空き部屋シェア「Airbnb」流の“おもてなし”--日本代表インタビュー

CNET Japan 2016年12月26日(月)11時04分配信

 2020年に開催される東京オリンピックがもたらす日本全国の経済波及効果は、少なくとも数兆円と言われている。過去を振り返っても、オリンピックとテクノロジの発展は密接な関係にある。世界的にスマートフォンがあたりまえに使われるようになった今、テクノロジを活用したさまざまな取り組みが、2020年をターゲットに進んでいる。果たして、生活、働き方、モノづくりなど、各産業や業界はどのようにパラダイムシフトしていくのか。

 今回のテーマは「宿泊」。観光庁によれば国内における6月の宿泊者数は約3700万人泊で、このうち訪日外国人の宿泊者数は、前年同月比で51.7%増の約530万人泊となった。東京オリンピックが開催される2020年には、訪日外国人が2000万人を超えると言われており、一部では“ホテル不足”に陥るのではと懸念する声もある。こうした背景もあり、日本でも注目が高まっているのが、米国発の空き部屋シェアサービス「Airbnb(エアビーアンドビー)」だ。

 Airbnbは、旅行者が現地の人から空き家や使っていない部屋を借りられるサービス。現在は日本を含め190カ国で展開し、世界的に急成長している。ただし、日本では宿泊料をとって人を泊めてしまうと「旅館業法」に抵触するため“グレー”な状態であり、今後の規制緩和の有無が普及に影響を与えそうだ。Airbnb日本法人代表の田邉泰之氏に、現状の国内外での利用状況や、Airbnbのもたらす価値を聞いた。

――Airbnbの利用状況を教えてください。日本の物件のオーナーには、どういった属性の人がいますか。

 現在は190カ国の3万4000都市以上で展開しており、物件数は日々伸びているのですが、現時点で150万軒を超えています。日本でも、1万3000軒以上の物件がありまして、2014年と比較して伸び率は3倍以上です。また、訪日外国人の利用者も4倍のペースで増えている状況です。

 オーナーさんは単純に性別や年齢では区切りにくいですね。20代の若い方もいれば高齢の方もいます。76歳のHarukoさんという方は、世田谷でお部屋を貸しているのですが、大人気でたくさんの方が借りに来るそうです。そのほかにも、泊まった方に地元を案内したりして“おもてなし”を楽しんでいる方や、海外の方と交流することで語学を磨いている方など、皆さんさまざまな目的をもって貸し出されています。


――貸し主と借り主には、それぞれどのようなメリットがあるのでしょう。

 ホスト側(貸し主)としては、海外へ行かなくてもインドやヨーロッパなどいろいろな国の方と交流できて、お互いの文化を知ることができます。あとは、地元に経済効果をもたらすということですね。普段来ることのない海外の方が宿泊することで、地元のカフェやレストラン、コンビニなどにもお金が落ちるというベネフィットがあります。

 ゲスト側(借り主)としては、もともと旅先で何かを見て帰ってくることが多かったと思うのですが、いま増えているのは旅先で「体験したい」という方です。そういう意味で、Airbnbでは地元の家に実際に住むことで目線が変わるというか、地元の方と同じようなニーズが発生するんですね。翌日の朝ごはんを買いに行かなきゃいけないとか。そうしてスーパーや商店街に行くことで、地元の生活を体験できる楽しみがあります。

 あとは、部屋を貸し出しているホストの方と交流できるので、地元の方しか知らないような情報を入手できます。それがまた体験につながると言いますか、自分だったら入らなかったレストランに入ったりするようになるので、体験がより楽しくなるといったメリットもあります。

――貸し主と借り主はどのタイミングでコミュニケーションするのでしょう。

 我々の物件を見ていただきますと、一軒まるまる借りるタイプと、家の中の一部屋を借りるタイプ、鍵がかかる部屋はなく共有スペースの中で生活するタイプの3つがあります。その中で、それぞれのホストが提供したい形でおもてなしをされていますね。

 部屋を借りる前や予約が成立した際の情報交換も、もちろんあるのですが、宿泊先に置き手紙をされているホストもいます。家にいらっしゃる場合もあるので、(ゲストが)家についてから直接お話することもありますね。時間があれば、一緒に家の周辺を歩いて回ったりとか、本当にいろいろなパターンがあるのがAirbnbならではの面白さです。自分にカスタマイズされた体験ができることが特徴ですね。

