ITと人の融合が、日本の不動産ビジネスを変える--CNET Japan Conference 2016

CNET Japan 2016年11月15日(火)10時00分配信

 朝日インタラクティブはこのほど、ビッグデータやAIを活用した「Real Estate Tech(不動産テック)」と呼ばれるビジネスの変革が著しい不動産ビジネスに焦点を当てたイベント「テクノロジが創世する不動産産業の新潮流 ~Real Estate Tech 2016 Summer~」を開催した。

 「『RealEstateTech』で変わる国内の中古住宅流通市場の活性化」と題したパネルディスカッションでは、ビッグデータ解析プラットフォームを提供するトレジャーデータのマーケティングディレクターである堀内健后氏、不動産情報プラットフォーム「IESHIL(イエシル)」を運営するリブセンス<6054>の不動産ユニットリーダーである芳賀一生氏、同じくリブセンス<6054>の村田健介氏が、2016年に入って急速に注目が高まっているReal Estate Techの本質について語った。

IESHILのサービスを実現した不動産ビッグデータ活用とは

 冒頭でトレジャーデータの堀内氏は、FinTechやReal Estate Techに代表される非IT産業におけるデータとテクノロジの活用について、「これまでは、データを蓄積するためにはサーバを自前で用意してデータウェアハウスを数年かけて構築して、初期費用も数億円かかるような世界だった。しかし、こうした環境をクラウドで提供できるようになったことで、初期費用もなくすぐに導入ができ、保守もスケーラビリティも担保されるようになった。一方で、ユーザーのモバイルシフトによってデータが大量に発生する時代になり、それを処理する基盤が求められるようになった。この両輪が“〇〇×Tech”と言われる変革を生み出している」と説明。不動産ビジネスにおけるデータとテクノロジの活用事例として、トレジャーデータがデータ解析プラットフォーム、機械学習プラットフォームを提供しているリブセンス<6054>のIESHILのデータ活用事例を紹介した。

 IESHILの開発を担当しているリブセンス<6054>の村田氏は、近年のReal Estate Techの特徴について、人工知能や機械学習を活用した物件の価格推定がどのようなメカニズムで行われているのかを解説。具体的には、「重回帰分析」という手法を用いて物件の経年劣化や平米数に応じた価格上昇率といった様々な評価係数を算出し、その係数を足し合わせることで一般的な不動産鑑定評価で使われる評価方法のうち積算で評価額を算出する「原価法」と呼ばれる計算式による物件の価格推定ができるのだという。

 「これまでは勘や経験に頼っていた評価係数を積算していたものを機械学習によって自動的に算出できる。膨大な情報を処理したことで実現できる仕組みだ」(村田氏)。

 村田氏によると、こうした大量のデータ処理を行う重回帰分析を実現するためには、不動産業界や物件価格形成の実務知識に加えて、統計や数学的知識、高度なプログラミング、係数のチューニング、多変量の係数処理に耐えられるコンピューティング環境が求められる。それが大きな課題となるのだが、トレジャーデータのデータ解析プラットフォームと機械学習プラットフォーム「Hivemall」というクラウド環境を活用したことでエンジニアリングを効率化し、サービスの立ち上げスピードを加速させたのだという。

 また村田氏は、「こうしたデータ解析環境を実現したことで、中古マンションの価格推定や地域ごとの価格変動指数(インデックス価格)、地域ごとの経年劣化による値下がり率など導き出せるデータは多い」と指摘。さらに、不動産ビッグデータを活用したReal Estate Techのカギとなるのは「データの掛け合わせ」だと説明した。

 不動産ビッグデータを単純に整理して統計を出すだけでなく、それに地域性や時間、路線情報など様々な係数を掛け合わせることで、住み替えエリアの効率的な選定や不動産価値の深い評価など様々な活用方法が可能になるというのだ。「データを掛け合わせることで、物件購入者に後悔のない物件選びの手助けができたり、不動産業者には営業効率の向上が見込めるデータが提供できるのではないか」(村田氏)。

Real Estate Techが解決を目指す、不動産ビジネスの課題とは

 続いて、IESHILの事業責任者である芳賀氏が、日本の不動産ビジネスにおける課題とIESHILが目指しているReal Estate Techについて語った。

 芳賀氏は、今後日本が直面する人口減少と近年の新築住宅供給過多の現状、日本国内における中古住宅の流通が全体のわずか14.7%(17万戸)に留まる点などを取り上げた上で、今後の空き家率が2020年には20%、2040年には25%、さらに2095年には全住戸の半数に迫る45%まで上昇するという試算を紹介。

