“普通の中小企業”が抱える金融課題をFinTechで打開したい--Tranzax小倉氏に聞く

CNET Japan 12月29日(木)07時00分配信

 約380万社あると言われる中小企業の活性化は、日本経済の活性化に直結する重要な課題だと言われている。しかし現実には、競争力のある製品やサービスを武器に、投資家やVCから資金調達ができるごく一部の企業を除いて、その経営環境は厳しいと言わざるを得ない。

 こうした状況に対して、FinTechによって課題解決を目指しているのが、「サプライチェーンファイナンス」を開発したベンチャー企業であるTranzaxだ。代表取締役社長である小倉隆志氏に、中小企業の経営環境が抱える課題と、同社が開発したサプライチェーンファイナンスの狙いについて聞いた。

「貸したくても、成長資金を融資できない」--中小企業金融を巡る課題

――サプライチェーンファイナンスの狙いとして、中小企業の経営環境が抱える課題について教えてください。

 まずはサービスの背景として、中小企業の資金繰りを巡る、さまざまな課題からご説明します。日本銀行がまとめた統計によると、国内の金融機関による中小企業向け融資は、1995年12月のピーク時には266兆円あったものが、2016年3月には185兆円へと81兆円(約30%)も減少しており、バブル崩壊時に大きく減少したままずっと横ばいが続いています。

 お金というのは企業にとってはいわば“血液”に相当するもので、お金が回らないということは企業が“低血圧”の状態であるということ。元気が出ないということです。アベノミクスと銘打って金融緩和を次々に繰り出しても、中小企業の現状は変わっていないのが実情です。

 中小企業にお金を貸すというのは、実際にはそんなに簡単なものではありません。銀行や信用金庫にとっては、貸すことはできても返ってくるかわからないというリスクがあるからです。消費者金融は人に貸すので追いかけて回収することができても、企業向け融資は会社が倒産したらおしまいです。そのため、貸出検討時には企業が利益を上げているかを厳しくチェックされています。

 一方で中小企業は、収める法人税を抑えたいためになるべく赤字決算にしたいと考える経営者は少なくないのではないかと思います。中小企業の税務申告では利益を隠すのはいけませんが、損は隠しても咎められない。節税のためには赤字決算を出したい、しかしそれでは銀行はお金を貸してくれない。そういうジレンマが存在しているのではないでしょうか。

――確かに、企業向け融資の際には、過去の実績(利益)をかなり重視されますね。

 そうですね。だいたい過去3期分の決算をチェックされます。ただ、それは正しいとは言えません。過去の決算を見ても、変化が激しいこの時代において、来年その企業に何が起きるかなんて何もわかりません。過去3期分の決算なんて高度成長で過去の決算からある程度の成長見込みを予測できた昭和の時代の話です。今はどうでしょうか。商売が上向くか下向くかなど誰にも予想できない時代です。そのような背景があり、過去の決算を見て融資を決めるという方法は合理的とは言えないのです。

 銀行は貸せるものならばお金を貸したいと心底思っている。しかし、実際には貸したくても(審査に関わる課題があり)貸せないのが現状です。日本の中小企業は6割が赤字企業だと言われています。つまり決算書を基に審査すれば、ほとんどの企業は融資を受けられないのです。こうした融資を巡る判断の難しさもあり、中小企業向け融資は横ばいになっているのです。

 もう1つ付け加えておくと、企業が金融機関からお金を借りる際には、大企業の場合にはTibor(タイボー:東京市場の銀行間取引金利のこと)と呼ばれる金利が適用されています。その金利は日本銀行の金融政策に合わせて下降傾向にあり、最新の金利は0.1%程度(2016年9月)ですが、中小企業の場合には短期プライムレートというものが適用され、その金利は2009年から7年間1.475%(都市銀行の場合)で一切変動していません。地方銀行や信用金庫だとその金利はさらに高くなります。中小企業がお金を借りられたとしても、実際には大企業よりも不利な条件で借りなければならないのです。

 こうした課題と現状に対して、金融機関にとって融資した資金を確実に回収できる仕組み、安心して中小企業がお金を借りられる仕組みを作りたいという考えで、このサプライチェーンファイナンスを考案しました。停滞する中小企業金融をFinTechによって打開しようというのが、私たちの狙いです。

電子記録債権と公平性の担保によって中小企業への安定資金供給を実現する

――では具体的にどのような仕組みなのでしょうか。

 中小企業が金融機関から運転資金を借りる場合には、リスクヘッジのために「担保」を設定することがありますが、これまで担保にできなかったものを担保にしようというのがサプライチェーンファイナンスのポイントです。

