ドコモ社長交代やソフトバンクのARM買収、公取委の影響は--携帯大手3社の決算を読み解く

CNET Japan 12月17日(土)10時43分配信

 7月末から8月頭にかけて、大手携帯キャリア3社の第1四半期決算が発表された。NTTドコモ<9437>は社長が交代し、ソフトバンクグループ<9984>は英ARMを買収する一方、8月2日には公正取引委員会がスマートフォン販売慣行の是正を求める報告書を出すなど、業界に大きな変化が起きている。そうした中、各社のトップは何を話したのだろうか。3社の決算説明会を振り返ってみよう。

ARM買収で一層影が薄くなるソフトバンク<9984>の通信事業

 7月28日に決算を発表したソフトバンクグループ<9984>の連結業績は、営業収益が前年同期比2.9%増の2兆1265億円、営業利益が0.2%増の3192億円。引き続き増収増益ではあるが、その伸びは弱まっているようだ。

 もっとも今回の決算においては、業績の内容よりも、英国の半導体設計大手であるARMの買収が大きなトピックとなっていたことは間違いない。ソフトバンクグループ<9984>は7月18日に、ARMを約3.3兆円と、ボーダフォン日本法人や米Sprintを買収した時より大きな金額で買収し、子会社化すると発表。代表の孫正義氏は「9月くらいには全体の手続き買収が終わるのではないか」と話しており、買収後は通信事業に並ぶソフトバンクグループ<9984>の中核事業とする方針を示している。

 孫氏はARMの買収について、IoTの広まりによってARMの技術を採用したチップセットの販売の拡大を見込んでおり、「絶対額はうなぎ登りに上っていく」と話す。それゆえARMに対しては、目先の利益を追うよりも、より先を見越して一時的に利益を減らしてでも、技術者の獲得や研究開発に向けた投資を増やすべきだと話しているという。

 一方で孫氏は、純有利子負債に対するEBITDAの倍率が、M&Aでは一般的な4.4倍程度であること、そして純有利子負債が7.1兆円であるのに対し、ソフトバンク<9984>の通信事業以外の保有上場株式を売却すると9.1兆に上ることから、「私に言わせれば実は無借金」と話すなど、今回のARM買収で負債が拡大するのではないかという懸念や不安を払しょくすることに力を注いでいた。Sprintの再建途上にあって、再び巨額買収を実施したことに対する不安は大きいだけに、この点は孫氏も丁寧に説明し、ケアを図っていたようだ。

 また今回のARMの買収に関しては、既存の通信事業などとのシナジーが見えにくいとの声も少なからず上がっている。この点について孫氏は、「シナジーが見えていないのがいい。シナジーが見える会社は独占禁止法に引っかかるし、見えない会社は手が出しにくい。だからこそ無風で買いに行ける」と、手の内は明かさないものの今後のシナジーを見越した買収であると話した。

 ARMの買収直後だけに、その点が大きな注目を集めがちだが、ソフトバンクグループ<9984>が現在抱えている大きな課題は、Sprintの再建であることに変わりはない。だが孫氏は、「今まで足を引っ張ってきたSprintの業績が著しく改善してきている。将棋の『と金』のように、利益貢献する側に転換できる目途が付いた」と話し、見通しが明るくなってきたと説明する。

 その理由は、ポストペイド携帯電話の純増数がプラス17万と過去9年で最大の伸びを記録したほか、2年前は2%台だった解約率が、1.39%にまで改善するなど、底打ち反転の目途が立ったことが大きいようだ。調整後のフリーキャッシュフローもマイナスが続いていたのが、プラス5億ドルへと改善し、通期で黒字の可能性も見えてきたと孫氏は話す。裏を返せば、Sprintの改善に目途が立ってきたことが、孫氏をARMの買収へと突き動かしたと言えるだろう。

