ECは「越境」から「クロスボーダー」へ--中国GShopperイゴル・ユン氏に聞く

CNET Japan 2016年11月24日(木)15時48分配信

 飽和する日本市場の成長の停滞や、海外の日本製品への関心、いわゆるインバウンド需要への高まりなどを背景に、日本から海外に向けてオンラインで商品を販売する“越境EC”に注目が集まっている。これまでは、国内でどうすれば競合に勝てるかを考えてきたメーカーや小売企業は、海外でどのように勝負すればよいかが問われているのだ。今後、グローバル化が加速するEC市場は、どう変わっていくのだろうか。

 中国でグローバルECプラットフォーム「GShopper」を展開する、GShopperの創業者でCEOのイゴル・ユン氏に話を聞いた。GShopperはこれまで、B5MSoft(バンウマイ社)として中国国内向けのECビジネスと中国市場向けの越境EC支援を展開。9月に商号変更し、アジア全域や北米・欧州市場も視野に入れたグローバルなECプラットフォームの展開を目指しているという。

 イゴル・ユン氏はこれまで起業家として、商品検索サイト「Become(ビカム)」やウェブ検索サイト「Wisenut(ワイズノット)」を立ち上げ、インターネット黎明期から数々の成功を収めてきたという経歴を持つ。

売り手と買い手の「良い関係作り」を目指す

――まずはGShopperのビジネスモデルについて教えてください。「バンウマイ(B5M:帮5买/現在のGShopper)」「バンウチャイ(B5C:帮5采」「バンハベイ(BHB)」などのビジネスを展開していますが、それぞれどのような違いがあるのでしょうか。

 GShopperはクロスボーダーのEコマースを提供する商品検索プラットフォーム、B5Cは日本と韓国の商品を中国市場の小売事業者や消費者などに卸販売・小売するために提供されるプラットフォーム、BHBはBtoCプラットフォームとして中国のユーザーが日本や韓国の商品を購入できるサービスという違いがあります。GShopperは、我々の販売する商品以外にもさまざまなECサイトの情報を比較検索でき、BHBは我々が直接商品を販売するECサイトという性格の違いがあります。

 ビジネスモデルは販売手数料ではなく、日本で調達した商品を海外に出荷する段階で、我々の利益を上乗せする形で収益を得ています。日本のメーカーに商品卸価格以上の手数料は設けておらず、トランザクションが発生した段階で、私たちが利益を得られる仕組みを取っています。

 加えて、双方のメリットが見込まれる取引については、中国国内における独占販売権を得てビジネス展開することも可能で、中国市場における値崩れの防止や買い手に対する優位性を担保できるものと考えています。韓国ではすでに120社以上の取引先のうち10%程度は独占販売権によって取引をしていますが、中には売上を保証することでメーカーのリスクを抑える形での取引も行っています。

――日本のECプラットフォームでは、「売上補償」という概念はプラットフォーマーにリスクが高すぎるためあまり考えられません。そのリスクについてはどのように考えているのでしょうか。

 我々は、中国国内の大手から中小まで幅広いオンライン販売チャネル、またリアルの流通にもパイプを持っているという強みがあり、売上補償をしてもその商品を売り込む先を確保しています。そのため、メーカーに対して売上補償をしても大きなリスクにはならないと考えています。

 加えて、独占契約を結ぶためには、事前のマーケティングや潜在的ニーズの検証をしっかりと行うため、メーカーと我々が双方にメリットがあることを確認してから行うことで、リスクを最小限にしています。それでも商品の販売が想定を下回ってしまった場合には、我々の資金で商品を買い取り、売り手を探すこともしています。

――GShopperのビジネスは、オンラインのECプラットフォームだけでなく、リアルな在庫管理や物流の領域まで手掛けている点が特徴的ではないかと思います。そこで、どのようなイノベーションを生み出そうとしているのでしょうか。

 越境ECを利用する顧客は、自国では買えない商品を求め、それゆえに配送に時間が掛かることに対してある程度の理解をしています。すぐに商品が欲しい人は自国のAmazonなどを利用すればいいわけですよね。

 ただ、私たちはビッグデータ解析からトレンドを理解し、海外の顧客によく売れる商品を把握して、事前に買い上げて在庫を用意し、注文に対して素早く発送することができます。トレンドを把握し、売れ残りがないように商品を調達して顧客に提供できる環境を、ビッグデータとテクノロジによって確立している点が強みなのではないかと思います。

――日本では今後どのようにビジネスを拡大していくのでしょうか。

 日本には良い製品が非常に多くありますが、たとえば中国の消費者は日本の製品を「メイドインジャパンだから」という理由で購入し、その製品の本当の良さはあまり理解していないのではないかと思います。消費者にとって製品を理解するための情報が圧倒的に不足しているのです。

 中には、その製品が良いか悪いかは別として、大規模なプロモーションで製品を売りつけて高いマージンを得ているような事業者さえあるほどです。こうした実態は日本のメーカーにとっても、中国の消費者にとってもあまり良い状態とは言えないのではないかと思います。

 私たちが取引の透明性と適切な情報提供を、プラットフォームを通じて推進することで、中国の消費者はより製品を深く理解して購入することができ、日本のメーカーにとっては中国の消費者により自分たちの製品を知ってもらえるわけです。こうした売り手、買い手双方にとってハッピーな関係作りを目指していきたいと考えています。

世界中の消費者から“ベスト”と評価される商品が求められる時代に

――GShopperでは中国、韓国、日本、これに米国や欧州を加えてクロスボーダーでのECプラットフォームを標榜していますが、特定地域の市場ではなく、あえてクロスボーダーを目標にしている狙いについて教えてください。

