCubic CTというシステムを作るが、これは商業的には失敗だった。

 ただCubic 99の頃からSim氏はサウンド周りに強みがあったこともあり、ビジネスをサウンドカードの製造に切り替える。1987年に同社が開発したC/MS(Creative Music System)は、PhilipsのSAA1099という6声の同時発声可能なチップを2つ搭載して12声を同時発声できることを強みにしていた。

 これを完成させてからSim氏は米国にCreative Labsを設立し、米国での売り込みを図るものの、Ad Lib, Inc.のALMSC(AdLib Music Synthesizer Card)にあえなく敗退する。

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ALMSC。ボリュームがついているのが微笑ましい。なぜかOPL2チップの表記が削られている

画像の出典は、“The Centre for Computing History

 Ad Lib, Inc.は1987年に創業し、同年このALMSCを発表したばかりだが、いくつかのゲームが当初からALMSCのサポート(語感の都合か、普通はAdLibのサポートという表現になっていた)をうたっており、これが理由で多くのソフトが追ってAdLib互換をうたうようになっていた。こうなるとALMSCと互換性のないC/MSは受け入れられなかったわけだ。

Sound Blasterの発売で
ライバルAd Libを倒産に追い込む

 これでへこたれないSim氏は、C/MSの上にALMSCと同じくOPL2ことヤマハ<7951>のYN3812チップを搭載し、独自のDSP(いわゆる“Digital Signal Processor”ではなく、PCMの録音/再生機能を持つ“Digital Sound Processor”)チップまで搭載、さらにゲームポートを追加と、機能てんこ盛りにして1989年に投入したのがSound Blasterである。

業界に痕跡を残して消えたメーカー サウンドカードでCreativeと長らく競い合ったMedia Vision
Sound Blaster。左上の大きなDIPがDSP、その下のシールがはがれかけてるチップがSAA1099、その右にある太めのDIPがOPL2と思われる

画像の出典は、“Wikipedia

 OPL2チップを追加したことでAdLib互換となり、これまでAdLibしかサポートしてこなかったゲームなどでも普通に音が出るようになったうえ、ゲームポートを標準搭載したことでジョイスティックなどのゲームデバイスをそのままつなげることが可能になり(*1)、またDSPの搭載によってゲームにおける効果音などの再生ができるようになった。

 これによりゲーム業界は急速にAdLib互換からSoundBlaster互換にシフトを始める。AdLibも負けじと、OPL3ことYMF262チップを積んだAdLib Gold 1000を1992年にリリースする。

 こちらもゲームポートを搭載するなど、SoundBlasterへの対抗心は明白であったが、AdLib互換(というかOPL2互換)ではあったものの、SoundBlasterとの互換性を欠いたために、結局ほとんど売れることはなく、Ad Lib自身も1992年5月に倒産してしまう。

 Creative TechnologyもAd Libの資産買収に動くが、結局独Binnenalster GmbHがAd Libの全資産を買収。同社はAdLib Multimediaと名前を変えて引き続きAdLib Goldを販売するものの、売れ行きはあまり芳しくなく、1994年に台湾Soft-Worldにその全資産を売却してしまう。

 Soft-Worldがこの資産をどうしたのかは不明だが、同社は現在MMPROGの大手であって、とりあえずサウンドカードに関してはもう償却され終わってどこかに打ち捨てられてしまったのではないかと思う。

 こうしたAd Libの苦境を尻目に、Creative Technologyは次々に新製品を出して、その地位を磐石のものとする。1992年にはNASDAQにも上場し(*2)、売上げも順調に伸びていき、2年後となる1994年には6億5000万ドルに達している。ただその前に立ちはだかったのが、今回紹介するMedia Visionである。

*1:それまではゲームポートの拡張カードが必要だった。
*2:NASDAC上場は、シンガポール企業としては初めてのこと。

プロ向けのサウンドカードを製造する
Media Vision

 Media Visionという会社は複数存在しており、日本のゲーム会社であるMedia.Visionを連想される方も多いかと思うが、こことはなんの関係もない。創業者はPrabhat(Paul) Jain氏で、ファンドなどからおおよそ100万ドルを集めて1990年に会社をスタートした。ちなみにJain氏の前職は、Video-7というビデオカードメーカーのCEOである。

 最初の製品が1991年に出たPAS(Pro Audio Spectrum)で、ついでPAS Plusを経て1992年には非常に有名なPAS16をリリースする。

 初代のPASは8bit ISAのカードだが、OPL2をデュアル搭載しており、両方を同時に駆動して、アナログミキサー経由でまとめて出力できるという、ややプロ向けで一般には使いにくい製品で、大きく成功したとは言いがたかった。

