体で感じる重低音、BLAME!の音が生まれる場所に潜入

アスキー 2017年05月17日(水)13時00分配信
BLAME!
チネチッタ最大のCINE8

 アニメを劇場で観る。いまこれが本当に面白い。

 映画館にはもともと「大画面」という非日常的な体験があり、ひとつの映像をたくさんの人と一緒に観る「一体感」がある。最近では「絶叫上映」や「応援上映」といったイベント性の高い上映形態や、4DXに代表されるアトラクション性にフォーカスした新形態の劇場も増え、話題を集めている。

 そんな中、改めて脚光を浴びているのが「音」だ。サラウンド再生は映画の大きな醍醐味のひとつだが、これに重低音が出せる高出力のサブウーファーや大規模なライブホールで使用するようなラインアレイスピーカーを組み合わせ、より水準の高い音質を提供する劇場が登場している。

 心を揺さぶられる映画の体験には、美しい映像に加えて、音の力が不可欠だ。その変化に歩調を合わせるかのように、高音質かつ専用のミキシングを施した迫力ある音響を提供するアニメ作品が増えてきた。アニメファンの間では、劇場を変えながら何度も同じ作品を観て、その感動を報告する人たちも多い。

 特にこの1~2年、アニメにおける音の進化は著しい。個人では用意できない、映画館ならでは設備が、作品の魅力を最大限に引き出し、より深い感動や興奮を与える。そんな極上の体験を得られる場として、劇場への注目が高まっているのだ。

BLAME!
東亜重音7.1ch LIVE ZOUNDでの上映をする

 川崎のチネチッタは、その中心地のひとつだ。昨年9月から「LIVE ZOUND」と銘打ち、12スクリーンあるなか、最大キャパ=532席を確保したCINE8においてドイツ製d&b audiotechnik社のラインアレイスピーカーやサブウーファーを使ったシステムを導入。同系列の大型ライブホール・クラブチッタで培った、音響ノウハウを取り入れながら、各作品に最適な音を引き出す努力を続けている。

話題の新作アニメ『BLAME!』の音響調整現場に潜入

 それではLIVE ZOUND、そして優れた劇場アニメの音響はどのようにして生まれるのか? 「その一端を垣間見たい」という気持ちは常に持っていた。そして幸運にもその機会が得られた。5月20日(土)から上映が始まる話題の新作長編アニメ『BLAME!』(ブラム)の音響調整に立ち会えたのだ。

BLAME!

(C)弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局

 BLAME!は、漫画家・弐瓶勉(にへいつとむ)のデビュー作で、『シドニアの騎士』に続き、ポリゴン・ピクチュアズが長編アニメ化している。ハードなSFアクションを売りにしており、迫力満点の映像・音響が用意されている。

 舞台はテクノロジーが暴走した未来。都市コントロールへのアクセス権を失った人類は、都市を管理する防衛システム「セーフガード」によって違法居住者とみなされ、駆除・抹殺される存在に成り下がった。都市の片隅でかろうじて生き残っていた「電基漁師」の村人も、慢性的な食糧不足やセーフガードの脅威の前に絶滅寸前の状態。そんな中、食糧を求め、無断で遠征の旅に出た少女づるたち。しかしその途中で「監視塔」に検知され、駆除系に仲間を殺され、自身も退路を断たれる。そこに現れるのが、世界を正常化するためのカギ「ネット端末遺伝子」を求める探索者の霧亥(キリイ)だった。

 ストーリーの面白さに加えて、イベント上映・パッケージ販売・ネット配信を同時に行う手法にも注目だ。これ自体は決して新しくはないが、それぞれの方法で最上の体験が得られるよう、NetflixではHDR対応の映像が全世界に向けて配信されるといった取り組みがある点は知っておきたい。

BLAME!