――訪日外国人の増加にともなう“ホテル不足”という課題の解決に、Airbnbが一役買うのではないかという見方もあります。

 実際に調査しているわけではないので分かりませんが、もともと対象者が違うのだと思います。Airbnbに泊まりたい方は、地元を体験したいという方々ですので、単純にホテルがないからAirbnbを使いたいという方とは違う層に利用されている気がします。

 やはり、ホテルのようなサービスではありませんので、「こんなこと聞いてないよ」という話にはならないようにしなければいけないと思っています。我々としても、できるだけしっかり情報を提供して、Airbnbの体験や実際に家に泊まるとはどういうことかをご理解いただいて使っていただいています。

――湘南T-SITEとともに「本に囲まれながら泊まるドリームナイト」などの企画も実施しています。こうした施設や自治体などと連携する事例も増えているのでしょうか。

 (湘南T-SITEの企画を実施した)CCCさんとは、新しいライフスタイルを提案するというところで、考えが一致しました。実は、これまでも何回か一緒にキャンペーンをさせていただいていて、去年の夏にも“家旅”というコンセプトでオンラインキャンペーンを展開しました。我々が新たに提案させていただいた旅のスタイルを簡単にご理解いただくために、「宿泊ではなく面白い体験ですよ」というメッセージは非常に伝わりやすいのかなと思っています。

 そのほか期間限定のものもありますが、たとえば高野山の三宝院や壬生寺、石清水八幡宮などに泊まることもできます。お寺は昔から宿坊という考え方もありますので、もともといろいろな方を泊められていました。その中で、海外の方でも簡単に予約や宿泊ができるAirbnbの仕組みに共感いただきました。また、Airbnbのユーザーは地元の神様に興味を持っていらっしゃる方もいますので、そういう方に文化を知っていただけるという点にも賛同いただきました。

 グローバルでも、いろいろなところにユニークな体験ができる宿泊を提供させていただいています。ノルウェーのスキージャンプ台ですとか、ブラジルのリオデジャネイロのワールドカップで使われたスタジアムのフィールド上に泊まれるなんてものもありました。

――外国人を自宅に泊めることに抵抗がある日本人もいると思います。

 日本にはもともと民泊というものがありますし、ホームステイを受け入れている方もいますので、特別新しいことをやっているわけではありません。単純にITの技術を使って、より身近に簡単に、誰でも貸し借りできる環境を提供するサービスですので、日本では受け入れられないとは思っていません。

 もちろんすべての人に向いているわけではありませんが、潜在的なニーズは間違いなくあると思っています。ですので、こういう新しいサービスができましたよと、時間をかけてしっかり説明していく必要があるのですが、これは1社だけでは難しいところもあるので、できるだけ多くのパートナーと一緒に、この新しいライフスタイルを提案していければと思います。

 我々が貢献できるかもしれない領域としては、やはり地方創生ですね。日本は高齢化社会と言われていますが、60~70代はまだまだ元気ですし、実は一番良いおもてなしを提供できる方々だと思っています。アクティブシニアの方々に、我々のようなプラットフォームを使っていただいて、海外から来られる方に日本の文化を伝えてもらえればいいですね。

――日本では法規制の問題もあります。また、トラブルを避けるためにAirbnbを使用禁止にしているマンションなどもあります。

 基本的には、グローバルでも似たような状況になってます。非常に昔に作られた規制が、このような新しいビジネスモデルを想定していなかったというところがありますので、我々としましても、今の時代に合った視野が広がっていくような環境になればいいなと思っています。

 各国で行政の方にアドバイスをいただきながら協議させていただいているのですが、たとえばイギリス、フランス、アムステルダム、オーストラリアの一部の州などでは、すでに規制を改正して、Airbnbのようなシェアリングエコノミーサービスを利用できる環境が整いつつありますので、日本もできるだけ早くそうなるようにお話をしているところです。

 (マンションでの使用禁止などについては)我々としてシェアリングエコノミーという考え方をできるだけ多くの方に知っていただく必要があると思っていまして、そこはまだ説明が足りないと思います。引き続きいろいろな活動を通して、Airbnb以外にもさまざまなサービスが出てくることによって、日本で受け入れられやすい体制になるところまでもっていかなければいけません。