 確かにこれまでは、中国市場を強く意識したビジネス展開をしてきました。しかし、我々の本来のミッションは、中国の消費者が韓国や日本の商品を購入できるだけでなく、世界中の人々がさまざまな国の商品をひとつのプラットフォーム上で購入できるビジネスモデルを構築することだと考えています。そのため、ブランドそのものも「GShopper(Global Shopperの略)」へと変更することにしたのです。

――グローバル意識の高い日本企業の中には、日本を起点としたビジネスモデルだけでなく、ダイレクトに海外展開を意識したビジネス展開をする企業も増えてきました。たとえば、これまでは製品やサービスはまず日本市場での成功を意識してビジネス展開が行われてきましたが、これからは日本市場のニーズを意識しなくても海外でニーズのある製品やサービスは海外にどんどん展開していこうという発想です。その意味では、クロスボーダーECは日本国内の商品を単一の国に売ろうとする“越境EC”の次のステージではないかと思います。ECのグローバル化が今後どのように進んでいくか、考えを教えてください。

 今後はECもビジネスモデルのグローバル化は確実に進んでいくのではないかと考えられており、投資家などもそこに高い注目を寄せています。商取引の世界ではEコマースが誕生し、これまでさまざまなイノベーションが生まれ、そして越境ECも拡大してきましたが、その次のステージである「クロスボーダーEC」はまさに“真のグローバル化”と言えるのではないかと思います。

 かつては、商品を調べようとすると、さまざまなサイトを訪問して商品検索をしていましたが、それが比較サイトの登場によって便利になった。しかし、その情報の出どころは日本国内のサイトに留まっていたのではないかと思います。これがクロスボーダーECの世界では、日本だけでなく世界中で同じ商品がどれくらいの価格で売られているのかを調べられるようになります。

 これはメーカーにとっては、日本市場でベストな商品ではなく、世界中からベストだと評価される商品を生み出さなければならないという新たな課題を突き付けられることになるのです。競合は日本国内の企業だけでなく、世界中の企業になるわけですね。

――そうなると、もはや日本企業は“越境EC”に臆病になっている場合ではないということですね。国内市場の飽和は日本のみならずあらゆる国で進んでいて、今後は国境を超えた市場の拡大を進めていかなければ、ビジネスの拡大は見込めないのではないか。これは世界中のどの企業にも言えることかもしれません。とはいえ、グローバルなECプラットフォームではeBayやAmazonなどが大きくシェアを伸ばし、ドメスティックでは日本の楽天<4755>、中国のアリババ、米国のBest Buyなど強力なプレイヤーがひしめいています。その中で、GShopperはどのように勝負を挑んでいくのでしょうか。

 Amazonはグローバルで展開しているものの、日本では日本法人が日本向けのドメスティックなサイトを展開し、それを米国でも、英国でも、世界各国でも同様にドメスティックで展開している。グローバルに見えて実は縦割りなのです。たとえば、日本のAmazonに出品している企業が英国のAmazonで商品を販売しようとしても、双方の国にAmazonの組織があり、それぞれで独自の商圏を確立しているので、組織同士の摩擦が懸念される越境ECは簡単ではありません。私たちが目指しているのは、あくまでひとつのプラットフォーム上でグローバルに展開するということ。ここに違いがあるのではないかと思います。

 加えて、私たちは大手企業と違い小規模なベンチャーですので、リスクを恐れずにスピード感を持って具体的なアクションを推進できるのではないかと考えています。たとえば、当時はまだ大規模とは言えないPCメーカーだったAppleが初めてiPhoneを発表したとき、Microsoftは「携帯電話にコンピュータの機能は必要なのか。家に帰ればPCがあるわけだし、電話と融合する必要はあるのか」と言ったといいます。しかし、AppleはiPhoneによってイノベーションを起こし、世界を変えてきましたよね。

 これがいい例だと思いますが、オペレーションが確立した大きい企業は、新しいことに対して判断も行動も遅くなりがちです。しかし、私たちのようなベンチャー企業は、新たなイノベーションに対して過去のビジネス資産を生かしながら素早く前に進むことができるのではないかと思います。

イノベーションにとって重要なのは、テクノロジではない

――ところで、イゴル・ユン氏はインターネットビジネスの黎明期に「Become」や「Wisenut」といった検索サービスを次々と成功させてきた実績をお持ちですが、その経験を今後GShopperのビジネス展開でどのように生かしていきたいと考えていますか。

 これまでのさまざまな経験から生かせるのは“問題解決能力”ではないかと思います。どのような会社でも必ず同じように問題は発生します。たとえば、資金をどう調達すべきか、人材をどのように集めるべきか、こうした課題を解決するノウハウを蓄積することは、企業の成長にとって大きなプラスになるのではないかと思います。一方、テクノロジ面では活用できるノウハウがある一方で、変化も早く大きい世界なので、必ずしもすべての経験が生かせるとは思いません。ただし、基本的な部分は日本の武道のように“型”があるので、その点では今後のビジネス展開でも生かしていけるのではないでしょうか。

 ただ、重要なのはテクノロジではなく、世の中が何を求めているか、ユーザーが何に困っているかをしっかりと理解することだと考えています。ユーザーの課題をどのように解決するかという面では、テクノロジはひとつの手段ではあるものの、テクノロジがすべてではないわけです。たとえばApple Watchは、テクノロジは素晴らしいですが人気はないですよね。それは、Apple Watchがユーザーの問題解決をしていないから。Apple Watchがユーザーのニーズに応えていないのです。一番大事なのは、ユーザーの困難を理解し、それをどのようにサポートできるのかを徹底的に考えることだと思います。

CNET Japan
もっと見る もっと見る

【あわせて読む】

    最終更新: 2016年11月24日(木)15時48分

    【関連ニュース】

    【コメント】

    • ※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

    【あなたにおススメ】