VRを既存のゲーム視点から評価してはいけない--先駆者たちが2年ぶりに語るVRの現状

CNET Japan 11月07日(月)15時20分配信

 10月28日、デジタルハリウッド大学大学院駿河台キャンパスにて「エンタテインメントの未来を考える会 黒川塾(四十壱)」と題したトークセッションを実施した。コラムニストの黒川文雄氏が主宰。エンターテインメントの原点を見つめなおし、ポジティブに未来を考える会となっている。

 今回のテーマは「バーチャルリアリティの未来へ4~あれから2年」。2014年11月に初めてVRをテーマにセッションを行った「黒川塾(二十壱)」から2年が経過し、VR界わいにおいて何がどう変わり、今後どのように成長して行くのかを語った。

 当時登壇したPlayStation VR(PS VR)開発メンバーであるソニー<6758>・インタラクティブエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ プレジデントの吉田修平氏、PS VR向けのデモコンテンツから話題となり、製品版のリリースまでに至った「サマーレッスン」を手がけるバンダイナムコエンターテインメント 第1事業本部 ゲームディレクター/チーフプロデューサーの原田勝弘氏、「Oculus Rift」のエヴァンジェリストとしてパーソナルVRの布教活動やコンテンツ制作に務める「GOROman」こと、エクシヴィ代表取締役社長の近藤義仁氏の3人が、今回も顔をそろえた。

 加えて、2016年に期間限定でお台場に開設していたVRコンテンツの体験施設「VR ZONE Project i Can」の仕掛け人でもある「コヤ所長」こと、バンダイナムコエンターテインメント AM事業部 エグゼクティブプロデューサーの小山順一朗氏も登壇した。

「VR」よって「1プレイ100円」の概念から一線を引く

 まず、このトークセッション時点において発売から約2週間ほど経過したPS VRの感触や動向について吉田氏が語った。「新しいハードが発売されるときは何が起こるか分からないもの。特に今回は全く新しいデバイスのため、ユーザーも慣れているわけではない。そのため会社を挙げて身構えていたが、大きな問題もなく世界的に順調」とコメント。

 当初は2016年上半期の発売を想定していたため、ハードの開発は早い段階で終わっていたとしたが、需要増に対応するために発売日を10月13日に設定。その期間で調整や、ユーザーテストも繰り返して万全を期したことも奏功したという。現在でも品薄状態が続いているが、継続的に出荷をして対応していくという。

 小山氏は10月に終了したVR ZONEについて、完全予約制かつお台場という立地という敷居の高さがあり、さらには宣伝もほとんど行わなかったにもかかわらず、平日昼間の時間帯も含めて連日満員で盛況。用意されていたVRアクティビティも、利用料が700円から1000円と少々高めに設定していたがおおむね受け入れられ、当初の計画を大幅に上回る成果を出したという。このことに触れ、VRに対する過小評価をしていたと振り返った。

 VR ZONEに取り組もうとした理由について、小山氏はこれまでもさまざまなで場面で理由を語ってきたが、本音のところとしては、自身が所属するAM事業部は主にアミューズメント施設向けのゲーム(アーケードゲーム)が主体であり、その市場が年々縮小傾向にあるのは周知のところである上、年々開発費などさまざまなコストが高騰している。そんな環境下でも「1プレイ100円」の概念がいまだに強く残っている市場でもある。そのため、「VR」という言葉によって既存の概念から一線を引き、新たな道と価値観を生み出す必要があると考えた。そして、これまで培った体感型ゲームのノウハウが生かせるVRコンテンツの開発に乗り出すともに、VRの価値を高める意味でも強気の価格設定を行ったと説明した。

 VR ZONEでターゲットとしていたのは20代の“リア充”層であり、実際に来場したユーザーの年齢層は狙い通りの結果となったが、途中で投入した「VR-ATシミュレーター 装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎」によって、ボトムズファンの世代でもある40代が激増。この世代というのは、1990年頃のVRブームを経験した「VRガッカリ世代」(小山氏)と指摘。こうしたことから、20代の“VR世代”と40代の“バーチャルリアリティ世代”には溝があるとの見解を示した。

