“馬鹿正直”になることが、顧客の不安を取り除く--コスモスイニシア流の不動産テック

CNET Japan 12月28日(水)07時00分配信

 不動産大手のコスモスイニシア<8844>は、10月末にリノベーションマンション専門の物件紹介サイト「RENONAVI(リノナビ)」をオープンした。

 このサイトは、従来の物件紹介サイトと違い、「リノナビインスペクション」と呼ばれる独自住宅診断調査の結果や、契約時まで知ることができないと言われる重要事項情報をウェブ上で確認できることが特長で、テクノロジを活用して消費者への情報提供を強化しているのだという。

 テクノロジによる不動産ビジネスの変革を目指すリアルエステートテックの領域では、消費者への情報開示に関する透明性や、情報の公正中立性の担保などが大きな議題に挙がっている。実際に物件を販売する不動産ビジネスの現場では、どのような課題意識を持ち、テクノロジをどのように活用しようとしているのか。

 コスモスイニシア<8844>R&D事業部 市場戦略部 新規事業企画課の課長である木下修文氏と、同じく新規事業企画課のチーフである中村陽子氏に話を聞いた。

“馬鹿正直”になることが、顧客の不安を取り除く

――まずは、RENONAVIについて教えてください。

中村氏:RENONAVIは、東京都心のリノベーション済み中古マンションを扱う物件紹介サイトで、従来の物件紹介サイトと大きく違う点は、情報開示に関するスタンスと内容です。開示する情報は物件を“良く見せる”のではなく網羅性にこだわり、ネガティブな点も我々のルールに則って紹介するようにしています。また、自社で行っている住宅診断(リノナビインスペクション)の結果や重要事項説明の内容など、本来ならば購入契約の直前まで開示していない情報も掲載しています。

木下氏:たとえば窓の外が壁や階段だったり、景観が悪かったりしても、自社のルールに則って写真をしっかり掲載するわけですね。ある意味、“馬鹿正直”なスタンスで情報開示していくというのがポイントです。

 もちろん、このサイトを見てお問合せをいただいたお客様に対しても、同じスタンスで営業活動をします。現地でもネガティブなポイントや設備の不具合などは説明するようにしています。また、不具合が多すぎて紹介に適さない物件は事前に掲載を却下して絞り込みをしています。

――“馬鹿正直”というスタンスを掲げる不動産会社はまだ多くないように感じます。実際の営業でも顧客からはネガティブな点を確認したいという声は多いのではないですか。

木下氏:新築のように瑕疵(故障や不具合)が考えにくいものであれば問題はないのですが、中古の場合にはそうはいきません。どこかに問題があったり将来修繕が必要なネガティブな点があるものです。顧客はそれが怖くて中古物件が買えないのではないでしょうか。そこをしっかりと伝えることで、「このようなリスクがあるけれど、気に入っている点もあるから買おう」という判断ができると思うのです。

中村氏:過去にユーザーインタビューをしたことがあるのですが、新築物件と中古物件を同時に検討している人は、中古物件を2回、3回と内覧検討するたびに「購入できる自信がなくなった」というのです。仲介会社から出てくる情報の乏しさや潜在的なネガティブな点に対する不安がそうさせるのだと思います。結果的に「新築のほうが買いやすいから買う」という結論になってしまうのです。

――つまり、中古物件を検討する人にとっての不安感の払拭というのが第一の狙いということですね。

木下氏:そうですね。中古住宅を安心して買えるようにしたいというのが大きい狙いです。私たち仲介事業者は顧客に情報を提供するのが仕事です。その情報には、一般的に表に出される「物件概要」と、建物の「建築スペックに関する情報」、そして顧客の購入計画に関する「ファイナンスに関する情報」や、物件相場などの「価格情報」といくつかあるのですが、残念ながら今の不動産業界は、とにかく物件概要だけを駆使して、ゴリ押しで営業を行っているのが現実です。

