ブルーボトルコーヒーの味を支えるテクノロジ--創業者ジェームス・フリーマン氏インタビュー

CNET Japan 2016年12月05日(月)09時11分配信

 2015年に日本に上陸した米国発のコーヒーブランド「ブルーボトルコーヒー」。焙煎してから48時間以内のコーヒー豆のみを販売。バリスタが客の目の前で、1杯ずつ丁寧に淹れてくれるハンドドリップのコーヒースタイルが人気を博し、日本では東京の清澄白河、青山、新宿、六本木、中目黒、品川の6店舗を展開している。

 昔ながらのハンドドリップを大切にしていると聞くとアナログな印象を持ってしまいがちだが、実はブルーボトルコーヒーは、さまざまな最新のテクノロジを活用しているハイテク企業だ。創業者であるジェームス・フリーマン氏に、テクノロジがブルーボトルのコーヒーにもたらす価値や、MIT出身の研究者と共同開発した新たなドリッパーへのこだわりを聞いた。

テクノロジでコーヒーの「味」が変わる

――ジェームスさんは、ブルーボトルコーヒーを創業する前は、クラリネット奏者だったそうですね。IT企業などのバックグラウンドがない中で、なぜ、テクノロジに高い関心を持っているのでしょうか。

 クラリネットも1800年代に作られたある意味でテクノロジだと思っています。そのテクノロジがあったからこそ、ストラビンスキーなどのいろいろな音楽が奏でられています。そういう意味では、昔から大切にしてきたものと現代をいかにつないでいくかというところで、テクノロジはさまざまな形で生きています。私のキャリアとしては、あまり(テクノロジと)コネクションがないように感じるかもしれませんが、すごく離れたところにいるとも思っていません。

 また、私はサンフランシスコで働いていますが、店舗で並んでいる人がコーディングやファンディングの話をしていることもしょっちゅうで、自分がテクノロジと離れられない環境にいると感じています。自宅では子どもがいるので、極力PCに向かう時間を短くしたり、電話はベッドルームに持っていかないようにしています。それでもスマートフォンは最新のiPhone 7を持っていますし、バッテリ付きのケースをつけているので、四六時中デジタルに接していると言われても仕方ないかもしれません(笑)。

――業務でのデジタル活用についても教えてください。ブルーボトルコーヒーの店舗では、どのような形でテクノロジやデジタル機器を導入しているのでしょう。

 実は店舗ではさまざまな機器を導入していますが、来店するお客様がそれを知る必要はないと思っていますし、私たちはあくまでもハンドドリップにこだわっています。ただ、その一方で、それらの機器を使うことで圧倒的にコーヒーの味が変わるのです。

 1つは「アカイアスケール」というデジタルコーヒースケールを採用しています。分数とグラム数を同時に測れるスケールで、スマートフォンアプリと連動することも可能です。ブルーボトルコーヒーでは利用しておりませんが、バリスタがその日の自分の淹れ方を記録したり、淹れたコーヒーに対するコメントで評価を振り返ったりすることもできます。

 もうひとつは「TDSメーター」です。糖度計のようにコーヒーに含まれているエッセンスを毎朝バリスタが計測します。その数値がターゲットのレンジに入っているかどうかを個人の舌だけでなく、数値として視覚でも確認することで、より安定した抽出を目指します。

――収集したデータの分析などもしているのでしょうか。

 データ分析は、たとえばロースト(焙煎)の際などに行っています。ロースター(焙煎機)とPCが接続されていて、毎日のローストにおける温度の上昇率や、開発時間などのデータを収集しています。それらは全世界のロースターともつながっておりデータを共有しています。

 また、ローストした豆とテイスティングの結果が、ローストデータとマッチするようになっていて、「今日のコーヒーが美味しかったのは、こうやってローストしたからだ」といったことを、焙煎士と品質管理のチームが分析して、日々改善しています。

 喫茶店のマスターがご自身の舌と目の感覚を頼りに淹れるという職人の世界もあると思うのですが、その職人的な仕事をいかに可視化して標準化していくかが大事で、「事業を拡大する=品質が下がる」といわれることの多い飲食業界においては、テクノロジがすごく重要な役割を果たすと思っています。

――創業時からこれらのデジタルツールを導入していたのでしょうか。

 当時はもちろんこういったツールはなく、本当に自分の味覚を信じてやっていたのですが、事業が拡大するタイミングでジョインした、マイケル・フィリップスという人間の存在が大きいです。彼は世界バリスタ大会でチャンピオンになった経験があり、現在は(ブルーボトルコーヒーの)トレーニングのトップを務めているのですが、彼にスキルを標準化することが大事なんじゃないかという提案を受けました。

