Uberで考える、“アナログ産業のIT化”という衝撃

CNET Japan 2016年12月22日(木)19時47分配信

 世界がITテクノロジによって日々進化する現在、主戦場はPCやスマートフォンの中ではなく街や都市に移りつつあります。例えば、インターネットとリアルタイムに繋がったGPS情報は、そこにタクシーや宅配便を瞬時に呼び出すことができ、人やモノの移動を劇的に変えていきます。

 本連載では、今までインターネットに繋がっていなかったモノや都市などを非IT領域とし、そこで起こるイノベーション<3970>をITテクノロジやビジネスモデルの文脈で紹介します。

 連載初回は、時価総額が8兆円を超え、“アナログ産業のIT化”を語る上で外せないライドシェア事業者の「Uber」を軸に、世界が評価するITテクノロジの仕組みについて考察します。

時価総額8兆円のUberに注目する理由

 Uberについて、本誌の読者であれば知らない人はいないでしょう。2016年2月時点、世界68ヵ国400都市へ進出している、世界最大のライドシェア事業者です。その驚異的な成長ぶりから、タクシー業界の破壊的イノベーターとも呼ばれることもあります。

 その成長の代償で、2016年の冬に、サンフランシスコ最大のタクシー会社が破産しました。裁判所に提出された書類には、破産の理由として、多くの事故関連の請求・責任や利用客数の急減のほか、Uberをはじめとした新興のアプリベースのライドシェア事業者との競争や、それらの企業にドライバーを引き抜かれていることが挙げられていました。

 Uberは創業6年で、100年以上の歴史を持つGMやフォードの時価総額を抜くまでに成長した、世界最大のユニコーン企業(時価総額10億ドル以上の未上場企業)です。ちなみに、日本国内には時価総額8兆円を超える企業は、トヨタ、NTTドコモ<9437>NTT<9432>そしてKDDI<9433>の4社しか存在しません(2016年8月時点)。この点から見ても、Uberという企業の驚異的な成長には目を見張るものがあります。

 今までUberについて語るとき、世界各地でのトラブルや、アプリによる卓越したサービスが中心的に語られ、なぜ彼らのビジネスモデルやITテクノロジの活用が8兆円と評価されるのかといった、事業戦略側面での議論は少なかったように感じます。

 しかし、新しい製品を作るよりも、新しいビジネスモデルを創る方が競争力となる今、アナログ産業においてITテクノロジを駆使し、驚異的な成長を遂げたUberから学ぶことは多いと考えます。つまり、IT化のインパクトを素直に理解できるはずです。

 それでは、どのようなITテクノロジを彼らは仕組みにして、今だけでなく未来の競争力を手に入れたのでしょうか。それでは、まず彼らが見据えているであろう、そして多くの大企業が注視している未来社会について目を向けてみましょう。

Uberが見据える未来社会に世界が注目

 まず結論から言うと、Uberは配車アプリではなく、実態は都市内の人とモノの移動をつかさどるインターフェースだと私は考えます。いちユーザーとして見れば配車アプリと見ることもできますが、Uberが長期的に目指しているのは、自動運転車が普及する未来都市において、人とモノの移動をすべるプレイヤーだと思います。現に、ロボティックスに優れたカーネギーメロン大学から40人もの研究者たちを引き抜いて、自動運転の開発を加速させていますし、同社CEOのトラヴィス・カラニック氏は、「自動運転車が実用化されれば全てのUberを自動運転車に置き換える」と2014年の時点で公言しています。

 もしそのようなことが実現されれば、タクシー業界に留まらず、交通機関も、駐車場も、宅配事業者も、自動車保険も、かなり大きな影響(痛手)を受けるでしょう。もちろん、巨大産業の自動車産業もその1つであることに違いはありません。DoorToDoorでの移動が最速で最安で実現されるようになれば、自動車を持つことは無意味に感じてしまうかもしれません。よって、最大手の自動車メーカーのトヨタがUberと提携したのも納得できます。

 自動運転社会の到来で、まるで20世紀になって街から馬が消えたように、私たちが見てきた都市の風景が劇的に変化するでしょう。都市内での人やモノの移動の概念を根底から覆すポテンシャルを秘めている、言い換えれば、無人タクシーが水道水のように使える未来社会の実現を可能にしそうなのがUberなのです。このキーマンに高い評価がつくのは当然かもしれません。

 それでは、どのようなITテクノロジを彼らは仕組みにして、今だけでなく未来の競争力を手に入れたのでしょうか。私なりに3つの仕組みに注目しています。

Uberの成長を支え、加速させる3つの仕組み

①マッチング・アルゴリズム

 従来のタクシーの欠陥の1つは、配車が遅かったことです。運よく路上で掴まえることができれば良かったのですが、急いでいるときは運任せにする人はいません。一方、タクシー会社に電話して、タクシー営業所とドライバーに無線通信で配車を急いでもらっても、需要のある日程や時間帯ではさばき切ることは難しく、どうしても時間がかかりました。

 Uberの場合、シェアリングエコノミーで契約関係にある大量のドライバーが街中にいて、ビッグデータ分析から最適なドライバーを選定する技術があるので、GPS付きの配車リクエストをもらえれば、瞬時に最適なドライバーを配車することができます。このドライバーとユーザーとをつなぐマッチング・アルゴリズムは、来るべき自動運転社会においてもっとも重要な要素の1つになるでしょう。

②UX(ユーザー体験)

