物件リアルタイム査定「IESHIL」、参入から1年で感じた不動産業界の変化

CNET Japan 2016年12月13日(火)11時13分配信

 2016年のテクノロジ業界を振り返ると、テクノロジによって不動産ビジネスに変革を生み出そうとする「リアルエステートテック」は、注目度が急上昇したキーワードの1つといえるだろう。今年だけでも数多くのサービスが立ち上がり、空き家問題や不動産流通市場の活性化など、不動産ビジネスが抱えるさまざまな課題を解決しようと邁進している。

 そのうちの1つで、中古マンションのリアルタイム査定をしてくれるサービス「IESHIL(イエシル)」を運営するリブセンス<6054>の不動産ユニット ユニットリーダーである芳賀一生氏と、リブセンス<6054>にデータ基盤技術を提供するトレジャーデータのマーケティングディレクターである堀内健后氏に、サービス開始からこれまでの手ごたえを振り返ってもらった。

従来の不動産情報サービスとは一線を画すプラットフォームを目指す

――「IESHIL」は2016年8月でサービス開始から1年を迎えました。まずは最近の動向について教えてください。

芳賀氏:大きなところでは、8月18日に「AIアドバイザー」をリリースし徐々に効果が生まれています。翌9月のデータでは、利用者は1日あたり3~5名が、AIアドバイザーを経由して不動産会社へと送客できている状況です。また、IESHILの会員数は約5万人まで増加しました。

――不動産会社への送客では、インターネットからの「一括査定」があると思いますが、それとの違いは。

芳賀氏:不動産情報サイトのマネタイズで最も一般的なのは、いわゆる「(売却の)一括査定」による送客ビジネスです。売主は1回の情報入力で複数の不動産会社へ査定依頼が出せるので、とても気軽ですし便利なサービスだと思います。また、不動産会社側も売主獲得の集客導線として重要な役割となっています。

 しかし、「一括査定」のビジネスモデルは10社前後の不動産会社へ一斉に査定依頼が送られるため、不動産会社は多数のコンペとなるため、相見積もりの競争に巻き込まれ、来店してほしいがために高い見積もりを出しがちになる傾向があるそうです。一方で、10社前後の見積もりを受け取る売主は、高い査定をする不動産会社を選んで商談を始めるものの、その見積り額は市場の相場価格と大きく離れてしまっている場合もあります。そのため、実際に商談してみると、いろいろな理由によって評価額が下げられてしまい、期待値との乖離が生まれてしまいます。

 加えて、買い手は少しでも安く買いたいので、強気な値付けでは買い手がつかず、要望を受けてさらに価格を下げることもありうる。売主にとっては、自分の物件の適正な価格はいくらなのかがわからない状況で物件の売却をしなければならないのです。

 IESHILでは、公平性や中立性を重視したサービス作りをしたいという観点から、こうした従来の査定見積とは違うアプローチがしたいと思っていて、顧客ニーズと不動産会社の特徴をAIでマッチングして、3社までに限定してお勧めの不動産会社を紹介するというスタンスを取っています。

 本来であれば顧客に対して最高に相性の良い営業担当者をマッチングすることがベストなのですが、現状はテストマーケティング要素も強くAIはまだそこまで至っていないので、その道筋として不動産会社とのマッチングを提供しながらAIの精度を高めていき、IESHILが不動産売買の良いパートナーと出会えるサービスになればと思っています。

――そのように伺うと、成約に結び付く可能性の高い“相性の良い顧客”を1日3件~5件送客できているというのは、決して少ない数字ではないようですね。

芳賀氏:そうですね。加えて、今ユーザーから不動産会社のレビューを集めている状況で、実際に商談してみてどうだった、適当な査定・見積りをされた、真摯な対応で親身に相談に乗ってくれた、といった声を集めることで、AIではカバーできないチューニングをしていこうとしています。また、参画していただく不動産会社には参考としてそのレビュー結果をまとめ、直接ご報告もしています。