(C)弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局

 もちろん劇場での体験、特に音は素晴らしい。担当するのは音響監督の岩浪美和氏。ガールズ&パンツァーやソードアート・オンラインの音響監督も担当し、冒頭で紹介したアニメを劇場で観る楽しさを再認識する機会を提供してくれている人物だ。

 BLAME!は劇場ならではの迫力ある体験にもこだわりをみせる。ドルビーアトモス対応は日本のアニメとしては初。さらに50館以上を数える上映劇場のうち8館以上で「東亜重音」と称する、独自の音響調整を加えた上映を実施する予定だ。

 「東亜重音7.1ch LIVE ZOUND」を提供するチネチッタも、もちろんその中に含まれている。首都圏ではほかにイオンシネマ幕張新都心(ドルビーアトモス対応)と立川シネマシティ(7.1ch極上爆音)が「東亜重音」を冠した上映を実施するが、チネチッタは劇場自体の素性の良さに加えて、ライブで培った音響スタッフの地力の高さが魅力である。それぞれの持ち味を知るために、3館をハシゴして聴き比べてみるのも面白いかもしれない。

500人規模のスクリーンにコンサートホールの音響機器を常設

 チネチッタでBLAME!および『劇場版 シドニアの騎士』の再上映(BLAME!本編冒頭付き)に向けた音響調整が実施されたのは、GWが明けてすぐの平日深夜のこと。

BLAME!
キネット社の赤いシートが雰囲気を演出

 扉を開くと、この劇場ならではのフランス・キネット社の真っ赤なシートが目に入る。スタジアム方式で緩やかに傾斜し、整然と並んだ500席以上のシートを前にすると自然に気分が高揚してくる。劇場公開時には、多くの観客でにぎわうはずの場所だが、当然のように人はいない。現場にいるのは岩浪監督とスタッフ、そして数名の取材関係者のみで、広い空間を独り占めしたような気分になる。

BLAME!
スクリーンの横に設置されたd&bのラインアレイ

 CINE8ではd&bのV-Series(V8を4台、V12を2台)を組み合わせたラインアレイをフロント(L+R+C)に配置。LとRはスクリーンの横に、センターの6個はスクリーン裏に設置されている。サラウンドスピーカーも同じd&b社のxS-series 10S。合計22台(左右に8台ずつ、後方に6台)が据え付けられている。

 前方に2台セット×2組置かれたサブウーファーはJ-SUB WOOFERという機種だ。3台の18インチ高偏位ドライバーのうち2基を前方、1基を位相調整のため後方に向けて取り付けている。これにより、後方から回り込むエネルギーを打ち消し、正確な低域再生と重低音を両立できるという。これらはラインプロセッサーのLake LM Seriesでコントロールし、パワーアンプのD80で駆動する。オペレーションにはノウハウが必要だが、冒頭で述べたように、チネチッタの系列にはライブホールのクラブチッタがあり、LIVE ZOUNDの音響もそこで活躍したスタッフが手掛けている。

暴れていた音が劇場に徐々になじんでいく様子を目撃

 音響調整はこの劇場の中央に陣取り、計測用マイクを接続したノートパソコンを使用して実施する。最初の作業はピンクノイズを出力して、各チャンネルのレベルを合わせること。その後トランシーバーで映写室と連絡を取りながら、岩浪監督が指定したシーンを上映。イコライジングなど細かな音を詰めていく段取りだ。

BLAME!
測定/調整用のソフトが入ったノートパソコン

 レベル調整の作業は、規模こそ異なるがAVアンプの調整に似ている。その作業中に、岩浪監督の「バックが3本だけなので、ここが一番つらい戦いになる。飛ばないように気を付けて」といった声が耳に飛び込んできた。

 東亜重音7.1ch LIVE ZOUNDの上映には「爆音ミックス」と名付けたられた7.1chの音源を使用する。爆音ミックスとは大型のサブウーファーを備え、「爆音上映」が可能な劇場用に別途用意しているものだ。

 迫力ある重低音はLIVE ZOUNDの魅力だが、爆音上映用にLFEチャンネルを持ち上げると、効果音だけでなく音楽部分の低域成分も持ち上がってしまう。それでは本編の迫力が上がっても音楽再生には違和感が出る。そこで音楽部分のLFEだけを事前に下げた、劇場専用のミックスを用意しているのだ。

