不動産業の立場から考える、リアルとテクノロジの融合--CNET Japan Conference 2016

CNET Japan 2016年11月14日(月)10時00分配信

 朝日インタラクティブはこのほど、ビッグデータやAIなどを活用した「Real Estate Tech(不動産テック)」と呼ばれるビジネスの変革が著しい不動産ビジネスに焦点を当てたイベント「テクノロジが創世する不動産産業の新潮流 ~Real Estate Tech 2016 Summer~」を開催した。

 「リアルとITテクノロジの融合が業界全体の価値を高める」と題した講演では、不動産仲介業大手のハウスコム<3275>代表取締役社長である田村穂氏が、不動産業界の立場から見たとリアルな不動産業とITテクノロジの融合について、その必要性を同社の取り組みを交えながら提唱した。

不動産業は、変わらずにいられるだろうか

 田村氏は冒頭、「私たち(不動産業者)が持っているのは、リアルな店舗。その価値を高めたいと考えている。そこではテクノロジが味方になってくれる」と今回の講演テーマについてひとことで表現した上で、自身が出張で旅客機を使うことを引き合いに出して、こんな話をした。「私は(東京から)福岡に行く際に席選びに人一倍のこだわりを持っている。選ぶのは、富士山や京都の街が一望できる窓際の席だ。この席に座るととても気分が良く仕事にもやる気が出る」。

 なぜ、田村氏はこのような話をしたのか。それは、この旅客機の座席の話が現在の不動産賃貸仲介業のビジネスモデルと酷似しているからだというのだ。

 「電話で“部屋は空いていますか?”と聞くと、店舗のスタッフは“空いていますよ。とにかくお店に来てください。”と答える。いざ店舗に行くと、店舗のスタッフは“物件は早い者勝ちですよ”と顧客に伝える。賃貸物件は自由席なのか?今の不動産賃貸はこんなイメージだ」と田村氏。いい部屋を借りようとしてお店に行っても、物件は早い者勝ち。もしも埋まってしまっていたら、仕方がないから別の部屋で妥協する。借りた顧客はなんだか腑に落ちず、ストレスも感じる。これが不動産賃貸のリアルだというのだ。

 田村氏は続ける。「だからどうという話ではない。こうして私たちはビジネスをしてきたということだ。では、私たち不動産賃貸のビジネスモデルは、このままで変わらずにやっていけるのだろうか。商店街の商店はコンビニになり、薬局はドラッグストアになった。世の中のビジネスはどんどん変化している。しかし、不動産業だけは変わっていない。これだけテクノロジがあふれる世の中になっても、私たちは変わっていない」。田村氏は、顧客のライフスタイルや情報流通経路はテクノロジによってどんどん変化している中で、不動産業のビジネスだけが旧態依然としている実態に対して警鐘を鳴らしたのだ。

 では、不動産業界はなぜこれまで変わってこなかったのか。田村氏は、「顧客の行動を変えるような、サービスを変えるようなことが十分にできていないからだ」と説明。さらにその背景として田村氏は、顧客と営業マンに情報格差・非対称性がある点、あらゆる物件すべてにユニークネス(非同一性)がある点、人も情報もすべて店舗に集約させるというビジネスモデルが硬直化している点などの課題を挙げ、プッシュ型の営業に邁進するという不動産会社視点の姿勢に固執している点がこのビジネスモデルの硬直化を招いていると指摘した。

 「しかし、私たちの業界だけが変わらないというのは可笑しな話だ。周囲のビジネスはテクノロジによって顧客の価値や行動を変え、変革を遂げている。私たち不動産業にも、AIなどのテクノロジを活用して課題を解決することで、変わっていけるのではないか。賃貸仲介業者は、物件の成約データというビッグデータを持っている。これを上手く活用できるのではないか」(田村氏)。

AIを活用した顧客対応システムの導入で、高い効果を実現

 こうした課題意識に立ち、ハウスコム<3275>はこれまでテクノロジを活用した新たな試みをしてきたという。田村氏はこの試みと効果、そして今後の構想について説明した。

 同社が行った試みは、人工知能を活用した「AI物件検索」と「AIチャット」の導入だ。AI物件検索は、ウェブサイト上で顧客がいくつかの質問に答えると、物件データベースから最適な物件をレコメンドするというもので、AIは経験を重ねるごとに学習し、レコメンドの精度を上げていくのだという。AIのベースになっているのは、年間7万件というハスコムの成約データ5年分だ。「AIはまだ人間に例えると1歳程度。しかし、このレコメンドによって物件探しのインスピレーションが生まれるのではないか」と田村氏は説明する。

 一方、AIチャットは通常メールでやりとりする顧客と担当者のコミュニケーションをチャット形式にするという試みだ。ただ、チャット形式では担当者は離席も我慢してチャット画面で顧客対応をしなければならない。そこで、顧客からの簡単な質問にはAIが24時間自動的に応答して回答を返すという仕組みを導入したのだという。これによって顧客対応の効率化が実現し、営業時間外でも顧客対応を行うことで満足度を高めることが実現したのだそうだ。

 「テクノロジを活用して顧客に寄り添うことができるようになれば私たちの仕事を変えることができるかもしれないという思いでシステムを導入した。その結果、AI物件検索を導入してから、ウェブサイトからの問い合わせ件数が対前年比170%の成長まで実現した。また、AIチャットを導入した結果、初回来店率、再来店率が前年比で飛躍的に向上した。簡単なやりとりでも顧客の検討を支援して来店の動機付けを実現したことが証明された」(田村氏)。

テクノロジを活用して、顧客との“感情のつながり”を生み出したい

 続いて田村氏は、将来に向けた新たな試みを紹介した。それは、顧客の問いかけに対して感情を加えた発話データを返答する「A.I. PET(アイペット)」という構想だ。AIチャットでは問いかけに対して的確な答えを返すことを主たる目的にしてきたが、このA.I. PETでは問いかけに対してその文脈に応じた感情を込めた返答を返し、顧客との間に情報のやりとりに留まらない“感情のつながり”を生み出そうとしているのだという。AIのベースとなるのは膨大な対話データで、現在開発を進めているのだそうだ。

 田村氏は最後に、このA.I. PETの開発をはじめとするテクノロジの活用を通じて目指すものについて語った。「私たちの営業活動の目的は店舗に来てもらうことではなく、物件に実際に触れて体験してもらうこと。物件には、実際に触れなければわからない豊かな情報がある。この豊かな情報を、テクノロジを駆使したり、人間性を磨いたりすることで多くの人に届けられないものか」と田村氏。その上でリアル店舗は、地域に密着してその地域でしか収集できない豊かな情報を集め、その地域の玄関となることが重要な役割であると説明した。

 「地域の豊かな情報をどのように集め、どのように伝えていくのか。そのサポートしてテクノロジを活用し、将来的にはリアルの営業活動をサポートする“未来のリアルター”としてロボアドバイザーを実現できるのではないか。とはいえ、私たちはリアルな店舗と膨大なデータは持っているが活用の仕方を十分に知らない。多くの企業、学校などとパートナーシップを組み、業界全体で活用できるようなオープンイノベーションを生み出していきたい」(田村氏)。

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    最終更新: 2016年11月14日(月)10時00分

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