 IESHILとしては、ユーザーと不動産会社を繋ぐプラットフォーマーとして、従来の不動産情報サイトとは異なるビジネスモデルを作っていきたいと思っています。まだ(この1年で)構想しているアイデアの10%程度しか実現していないので、来年には更に大きな取り組みを予定しています。

“リアルエステートテック”の誕生から1年で感じた、不動産業界の変化

――“不動産業界を変えたい”という思いでIESHILをリリースしてから、この1年で実現したこともあれば課題に直面した部分もあったと思います。

芳賀氏:このビジネスを立ち上げたときは、「IT業界ならばこうする」という、これまでの業界が作ってきた“成功の方程式”を横展開してサービスのことを考えていたのですが、実はあまり上手くいかない部分もありました。それは、これまでネットサービスで成功を収めてきたグルメやECのビジネスと違い、不動産売買自体がユーザーにとって頻度の高いものではないということが背景にあったかもしれません。

 ただ一方で、当初は日本の不動産業界に馴染むような先進的サービスモデルがどうあるべきか不安が多かったのですが、いざ始めてみると、業界の中でも実直にさまざまな試行錯誤を重ねて不動産ビジネスを展開している中堅企業の方々が、私たちと一緒にテクノロジを活用したビジネスをしたいと声を掛けてくれたのです。特にここ半年は、そのような声を本当にたくさんいただき驚きましたね。

 なぜ、このようになっているのかを考えてみると、国の方針が大きいのではないかと思います。たとえば、2018年からは中古住宅に品質調査(インスペクション)の有無を開示することが義務化されるほか、売主への情報開示の一環としてREINS(不動産取引情報)を一部開放し始めている。

 こうした消費者を保護する規制や情報開示の強化を受けて、業界全体で「不動産ビジネスを新しくしていこう」という意志が強くなり、それが「テクノロジをさらに活用すれば、新しいことができるのでは」というポジティブな動機に変わり始めているのかもしれません。

 実際、企業の中からは「(当社が保有する)成約価格データを開示してもいい」という声さえ聞かれます。本来であれば、そこをクローズにしてこそのビジネスだったのが、変革をし始めているということは、大きなことではないかと思います。そうした企業とコミュニケーションを取りながら、私たちは不動産業界の動きに合わせたビジネス展開をしていきたいと考えています。国内のリアルエステートテックへの動きは、この1年で最初の一歩を歩み始めたように思えます。

トレジャーデータの技術はどのように貢献したのか

――今回は、IESHILの技術的なバックボーンについても伺います。まずは、IESHILとトレジャーデータの関わりについて教えてください。

堀内氏:トレジャーデータでは、IESHILが収集している中古物件の流通価格情報や価格相場情報などのデータをクラウド型データマネージメントプラットフォーム(DMP<3652>)に蓄積して、独自の機械学習ライブラリ(Hivemall)を活用することで、流通していない物件の価格情報を推定できるという点が、当社でも今までにない新しい活用法なのではないかと思います。

 それ以前から、リブセンス<6054>にはクラウド型データマネージメントプラットフォームを導入してもらい、ウェブサイトの情報をすべて一元管理して、表示する情報を最適化することでSEO対策やユーザリビティの改善に役立ててもらっていますね。そうして4年ほど活用してもらうと、そこで得られたノウハウや技術的なアセットを基盤とすることで、新しいサービスの立ち上がる速度が上がるわけです。そういう意味では、私たちもリブセンス<6054>に育ててもらうことができたのではないかと思います。

 IESHILでもトレジャーデータの技術をフル活用してもらっているのは、こうした長いお付き合いの積み重ねによるものが大きいですね。実際に、トレジャーデータではオープンソースも数多く提供しているのですが、データをクラウド上に格納するためのプラグインをリブセンス<6054>の社内で独自に開発してもらったりしていて、当社のリソースのほぼすべてを使いこなしてもらっていると思います。そういえば、IESHILでは物件情報のページに掲載する説明文なども自動的に生成していましたよね。

