ヤフーが考える機械学習AIがもたらす「3つの自動化」

CNET Japan 12月06日(火)12時57分配信

 AI(人工知能)とビッグデータ。この2つのキーワードは、これからのテクノロジにとっても、デジタルマーケティングにとっても避けて通れない重要なものだ。その実態と可能性について、インターネット業界のトップランナーはどのように考えているのだろうか。

 「ad:tech tokyo 2016」で行われたパネルディスカッション「AIがマーケティングの何を変えるのか?~活用の本質と効果を探る」で、ヤフー<4689>のチーフストラテジーオフィサーで慶應義塾大学の特任教授である安宅和人氏が、同社が考えるAIやビッグデータがマーケティングにもたらした可能性などについて語った。

AIとビッグデータ、その本質とは何か

 安宅氏は、米国エール大学で脳神経科学を研究してきたほか、コンサルティング会社のマッキンゼーにてブランドマーケティングなどに従事。ヤフー<4689>では、CSOとして市場構造の把握と予見、全社戦略のフォーカス策定、ビッグデータ戦略の推進などに携わっている。

 このようなバックグラウンドを持つ安宅氏は、マーケティングの本質について「(モノを作って提供する一方的なビジネスではなく)世の中のニーズを理解してそれに応える方法を考えること」と示したうえで、AIとビッグデータについての基本的な考え方を示した。

 安宅氏は、自身の認識するAIについて「キカイとソフトウェアによる知覚と知性を実現するもの」と定義。その実態は、高い情報処理能力を持つコンピューティング環境に機械学習やディープラーニング、自然言語処理といった情報科学を実装し、用途に沿った形で用意した大量のデータを処理しながら訓練(学習)を繰り返すことで実現するものであるとした。

 「ビッグデータとAIは、表裏一体の関係にある。ビッグデータを処理するためにはAIのテクノロジが必要になり、一方でAIを育てるためには大量のデータが必要となる」(安宅氏)。

 そして安宅氏は、こうした機械学習ベースのAIがもたらすものとして、3つの「自動化」を挙げた。1つめは、情報の判断・仕訳、音声・画像・動画の意味理解、異常の検知・予知といった「識別の自動化」、そして2つめにして最も大きなものとして数値、ニーズや気持ち、意図といったことの「予測の自動化」、3つめに作業や行動、表現やデザインといった「実行の自動化」というものだ。

 加えて安宅氏は、ビッグデータについても改めて定義した。これまでのマーケティングデータは、利用データ、意識データ、ユーザー属性、利用の文脈などについて概ねすべての領域をカバーすることができた。しかし、これらのデータは一部の人(サンプル)のある一定の時間におけるデータに過ぎなかった。

 一方、ビッグデータはその内容が利用データや属性データなどの一部のデータに限られる代わりに、利用者全員をカバーすることができる“全量性(利用者から生じるすべてのデータが見えること)”が大きな特徴となる。

 安宅氏はこのデータが持つロングテール性に触れ、「ここで言うロングテールは、一般的な認識よりもはるかに長い。Yahoo!JAPANの検索では、毎日相当量検索されるキーワードは60万語しかないが、1年に1回でも検索されるキーワードは80億語以上もある。ビッグデータが持つテールはそれだけ長いということだ」と紹介した。

 また安宅氏は、このビッグデータ活用のもうひとつの特性について“リアルタイム性”を挙げ、「今までのマーケティングデータは、クリーニングして使えるようになるのは翌日以降だったが、Yahoo!JAPANのビッグデータは0.1秒で処理を行い活用している。これがYahoo!JAPANのデジタルマーケティングの本質にある。データの大きさではなく、この“全量性”と“リアルタイム性”を兼ね備えていることがビッグデータの特徴だ」と説明。こうしたAIとビッグデータの定義を基に、次のように語った。

 「世の中では“AI vs 人間”と言われるが、それは荒唐無稽だ。これからは、“自分とその周囲の経験だけから学びAIやデータを活用しない人(や会社)”と“あらゆるデータからコンピューティングを活用して学び、その力を活用する人(や会社)”の競争構造になる」(安宅氏)。

AIとビッグデータがデジタルの世界にもたらした変化

 安宅氏は、AIとビッグデータが世の中に生み出した変化として、ネットが情報拡散の起点になりつつある点、AmazonやヤフオクなどにおけるAIを活用したレビューの精査・クリーニング、Yahoo!JAPANのインタレストマッチ広告や検索結果連動広告におけるAIの活用、マーケティングにおけるユーザーニーズの把握と訴求提案の最適化といった例を挙げた。

 「実はAIとビッグデータは新しくも何ともない。私たちの業界ではずっとやってきたことであり、AIとビッグデータは私たちのビジネスの中心にあるものだ」。

 その上で、海外で行われている最先端のAI・ビッグデータの活用事例を紹介した。安宅氏が取り上げたのは、Googleが出資したというドイツの小口消費者ローンのスタートアップであるKreditechの事例だ。

 Kreditechは、融資希望者のGPSデータによる位置情報の変化を基に行動範囲や生活リズム、定職の有無といった生活水準を推測したり、Eコマースの購買情報を基に居住の事実を見極めて不正を排除するなどして、AIとビッグデータを活用することで完全無人による融資業務を実現しているのだという。これにより、同社のAIが一定の基準を満たすと判断したユーザーであれば、誰でも時間を問わずごくわずかな時間で融資判断をしてサービスを提供することができるのだそうだ。

AIとビッグデータによって、ユーザーの行動文脈を読む

 安宅氏は最後に、AIとビッグデータの今後のチャレンジについて、さらに事例を取り上げて紹介した。1つは、ユーザーの行動文脈からユーザーの知りたいことを予測して提供するという考え方だ。例えば、Googleはユーザーの位置情報などから行動を予測し、駅に近づいた際には鉄道の運行情報をスマートフォンに提供するなどして“欲しい情報を聞かれる前に提供する”という機能を実装している。

 このようにユーザーの行動文脈をAIで理解してアクションを自動化することで、デジタルと人の関係性が大きく進歩するのだ。「その場面、その時間でこれから何が起きるのかを予測することで、データは圧倒的に小さくなり、本質的に意味のある情報となる」(安宅氏)。

 この考え方は、顧客が注文する前に購入しようとしている商品の出荷準備をする米国Amazonのパテントにおける試みや、マウスの動きなどユーザーのサイト内の行動をリアルタイムに解析して購入意欲の高いユーザーにクーポンなどを自動的に配布してコンバージョンを向上させているECサイトにも共通するものがある。

 安宅氏は「重要なのはRAWデータ(生データの集積体)ではなく、それを基にしたコンテキストリーディング(文脈の理解)をAIによってどのように行うのかということだ。AIやデータは既に無意識のうちに活用されている」と語り、今後はAIを活用していかにしてユーザーインサイトに迫れるかが重要なポイントになると提言した。

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    最終更新: 12月06日(火)12時57分

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