 今回の取り組みではそうした従来のスタンスを変えて、建築分野の情報をしっかりと伝えられるようにしたいと考えています。将来的にはファイナンスや周辺相場などに関する情報といった分野も拡充したいと思っていますが、まずは新築住戸を40年余り供給してきたノウハウを生かして、自分たちの専門分野である建築や管理に関する領域の情報からサービスを充実させたいと思っています。

 中古住宅は怖くて買えないという方は非常に多いですよね。私も過去に何度か断念したこともあります。それで断念した結果、無理して新築物件を購入して多額のローンを抱えることになると、人生設計が大きく狂ってしまいかねません。無理をせずとも安心して不動産を購入できるようにしたいという思いが、このサービスを作った強い動機ですね。

――営業される顧客側としては、いい話ばかりを並べられるよりも、ちゃんと正直に隠さず言ってもらった方が納得して判断できます。ネガティブなポイントを許容できるかどうかは顧客次第のところもあります。そうした透明性は今後の不動産ビジネスに不可欠だということですね。

中村氏:顧客の情報収集能力は過去に比べたら大きく上がっていて、調べればさまざまなことが理解できる世の中になっていると思います。だからこそ、不動産会社は専門家としてワンランク上の情報を提供できるようにならないといけないと思います。

――サービスを公開して、反響はありましたか。

木下氏:計画通りの反響が生まれており、問合せも増えています。また、「関西圏でも展開してほしい」といった声や、同業他社から「物件情報を載せたい」という声もいただいています。サイトのコンセプトは評価されていると実感していますが、使い勝手は今後改善していきます。また、現在は東京都心の物件を取り扱っていますが、物件エリアは来年度以降に拡大したいと考えています。まずはスモールスタートで成功させて、そこから拡大させていきたいですね。

中古住宅の資産価値を再評価できる仕組みを作る

――ところで、コスモスイニシア<8844>は新築住宅も販売していますが、今回のサービスは中古物件のビジネス拡大を狙ったものです。中古物件の流通強化については国も政策として掲げているように大きなテーマだと思いますが、この点についてどのような課題意識を持っていますか。

木下氏:中古住宅分野については、前述の仲介事業だけでなく、中古住宅を買い取ってリノベーションして再販するというビジネスも3年前に立ち上げました。私もその立ち上げに携わったのですが、その経験から感じたものは、中古住宅を巡る課題は流通や取引だけでなく物件そのものにも存在しているのではないかということです。

中村氏:中古住宅であっても、良質な物件であればきちんと修繕して世の中に流通させれば、それで満足してくれる顧客は必ずいると思います。そういう意味では、私たちは流通を担う企業としてだけではなくメーカーとしての役割もあると思います。その両輪で中古住宅ビジネスを拡大させたいですね。

――ちなみに物件が抱える課題というのは、具体的にどのようなものでしょうか。

中村氏:たとえば、マンションによっては、内装工事をしても簡単に修繕できないような課題、つまり建物構造上の問題や管理の課題などを抱えている物件や、部屋の間取りや設備、配管の設計がニーズと大きくズレている物件もあったりします。そういった物件は流通だけでは解決できませんよね。

 こうした物件は、評価によっては避けることもあれば、メーカーとして買い取り・修繕する場合もあります。中古物件の評価をするために、社内ルールで決めた50項目ほどのチェックシートがあり、そのスコアがあまりに低い=問題点が多すぎる物件に関しては買い取りをしないようにしているのです。

――中古住宅の買い取り・修繕による再価値化ができるのは強いですね。ネガティブな点が多い中古住宅は売り出しても買い手がつかず、見捨てられることも多そうです。

木下氏:国が出した統計によると、日本人がこれまで住宅に投資した資金(=土地住宅の購入金額)は経年劣化によりどんどん目減りしてしまい、国土交通省がまとめた「中古住宅市場活性化ラウンドテーブル報告書」によると、これまでに国全体で500兆円という資産価値の損失が生まれているそうです。私はこれが大きな問題だと思っています。

