面白法人カヤックの「エゴサーチ採用」--検索結果が“履歴書”に

CNET Japan 12月13日(火)11時17分配信

 スマートフォンを中心に、オムニチャネルやIoTなどの次世代テクノロジを通じて生み出されるデジタルマーケティング戦略。そこにはアイデアやクリエイティビティが不可欠だが、それだけでは「これまでになかった体験」を提供することはできない。ユーザーに新たなエクスペリエンスを届けるために、欠かせない普遍性や本質とは何か。

 この連載では、デジタルを活用したコミュニケーション施策を発信する「コードアワード」に寄せられた作品から、デジタルマーケティングの「未来」を拓く“ヒント”をお届けする。

 今回は、デジタルを活用したコミュニケーション施策を発信する「コードアワード」2016 グッド・ユース・オブ・データを受賞した「エゴサーチ採用」の仕掛人・みよしこういち氏に話を聞き、デジタル時代の採用活動の可能性について探る。また、常に最新技術を駆使して多くの注目を集める同社の制作物や開発姿勢についても、企画部・プロデューサーの兼康希望氏に聞いた。(聞き手はD2C dot プランナー菅原太郎氏、日山雄貴氏)。

 すべての企業にとって、人材の採用は永遠のテーマだ。斬新なアイデア、個性あふれるクリエイティビティ、即戦力として期待できる経験値や光るセンス……。求めるものを持ち合わせた人材発掘のために、採用活動にはどのような進化が求められるのか。

 採用活動の多様化が進む中、面白法人カヤック<3904>では、検索結果を“履歴書”として利用するエゴサーチ採用を実施した。同社の採用対象がウェブに携わる人材であることから、履歴書よりも検索結果の方がその人の活動履歴が分かりやすく、本人にとっても時間の負担が減ると考え、検索結果が1位のキーワードで応募できるというもの。

 応募者は名前、ブログ、作品名などを通して自身をアピールでき、かつ検索で一番上にくるワードがあれば、履歴書を書かずにエントリーできる。その大胆で斬新な手法はネット上で話題となり、またたく間に拡散。同社は応募促進に成功し、募集開始3日間で712人が応募、6人が内定した。

検索結果が履歴書代わり。採用活動をバズらせて応募を促進

――まず、「エゴサーチ採用」というユニークな企画が実現した背景や課題、狙いなどを教えてください。

みよし氏:僕らは自ら「面白法人」を名乗っているの会社なので、つねに「カヤック<3904>そうきたか!」と言ってもらえるような企画を考えなくてはと思っています。各事業のアウトプットにおいてもそうですが、それは管理部門こそ積極的に取り組むべきことなので、人事部でもオリジナリティのあることができないかなとずっと考え続けてきました。

 お笑い芸人さんと同じで、自分で自分を「面白いことやってますよーっ」と言っても面白くはなく、お客さんや就活生、中途求職者の方が、カヤック<3904>と接するなかで自然に「カヤック<3904>って面白いな」と感じる工夫が必要だなと。つまり、僕らにとっては「面白法人」をどう保っていくかが、終わりなき永遠の課題なんです。

――たしかに、御社は会社名でハードルが上がりますね(笑)。ただ、履歴書というのはいつまでも紙やウェブの印象が強く、オリジナリティのある採用方法自体がハードルになるのかなとも思ったのですが、エゴサーチ採用ならいけると思えた突破口のようなものはあったのでしょうか。

みよし氏:「エゴサーチ採用」っていう単語を聞いた瞬間に、もう絶対やろうと思いました。だって、もうこの単語のエネルギーがヤバいじゃないですか(笑)。

 まじめな返しをすると、エゴサーチ採用がいけると思った理由は2つあります。1つは、カヤック<3904>はこれまでにも、「ワンクリック採用」や「卒制採用」といった、履歴書を使わない採用キャンペーンを何度か実施していて、それがある程度の反響を得られていたこと。

 もう1つは、面接で30分ほど話した後に、「こんなこともやっているので見てください」とURLなどを伝えられ、その内容を見て「最初に教えてくださいよ!めっちゃ面白いじゃないですか!」と履歴書に書いてない活動で、盛り上がることがあったからです。だったら、その“最初に見せて欲しいもの”を先に出してもらおうということがきっかけになりました。

