グーグルはAndroid Wear 2.0をどんな発想で開発した? 独占インタビュー

アスキー 2017年04月20日(木)09時00分配信
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Android Wear エンジニアリング担当バイス・プレジデントを務めるDavid Singleton氏。今回のインタビューは、東京とマウンテンビューのグーグルオフィスを結んでビデオチャットで実施された

 AndroidをベースにしたウェアラブルOSである「Android Wear」が2.0にバージョンアップした。Android Wearは2014年3月にバージョン1が登場以降、細かなアップデートを繰り返してきたが、「2.0」は機能・UIの大幅な変更を含む、これまでにない大型アップデートとなっている。

 機能の詳細はすでに別記事「スマートウォッチが大進化する「Android Wear 2.0」5つの変更ポイント」が公開されているが、それらの機能はどういった発想で開発されたのだろうか? そして、Android Wearの開発チームは、なにを重視して開発に臨んでいるのだろうか?

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Singleton氏は2016年5月に開催されたグーグルの開発者向けカンファレンス「Google I/O 2016」に登壇し、Android Wear 2.0の説明を行っている

 グーグルでAndroid Wearのエンジニアリング担当バイス・プレジデントを務めるDavid Singleton氏に話を聞いた。(以下敬称略)

ユーザーからのフィードバックに合わせ、操作体系をよりシンプルに

 Android Wearは、スマートウォッチの一大勢力であることは間違いない。ひとつのメーカーの製品で大ヒット、とはいかなかったが、継続的に多数のメーカーから製品が登場している。OSの機能についても、小まめな改良が続いてきた。

 一方で、Android Wear 2.0はこれまでにない非常に広汎なアップデートだ。UIから機能まで大幅な刷新が行われており、必要とするハードウエアパワーが若干上がって重くなった……という声もあるほどだ。スマートフォンのソフトウエア的進化がある程度落ち着きつつある一方で、まだ進化過程であるスマートウォッチはジャンプが必要……ということなのだろう。

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Android Wear 2.0の主な変更ポイント

 では、2014年から継続進化してきた「Android Wear 1」系とこれからの「Android Wear 2」系では、どこが違うのだろうか? そして、それはどんな知見によって改善が決められたものなのだろうか? Singleton氏は「オリジナルバージョンも顧客満足度は高かった」としつつも、次のように語る。


Singleton:ユーザーに話を聞くと、いくつかの点でも不満も見えていたんです。

 例えば情報を見る時、これまでのAndroid Wearでは、時々左右に画面を遷移する必要がありました。そのため、今自分がどこにいるのかを見失うことがあったのです。そこで我々はシステムをシンプルにしました。

 多くのユーザーが使い、気に入っている機能は「ウォッチフェイス(文字盤のデザイン変更)」と「メッセージング」、そして「フィットネス」です。UI全体を見た時に、もっとも大きな変更が必要であると考えたのが「メッセージング」です。

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左がAndroid Wearのレイアウト。右のようにAndroid Wear 2.0では、基本的に縦にスクロールするバーティカルレイアウトにインターフェイスが変更された

 以前は上下左右にスクロールさせて操作する必要がありましたが、Android Wear 2.0からは単に上下にスクロールさせるだけで良くなりました。メッセージの返信をする時も、単に下へ引っ張るだけです。メッセージング機能をよりよく、素早いものに改善したのです。

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Androidスマートフォンとペア設定している場合は、Android Wear 2.0対応スマートウォッチの画面をスクロールすると、返信が可能だ

 ウォッチフェイスはより素早く切り換えられるようになりました。あなたのスタイルにマッチするだけでなく、アプリからの情報を組み込めるようになっています。

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お気に入りのウォッチフェイスに変更するのも簡単だ

 今日、わたしがつけている時計でも、いくつかのウォッチフェイスを使い分けています。

 クロノグラフ的なウォッチフェイスでは、サブダイヤルに歩数と日没の時間を表示するようにしています。私は色々な場所に移動することが多いので、その土地では何時に日没なのかを知りたいんです。今いるサンフランシスコと、先週いたロンドンでは日没時間がまったく違いますからね。「いつ暗くなるか」が、私にとっては非常に重要なんです


 PCのように見通しのいい画面と異なり、スマートウォッチの画面は小さい。メニュー構成はシンプルでないと「自分の位置」を見失いやすい……というのは確かだ。操作に必要な要素は、スマートウォッチには少ない方がいい。Android Wear 1系はメニューの階層が深かったので、そこを大胆に修正したい……というのが彼らの狙いだったのだろう。

