【ゆとり記者の古モノ修理記】キヤノン史に残るコンパクトカメラ「キヤノネット」

CNET Japan 2016年11月07日(月)06時51分配信

 (後編を公開しました)

 CNET Japanの編集記者が日々の取材や暮らしの中で気になったサービスやウェブで話題のトピックなど気になっていることを紹介していく連載「編集記者のアンテナ」。第45回は、主にウェブサービス周りを取材している山川が担当する。

 今回は、フィルムカメラの修理記録をお届けする。実は私はもともと分解が好きで、趣味でPCなどを修理しては、たまにSNSに投稿していた。 先日、初めてフィルムカメラを修理し、Facebookに写真を投稿したところ、先輩記者の目に留まり「記事にしたらいい」と勧められた。腕は素人だが、興味がある方は少しお付き合いいただきたい。

私と二つ周り年上の“55歳”

 分解は楽しい。もちろん壊すこともあるので、正常に稼働している時は極力分解しないことにしている。ただし、経年劣化であったり何かしらの要因で動かなくなった物、通常であれば捨てられる物を分解・修理して、“救えた”時の達成感がなんとも忘れられないのだ。といっても、電子工学や機械工学を専攻していたわけではなく、電気的な知識も特段持ち合わせていないため、救えなかったガジェットも数えきれない。ただ、自分の興味のまま、悩み、発見し、(時にはネットの力を借りながら)解決していく。孤独だが、不思議と寂しくない。

 今回手に入れたカメラとの出会いは土曜昼下がりの秋葉原だった。4月に入りもっぱら春の陽気で、気持ちよく秋葉原散策を楽しんでいた。「パーツ通り(秋葉原の中央通りから御茶ノ水方面に1歩入った通りの通称である)」とさらに奥の通称「ジャンク通り」は、PCパーツ、デジタル製品、中華系とみられる怪しげなガジェットのほか、中古PCやジャンクパーツのみを扱う店がひしめき合い、カオスな空間を醸し出している。個人的に秋葉原で一番好きなエリアだ。

 散策中、古いビルの開けた空間に間借りして、商品を並べている一角を見かけたので中に入ってみた。ここは、いつも怪しいガジェットや出所不明の商品が並んでおり、そいういった面白さからたまに足を運んでいた。ただし、今回はいつもと様子が異なっていた。往年のフィルムカメラがオール100円でカゴに積まれてあったのだ。

 「マジかよ…」

 フィルムカメラにそこまで傾倒していたわけではないが、正直興奮した。聞いたところ、何でも群馬の倉庫に10年ほど眠っていた代物だという。この売場に気づいたおじさま達もぞろぞろとカゴを囲みはじめ、静かなる戦いの火蓋が切って落とされたのである。

 われ先にと手に入れたカメラのうちの1つが「Canonet(キヤノネット)」である。電池不要で自動露出を実現した機械式カメラで、フィルムさえあれば簡単に撮影できる。このカメラの存在は知らなかったものの、キヤノン<7751>旧ロゴの可愛さと、重くガッシリしたボディに惚れた。発売は1961年1月で、今年で55歳を迎えた。私が今28歳なのでほぼ二つ周り年上の“先輩”である。

 詳しい説明はあとにして、このカメラ、入手してすぐにファインダーの状態が悪化してしまった。そこで、ものは試しと分解してみることにした。

 ファインダーの状態。ブライトフレームが右側に大きくずれている上、カタカタと音を立てながらフレームが盛大に動いてしまう。フレームの下にはF値を示すバーが見えるはずなのだが、それもどこかへ消え去っている。キヤノネットは、明るさに合わせてF値が可変するシャッター速度優先タイプのEEカメラなので、このままだと自動露出時のF値を確認できない。

 今回、レンズ部分やシャッター周りは特に問題なかった(のちに他の場所でトラブルに遭遇する)ので、ファインダーに重点を置いて調査してみる。キヤノネットは合理的な設計がなされていると言われており、機械式カメラを修理する際の入門的な存在のようだ。

 キヤノネットの中身とご対面。機械式カメラなので、デジタルカメラや電子式カメラで目にする基版は見あたらず、すべてメカで占められている。左側はファインダーを構成する光学部品が並んでおり、右側はセレン光電池式露出計に関連するものだ。また、ファインダーには、二重像合致方式を採用している。ファインダー中心部に映し出された2つの像をフォーカスレバーで合致させたところにピントが合う仕組みだ。

 ファインダー部を遮光している金属のプレートを取り外すと、ミラーのようなパーツがころりと落ちてきた。「お前はどこから来たんだ・・・」とよく見てみたら、二重像合致用の像とブライトフレーム、F値をファインダーに結像するためのパーツだったようだ。