芳賀氏:そうですね。IESHILはSEOに非常に強みを持っていて、その裏ではテキスト自動生成という技術が動いています。約27万件あるIESHILの物件情報について、Hivemallと自然言語処理エンジンを組み合わせることで、説明文などを自動的に生成してページを作っていますね。文章の更新も自動的に行っています。

――トレジャーデータとリブセンス<6054>では日常的にどのようなやりとりが生まれているのでしょうか。

堀内氏:私から1つ申し上げると、実はリブセンス<6054>側では、トレジャーデータを“使っている”という意識が全くないというのが答えなのです。トレジャーデータはあくまでもデータを蓄積・解析する基盤ですので、芳賀さんとしては、その正体が何者かを知らなくてもいいわけですよね。そのような存在が私たちの理想でもあるのです。ビジネスを推進する立場の方にとっては、外注・内製を問わず、ある一定の投資に対して新しいサービスを作るという結果を生み出せればいいわけです。

 データ基盤や計算(解析)の環境をすばやく整えて新しいサービスの立ち上げを実現して、実はそれがトレジャーデータのおかげだったということに後で気が付く……くらいの存在感が理想的だと思います。本当ならば、選ばれるためにはもっと存在感を出さなければなりませんが(笑)。

芳賀氏:ビジネスを推進する立場からすれば、アウトプットされたデータが本当に市場価格の相場に適合しているか、差異がないかをチェックするわけです。大きな差異があった場合にはエンジニアとなぜその差異が生まれたのかを検証して、その中でトレジャーデータの機械学習がどのような判断をしているのかを確認し、必要があれば修正します。また最近では、アクセス解析やビジネスダッシュボードもトレジャーデータに蓄積された情報を可視化して確認し、ユーザーの動向判断に活用しています。

堀内氏:こうしたダッシュボードはイエシルのエンジニアの方が開発したのですが、こうしたことができるのが、リブセンス<6054>とトレジャーデータの関係の強みではないかと思います。データ蓄積やデータ分析の環境基盤を内製すると労力も時間も掛かりますが、そこをトレジャーデータに任せてもらうことで、リブセンス<6054>はユーザーインターフェースやダッシュボードといった、“うわもの”の開発や改善に集中することができるわけです。

 誰でもできる面倒な作業はトレジャーデータに任せて、自分たちは自社でしかできないことに集中する。こうした分業が成り立つことで、ビジネスの立ち上げスピードは格段に上がるのではないかと思います。

 データの可視化というのはビジネスにとってなくてはならないものですが、トレジャーデータはあえてそこを自社で用意するという選択肢を捨てているのです。代わりにデータ連携ができるポテンシャルを高くすることで他のデータ可視化ツールとの連携を簡単にすることができます。既存のデータ環境をトレジャーデータに置き換えるのは簡単ではありませんが、新しいビジネスを生み出す基盤に活用してもらい素早い垂直立ち上げを実現するという点は強みを発揮できるのではないかと思います。

蓄積されていくデータから、サービスの利便性を生み出す

――最後に、今後の展開について教えてください。

芳賀氏:ウェブサイトの改善は今後も断続的に行っていく予定です。たとえば、11月7日にはコンテンツを追加し、エリア(駅)ごとに築年数経過によるマンションの資産価値の値下がり率や今後の価格推移予測、間取り別・築年数別のマンション数の割合を比較できるようにしたほか、交通アクセスや医療機関等の公共機関情報、出産・育児制度など、生活に密着した周辺環境情報を提供するようになりました。

 将来的には、ビジュアル化する情報をさらに増やしたり、住環境データを駅だけでなく市区町村や大字レベルでも閲覧できるたりするように情報を拡充していきたいと思います。また、治安や地盤といった環境情報の量も増やしていければいいですね。

 データはすべてトレジャーデータに蓄積されているので、そのデータをどのように加工して情報としてユーザーに提供するかを考えることが、さらなる利便性に繋がるのではないでしょうか。

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    最終更新: 2016年12月13日(火)11時13分

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