 孫氏はこれまで、1日のうち50%の時間を、ネットワーク設計を主体としたSprintの再建に費やしてきたと話す。だが、Sprintの業績改善に加え、今回ARMを買収したことで、Sprintに費やす時間は5%減らし、Sprintと同じ45%をARMの中長期戦略に費やすとしている。それ以外の事業については、国内事業はソフトバンク<9984>代表取締役社長を務める宮内謙氏に、海外投資はソフトバンクグループ<9984>取締役のロナルド・フィッシャー氏に権限を委譲し、孫氏がかける時間配分を減らしていくとのことだ。

 実際、今回の説明会でも、6月に突如辞任した前副社長のニケシュ・アローラ氏が力を入れていた投資事業に関する説明は大幅に減少。また国内通信事業について質問が及んだ際、孫氏はソフトバンクモバイルとワイモバイルに関して誤った説明をし、宮内氏に訂正される一幕が見られるなど、ARMとSprint以外の事業に関する関心が落ちていることを見て取ることができる。

 特に国内の通信事業は、大きなキャッシュフローを生む重要な主力事業であり、いまなお高い関心を集めているにも関わらず、新戦略を発表する機会が減っており、同社の戦略や方向性が見えにくくなっている。孫氏がソフトバンク<9984>の第一線を退いたのであれば、宮内氏が国内向けの戦略を語る場が必要になってきているのではないだろうか。

吉澤体制に移ったドコモ--今後の戦略は

 今期から加藤薫氏から吉澤和弘氏へと、代表取締役社長が変わったNTTドコモ<9437>。7月29日に発表された同社の決算は、営業収益が前年同期比3%増の1兆1087億円、営業利益が27%増の2992億円で、引き続き増収増益の好調な決算となった。

 好調の背景にあるのは、通信事業の回復とスマートライフ領域の拡大であり、ここ最近の傾向と大きく変わらない。通信事業もすでに新料金プランの影響は大幅に減少しており、番号ポータビリティに関しても、吉澤氏は「今年はプラスになっている」と話す。またスマートライフ事業も、「dマーケット」や「あんしんパック」、さらに「dカード」の利用拡大などで、順調な伸びを見せている。

 他にも、ドコモの売り上げ拡大に寄与している要素はある。それは固定ブロードバンドサービスの「ドコモ光」。契約数が207万と、前年同期比と比べ5倍に拡大しているほか、「ドコモ光電話」などのオプション契約も好調に伸びているとのこと。ARPU(1契約あたりの月間売上高)もモバイル自体では停滞しているが、ドコモ光が伸びていることで全体のARPUを押し上げている。

 また利益の拡大で影響を与えているのが、代理店手数料などを含む販売関連費用で214億円も減少している。これには競争が激しくなり、販売奨励金が増加傾向にある春商戦の直後ということもあるだろうが、やはり4月に総務省がガイドラインを打ち出し、端末の実質0円販売が事実上禁止されたため、割引できなくなった分の奨励金の減少がより大きく影響しているといえる。

 いくつかの要因に支えられて伸びが継続しているドコモだが、懸念となる要素もいくつかある。1つは好調に推移しているドコモ光だ。現在はフレッツ光の利用者がドコモ光へ転用を進めることで伸びているが、転用による拡大には限界がある。今後は新規契約自体を増やす必要があり、光回線を引いていないユーザーに対し、どのような働きかけをしていくかが大きく問われてくるだろう。

 ガイドラインの影響による端末の高額化や、より安価な通信サービスへのユーザー流出も、同社の成長を見る上では懸念されるところだ。安価なサービスを提供するMVNOの多くは、ドコモの回線を使用していることから協力関係にあるといえるが、最近ではソフトバンク<9984>が展開するワイモバイルが、フィーチャーフォンと料金が近いこともあり、他社のフィーチャーフォンユーザーを奪っているという話も聞かれる。

 この点について吉澤氏は、そうしたユーザーが増えていることを認めた上で、「完全にキャッチアップはできないが、『シェアパック5』で対抗できる。(他社に)移行する人をゼロにすることはできないが、顧客をしっかり囲い込んでいく」と、既存の枠組みで対応していくと話す。さらにフィーチャーフォンユーザーに関しては、秋にLTE対応のAndroidフィーチャーフォンを発表する際、使いやすい料金プランを提示することで、継続利用につなげたい考えも示している。