 レベル調整が済むと、今度は具体的なシーンをみながらの調整となる。

 調整のために聞く場所はあくまでも作品のほんの一部だが、その魅力は存分に伝わる。すさまじい爆発音によって、空気の振動が体に伝わる圧倒的な感覚はやはりスゴい。

 同時に登場人物の視点とそれに連動した音響の緻密な作り込みにも感銘を受ける。例えば、登場人物が1人称的な視点で語る際には、ヘルメットの中から場面をみる息詰まるような閉塞感。一方で少し引いた視点でセーフガードとの攻防が描かれるシーンでは音が周囲から回り込み、どのような広さの場所で戦闘が繰り広げられているか、相手との距離感などを意識する。視点はシーン内で頻繁に入れ替わるが、自然と作品の世界に没頭し、引き込まれていく。

BLAME!
スクリーンの下に置かれたサブウーファー

 一連の調整の中で特に入念にチェックされていたのは、冒頭のアクションシーンとエンドロールに流れるangelaの「Calling you」、そして村人たちの前から霧亥が姿を消す前の盛大な爆発シーンのバランスだ。

 岩浪監督は、BLAME!では「効果音としての重低音と、音楽としての低域の両立が肝になるが、音楽に関してはエンドロールが最も前に出てくるので、そこを固めれば間違いがない」とする。

 調整の最初で各シーンを聞いた印象としては、びりびりと衝撃波が脚と体に伝わる、本編部分の低域のボリュームに圧倒される一方で、エンドロール部分の曲の爆音感、特にリズム<7769>帯がズンドコと暴れている点には違和感があった。そこで低域をガッツリと落とす調整を実施したようだ。2回目のプレイバックでは、その違和感は減ったが、微調整が続き、何度もシーンを行き来しながら、適切な落としどころを探っていく。その結果、本編の迫力を損なわず、音楽も適切に聴こえる調整となった。

 BLAME!に続いて、シドニアの騎士の調整にはいる。シドニアの騎士ではBLAME!の調整結果を加味しつつ、マスターボリュームを下げたうえでのチェックを実施する。チェックしていたのはオープニングおよび7機掌位の衛人が帰還する終盤からエンドロールにかけての部分。セリフの聞きやすさを重視してか、高い帯域をなじませるといった調整をしていたようだ。

BLAME!

劇場の素性がいいため、台詞をしっかり聞かせながら広がりを出せる

 調整作業が完了した後、岩浪監督に話を聞いた。

 まずはBLAME!の調整でもっとも気を配った点について。「LIVE ZOUNDのスピーカーは音楽(ライブ)用のスピーカーだが、音楽がおいしい帯域と映画は若干違う」とのこと。「音楽ではベースやバスドラが支えになって気持ちよく聴こえるシステムでも、映画では出すぎてしまう面がある」そうだ。

 LIVE ZOUNDということで重低音はふんだんに入れている。そのつながりを細かく修正しながら、低域の出方を重点的に調整していったという。

 一方で「低域から高域までワイドレンジに再現でき、しかも定位や抜けがいい」点は、一般的な映画館にはないコンサート用のアレイスピーカーを導入する大きなメリットだ。高い再生能力を生かし、今回は「広がり感を重視し、空間の音をリッチにできる調整を加えた」とのこと。

 ただし、そのためには機材だけではだめだ。「きちんと台詞を聞かせながら、広く出せる、劇場として素性の良さがあってのこと」だという。

BLAME!
チネチッタの音響を手掛ける山室亨氏と調整を詰めていく岩浪監督

 音響調整は足し算ではなく引き算。つまり劇場の個性を知り、その癖をつぶしていくことが重要となる。劇場がもつ性格はあとからどうにかできるものではない。チネチッタの8番スクリーンは、もともとTHX認定を取得していたスクリーンということもあり、静穏性、音響特性ともに高水準だ。「500人規模の小屋の中ではトップクラスのつくりで、調整が非常にしやすい」と、岩浪監督も評価していた。

BLAME!
サラウンドスピーカーは合計22台

 調整作業の最中に岩浪監督は、サラウンド感を確かめるためか、劇場の前方や後方、あるいは壁際の位置など様々な位置で音をチェックしていた。取材陣からも「チネチッタで再生したBLAME!の音響は後方でもサラウンド感が維持され、しっかりとしたフォーカスが得られていた」という感想が出た。これに対しては岩浪監督からも「そこがラインアレイの強みで、後ろの席ほど恩恵が高い。きちっと音が聞こえますね」という返答。

 そのうえで劇場のトレンドは(スクリーンの画角を広くとり、迫力を重視した)Wall to Wallで横長のタイプが多いが、「音響的には(やや縦長の)このぐらいの縦横比のほうがいい」とした。

