“高級時計”から路線変更した新「Apple Watch」(後編)--成熟を示すストラップ

CNET Japan 2016年12月29日(木)11時00分配信

 前回は、Apple Watchについて、1と2の違いやアップルがApple Watch Series 2で“アルミモデル推し”に転じた理由などを説明した。

 ハードウェアとしての訴求を抑え、ソフトに振ろうとするApple。簡単にいうと、高級時計路線から、より広い層への訴求になるだろう。にもかわらず、ハードウェアとしてのApple Watchは相変わらずずば抜けた完成度を誇るし、プロダクト全体を見渡した場合、さらに成熟した印象を受ける。それを端的に示すのがストラップだ。

 ここ数年、エントリークラスの時計(1万~5万円)は、時計よりもストラップを売るビジネスを指向しつつある。好例はダニエル・ウェリントンであり、日本のKnot(ノット)だろう。本体の価格を抑え、さまざまなバリエーションのストラップを選ばせる。

 自分の個性を示すのはストラップになるから、本体のデザインはむしろシンプルなほうが望ましい。こういうトレンドに、スマートウォッチの分野で唯一追随しているのが、Apple Watchである。スマートウォッチに注力するフォッシルも、スマートウォッチに交換用のストラップをそろえたが、88種類(!)※もあるApple Watchにはとても及ばない。使い勝手に対する配慮も同様だ。

 2015年に発表されたApple Watchが時計関係者から高い評価を得た一因は、優れた装着感にある。時計自体の重心はやや高めだし、腕に当たる裏ぶたの接触面積も大きくはなかったが、微調整可能で、適度な柔軟性を持つストラップは、その弱点を補うには十分だった。またデスクワークの邪魔にならないよう、どのバックルも突起を抑えてあった。

 某時計メーカーのデザイナーが「この時計は、毎日時計を付けている人がデザインしたのだろう」と評したはずである。個人的に秀逸だと思ったのが、フルオロエラストマー製のスポーツバンドである。これはピンで留めるだけの簡易な構造を持つが、きちんと留めれば外れにくい上、ピンの突起を抑えた結果、デスクワークを妨げない。しかもベルトの内側は大きくえぐられており、装着した際にベルト自体の張り出しを抑えるようになっている。

 完成度の高さで言うと、ウーブンナイロンと革ベルト付きのクラシックバックルだろうか。共通するのは、実用性への配慮と質の高さである。両者のバックルはベルトに直づけされているため、左右の遊びが出にくく、またバックルの張り出しも抑えられる。クオリティーも価格を考えると際だって良い。ウーブンナイロンのようなストラップはすでにあるが、それらは、1枚の大きなシートをカットし、そのコバを溶かしてベルト状に整形したものだ。コバは溶かして整えただけなので、長期の使用ではほつれる可能性がある。

 対してAppleは、編み込みで長いストラップを作り、その上下をカットしてストラップとしている。その証拠に、ストラップの左右にはちゃんと編み目がある。コストはかかるがほつれる可能性は少ないし、溶かして固めたコバが肌を傷めることもない。カットしたストラップの端末はコバ処理されているが、子細に見るとベルトを溶かしたのではなく、わざわざ透明の樹脂で固めてある。

 ほつれないための配慮たるや、おそるべしではないか。ただ装着感には不満がある。ストラップの編み込みを硬くしたのは長期間使うための配慮だろうが、きっちり編んだ結果、左右の遊びは少なくなった。もう少し曲がりを与えたほうが、腕に巻いた感触は改善されるだろう。

※38mm/42mmにおける同じカラバリを含むラインアップの合計(2016年12月現在)

 革ベルト付きのクラシックバックルは、大変興味深いサンプルである。筆者はApple Watch Series 2が以前のような高級路線を改めたと述べたが、クラシックバックルの仕立ては高級時計のベルトそのものだ。革の細やかなシボはエルメスのストラップを思わせるし(もっともエルメスほど繊細ではない)、発色の鮮やかさも同様である。

 普通、レザーストラップに優れた発色を与えようとするなら、たっぷりとラッカーを染みこませるしかない。色は良くなるが、反面ベルトが硬くなってしまう。対してクラシックバックルのストラップは、発色の良さとしなやかさを上手く両立している。こういうノウハウはエルメスのような老舗しか持てないはずだが、Appleはどうやって実現したのだろうか。

 ストラップの製作にあたって、Appleがエルメスをお手本にしたのは間違いなさそうだ。ベルトの外周部にへりを設けるのはエルメスが好む手法であり、細かいステッチも同様である。ベルトの縫い糸はエルメスのような麻糸ではないだろうが、代わりにAppleはベルトと同色の縫い糸を与えた。両者の色を完全に合わせたのは大量生産ができればこそだろう。

 ストラップへの配慮が示すように、ハードウェアとしてのApple Watchはさらに成熟し、製品としての魅力を増した、といえるだろう。Appleは公言しなくなったが、モノ作りに対する姿勢は何も変わっていないのである。極めて優れたApple Watch Series 2だが、もちろん無欠ではない。電池容量が増えて実用性は高まったが、ケースはわずかに厚くなった。

 装着感が悪化するほどではないが、袖口が細いシャツとこすれた際に、文字盤のパターンが変わる、予期せぬファンクションの画面が表示される、などが数回起こった。希な例かもしれないが、これはケースが厚くなった弊害のひとつだろう。ケースの厚さは10mmを切ってほしいし、Apple Watch Series 3か4では、おそらくそうなるはずだ。

 さて結論である。ハードウェアとしての熟成に加えて、高い防水性と、相対的に長くなったバッテリライフ、加えてSuicaも使えるようになったApple Watchは、現時点における最良のスマートウォッチである。消去法で選んだ場合、大多数のスマートウォッチは選に漏れるが、Apple Watchは消去法で残るどころか、加点で選べるほどの完成度を持つ。

 ただ正直なところ、筆者は複雑な気持ちである。時計メーカーのエグゼクティブ同様、筆者もこの時計が時計の新しいマーケットを拓くことを期待している。しかし仮に、Apple Watchの質感に慣れた人がいわゆる高級時計を見たら、どう感じるだろうか?

広田雅将

時計ジャーナリスト。

時計専門誌『クロノス日本版』編集長。国内外の時計賞で審査員を務めるほか、学会や時計メーカーなどでも講演を行う。一般誌、専門誌で執筆多数。

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    最終更新: 2016年12月29日(木)11時00分

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