 ミラーには、鏡面処理がなされていない小さな窓が開いている。ここは、"もう一つの像"を映し出すための小型ミラーの光を透過させるためのもの。フォーカスレバーの動きに連動して窓が開いたミラーの傾きが変わり、“もう一つの像”がファインダー内を移動する。

 「どうやって固定しようか…」工具箱を漁って出てきたのは、100均ショップで買ったジェル状の瞬間接着剤。通常の接着剤と異なりあまり垂れない。この接着剤をミラーの四隅にごく少量塗布し、ミラー固定用のパーツに取り付けた。

 ついでに、ファインダー部分の清掃である。綿棒をウェットティッシュに当て、少し湿らせてレンズ面をなでる。幸いカビなどは見あたらず、きれいに清掃できた。しつこいカビがあった場合などは、オキシドールで除去する人もいるようだ。

 よく見ると“もう一つの像”が縦にずれていた。像を生み出すミラー部分にネジがあり、回すと像の上下を微調整できるようになっている。

 ファインダー修理の結果はごらんの通りである。見通しのよいファインダーに生き返った。

 修理としての難易度はかなり優しいものだったと思う。今回は中心部のシャッターやレンズ周りを分解したわけではないので、お見せした部分は機械式カメラの一部にすぎない。今後、扱う可能性もあるのでその際にじっくり紹介したいと思う。

 ここからはキヤノネットについて補足説明したい。調べてみると面白いもので、キヤノン<7751>が大衆路線を進み始めるキッカケになったカメラのようだ。当時、キヤノン<7751>は高級カメラ専業メーカーであり、バルナックタイプをはじめとしたレンジファインダーカメラを主に開発してきた。それらのカメラは非常に高価であったが、若手社員による「われわれにも買えるキヤノン<7751>のカメラをつくりたい」という想いから中級クラスのレンジファインダーカメラの開発がスタートしたとされている。

 また、別途試作開発が進められていたEE機構(セレン光電池を使用した自動露出機構)を搭載。電池不要で、シャッターを押せば誰でもきれいな写真が撮れるカメラとして誕生した。キヤノネットは、若手の「われわれにも買える」価格として、1万8800円のバーゲンプライスが設定された(といっても、1960年度の平均月収が約2万円だったため、相変わらず高価な代物だった)。この価格設定にほかのカメラメーカーは「ダンピングだ」と猛反発。週刊文春に「くたばれ!キヤノネット」との記事が掲載されるほどだった。

 半年発売が伸びたが、1961年1月に無事に発売された。高級機メーカーのキヤノン<7751>が普及価格帯の高性能カメラを作ったという評判もあり、1週間分の在庫が2時間で完売するほどの社会現象になったと言われている。事実、2年半で累計販売台数が100万台と大ヒットを記録した。一方で、カメラの高性能化、低価格化に追いついていけないメーカーの廃業にもつながったようだ。その後キヤノネットはシリーズ化され、「キヤノネットG-IIIシリーズ」が販売終了した1982年まで20年を超えるロングセラー商品となった。

 実物を触ってみると分かるのだが、カメラとしての質がしっかりしている。ガッシリした筐体、先進的な自動露出機能、F値1.9と明るく性能の良いレンズなど「モノとしての良さ」と、高い価格競争力が相まって起きたヒットなのだと感じた。

見事復活!…してなかった…

 折角記事にするので、フィルムを装填して試し撮りしてみた。使用したのは富士フイルム<4901>の業務用ISO100フィルム。なにせ安く、某カメラ屋では24枚撮り1本184円で買えてしまう。カメラ屋にフィルムの現像をお願いし、出来上がりのころにもう一度訪ねると、スタッフから衝撃の一言を耳にした。

 「1つのコマに複数の写真が重なっていました」

 「え!?」という言葉が思わず出てしまったが、どうやらフィルムが巻けておらず、コマが進まないままシャッターが開いていたため、一つの箇所に複数の像が折り重なった状態になっていたようだ。「多重露光」というテクニックもあるが、今回は特にそれを狙ってはいない。

 フィルム室を覗いたところ、真犯人の正体が判明した。巻き上げレバーを引いたとき、フィルムを巻き取る筒の部分「スプール」が回っていなかったのだ。正確には巻き上げレバーを引くと同時に筒は回るのだが、指を置いてみると簡単に滑ってしまう。まさかこんなところにトラブルが潜んでいるとは思ってもみなかった。

 やはり一筋縄ではいかないか…とりあえず、カニ目レンチを買ってこようと思う。

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    最終更新: 2016年11月07日(月)06時51分

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