 日本が直面する未来として、「誰もいないアパートが増加し、住宅街は閑散とする。空き家が増えることで、建物老朽化による崩壊、いたずらや不法侵入、ゴミの不法投棄、雑草が害虫など、住環境を脅かす様々なリスクが考えられる。次の世代が安心して生活できる住環境のためには、新築中心のビジネスから既存住宅を大切にするビジネスへと転換しなければならないのではないか」と提言した。

 その上で、Real Estate Techによって中古住宅流通市場を活性化することで課題を解決したいという考えから、IESHILは生み出されたのだという。このIESHILが解決を目指す不動産業界の課題について、芳賀氏は「不動産仲介業務の効率性」「不動産価格の透明性」「瑕疵担保責任」という3点を取り上げ、Real Estate Techが今後発展していくための要望をまとめた。

 芳賀氏は、日本生産本部の労働生産性統計のデータによると不動産業界の生産性=業務効率が他の業界と比較して低い点や、電通<4324>の統計によると住宅・不動産業界のフリーペーパーにおける広告宣伝費が高く、折り込みチラシやダイレクトメールなど非効率な広告手法が集客の中心になっている点、不動産仲介業における業務の20%近くを集客に費やさなければならない点など、不動産ビジネスが抱えている課題を指摘。

 不動産取引にまつわる様々な業務を分業しながら効率的な取引を行っている米国の事例と比較した上で、「日本の不動産仲介業では、売り手・買い手ともに営業担当者の業務範囲が広すぎるのではないか」と提言した。

 また芳賀氏は、不動産価格について「消費者はオンラインで販売価格しか分からず、その物件の適正価格を知ることはできない。結果的に、実際に不動産店に行き営業担当者に教えてもらうしかない」と指摘。その際も、不動産価格の評価は過去の取引実績をベースとして相対的に判断する取引実績比較法が主流である点を紹介し、「データから適正価格を導き出すということは、本来ITの得意な領域。商品価格や金融領域などにおいては、統計分析のプロフェッショナルな技術が活用されている。

 現在は業者間流通に限定されているレインズ(不動産取引情報のデータベース)のデータをインターネット事業者に開放してもらえれば、より透明性のある価格情報を消費者に提供できるのではないか」とReal Estate Techの可能性を示した。

 加えて芳賀氏は、不動産における瑕疵(修繕が必要な個所)の担保やアフターサービスについて、食品業界において食品表示法の規則により品質や原料の表示が義務づけられている例を挙げたうえで、「現在、瑕疵担保責任は売り主にあり、個人レベルでは認知できない瑕疵が多すぎて売る際の不安材料になり、また買い手は購入して住んでみないと瑕疵に気づけないため検討時に疑心暗鬼になる」と指摘。

 この点については、2018年からはインスペクション(住宅診断の確認)が義務化されたり、住宅瑕疵担保保険が増加したりといった制度の拡充が進んでいる点を紹介した。

 こうした課題を提起した上で、芳賀氏は今後Real Estate Techが発展していくために、レインズデータのインターネット事業者による活用の承認、宅建業を営む上での事務所規定の緩和(無店舗経営の容認)、契約や重要事項説明のオンライン化の容認、手数料率の見直しなど、不動産取引を巡る法規定の見直しを要望としてまとめた。

IESHILが考える、Real Estate Techの未来

 芳賀氏は、不動産オーナー向けの効率化サービス、売買マッチングサービス、契約プロセスのオンライン化などReal Estate Techに関する海外のスタートアップ企業が投資を獲得して成長している事例を取り上げた上で、「不動産ビジネスでITが利活用できるシーンは多数存在する」と提言した。

 例えばIESHILでも、警視庁などが公開している住環境の治安状況、各自治体が管理している地域別待機児童数の情報、各省庁や団体が管理している地盤情報やハザードマップなどの情報を不動産情報と組み合わせることで検討している住環境のメリット、デメリットを透明化できるよう情報の拡充を進めているという。

 また、今後のReal Estate Techの可能性として、スマートフォンを使った鍵(スマートロック)によるセルフ内覧、遠隔地でも接客が受けられるチャット接客、オンライン手続きなどを挙げたほか、工数が多すぎる仲介業務の一部オンライン化と顧客コミュニケーションの簡易化により、営業担当者の負担を軽減して業務効率の向上が見込める点などを提案した。

 「ITの活用によって不動産ビジネスの様々な効率化が可能になるが、最後は高度な知識を持った専門の営業担当者の対応によって消費者は納得して不動産を取引することになる。営業担当者がデジタルに置き換わることはない。ITで効率化できる定量的な領域と人による対応が不可欠な定性的な領域を適切に切り分けて、ITと人が最適な融合・協力を果たしていくことが、今後の日本の不動産ビジネスで強く求められていくのではないか」(芳賀氏)。

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    最終更新: 2016年11月15日(火)10時00分

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