 実はAirbnbは、マーケティングなどをせずに190カ国以上に広まったサービスですので、そういう意味では、かなり伝播力のある方々に利用していただいています。その中で、我々が非常に大切にしているのがコミュニティです。特に日本には、非常におもてなし力の高い“スーパーホスト”という方が多く、そういう方たちが自主的に集まって、「地図を作ったほうが、分かりやすくお家まで来ていただけますよ」と、おもてなしの方法を話し合う勉強会みたいなものを開いたりしています。

 これは岡山の事例なのですが、Airbnbによって海外の方がよく来るようになって周辺の方も気付き始め、Airbnbの存在を知って交流が起きるようになったという話を聞きました。おじいちゃん、おばあちゃんも含めて、自主的に“おもてなし隊”というものを作るなど、自分の街をもっと知ってもらうために多くの方が一緒になっておもてなしを始めるといった事例も生まれています。また、グローバルでいうと、全世界から6000人以上のホストがパリに集まって、各国のホスト同士が情報交換できる場なども提供しています。

 こういったコミュニティによって、昔ながらのお隣さんに醤油を貸し借りするような関係が生まれています。たとえば、いまゲストが来ているんだけど、用事があって鍵が引渡しできないといった時に、近くのホストが代わりにやってあげるという、非常に温かいコミュニティもできています。そうしたことでサービスを少しずつ丁寧に大きくしていくというのが、我々の考えですね。

――ユーザーによる良質なコミュニティによって、一部の悪質なユーザーが自然と淘汰されていく状況にしていくのですね。

 すでにそうなっています。Airbnbはサービスを開始して7年が経ちますが、現在はホストとして登録する際に、電話番号やメールアドレス、住所を記入いただき、Facebook、Google、LinkedInなどのIDと連携することで、ちゃんと実在しているのかなど、人となりを確認しています。また、パスポートも登録いただくので、かなりの情報は我々の方で預からせていただいています。

 また、ホストとゲストがお互いに評価しますので、もしゲストが騒いだり汚くして帰ってしまうと、ホストに「この人は汚して帰りますよ」と書かれてしまいます。そうすると、次にその人が予約しようとした時に、そのホストの方が過去のレビューを見てお断りするんですよ。そこでどんどん淘汰されていくので、すでにエコシステムは回っている状況です。

――将来的に、Airbnbで生計を立てる人も出てくるのでしょうか。

 グローバルでみた時に、一番多いのはカジュアルホストという方々です。Airbnbを生業にしているのではなく、時間のある時におもてなしをするという形が多いので、家のローンの足しにするとか、お孫さんにプレゼントを買うための足しにするという感じになっていくと思います。どちらかというとAirbnbによって、それぞれの地域に新しい周辺ビジネスが生まれてくると思います。たとえば、鍵を代わりに渡すサービスですとか、シーツ交換サービスですとか、ホストをサポートするようなサービスですね。

 もともとAirbnbは、創業メンバーが翌日の家賃が払えず、簡易的なウェブサイトを作って、エアマットレスを3つ貸し出したところから始まっているんです。ニューヨークでこの間お会いしたホストの方は、本当だったら家を手放さないといけなかったけれど、Airbnbでたまに貸し出すことでローンを支払うことができたとか、そういうエピソードは結構聞くので、日本でもそういった形でお小遣いが入る程度に、カジュアルに利用していただければと思います。

――東京オリンピックが開催される2020年に、Airbnbは日本でどのような役割を果たせると考えますか。

 実は2014年のリオのワールドカップの時には、Airbnbが代替宿泊の公式スポンサーとなり、約5万人のホストがワールドカップのために自宅を提供しました。大体5人に1人がAirbnbに宿泊したという実績が残せたので、オリンピックでもまた一緒に何かやりましょうという形で、ご協力させていただくことになっています。

 我々1社ではないと思いますが、シェアリングエコノミーで日本の方々がおもてなしをすることで、少しでも多くの方が日本に宿泊できるようにはしたいと思っています。先ほどのHarukoさんのように、ゲストを一緒に皇居まで連れて行ったり、美味しい和菓子屋さんでお茶を楽しんだりと、宿泊そのものを越えた、包括的な国際コミュニケーションを生きがいにされているホストの方もいます。

 私たちのやりがいやモチベーションというのは、そういったホストやゲストの方に、実際にAirbnbを使っていただいて「本当に人生が変わって楽しい」「こんな新しい体験ができると思っていなかった」と言っていただくことなんです。そういった動きがもっと日本全体に広がればいいと思っています。

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    最終更新: 2016年12月26日(月)11時04分

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