なぜ、「東大発ベンチャー」が増えているのか--UTEC・郷治代表に聞く

CNET Japan 2016年11月07日(月)08時37分配信

 東京大学の出身者が立ち上げた、いわゆる「東大発ベンチャー」が増えている。経産省が4月に発表した「大学発ベンチャー調査」によれば、2015年の東大発ベンチャーの数は198社で、2008年の125社から大幅に増加。国内の他大学と比べても、2位の京都大学(86社)や3位の大阪大学(77社)を大きく引き離し首位となった。

 また近年は、東大が強みとしてきたヘルスケア・バイオ領域だけでなく、ICTやものづくり領域のベンチャーも目立つ。たとえば、家庭用プリンタで電子回路を印刷できるツールを開発したAgICや、低価格なデバイスをクルマにつけるだけで運転スピードや燃費を把握できるサービスを運営するスマートドライブ、ビッグデータ解析によって経済統計のリアルタイム化や企業の経営戦略の可視化をするナウキャストなどだ。

 「東大で起業が盛んになっていることは間違いない。数年前とは状況がかなり変わっており、保守的な印象が強い東大でもベンチャーは珍しくなくなっている」――。東大と密に連携するベンチャーキャピタルである、東京大学エッジキャピタル(UTEC)代表取締役社長 マネージングパートナーの郷治友孝氏は、東大発ベンチャーの現状をこのように語る。

 UTECは、東大のさまざまな研究成果を生かして、産学連携で新たな価値を生み出すことを目的としたベンチャーキャピタルで、国立大学が法人化された2004年に設立された。これまでの10年以上に渡る活動で、総額300億円規模の3つのファンドを組成。会社設立前のシードを含むアーリーステージのベンチャーを中心に約70社に投資しており、そのうちの9社が上場、8社がM&A(合併・吸収)を果たしているという。

 そんな数多くのベンチャーを支援してきた郷治氏は、東大から次々と起業家が誕生している理由について、いくつか要因があるとしながらも「成功事例が増えてきたことで好循環が生まれているのではないか」と語る。たとえば、東大発のロボットベンチャーであるシャフトは、2013年11月にグーグルに買収され注目を集めた。こうした事例が、東大生が起業に目を向けるきっかけになっているというのだ。

 ここ数年はベンチャーキャピタルから数億円、数十億円という大型の資金調達をするベンチャーも増えており、日本において起業しやすい環境が整ってきていると言える。そのような背景もあり、東大においても起業への抵抗感は下がっているのではと郷治氏は見ている。さらに、アイデア先行型のウェブサービスが評価される時代から、IoTなどのものづくりや、より産業にインパクトを与える製品やサービスが求められる時代へとシフトしていることも、研究を強みとする東大とは相性がよさそうだ。

 また、UTECや産学連携本部、知財を管理する東京大学TLO(Technology Licensing Organization)などが、長年にわたりベンチャーを支援してきたことも大きい。経営者を講師に招き、数カ月にわたり起業家を育成するプログラム「東京大学アントレプレナー道場」を2005年度より実施しており、過去11年間で2000人以上が参加しているという。第12期となる2016年には、ユーグレナ<2931>代表取締役社長の出雲充氏、Gunosy<6047>代表取締役CEOの福島良典氏などの東大出身者が講師を務めている。

 東大が企業と製品を共同開発したり実証実験をしたりするケースも少なくない。4月には、NTTドコモ<9437>と不整脈を発見するアプリ「HearTily(ハーティリー)」を開発。また、8月には三菱電機<6503>と、監視カメラの映像から混雑状況をリアルタイムで予測する技術を開発した。さらに、授業の一環で生徒が企業と共同研究することもあるそうだ。「企業は従来、自前の研究所などで製品を開発してきたが、それだけでは限界があるという意識が高まってきているのではないか。東大というよりも企業側のマインドが変わった」(郷治氏)。

東大ベンチャーならではの「課題」も

 こうしたポジティブな側面がある一方で、課題もあると郷治氏は語る。それは、研究を強みとする東大生には、経営者に向いた人材が圧倒的に少ないことだという。いくら優れた研究成果があっても、ビジネスにつながらなければ、その先には続かない。

 そこでUTECでは、ベンチャー企業の立ち上げ期などに、“経営者探し”を手伝っているという。たとえば、ペプチド治療薬を開発するペプチドリーム<4587>は、経営者の候補を探し続け、4人目で現社長の窪田規一氏と出会い創業した。

 東大発ベンチャーと海外の事業者との統合を支援するといったユニークな事例もある。医療機器向けの滅菌技術を開発したサイアン社は、日本では規制の問題で医療機器メーカーに売り込むことができないという悩みを抱えていた。そこで、海外に目を向けると、米国にも同様の滅菌技術を事業展開しようとしているNoxilizerという企業があることを知った。サイアンは開発力に、Noxilizerはマーケティングに長けていたことから、双方の強みを生かすために、経営統合という道を選んだという。

 「研究者と経営者の資質はまったく違う。大学発ベンチャーへの支援で大切なことはお金よりも経営サポート」(郷治氏)。UTECでは今後も、経営者のネットワークを広げながら、それぞれのベンチャー企業に適した経営者を紹介できる体制を強めたい考えだ。

「基礎研究」を疎かにしてはいけない

 経営者問題に加えて、もう1つ危惧していることがあると郷治氏は話す。それは、起業やマネタイズばかりに集中し、最も大切にしなければならない“基礎研究”が疎かになってしまうのではないかということだ。「国に研究費などの予算をカットされ、研究室に残っていても将来が見えないから起業するというネガティブな理由もある。何でも外に出して事業にしたら研究が続かない」(郷治氏)。

 最近では、オートファジーの研究で大隈良典氏がノーベル医学・生理学賞を受賞したが、大隈氏がオートファジーの研究を始めたのは約30年前。好奇心から研究を始め、何の役に立つか分からないものが、ある日、予想もしなかった形で化学反応を起こすこともある。そうした“本質”を忘れず、東大ならではの高い研究力を持ったベンチャーを、これまで以上に生み出せる環境を作りたいと郷治氏は話す。

 UTECでは、東大をロールモデルに、国内外の大学や研究機関、企業との連携を強めることで、エコシステムを作ろうとしている。すでに名古屋大学、大阪大学、九州大学や、カリフォルニア大学バークレー校、スタンフォード大学、カーネギーメロン大学などと連携して、大学発の研究成果や技術からイノベーションを生み出そうとしているという。

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    最終更新: 2016年11月07日(月)08時37分

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