ユーザーの成長にアプリが寄り添う--アドビが考えるクリエイティブツールの未来とは

CNET Japan 2016年10月24日(月)11時29分配信

 クリエイティブのワークフローはここ数年でPCからモバイルに拡張してきている。スマートフォンやタブレットなどのモバイルデバイスでも本格的な作業ができるようになり、直感的な操作を生かしたアプリも登場。両者をスムーズに連携させるクラウド技術も含め、クリエイティブツールは新しいステップに進もうとしている。

 また、クリエイティブを取り巻く環境も変化している。ウェブサービスやアプリなどにおけるUI/UXの設計、プロダクトのインターフェイスなど、我々が生活で触れるデザインの重要度は年々増しているほか、写真や動画が簡単に扱え、性能も向上したモバイルデバイスの登場で誰でもクリエイターになれる下地が揃ってきている。

 こうしたツールの筆頭と言えば、「Photoshop CC」「Illustrator CC」といったデザインツールなどを幅広く手がけるアドビシステムズを思い浮かぶ人も多いだろう。同社は、クラウドベースのクリエイティブパッケージ「Adobe Creative Cloud」を提供しており、今はモバイルアプリの開発に精力的だ。

 アドビは、クリエイティブツールの今後をどのように見据えているのか。同社でサービス全般とモバイルアプリを統括している、米アドビシステムズCreative Cloudモバイル&サービス担当バイスプレジデントのゴビンド・バラクリシュナン氏に話を聞いた。同氏は、15年以上アドビに在籍し、前職は米AutodeskでMaya3Dの開発に携わるなど、クリエイティブの最前線を走ってきた人物でもある。

――現在、アドビではモバイルアプリを拡充していますが、無料のものも多く、こうしたプロダクトが“初めてのアドビ”になるユーザーも多いと思います。モバイルアプリはエントリー層がターゲットでしょうか。

 モバイルアプリを最初に作り始めたとき、まずはPhotoshop CCやIllustrator CCなどのコンパニオンアプリとしてフォーカスしていました。ですので、プロフェッショナルでも十分に使えるようなパワフルなアプリであり、同時にさまざまなユーザーが使えるようにも設計しています。

 初めの頃は、大変興味深いチャレンジだったのですが、モバイルデバイスでクリエイティブな作業がしたいというプロが大勢いることを知り、また、モバイルアプリで初めてアドビに出会うユーザーもたくさんいることに気づきましたので、2つのプライオリティのバランスを取ろうとしたのです。

――プロフェッショナルも考慮されているとのことですが、「Photoshop Fix」「Photoshop Mix」「Photoshop Sketch」など、同じPhotoshopでもそれぞれのアプリが目的に特化しています。これは機能を分かりやすくするためのものでしょうか。

 モバイル戦略を始めた2014年ごろ、当時のモバイルプラットフォームは、デバイス・OSともに制約が多くありました。そのため、プラットフォームに合うように分子化されたアプリを作ることにしたのです。しかし、分子化されたアプリはプロフェッショナルにとって一貫したワークフローを実現しづらいため、1年半ほど前からワークフローに対しても投資をはじめました。

 今では、ユーザーがとあるアプリで作業を開始し、別のアプリに作業を移してまた元のアプリに戻ってきたりと、それぞれのアプリをつなげるようなワークフローを提供しています。

 また、モバイルアプリで制作したプロジェクトを、デスクトップアプリに作業を引き継ぐことも可能です。

――モバイルアプリの今後についてですが、コンシューマとプロフェッショナル、どちらをターゲットにしていくのでしょうか。

 いま、この問題を解決するためにかなりの労力をかけています。プロフェッショナルに提供したいと思いつつ、ビギナーにとっても分かりやすいものでありたいと考えており、「プログレッシブディスカバリー」の導入を検討しています。これは、ユーザーのレベルにアプリが合わせてくれるもので、作業を進めていきながら次に何をすれば良いのかを発見できる仕組みです。

 ゲームで例えると分かりやすいでしょう。レベル1では、ユーザーに与えられる課題というのはシンプルなチャレンジですが、1つずつ課題を解決していくとユーザーのレベルは上がり、ゲームの難易度も上がってきます。これと同じで、シンプルなワークフローから始め、ユーザーが高度になってくれば新しい機能が使えるようになるという流れです。より直感的に使うことができるでしょう。

――それは今後、アプリに搭載していくのでしょうか。

 そうですね。将来的にモバイルアプリにどのように実装するか検討している段階です。

 東京ビッグサイトで開催されたAdobe MAX Japan 2016では、ゴビンド氏が基調講演に登壇した。同氏は「溺れてしまうほどあふれているデジタル体験において、一線を画して注目を集めるのは“真に素晴らしい体験”でなければならない。我々の存在意義は、美しいパワフルなクリエイティブによってインパクトのあるデジタル体験を実現し、世界を変革するお手伝いをすること」と、アドビの役割を説明している。