――まさに課題を解決しつつ、相手の経歴や実績がわかる方法ですね。とりわけ中途の求職者にはより響いたのではないでしょうか。

みよし氏:そうですね。これまでの弊社の採用キャンペーンは、面白いという評価はいただきつつも、結果には繋がりにくいこともあったのですが(苦笑)、エゴサーチ採用はきちんと採用に結びつき、効果が高かったです。現在も継続しており、利用者は毎年150~200人増、年に1~2人は内定承諾まで進んでいます。

採用活動の効率化は必要だが、応募の省略化はテーマではない

――エゴサーチ採用について、いわゆるバズといいますか、話題性としての広がり方、リーチがどれだけあったかという点は追われましたか。

みよし氏:そこはあまり気にしていなかったのですが、一時は「エゴサーチ」で検索すると、Wikipediaなどを抑えて検索結果トップになりました。一般名詞でその結果になったことは、かなり広がった証拠かなと思っています(現在はさすがに順位は下がっていますが)。あと、Yahoo!ニュースのトップにも載りましたから満足です(笑)。

――継続的に、このスキームで採用できることが重要ということですね。エゴサーチ採用について、社内の反応はいかがでしたか。

兼康氏:最初にエゴサーチ採用で入社した人が面白かったと話題になりました。ワードが「世界の三宅 巨乳 ばか」だったので……(笑)。

みよし氏:他の人事や事業部長からは「この人がよくカヤック<3904>に応募してきたね」というコメントがありました。たとえば、いま新規事業のディレクターをしている人は、学生起業家だったんですが、「普通の新卒採用だと絶対採れなかった人材だね」と。検索1位に挙がっていたのは、彼のビジネスを紹介した新聞記事でした。僕も、エゴサーチ採用でそんな“ビジネスモデルを作れるタイプのビジネスマン”がカヤック<3904>に応募、ひいては入社するとは思っていなかったので、驚きました。

――エゴサーチ採用について、改良や改案、拡張など今後の展開は考えていますか。

みよし氏:面接や履歴書など自分を表す方法はいろいろあると思いますが、ウェブライターやデザイナー、先ほどのビジネスパーソンのような人たちにとっては、履歴書よりも検索結果を見てもらう方が、自分の実績や実力が伝わりやすいと思うんです。

 そういった、応募者にとってこれで見てもらえるのが一番自分を分かってもらえるというか、その人に合った採用がもっと世の中に増えたらいいなと思っています。今はまた別の手法を具現化しようとしているところです。

――ES(エントリーシート)や履歴書を書かなくていいとか、応募の手軽さを重視するわけではないということですよね。

みよし氏:そういう「省略」においては、これ以上のものは今の僕には難しいなと(笑)。次は「いろんな面が見られる」という考え方になるのですが、そこに走りすぎると、麻雀が得意とかエンターテインメント的な要素が多出しがち。そうなると今度はカヤック<3904>の採用と合うかがポイントなってくるのですが、カヤック<3904>の場合はクライアントワークに限らず、ゲームや新規事業開発もあるので、そちらを生かすという発想で、また新しいことをやっていければと思っています。

クリエイターに、世の中に、勇気を与える取り組み

――エゴサーチ採用に限らず、御社では若者のインサイト<2172>を刺激する企画を次々と実施されています。たとえば、「突破クリエイティブアワード」創設の意図などを教えていただけますか。

みよし氏:「突破クリエイティブアワード」は、「怒られるアイデアって面白いよね」という言葉に端を発した企画です。キャッチコピーにもなっている「その企画よく通したな!」という企画って、裏側を聞きたくなるじゃないですか。どうしても聞きたいから、賞を作っちゃえと(笑)。

――賞は難しいですよね、乱立しているし、受賞作がかぶってしまったり……。

みよし氏:突破って、世の中の空気でもあると思うんです。今って、実現したら面白いだろうなということも、小さなクレームやほんのいくつかの「イヤ」という声でなくなってしまったりするので、もったいないなと。やっぱり作り手には「やっちゃえ!」と思って欲しいし、受け手は少しやさしい目で見て欲しいので、突破クリエイティブアワードが、少しでもその後押しになれればと、共催のバーグハンバーグバーグさんとは話しています

――そういう世の中の空気感ですとかホットワードをつねにいち早くアウトプットに絡めていくのがカヤック<3904>さんだと思います。最近では「VR寿司」や「AI女子高生りんな」の女優デビューなどの話題も提供していますね。