ウォッチフェイスとメッセージングに大きな変化

 Singleton氏の言葉からは、グーグル側もスマートウォッチにおける重要さを「見る」ことにある……と感じていたことがよく分かってくる。特に重要なポイントが「ウォッチフェイス」だ。

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Singleton:Android Wearの最初のバージョンで人々がなにを好んだかは、はっきりわかっています。

 まずウォッチフェイスを使い分けることです。これが一番の用途でした。

 つぎが「ノーティフィケーション(通知)」ですね。しかし、実際にどんなものに注意を払っているかを観察すると、みな「他人からやってくる情報」を気にしていました。ですから、すべてのノーティフィケーションの中で、メッセージングがもっとも重要だ、ということです。だから我々はそこに大きな改良を加えようと考えたんです。今回、ワンタップでその時に適切なメッセージを返信できるようにしたのも、そのためです。

 現在のウォッチフェイスでも様々な情報が出せますが、今後は対応アプリケーションとの連携により、より多彩な情報を表示できるようになります。


 スマートフォンは、生活の中のこまぎれの時間で情報を「読み書きする」機械、と定義できる。PCに比べ、1回の使用時間で画面を注視している時間は短いが、数分から十数分、という、ある程度まとまった時間、画面を見続けるデバイスだ。

 一方でスマートウォッチは、スマートフォンよりもさらに細分化された時間の中にいる。1日の間で時計を見る回数は非常に多いが、画面を見る時間は数秒から数十秒。積み重ねてもスマートフォンよりずっと短い。

 その中でさっと見られる場所であるウォッチフェイスの価値を上げること、重要な通知であるメッセージ系の操作を楽にすることが、スマートウォッチの快適さアップにつながる……という判断なのだろう。

 しかし、小さい画面でのメッセージングには問題もある。「操作」だ。グーグルは音声を重視しており、そこはAndroid Wear 2系でも同様だ。グーグル全体での共通インターフェイスとなりつつある「Googleアシスタント」も、今回、Android Wearに搭載された。

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Googleアシスタントに声をかければ、答えがスマートウォッチの画面に表示される

Singleton:Googleアシスタント搭載で、声によって様々な質問ができるようになります。「今日のこれからの天気は?」などと聞けば、答えがスマートウォッチの画面に表示されます。レストランの予約などもできます。


 だが、それだけでなく、より「短時間で使える」方向での改良が行われた。キーワードは「機械学習」だ。

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手書きやジェスチャー入力のほか、機械学習の技術を組み込んだSmart Replyで返信内容を選択可能

Singleton:Android Wearにおいては音声入力も広く使われていますが、すべてのシーンにおいて音声が使えるわけではありません。話せない時……例えば会議中などにさっと返信だけを行いたい場合には、音声を使わない方法が必要です。機械学習の技術は、その時にどう返信すべきかを判断するために使われており、適切なメッセージが表示され、ワンタップで返信できます。


 このあたりは、日本語での活用や精度の点も含め、長期の観察が必要かと思う。しかし、機械学習はグーグルの主戦場であり、UIへの活用も必然。どこまでクオリティが上がるのか、どんな方向性になるのかなど、個人的にも興味をそそられる。

Android Wear 2.0の変更点をデベロッパーに紹介するための動画でも、ウォッチフェイスを簡単に変更できることが紹介されている

Singleton氏お気に入りのウォッチフェイスは?

 すでに述べたように、Android Wearにおいて「ウォッチフェイス」は重要な位置を占める。Singleton氏も、個人としてAndroid Wearで一番使っている機能はウォッチフェイスを挙げる。そこで、Singleton氏自身の使い方についても聞いてみた。


Singleton:おおむねすべての機能を使っていますが、やはりウオッチフェイスの使い分けが便利です。現在は主に3つのウォッチフェイスを使い分けています。

 まずは、ウォーキングの時などに使うもの。これは時間をシンプルなデジタル表示にして、ペースや距離などを表示しています。あと、さきほど話したように、常に日の出・日没を出しています。仕事後にワークアウトに行くことが多いのですが、いまどのくらい外が暗いのかを知りたいんですよ。これが1つめですね。

 2つめは仕事中に使うものです。これは重要な情報がなにか、を考えてカスタマイスしたものです。カレンダー情報を出して「次にどこへ行くべきか」が判断できるようにしています。また、チームがサンフランシスコとロンドンに散らばっているので、それぞれの時間がすぐにわかるようにもしています。ストックマーケットの情報も表示していますね。

 最後のものは、非常にトラディショナルな時計の文字盤を模したものです。家に帰った時などに、切り換えて落ち着くために使います。ただ、ひとつカスタマイズしているのは、文字盤を子供たちの写真にしていることですね。いつでもウォッチフェイスを見れば、笑顔になれます(笑)