 これにSoundBlaster互換のCD-ROM I/F(*3)や、16bit音声の再生機能をつけたのがPAS Plusで、SoundBlasterとの互換性を高めた製品である。

 ただ本命は次のPAS16であった。こちらはOPL3を搭載したほか、コーデックチップにCrystal Semiconductorの16bit CODECを搭載。さらにCD-ROM用にはNCR5380互換のSCSIチップを搭載しており、おまけにSoundBlasterのDSPと互換の音声チップ(*4)を搭載するという、これまた全部入りの製品であり、急速にゲーム業界やプロオーディオ業界の支持を集めることになる。

 PAS16は、ちょうどCreative Technologyが1992年に出したSound Blaster 16と真っ向勝負することになり、北米地域では実際良い勝負になっていた。

業界に痕跡を残して消えたメーカー サウンドカードでCreativeと長らく競い合ったMedia Vision
左のSCSIコネクターのすぐ脇にOPL3、その上にThunderチップがある。そのやや右脇の大きなものがおそらくSCSIコントローラーだ

画像の出典は、“Wikipedia

 Media VisionはPAS16の成功に続き、ビデオカード向けにも参入し、独自のMVV452コントローラー+Cirrus LogicのCL-GD5402を搭載したProGraphics 1024や、メモリー搭載量を増やしたProGraphics 1280などを1993年にリリースしている。

業界に痕跡を残して消えたメーカー サウンドカードでCreativeと長らく競い合ったMedia Vision
ProGraphics 1024。CL-GD5402はDOSとの互換性専用で、Windowsモードでは左端のMVV452が利用された。右にあるMVV462はDACと思われる

画像の出典は、“VGA Legacy MKIII

 またPASシリーズは、Windows 3.xにマルチメディア機能を追加するWindows Multimedia Extensionに最初に準拠した製品ともなっており、これもPASシリーズの売上げに弾みをつける要因となった。

*3:IDEあるいはSCSIではなく、34ピンケーブルを利用する独自規格のもの。
*4:Media VisionがThunder Boardとして販売していた低価格SoundBlaseter互換ボードに搭載されていたもの。

社名をAureal Semiconductorに改称
再びCreativeと競合

 Creative Technologyはここで価格面の競争を急ぐべく、Sound Blaster 16の主要な機能を1チップ化することで低価格化を実現できるViBRA16コントローラーの開発を急ぎ、1993年あたりからOEM向けを皮切りにこのViBRA16コントローラーの出荷が開始されているが、勝負は意外な形で決着する。

 1994年、Media Visionは全米27州で訴訟を起こされることになり、同年5月14日にJain氏は辞任している。なにがあったかといえば、不正経理である。

 1998年に結審した判決文書を読むと1993年2月~12月の間に、架空の出荷記録や返品の隠匿を行なっており、本来は1993年度に1億5000万ドルの売上と9900万ドルの損失が出ていたのを、2億4100万ドルの売上と2000万ドルの利益に改竄していたことと、これに関連してインサイダー取引を含むいろいろな余罪も発覚した。最終的にJain氏とCFOを務めていたSteven Allenは投獄されるに至る。他にも重役が4人ほど、有罪判決を受けている。

 経営陣がこんな調子で会社が存続できるわけもない。これでCreative Technologyは安泰か……と思いきや、単に第二幕のスタートであった。Media Visionは社名をAureal Semiconductorに改称する。

 この際に旧Media Visionのすべての製品や保有技術、商標はサンノゼのSVT Shiva, Inc.(SVTI)に売却、SVTIは製品の販売部門としてMedia Vision Innovations, Incを設立し、PASやProGraphicsなどの製品を継続販売していた。

 こんなリリースが出ており、まだビデオカードやオーディオカード、IDEカードなどの販売を継続しており、少なくとも1996年あたりまで存続したことはわかっているが、その後は不明である。

 ただこちらは大した問題ではない。問題だったのはAureal Semiconductorの方だ。名前の通りこちらはチップを作る会社で、1997年に初のサウンドチップであるVortex AU8820を発表する。

業界に痕跡を残して消えたメーカー サウンドカードでCreativeと長らく競い合ったMedia Vision
Vortex AU8820を搭載するAureal Semiconductor製サウンドカード

