「Apple Watch」は時計市場を変えたのか(前編)--時計ジャーナリストが振り返る1年

CNET Japan 11月14日(月)11時19分配信

 多くのウェアラブル端末が登場する中、本格的なスマートウォッチの大本命として注目を集めたApple Watch。2015年4月24日の発売から、1年を迎えた。日本では賛否両論の意見が出ているが、1年を振り返って時計ジャーナリストはどう見ているのか。

 2015年4月10日、筆者はスイス大使館で開かれた時計関係者のセッションに参加した。話題はスマートウォッチ(コネクテッドウォッチ)と機械式時計の未来について。参加者は日本の時計メーカーやサプライヤー各社と、「Swatch」の共同開発者であるエルマー・モック氏、スイスクリエイティブセンターの共同創設者クサビエ・コンテス氏などだった。

 セッションは2部制だが、Apple Watchのリリース直前ということもあり、話題はスマートウォッチに終始した。結論は出なかったが、スイスの関係者たちはスマートウォッチ、はっきりいうとApple Watchに脅威を感じていたようだ。「スマートウォッチはクォーツショック(筆者はこの言い方を好まないが)以上のインパクトをもたらすかもしれない」とコンテス氏は述べた。

 それから1年。Apple Watchはどのようなインパクトを与えたのか。デジタルではなく、時計の世界からの見方を述べたい。

米国市場で2015年、時計が売れなかった理由

 まずはクオンティティ(量)。某メーカーの人間はこう語った。「2015年Appleは、推測で約600万本のApple Watchを販売した。売れたのは大半が米国市場である。現在米国では時計が売れない。理由はおそらく次のApple Watchを待つ人たちが、買い控えているためだ」。大げさに聞こえるが、米国市場を知る人たちからは、似たような意見を何度か聞いた。と考えれば、米国を拠点とするFossil GroupとMovado Groupが、相次いでスマートウォッチに参入したのも合点がいく。日本やヨーロッパでは、スマートウォッチはほとんど普及していない。ただ米国市場では、どんな時計メーカーであれ、この新しいジャンルを無視できなくなったのである。

 名門のTag Heuerも同様である。現CEOのジャン―クロード・ビバー氏は「Apple Watchはセクシーでない」と断言し、ラグジュアリーメディアを沸かせた。しかし彼は一方で、Intel、Googleと共同してスマートウォッチの開発を急がせた。その際、時計らしく作れと指示したのは、Apple Watchとの違いを明確にするためだろう。製品の発表時、Tag Heuerはこう説明した。「時計メーカーの製品であることを示すため、ケースの設計・製造はTag Heuerが監修しました」。

 メカニカルウォッチに注力するFrederique Constantも、スマートウォッチを完成させた。同社が発表した「オルロジカル・スマートウォッチ」は「運動量計」を搭載する時計。これをスマートウォッチとみなすのは正直難しいが、同社はあえてそうした。CEOのピーター・スタース氏はTag HeuerがAndroidを載せたのは間違いだった、と述べる。「彼らはAndroid Wear入りの時計を、1400ドルで売った。しかし同じものをLGならば300ドルで買える(中略)。対して、AppleのOSはApple Watchにしか載っていない」。あえて機能を絞ったのは、差別化のためというわけだ。

 ともあれApple Watchの出現は、多くの時計メーカーを刺激した。米国市場を重視するメーカーはなおさらだ。600万本という年産数(推定値)は、デジタルの世界では決して大きくない。しかし時計メーカーとして考えるなら、ずば抜けて巨大だ。その年産数は、カシオの約4500万本は例外として、Rolexの80万本、Omegaの60万本とは比較にならない(本数はすべて推定値)。ちなみにTag HeuerのConnectedは、ビバー氏が胸を張るほどの大ヒット作だが、初回の受注量は10万本。Frederique Constantも、スタース氏のコメントによると、生産数は4万本に過ぎない。先述の関係者が「いきなり世界最大級の時計メーカーが出現した」と述べたはずである。

 もっともApple Watchの「量」を福音とみなす関係者もいる。「独立時計師の神様」フィリップ・デュフォー氏はその一人だ。彼が手作業で作る高級時計は、機能も価格もシリコンバレー製のハイテクウォッチとは対極にある。しかしデュフォー氏は「Apple Watchは、人々が再び時計を腕にするきっかけになるかもしれない」と好意的にとらえている。「日本に来て感じたのは、若い人たちが腕に時計を着けていないことだった。しかしApple Watchを入り口に、彼らは時計を使うかもしれない。そのうちのいくらかは、伝統的な時計にも目を向けてくれるだろう」。

 Piaget CEOのフィリップ・レオポルド=メッツガー氏も、彼独特の物言いでApple Watchを肯定した。「もし君が会議に出たとしよう。君も、隣の人間も、またその隣の人間もApple Watchを着けているに違いない。君はすぐ時計屋に出向いて、彼らとは違う時計を買うだろう。つまりはPiagetが売れるということだ」。Apple Watchを買った人が、Piagetのような超高級時計に興味を持つかは疑わしいが、メッツガー氏のような人物も、Apple Watchに期待を抱いているとは意外だった。

 量以上にインパクトをもたらしたものとは──。後編は5月2日に掲載予定だ。

広田雅将

時計ジャーナリスト。

時計専門誌『クロノス日本版』主筆。サラリーマンを経て現職。クロノス日本版をはじめ、『LowBEAT』『日経ビジネス』などに執筆多数。共著に『ジャパン・メイド トゥールビヨン』(日刊工業新聞社)『アイコニックピースの肖像 名機30』(シムサム・メディア)など。ドイツの時計賞「ウォッチスターズ」審査員。

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    最終更新: 11月14日(月)11時19分

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