 重要なのは、これらをいつでも切り換えられること、そしてウオッチフェイスから情報にきちんとアクセスできることです。

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Android Wear 2.0に対応している主なスマートウォッチは、ZenWatch 2 &#38

「選択肢の広さ」こそAndroid Wearの価値、iOS対応拡大も「選択肢拡大」のひとつ

 冒頭でも述べたように、Android Wearの美点は「多数の端末が存在すること」だ。その中でSingleton氏は、どれが好みなのだろうか? 「それは私の子供にも聞かれたばかりの質問ですよ(笑)」とSingleton氏は言うものの、直接的に好みの端末がなにかを答えてはくれなかった。だが、まさに「どんどんバリエーションが増えること」の利点を協調した。


Singleton:我々は様々なパートナーとともに製品を作っており、それぞれに良いところがあります。私がAndroid Wearのエコシステムの中で気に入っているのは、すべての人が違う製品を身につけることができる、ということです。

 もちろん、これがまだ始まったばかりだ、ということは認識しています。しかし「ひとつですべてをカバーする」モデルでないことこそが、最大の美点だと思います。だから私のチームの人間も、それぞれ別のAndroid Wearをつけていますよ。ある人はシンプルなもの、ある人は伝統的なクロノグラフに近いものを、それぞれ好きなものを選んで使っています。


 一方で、「多様な選択肢を用意すること」という観点から、Singleton氏は少々意外な方向に話を広げる。それが「iOS対応」だ。

 Android Wearは2015年秋、iOS用の連携アプリケーションを公開、AndroidスマートフォンだけでなくiOSにも対応した。Android Wear 2.0ではiOSへの対応を実質的に拡大した。

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Android Wear 2.0はスタンドアローンで機能し、スマートフォンのブリッジなしに、メールやアプリからの「通知」を受け取ることができる

Singleton:iOSのサポートは非常に重要な意味を持ちます。

 我々の基本的な方針は「選択肢が存在すべき」ということなのです。ですから、どの電話であっても、Android Wearが使えるべきだ、という考え方です。ですから、(Android Wear 1.0系のうちに)iOSのサポートを追加しました。

 しかし、iOSの制限から、これまでのAndroid Wearでは機能に制限が生まれてしまっていました。アップルとは非常に密接な関係を保っており、彼らとはとても良い仕事ができていると思っています。しかし現実問題として、過去のAndroid Wearでは、AndroidスマートフォンとiPhoneの上で機能に大きな差が生まれてしまっていました。ですから、Android Wear 2.0では変更を加えたのです。

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スマートフォンのOSに依存しないので、例えiOSユーザーでも、Android Wear 2.0対応スマートウォッチであれば直接、Google Playストアにアクセスできる

 Android Wearの体験を大きく変えるのが、「Google Playストア」の統合です。Android Wear 2.0のローンチにおいては、この点を非常に重視しました。新しいアプリケーションモデルを導入し、Android Wearから直接Google Playストアにアクセスできるようになり、アプリをダウンロードできるようにしたのです。

 すなわち、OSによる機能差を極力なくすことがひとつの目的でした。Androidについても、最新のAndroid 7を搭載したデバイスだけでなく、より古いOSで動く端末や、パワフルでないスマートフォンも対象です。

 しかし、Google Playストアの統合は、対象拡大でなく、ユーザビリティの問題でもあります。SNSやメッセージングで新しいアプリを知ったら、すぐに試してみたくなりますよね。アプリを入手するのであれば、スマートフォンの側から行うのではなく、Android Wearから直接アクセス出来る方が直感的で自然だ、と考えたのです。


 現在のスマートウォッチやウェアラブルデバイスは、あくまでスマートフォンのコンパニオンデバイスという側面が強い。そこはAndroid Wear 2.0でも大きく変わっていない。

 しかし、コンパニオンデバイスであったとしても、いちいちスマートフォン側がどんなOSなのかを強く気にしたり、セッティングの変更をスマートフォン側の設定に依存したりするのは使い勝手が悪い……。そう考えたのだろう。

 この辺は、ライバルのスマートウォッチと一線を画する。シンプルな通知のみを組み込んだスマートウォッチは、その性質上、設定の多くをスマートフォン側に依存する。Apple Watchは、アップル製品であるだけにiOSのコンパニオンデバイスで、iPhoneやMacとしか連携しない。

 こうした「懐の広さ」を、Android Wearはひとつの武器にしようとしているのである。


アスキー
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    最終更新: 2017年04月20日(木)09時00分

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