お台場「VR ZONE」の所長らが語ったVRの知見--“感情”に訴え“体験”を考えるべき

既存のゲームと比較した視点だと、いい評価が出るわけがない

 原田氏は、製品版としてリリースされたサマーレッスンの手応えについて「圧倒的な1位の状態」と好調ぶりをアピール。ユーザーからの反応については大きく分けて「素直にVRの凄さに感動や興奮する人」「雑誌で事前に情報を集めたり、体験会などで試した上で、改めて確認して感動したりする人」「VRの凄みは感じるものの、既存のゲームとして評価する人」の3つに分かれているという。

 この3つ目の反応である“ゲームとして評価する”という視点で見た場合、あまりいい評価がされていないことに触れ「既存のゲームと比較した視点で見られると、いい評価が出るわけがない」と主張。重要視しているのはVRならではの体験であり、内容自体も比較的シンプルなものも多い。PS4という据え置き型ゲーム機の周辺機器という側面はあるものの、既存のゲーム視点で見ると、映像体験とゲームを分けて見てしまう傾向があるため、映像は良くてもゲーム性が低いために低評価を受けてしまうと指摘する。

 VRは体験しないと伝わらないものというのは周知の通りであり、これらのコンテンツを体験した人が驚いたり怖がったりして、実際に評価されている。そのことを踏まえ「言葉でレビューして評価されたものを見ただけではわかるわけではない」とし、既存の概念やゲーム的な枠組みに当てはめて評価してはいけないと指摘した。

 ちなみにサマーレッスンのリリース後、想定していなかった評価として「実況プレイ向き」という言葉が多かったことを挙げ、原田氏も実際に見てそう思い、VRコンテンツの可能性がまだまだあるということを実感したという。

 小山氏も、VR ZONEで用意したコンテンツを「ゲーム」や「アトラクション」とは呼ばず、「アクティビティ」という言葉を使用。統一した体験を提供するアトラクションとは違うものであり、また攻略していくという概念のあるゲームとも違う。成功も失敗もあるような体験を重要視したことから、アクティビティと付けたという。

 VR ZONE向けのアクティビティ制作においては、前述のようにコアゲーマーではない一般の客層を想定していたこともあり、これまで培ったゲーム性や演出をあえて外したという。実際、ゲームの演出では当たり前になっているBGMも、無音にしたほうがリアルさを感じられ、興奮度が増したと振り返る。

 また運用面においても、基本的にゲームは自動的に始まりゲーム内で説明が行われ、自動的に終わるもの。だが、VR ZONEのアクティビティではその要素をバッサリと切り、スタッフが口頭で内容や操作方法を説明する形をとった。こうすると、スタッフの説明内容や体験前後の対話によって、体験者のプレゼンスや評価が変化したという。単に機器の装着指示だけではなく、アクティビティの世界観や設定も話すようになるとグッと没入感が上がり、反応もよくなっていたっという。

 近藤氏からは、VRの体験がすごいものであるがゆえ、VRの世界に入る前の心の準備が必要だと指摘。プレゼンスを高めるために、VRの世界に浸ったり慣れさせるための時間なり説明が大事だと説く。原田氏も、サマーレッスンのデモ版では、暗転しているときにエアコンや外を走る車の音といった効果音を3秒間ほど聴かせて「ここは室内だ」と思わせてから、部屋に入ったシーンを映し出すと没入感が上がったと語る。こういう少しの工夫でもプレゼンスが変わってくるため、タイトル画面やイントロ部分での工夫にまだまだ余地があるとした。

 小山氏は、さらに一歩進んで「ネタバレした方がかえっていい」とも付け加えた。地上200mの高所にせり出された板の上を歩く「高所恐怖SHOW」でのある取材において、何の説明もなくいきなり連れられてきた人が板の上を歩くところだけをやらせてみても、怖がらなかったという。しかしながら、事前説明を受けてその様子を見ていたスタッフが、冒頭のエレベーターで上がっていくところから体験してみると、本気で怖がっていたと振り返る。