 また、「デジタルにより物事が非常に簡単になったが、それにより期待値も上がり複雑さも増している。消費者の行動が変わりデータ量も爆発的に増えた結果、デジタルディスラプション(創造的破壊)をもたらした。しっかり設計されたアプリ一つで、既存の産業が丸々なくなるリスクもある」とした上で、「しっかり作り込まれた体験の提供により、繁栄か死をもたらすか差が生まれた」と、デジタル時代における“体験”の重要性を説いている。

 現代におけるデザインのポジションについても、「デジタルによって私たちの生活は作り替えられた。よりシンプルにパーソナライズされ、PCやスマートフォンなどマルチスクリーンでつながることができる。こうした、他と一線を画す体験こそが変革の基礎となり、クリエイターこそがその体験を作り出す。デザインは、ますます重要な役割を果たす」としており、「すでに、適切な機能の提供だけでは不十分であり、質の高いデザインこそが顧客体験において一番の差別化要因」と述べている。

 「Apple、Amazon、Airbnb、Uberなどは、クリエイティビティを活用して素晴らしいユーザー体験を提供している。顧客の期待値も高く、ブランド自身も直感的でパーソナライズされ、ユーザーフレンドリーな体験が必要と自覚している」とし、「パワフルな体験は、あらゆるメディア、すべてのタッチポイントで提供されなければならない。期待値を超えるためにも、クリエイターはアイデアにもっと注力する必要がある」と、クリエイティブツール開発の背景を説明している。

――Adobe MAX Japan 2016の基調講演で、作り込まれたユーザー体験がデジタル時代に生き残ると話していましたが、アドビのアプリもさまざまな業界に大きな影響を与えていると感じています。

 そうですね。我々もパイオニア<6773>として常に先端を行くようにありたいと考えています。もちろん、我々が開発するアプリの機能でも最先端を行きたいとは思っていますが、我々のツールを使って、ユーザーが何を実現できるかのパイオニア<6773>でもありたいと思います。

――アドビのツールにより、コンシューマのクリエイティビティも変化したと思います。

 Adobe XD(UI/UXのプロトタイピングツール。モバイルサイト・アプリのデザインからシェアまで一貫した環境を提供する)が良い例だと思います。プロフェッショナルが使うことで大変強力なエクスペリエンスを実現できるでしょう。このツールは、私自身もXDチームと密に連携して開発に携わりました。

――Adobe XDこそ“デジタルディスラプション”を実現するものだと思います。こうしたツールは要望があって開発したのでしょうか。それとも、必要性を感じての開発だったのでしょうか。

 両方の組み合わせです。PhotoshopやIllustratorは、スクリーンデザインでよく使用されるツールですが、そうしたデザインにおいて両ツールはパーフェクトではありません。ツールをリビルドするのではなく、それに特化したアプリを作るという発想でした。

――Adobe XDを使えば誰でもUI/UXを作り上げることができそうですが、プロフェッショナルの仕事を奪うことにもなりそうです。

 まったくクリエイティブではない人が、Adobe XDを使えば良いUI/UXを作ることができます。ただし、本当に素晴らしいクリエイティブを作る場合はプロフェッショナルが必要です。

 Adobe XDは、UI/UXデザインをできるだけ早く簡単にするという趣旨があります。これまでどのようにツールをコラボレーションすればいいか悩んでいた時間を純粋なクリエイティブ作業に注力することができるのです。

アドビが描く今後のクリエイティブツールの在り方とは

――アドビのクリエイティブツールは、今後どういった展開を予定していますか。

 できるだけモバイルアプリやサービスに価値を移行していきたいと考えており、今、それを模索している段階です。クラウドの中にアセットを格納する方法や、クラウドベースのワークフローの導入、マシンラーニングの要素を取り込むのも1つの方法だと思います。

――マシンラーニングをどのように活用しようと考えているのですか。

 一部すでにやっていますが、よりインテリジェントなプロセスをクラウド側で任せることです。「コンテンツに応じた塗りつぶし(写真内の不要なオブジェクトを消去する機能)」のような機能の場合に、モバイルで作ったアセットをクラウドに送信し、クラウドでより高度な処理を施すことで結果が改善されるといったことです。こちらも今模索中です。

――モバイルアプリでAR/VRを導入することは考えていますか。

 AR/VRは、我々がとてもフォーカスしている領域であり、大きく投資もしています。つい最近、VRのワークフローをPremiere Proに組み込みましたが、今後もそうした発表ができると思います。また、VRだけでなくARについてもエネルギーを費やしてリサーチしています。

――最後に、ゴビンド氏お気に入りのアプリを教えてください。

 Photoshop Sketchです。鉛筆のように絵を描けるのが楽しいです。私には10歳の娘がいますが、びっくりするような作品をよく描きます。

――テクノロジでクリエイティビティが広がるのは素敵なことです。

 デバイスもますますパワフルになりますし、キーボードやスタイラスなど周辺機器もパワフルになってきました。若い人もより使いやすくなり、結果的に若い人たちのクリエイティビティが発揮できる場になることは、とてもエキサイティングだと思っています。

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    最終更新: 2016年10月24日(月)11時29分

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