 そこで、引き続き味覚は大事にしながらも、答え合わせのように確認するものとして、デジタルツールを導入しはじめました。やはり、数字はすごく重要ですし、それがあることで、より自信を持って自分たちの基準を高めていけると思います。

――最新のテクノロジを活用する一方で、ブルーボトルコーヒーでは「手で淹れる」ことを重視しています。このギャップをどう考えますか。

 私はそのギャップがすごく気に入っていますし、大事なことだと思っています。私たちは徹底的にマニュアルにこだわっていて、どんどん自動化に向かっている世の中とは少し逆の方向にいっているのかもしれません。ただ、それは1杯のコーヒーに向き合って、こだわっている結果だと思っています。

 たとえば、新たに発売するドリッパーは、MIT(マサチューセッツ工科大学)出身の研究者と共同開発したものです。3Dプリンタでプロトタイプを70個以上も作って、1つずつテストした結果、完成品のデザインになりました。ただ、繰り返しになりますが、こういった情報は商品を手に取るお客様は知らなくてもいいと思っています。実際に掘り下げてみると、そこまでテクノロジを活用してこだわっているということが、私たちのブランドの在り方や佇まいなのだと思います。

MIT出身研究者と共同開発した新ドリッパ―

――新たなドリッパーについて詳しく教えてください。MIT出身の研究者との共同研究はどのように生かされているのでしょうか。

 大きく3つあります。まず1つ目は、ドリッパーの凹凸である「リブ」が高く設計されていた方が、水が落ちるスピードが速くなり、その分美味しいコーヒーができるのではないかと考えていたのですが、実際に研究をしていくと、1滴の水滴よりも少しだけ低い高さでリブを作った方が、流れが速いことが分かりました。

 2つめは、ドリッパーの厚みがあるほど温度を保つことができ、より美味しいコーヒーが抽出できるという仮説があったのですがそれも間違っていました。ドリッパーの中の温度を適切に保つには、厚さを適度にそぎ落としたものの方が良いことが分かりました。そこで、薄い形状を可能にする日本の有田焼のパートナーの技術によって、現在の薄さを実現したのです。

 3つめが、どのような方法で抽出されると水がよく流れるかということです。当初は、リブがねじれていて、その中で水がぐるぐると回る方が美味しいコーヒーになるのではないかと思っていたのですが、こちらも研究の結果間違っていて、振動させずスムーズに流すほうが美味しく抽出できることが分かりました。そこで、穴に向かって水がまっすぐ落ちる形状にし、穴も0.1ミリ単位で適切なサイズに調整することで、1本の糸のようにすーっとコーヒーが落ちるように設計しました。この3つをそれぞれの角度で試しながら、1年かけてプロトタイプを完成させました。

――そのこだわり抜いたドリッパーによって、顧客は自宅でも美味しいコーヒーを淹れられるようになるのですね。まだまだ日本では店舗が少ないため、インターネットで豆を購入したいという人も多いと思います。ブルーボトルコーヒーのECオンラインストアについての考えも教えてください。

 オンラインストアECの話をする前に少し補足をすると、これまで米国では店舗ビジネス、オンラインビジネスに加えて、ホールセールという、レストランに豆を卸売りして、そこでブルーボトルコーヒーを提供いただくというモデルを展開していたのですが、2015年にすべて廃止しました。

 それは、ビジネス的にはインパクトのある決断でしたが、やはり私たちのバリスタではない人がブルーボトルコーヒーのコーヒーを淹れても、同じ味にならないことが多かったのです。私も実際に、(豆を卸売りした店で)飲んだコーヒーが美味しくなくて、すごく残念な思いをしたことがあり、それに対してお客様にお金を払っていただいていることが許せませんでした。

 その経験をもとに、お客様に提供する体験として、ブルーボトルコーヒーの店舗以外ではオンラインストアで豆を購入していただき、ご自身でコーヒーを淹れることにお金を払っていただきたいと思い、シフトチェンジをしました。オンラインストアでは、できるだけお客様にご自宅でコーヒーを楽しんでいただけるように、さまざまな種類のコーヒー豆や、挽きたての状態を保てるコーヒー粉である「Bottle Perfectly Ground Coffee」(現在は米国のみで展開)をご用意しています。

 これらと新たなドリッパー使っていただければ、美味しいコーヒーを作るために必要な準備を、極力こちらで済ました状態になります。そういう意味では、ご自宅で飲むコーヒーのクオリティがさらに上がり、ご自宅でのコーヒー体験もどんどんいいものになるのではないでしょうか。

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    最終更新: 2016年12月05日(月)09時11分

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