兼康氏:りんなの件のきっかけは、フジテレビさんから春の「世にも奇妙な物語」で放映、大ヒットした「ががばば」以上のスマッシュヒットを作ろうという、ありがたくも大変ハードルの高いお声がけをいただきまして。世の中的にもAIが注目されていて、りんなが「世にも奇妙な物語」に出演したら絶対おもしろいだろうな、と思いついたんです。

 AI女子高生りんなは、LINE<3938>ですでに400万人以上の友だちがいる人気者ですから、番組の告知にもしっかりつながりますし。そこで、フジテレビさんと一緒にマイクロソフトさんに伺って、「りんなさんにご出演をお願いできませんか」とお願いしたんです(笑)。

みよし氏:AIに出演依頼するって面白い!それこそ、突破クリエイティブアワードに出したい言葉だね(笑)。

兼康氏:そうですね、これも「りんな、世にも奇妙な物語で女優デビュー」という実現したら面白そうな一文から始まっているんですよね。新しいテクノロジを使っていかに新しいコミュニケーションを生み出すかということは常に意識していますが、一般の方々に向けて「これが新しいテクノロジだぞ!」と、テクノロジ主語で見せても理解されづらいですし、興味を持ってもらえる人数のパイが少ないと思います。

 りんなの女優デビューは、面白そうだぞということで、マイクロソフトさんも「これはりんな史上一番のお祭りになる!」と一緒になって作り上げていくことができ、結果として反響も多く、すごく嬉しいです。

“テクノロジドリブン”は意識せず、世の中におもしろがられるものを送り出す

――VR寿司は御社の「しごと展」で発表された企画でしたね。

兼康氏:VR寿司についても、新しいテクノロジでいたずらをしようという発想から生まれたコンテンツです。高級寿司店のカウンターというVR空間で、板前さんに大トロとして寿司を握ってもらいながら、実際にはアボカドの握りを口に入れているのに「美味しい」と思ってしまうという(笑)。

――出発点はVRという注目テクノロジありきなのでしょうか。

みよし氏:すみません、これについては「寿司」始まりなんです(苦笑)。エンジニアの間で、「なんかあったら寿司をおごってもらう」という、まぁ説明すると長くなるので割愛しますが、そういう文化があるらしく、お寿司を使って何かエンジニア向けの採用でやりたいなって話していました。そこでカヤック<3904>らしさを出すとしたら、VRを使った味覚ハックとかかなと。

兼康氏:僕は作り手として楽しめるかを大事にしていて、りんなも寿司も、2014年にコードアワードを受賞した「貞子3D2」も、テクノロジを使って、いかにいたずらを仕掛けられるかがコンセプト。いたずらと言っても、クレームになる類いのものであってはならないので、気をつけるべき炎上ポイントというのはありますが、2015年のサントリーさんの「サントリー天然水の森」におけるプロモーションサイト「人類以外採用」なども、ユーザーが一緒になっておもしろがってくれることで拡散していくのが肌で感じられました。

――我々も企画を考える側の人間としていつも悩むのですが、たとえば最近の女子高生がGoogleでYahoo!を検索するようなネットリテラシーの混沌があるなかで、テクノロジというものはハードルが高いのではないかと。そういった点で、意識されることはありますか。

兼康氏:実際「AIって何?」という人もたくさんいるので、テクノロジドリブンというより、文脈を意識して組み立てています。怖いサイトがあるというだけでバズったりしますし、そこに「AI」というワードで興味を持つユーザーも組み合わさって、ひとつのうねりができればよいと思っています。

――なるほど。では最後に、今後の御社の取り組みや目指すことを教えてください。

みよし氏カヤック<3904>らしさというのは、もちろんテクノロジの駆使に表れると思うんですが、主語がAIとかVRとかになると、ユーザーをそういうものが好きな人たちに限定しちゃうと思うんです。

 秋元康さんが「時代性と普遍性」ということをおっしゃっているのですが、わかりやすい例で言えば、いつの時代も女子高生は恋愛には普遍的に興味があって、それを表現する手段が、時代によって手紙であり、電話であり、メールになり、LINE<3938>になると。

 だから今後、カヤック<3904>が取り組んでいくものにおいても、「寿司」だったり「怖いもの」だったり、一般に広く受け入れられるものを主語として、それを時代に即した人なりテクノロジなりで表現するというスタンスを貫いていくことで、新しいものが生み出せるのではないかと考えています。

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    最終更新: 12月13日(火)11時17分

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