7.1chのLIVE ZOUNDはドルビーアトモスとも相性がいい

 BLAME!はドルビーアトモス対応だが、実は7.1chの劇場とも相性がいいという。その理由は、ドルビーアトモスという規格自体が、7.1chのサラウンドにオブジェクトオーディオを組み合わせる考え方で作られているためだ。7.1chとドルビーアトモスの違いとしては、天井スピーカーがない点が挙げられる。ここは7.1chに振り分ける必要があるが、そのコンバートもスムーズだという。

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お話をうかがった岩浪美和監督(中央)、クラブチッタの制作事業部 音響セクションの山室亨チーフ(右)、取材対応していただいたチネチッタの藤本恵弘課長(左)

 筆者が実際に現場で音を聞いた感想としても、水平方向の音のつながりが非常にスムーズで、高さ方向の表現も良好だった。7.1chでの再生ということで「点で移動するようなものはできないが、逆に音圧感は出やすいかもしれない。いいポジションで聞けば、頭の上の音なども聞ける」(岩浪監督)とのことだ。

 チネチッタではBLAME!の上映を、CINE8以外のスクリーンでも予定している。LIVE ZOUNDではないが、他のスクリーンでも7.1chでの上映が可能なのだ。劇場の主流は5.1chとなっており、7.1chの劇場というのは非常に少ないが、劇場側の好意で5.1chを7.1chへバージョンアップする対応がなされたという。

 つながり感という意味では、サラウンドスピーカーを含めて同じブランドで統一されている点も大きい。LIVE ZOUNDを称し、フロントにラインアレイシステムを入れたのは昨年の9月17日からとのことだが、今年の1月からサラウンドもJBL製からd&b製に変更した。

劇場では珍しい欧州製だが、スタジオに近い再現性

 ちなみに劇場用スピーカーは約9割が米国メーカー製で、d&bのようなドイツのメーカーは珍しい。しかし岩浪監督によると制作現場では逆に、映像・音響・音楽用途のいずれも9割がヨーロッパ製の機材になっているという。

 「d&bの音は普段スタジオで聞いている音に近い。ドイツらしい真面目な音で、アメリカ製のように派手な感じはないが、密度が高く調整がしやすい。特にLIVE ZOUNDでは、アレイスピーカーでも耳をつんざくような感じがなく、聴き疲れしにくい。なおかつ出すべきところは出すし、迫力もある。BLAME!では、声をきれいに出すことが狙いのひとつなので、そこも楽しんでもらいたいと思う」(岩浪監督)

 BLAME!の上映では、女性の観客が多くなると想定しているそうだ。そのため、臨場感だけではなく、声に特化してなおかつ迫力がある点を重視しているという。

 「キャラクターの声がきれいに聞こえて迫力も兼ね備える調整。空間自体が大きくて、劇場が持つ響きもいいので、そこを生かすようにしました。BLAMEは閉塞的な空間の物語だが、これが劇場のサイズとマッチして、すっとストーリーに入り込めるようになっていると思う」(岩浪監督)

 深夜の作業はコメント取りを含めて約2時間にわたった。

 劇場ごとに内容は多少変わると思うが、「いい音を届けたい」という想いから、全国の劇場に脚を運び、音響の監修をする岩浪監督の姿勢には頭が下がる思いがした。

 同時に2作品の音を並べて聞くと、劇場版 シドニアの騎士からBLAME!までの数年の間に、アニメ音響が飛躍的な進化を遂げたという点も実感する。短期間ではあるが、BLAME!の上映に先立ち、シドニアの騎士の再上映がなされているので、こちらも合わせて観てみたい。特に各チャンネルから音が発せられるのではなく、空間に包み込まれる感覚は圧巻で、サラウンド技術の如実な進歩を感じる部分だ。

 BLAME!は2週間限定の上映だが、チネチッタでは集客しだいで延長も検討するとのこと。可能ならばぜひ劇場に脚を運んでみてほしい。アニメ映画の最先端のサウンドを体験できるとともに、いい作品をいい環境で届けるという作り手の情熱も感じ取れるのではないかと思う。

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    最終更新: 2017年05月17日(水)13時00分

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