 もっとも今回の決算は社長交代した直後の発表であり、現在の業績も、あくまで“加藤体制”の延長線上にあるものだ。吉澤氏の新体制による戦略が明確になってくるのは、もう少し先になるだろう。ドコモがどのような変化を遂げるのかが注目されるところだ。

低価格帯のユーザー流出に危機感を募らせるKDDI<9433>

 8月2日に発表されたKDDI<9433>決算は、営業収益が前年同期比8%増の1兆1305億円、営業利益が19.1%増の2751億円。こちらも引き続き、好調な決算となっている。

 好業績の要因の1つは、タブレットなどマルチデバイスの利用拡大によって、auの通信ARPAが拡大していることにある。1人あたりのモバイルデバイス数は、今期で1.42まで拡大しており、複数デバイスを販売し、アカウントあたりの売上げを拡大するauの戦略が順当に進んでいることが分かる。そしてもう1つ、ドコモと同様に総務省ガイドラインを受けての販売手数料の減少も、大きく影響しているようだ。割引きができなくなったことが利益を押し上げ、好業績を記録する要因となっている。

 総務省の影響による“奪い合い競争”の終焉など、市場動向の変化を受け、KDDI<9433>代表取締役社長の田中孝司氏は、決算発表でも長期利用者優遇プログラム「au STAR」や、ライフデザイン戦略の説明に多くの時間を割いていた。ポイント還元プラットフォームとビッグデータ、決済プラットフォームという3つのイネーブラーによって、かねてよりうたっている「au経済圏」の拡大を進めることで、業績拡大につなげる方針のようだ。

 そのためには、au IDの基盤を強固にする必要があるのだが、田中氏は「販売奨励金の減少でMNO同士の流動はほとんどないが、MVNOやワイモバイルなどに対する流出が見られる」と話している。低価格を求めるユーザーが、他社の回線をベースとした安価なサービスへと流出する傾向が進んでいることに、危機感を募らせているようだ。中でもワイモバイルは「大きな流出先」と田中氏は話し、危機感を露わにしている。

 そうしたこともあってかKDDI<9433>は決算発表会で、UQコミュニケーションズが主体となって以降、初めて「UQ mobile」の戦略についても言及。顧客のタッチポイントを増やすことや、ぴったりプランを1年間1980円で提供する施策、そしてiPhone 5sの販売など、ここ最近のUQ mobileに関する施策を改めて説明した。

 「我々のビジネスは、顧客1人あたりの売上げと数をかけた値が経営に直結する」と田中氏は話す。そのID、つまり顧客が低価格を求めて他社へ移ることで減少しているため、まずはUQ mobileのビジネスに協力して販売を強化することで、流出を防ぎたい考えのようだ。「(他社の)いいところはキャッチアップしないといけない。その次にプラスαの戦略を描いていく」と田中氏は話しており、低価格戦略での出遅れをいち早く取り戻すことが、KDDI<9433>にとって非常に重要な課題になっているといえそうだ。

 なお、KDDI<9433>の決算は、公正取引委員会が大手キャリアの商習慣見直しを求める「携帯電話市場における競争政策上の課題について」という報告書を出した後に開催されたことから、この点に関する質問も相次いだ。田中氏は、報告書が公開されたばかりであり、詳細を確認していないとしたものの、囲み取材では「昨年のタスクフォースの内容でカバーされたのではないか。何か具体的に指摘を受けるわけではないと思っている」と答えた。総務省のガイドラインへの対応で、改善が進められたと解釈しているようだ。

 ちなみに、決算発表の少し前から人気となっているゲーム「Pokemon GO」に関しては、KDDI<9433>とドコモの決算で言及する場面が見られた。その内容はいずれも「配信開始時のダウンロードでトラフィックが増えたが、その後は安定している」「モバイルバッテリの販売や、機種変更が進んでいる」といったもので、各キャリアにもたらした効果はおおむね共通しているといえそうだ。

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    最終更新: 12月17日(土)10時43分

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