 コンクリート(の建物)は建築物ごとに異なりますが60年から100年は品質を保持できると言われています。それで作られた建物の価値が短期間で失われてしまうというのは、メーカーとしても非常に残念です。築20~30年の家に実際に住んでいる人は、築年数を不安に感じることは実は少ないですよね。だから、築年数が長いことが悪いということは、一概に言えないと思います。

 その意味でも、中古住宅がちゃんと再評価される市場を作っていきたいです。今回のRENONAVIを通じて、顧客への情報提供を強化していくというスタンスを、我々にできる中古住宅市場の課題解決の第一歩にしたいですね。私たちは前身のリクルートコスモスの時代から、情報を世の中に積極的に開示して市場にインパクトを生み出すという発想を強く持った企業風土でした。今回の取り組みは、そうした潜在的な風土が生み出したものだと思います。

マンション管理分野におけるテクノロジの活用が、次の社会課題になる

――リアルエステートテックの領域ではテクノロジ分野のベンチャー企業も多数参入してイノベーション<3970>を生み出そうとしていますが、業界の枠組みを超えたパートナーシステムの構築についてはどのように考えていますか。

木下氏:今回のサービスは自社開発でしたが、今後ベンチャー企業とのパートナーシップについては喜んで検討したいと思っています。今までリアルエステートテックに携わる企業とは一通り交流していますが、良いビジネススキームが組めるのであればぜひ一緒に挑戦したいですね。

 情報や商品(物件)を提供する立場としては、圧倒的な情報量をユーザーにとって使いやすい形に加工・提供できる仕組みを構築できるテクノロジや、ネット上でのマーケティングに強みを持つテクノロジには関心があります。私たちはウェブのノウハウが乏しいので、それを補ってくれるテクノロジを活用できればいいですね。

――不動産企業には価格情報や相場推移、取引情報といったビッグデータが膨大に眠っていると思いますが、今後はどのように活用したいと考えていますか。

木下氏:データは膨大にあるのですが、まだその活用方法に悩んでいるのが正直なところです。たとえば、マンションの新築時の情報とその後の取引履歴、現在の査定価格とリフォームした場合の査定試算といったデータは、当社が建築した物件に限らずある程度保持しているのですが、これをどのように活用して開示すればいいのか、開示しないほうがいいのかといった点については、まだ結論が出ていない状況です。

――最後に、不動産ビジネスにおけるテクノロジの活用について構想を聞かせてください。

木下氏:テクノロジを活用することで、顧客の利便性向上と業界全体の価値向上がマッチする部分を見つけていきたいと考えています。

 私が次に注目したいのは、マンション管理におけるテクノロジの活用です。マンションの管理や修繕に関する課題は、数年後には社会問題化するのではないかと思っており、その領域でどのような情報を収集して顧客に提供すれば社会が良くなるのかを真剣に考えていきたいです。

 たとえば、マンションごとの設備の状態、修繕状況や管理費・修繕積立金の収支状況といった情報は、依然としてアナログで管理されており情報も散在しているのが現状です。世の中ではあまり話題になっていませんが、世帯数が減少していく今後は大きな問題になるのではないでしょうか。築20年を超える物件が増加していく今後は、こうした情報をテクノロジによってどのように収集・整理できるかが大きな課題になると思います。

 この話は、リアルエステートテックよりもIoTに考え方が近いかもしれません。建物にセンサを付けてデータを収集すれば、よく使われている部分とそうではない部分とで修繕に対する考え方が変わってきたり、修繕が必要な部分に先手を打って住民と管理会社のトラブルを防いだりといった対処ができると考えています。

CNET Japan
もっと見る もっと見る

【あわせて読む】

    最終更新: 12月28日(水)07時00分

    【関連ニュース】

    【コメント】

    • ※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

    【あなたにおススメ】