 Uberには、企業ロゴやアプリアイコンを刷新するために2年半も費やしたという歴史が示す、強いデザイン哲学があります。ユーザーやドライバーとの関係性をより良いものにしようとする執念を感じます。そして、CEO自身もUberの成功要因の1つに、信頼性のある配車・乗車体験を挙げるほどです。実際のところ、アプリを数タップするだけで配車でき、支払いは事前登録のクレジットカードで済む「簡易性」や、配車中のタクシーの現在地を見ることができる「安心感」にほれ込む方が多く、その結果世界的に普及しました。

 スマホネイティブな今、スマートフォン画面内の“便利で楽しい”インターネット体験を現実社会に求める人は潜在的に増えてきています。だからこそ、スマートフォンを通じて、ユーザーが街で知覚できる心地よいサービスには価値があります。当然ですが、スマートフォンやアプリがなければUberが用意する快適な配車・乗車体験を実現できず、都市内で最適な移動手段を得られないことになります。優れたUXはユーザーが価値あるサービスとして使い続ける理由になるので、その重要性を理解し実践するUberがユーザーからも投資家からも評価されるのは当然かもしれません。

③APIエコノミー

 Uberはそのライドシェア機能を、他社が簡単に使えるようにAPIを提供しています。代表的なのは、飲食店予約サービスのOpen Table、ホテル大手のハイアット、ユナイテッド<2497>航空など。宿泊や航空などのサービスと今をつなぐ全てをUberが担おうとしています。

 APIを提供するメリットは、アライアンスパートナーの数を圧倒的に増やし、経済圏を構築すること。そして、各APIを通じて、それぞれのエンドユーザーの行動・志向データを得られることでしょう。これを通じて、Uberはより確度の高い事業アイデアを得ることができ、勝ち筋の良い戦略を立てるという好循環が続きます。

 これら3つの仕組みのように、今だけでなく将来に渡って知見を蓄えられる仕組みを、ITテクノロジで実現することが、Uberのような驚異的な成長を実現するのだと私は考えます。同時に、多くの投資家が評価するのも、未来のクルマ社会での彼らの存在感を予察すれば、納得の評価とも言えるかもしれません。

 そして、こうしたITテクノロジ巧者は、タクシー業界のみならず他業界にも存在します。米国IBMが2015年に世界70カ国5200人以上の経営者を対象に実施したところ、「経営者は他業界からの新たな競合へ強い危機感を持っている」ことが分かりました。

 運輸というアナログ産業を考える上で、参考になる事例があるのでご紹介したいと思います。

“アナログ産業のIT化”は多方面で展開中

 米国に、「コヨーテロジスティクス」という会社があります。この会社では、4万社の運送業者と契約し、これをネットワーク化することで、空トラック(回送車)をなくしています。彼らは、トラックの効率活用を目指すべく、空トラックと貨物を適切にマッチングさせるアルゴリズムを開発しました。これにより、コヨーテロジスティクスは、2012年だけで、空トラックの走行距離を約885万キロメートル削減し、CO2の排出量を9000トンも抑え、顧客に900万ドルを還元したそうです。

 そして、2015年、コヨーテロジスティクスは、世界最大級の貨物運送会社「UPS」に日本円にして約200億円で買収されました。元々、UPSは毎年ITへの投資を積極的に進めてきましたが、これにより空トラックと貨物のマッチングのアルゴリズムの影響範囲をますます広げていくと予想されています。

 このように、アナログ産業において、ITテクノロジを駆使したマッチング・アルゴリズムは高い評価を受け、その後、買収されたとしても企業の成長因子として機能していくことがあります。日本では、2015年12月に、印刷所の遊休資産を活用したネット印刷事業社「ラクスル」が、配送希望者と配送業者のドライバーをマッチングさせる運送サービス「ハコベル」を開始したのが記憶に新しいでしょう。同社は、2015年12月に40億円、そして2016年8月に20億円を調達し、日本国内では乗りに乗っているスタートアップの1つです。

 もちろん、アナログ産業のIT化の成功要因はマッチング・アルゴリズムのみならず、それぞれの会社の強みが反映され、これさえあれば間違いないというものはありません。たまたま、同じ運輸業ということでUberとコヨーテロジスティックスが類似していただけで、他の業界・業種では異なった要因を見つけることができます。

 本連載では、アナログ産業の企業が起こすITテクノロジを駆使したイノベーション<3970>に目を向け、インターネットの本当のインパクトを読者の皆さんと実感し、それぞれの仕事において生かせる視点や視座を共有できたらと思っています。

 次回は、私が所属する倉庫業にフォーカスを当てたいと思います。



月森正憲

寺田倉庫株式会社 執行役員/MINIKURA担当

1975年生まれ。98年寺田倉庫に入社。約5年間、物流現場で重貨物の積み下ろしやフォークリフト操作など現場系作業に従事する。その後、営業職を経て企画担当へ。2012年に、顧客自身が預けた荷物をWeb上で管理できるクラウド収納サービス「minikura(ミニクラ)」をリリース。2015年からは、minikuraのシステムを活用しサービス展開するスタートアップ企業4社の社外取締役も務める

物流とITの融合に可能性を感じ、FinTechの次のトレンドとして「LogiTech」を提唱する

物流とITに着目する日本初オウンドメディア「LogiTech開発区」 運営中

CNET Japan
もっと見る もっと見る

【あわせて読む】

    最終更新: 2016年12月22日(木)19時47分

    【関連ニュース】

    【コメント】

    • ※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。