 ほかにも「ガンダムVR ダイバ強襲」において、2人の若い女性で実験した実例を披露。まずひとりの人にコンテンツ自体の説明も行わずに体験してもらったところ、なんとなく状況を見ているという淡々とした雰囲気であったのに対し、もうひとりのほうはザクが襲ってくることなど、これから起きるシチュエーションをネタバレになるくらいに話した上で体験してもらったところ、「ヤバイヤバイ」と連呼しながら取り乱し、悲鳴をあげていたという。

コンピュータのUIが変化する可能性を秘めた「Oculus medium」

 近藤氏からは、10月にOculusが主催した開発者向けカンファレンス「Oculus Connect3」について触れられた。専用コントローラの「Oculus Touch」が米国時間の12月6日に発売されることなどさまざまな発表が行われたなか、近藤氏はそのOculus Touchを活用した2つのトピックスを取り上げた。

 まずはVR空間をチャットルームとして、別の場所にいる相手とコミュニケーションを取るソーシャルVRのデモ。Oculus Touchによってジェスチャーを行うことができるほか、背景の映像を変えたり、みんなで動画を楽しむ様子を紹介。

 もうひとつ、Oculus Touchと同時リリースの予定とされている「Oculus medium」。これはVR空間のなかで3Dモデルの立体物を直感的に作成できるソフトで、3Dプリンタによる出力も可能。コンピュータのユーザーインターフェース(UI)は、キーボードで全ての操作を行うキャラクタユーザインターフェース(CUI)から、コンピュータグラフィックスとポインティングデバイスを用いて直感的な操作を行うグラフィカルユーザインタフェース(GUI)へと変わってきたが、近藤氏は、Oculus mediumのようなフレーム枠にとらわれないUIによって「モデリングやCADの操作が再定義されるのでは」と語った。

AIはエンターテイメントを一変する力がある

 原田氏がヘッドマウントディスプレイ(HMD)型のVRシステムに興味を持ち始めた段階では、当時同じ部署の上司だったという小山氏や周囲の人に相談。前向きな反応もあるにはあったものの、肝心の開発予算を引き出すというところまでは進まなかった。2年前のトークセッションでも語っていたように、部活的な立ち位置から開発を進め、サマーレッスンによって注目と話題の喚起に成功。社内でもいい意味での手のひら返しが巻き起こったという。

 そんな部活的な立ち位置から始まったVRの取り組みだが、VR ZONEの成功も相まって「VR部」という正式な社内部署が最近立ち上がったという。早期から取り組んでいた原田氏にとっては「痛快な出来事」と笑顔で語っていた。今でもVRに関してはさまざまな発見があるとし、その発見をサマーレッスンをひとつのプラットフォームとして順次発信していくとした。

 また原田氏は人工知能(AI)にも着目しているという。ゲーム業界で実用化するにはまだ課題が多いとしたものの「エンターテイメントを一変させる力がある」と主張。オンラインゲームでAIとパーティーを組んだり、対戦格闘ゲームでAIと対戦するほうがよりよいゲーム体験が得られるようになるという未来像を持っているという。「AIはパーフェクトな存在に思えるが、僕はそう思ってない。あるところまで行くと人間の不完全さとか、人間が完璧じゃないことを美徳とすることを人工知能が知る。その瞬間『生命になる』」と語り、そうなったときに、例えばサマーレッスンの女の子が本当に恋愛できるような存在になると説明した。

 小山氏からは、日本のマンガやゲームのさまざまなシチュエーションは、VRで有効活用できると見解を示した。「たとえば『マリオカート』のレインボーロードを本当に走ったら死ぬほど怖いはず。『ドラゴンボール』のカメハメ波を撃ったら周囲のものが全部消える。そういうことが体験できる」と例えに挙げつつ、コンテンツの創造力を絵の中に閉じ込めず、VR空間で体験できるということを日本としてやるべきと主張した。

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    最終更新: 11月07日(月)15時20分

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