画像の出典は、“Wikipedia

 もちろん同社がチップだけを販売していれば問題にはならなかったのだろうが、すぐに同社はチップ単体のみならず、これを搭載したカードも売り始めることになり、ここで再びCreative Labsと激しく競合することになった。

 Vortexのコア技術は、同社がA3D(Aureal 3D)と呼ぶ3次元音響技術である。基本はHRTF(Head-related transfer function)と呼ばれる、音源と頭の位置関係によって音声伝達特性が変わることを利用して3次元的に音響を再生する技術である。例えば救急車が左から右に走っていくのが、単に左から右だけでなく、距離感や位置を正確に音で判断できる。

 Aureal 3Dに使われたものは、NASAがVIEW(Virtual Environment Workstation Project)向けにHRTFを実装したものが元になっている。この実装を請け負ったのがCrystal River Engineeringで、AurealはCrystal River Engineeringを1996年に買収し、その技術をVortexに詰め込んだ。

 この3次元音響という特徴は、特にFPSゲームやレースゲームなどには非常に好ましいもので、1998年に登場したAU8830 Vortex 2に搭載されたA3D 2.0はLucas FilmやiD Softwareといった大手ゲーム会社がサポートするに至る。

 さてCreative Technologyは同時期Sound Blaster Live!を投入する。もともとCreative LabsはISAやEISAには大きなシェアがあったのだが、PCIへの移行が遅れていた。

 そこで1998年にEnsoniq Corporationを買収し、Ensoniqが保有していたAudioPCIという低価格なPCIサウンドカードをベースに、Creative TechnologyのEAX(Environment Audio Extention)と呼ばれる3次元音響技術を搭載したEMU10K1チップを作り上げた。Sound Blaster Live!はこのチップで構成されている。ただA3D 2.0はこのEAXを完全に喰ってしまった。

 Sound Blaster Live!の方がいろいろな機能もついており、同時発声数も多い(もちろんその分高価)のだが、その市場を安価なVortex 2カードに奪われかねない状況になった。

 これに対するCreative Technologyの対抗策は法廷闘争である。Creative Technologyは1993年にシンセサイザーメーカーのE-MU Systemsを買収しており、このE-MU Systemsが保有しているMIDI Caching Technologyの特許をVortexチップが侵害していると1998年5月に訴えを起こす。

 さらにVortex2チップ自身の特許侵害も追加するなど、とにかく大量の訴えを起こした。もちろんAurealもすぐさま反訴するが、こうなってくると問題は企業体力である。開発メンバーは継承されたとはいえ、まだスタートアップ企業の域を出ないAurealと、すでに年間数億ドルの売上げがあるCreative Technologyでは勝負にならない。

 実際1999年に入るといくつかの訴訟でAurealの勝訴が確定したが、もうその頃にはAurealの企業体力が尽きていた。結局Aurealは2000年9月に倒産。Aurealの保有する技術や資産(その中にはA3Dも含まれる)は、すべてCreative Technologyが合計3200万ドルで買収した。

ただでは転ばないJain氏のその後

 最後に、その後のJain氏の話を少しだけ。Media Visionを離職後、彼はどういう経緯でか、Turtle BeachのCEOを務めている。当時Turtle BeachはICS(Integrated Circuit Systems)の子会社の状態で、その後Voyetra Technologyに売却されるのだが、その前後にCEOだったらしい。

 とはいえまだMedia Visionの訴訟は続いている状況であり、最終的には30ヵ月の禁固刑が下されたタイミングあたりでCEOを辞任、刑務所(正確にはFPC:Federal Prison Camps、比較的罪状の軽い囚人を収容する施設)入りする。ただ彼は請願を出してそれが通ったようで、最終的に禁固刑は18ヵ月短縮されている。といっても13ヵ月は刑務所にいたらしいが。

 その後、MPEG-1/2デコードカードを製造するDazzle Multimedia、音声圧縮/伸張技術を提供するEmuzedなどを興して、現在はMonsoon MultimediaのCEOを務めつつ、SliQBitsという会社を興している(CEOは務めていない)。

 Jain氏のLinkedInのページを見ると、Media Visionの項目だけがぽっかり抜けているあたり、さすがに記載する勇気はなかったようだ。

 こう、なんというかCreative Technologyがその他の会社を次々潰したり買収したりする様子は記録を読んでいてもエグい感は否めないのだが、それよりエグいのがJain氏ではないか、というのが筆者の率直な感想である。

アスキー
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    最終更新: 2017年01月09日(月)11時00分

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