 担保と言って一番わかりやすいのは不動産担保ですが、今の時代不動産を所有していない企業は当社を含めて数多くいますよね。では、何が担保になるのか。そこで目を付けたのが、大企業との取引から発生する「売掛金」です。売掛金は2~3カ月先に取引相手の企業が確実に支払ってくれるものであり、しかもその相手が大企業であれば確実性は十分であるわけで、担保としての価値があります。

 加えて、売掛金は今の商売の状況=将来の利益であり、過去の実績を評価していた従来型の融資のスキームよりも合理性があるのです。昨年の状況は問わず、今まさに商売が順調な成長企業であれば、将来のために融資ができるのです。売上が伸びている企業に資金を提供すれば、企業はもっと元気になるのではないでしょうか。

 また、この売掛金に着目した背景には、大企業と中小企業の取引が抱える課題が挙げられます。たとえば、中小企業が大企業に納品をして売上が立った場合、現金で翌月に支払われれば問題はないのですが、企業によっては120日後に換金できる約束手形で支払われる場合があります。今日納品しても、実際に中小企業がお金を手にできるのは5カ月も先なのです。それでは企業はやりくりできないので期限よりも前に銀行で換金できるのですが、そこでは手数料の割引が行われるため、実際の手取りは売上よりも下がってしまうのです。

 しかも、同じ大企業が発行した約束手形であっても、大企業が持ち込んだ場合よりも中小企業が持ち込んだ場合のほうが、手数料率が高くなるという不公平も慣行として存在しています。大企業の手形なのに、適用される手数料率は中小企業向け金利である短期プライムレートなのです。そこで、サプライチェーンファイナンスでは、この手数料率を公平にすることも目的としています。

 具体的には、大企業に約束手形の電子化技術(電子記録債権)を導入して、導入企業ごとに専用の電子記録債権買取会社(SPC)を設立します。その買取会社の資産=大企業の電子債権を担保に、市場から大企業の取引に準じた安い金利で資金を調達し、債権者(中小企業)に対しては1%以下の低い手数料で債権を買い取れるようになります。これにより、中小企業は売掛金をすばやく、低い手数料で手にすることができ、成長のための運転資金を確保できるのです。

 ちなみに、この電子記録債権を取り扱うことができる電子債権記録機関は金融庁、法務省からの指定が必要なのですが、これまでは大手メガバンク3行(みずほ<8411>三井住友<8316>、三菱東京UFJ)と全国銀行業協会(全銀協)のみが指定されており、我々がベンチャー企業として初めて指定を受けました。

――このスキームには野村信託銀行が参画をするそうですが、その意義について教えてください。

 私自身が野村證券の出身ということもあるのですが、野村證券グループには営業活動で協力してもらったり、野村信託銀行には資金を供給してもらったりするなどパートナーシップを築いています。

 野村證券は「資本市場は平等であり、公正である、透明でなければならない」という原理原則を徹底している企業の1つで、手形取引をめぐる銀行の慣行のような市場に存在する不公正さ(同じ大企業が発行した約束手形であっても、大企業が持ち込んだ場合よりも中小企業が持ち込んだ場合のほうが、手数料率が高くなるという不公平のこと)を是正したいという我々の考えと方向性が一致している部分でもあります。

――発注者である大企業側にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

 中小企業は銀行で割り引かれる手数料を念頭に置いて、その分を受注価格に上乗せしたりしますが、手数料が低くなることで価格も適正化するわけです。また何よりも、大企業にとってはパートナーである中小企業が元気にならなければ自分たちのビジネスも危うくなるわけです。その意味では、中小企業との協力体制を強化するためにも、サプライチェーンファイナンスは価値のある仕組みではないかと思います。

 加えて、このサプライチェーンファイナンスには、市場から資金を調達するのではなく、大企業の資金を活用して取引するスキームも存在しています。具体的には、債権者(中小企業)が持つ債権をSPCが低い手数料で買取り、その債権を発注企業自身に買い取ってもらうという仕組みです。キャッシュフローが安定している大企業は膨大な余剰資金を抱えていますが、実際には銀行の預金金利はないに等しく、資金を運用する方法もありません。であるならば、サプライチェーンファイナンスに資金を提供すれば、発注金額と買取金額の間で差益を得ることができ、中小企業も安定して運転資金を確保できるわけです。

 サプライチェーンファイナンスは、発注者である大企業が導入を決めてくれなければ動きませんので、大企業にもメリットがある仕組みである必要があります。これまでは、大企業と中小企業の手形取引において間に立つ銀行だけが高い手数料で利益を得てきました。その利益を大企業と中小企業と間に立つ我々で分配しましょうというのが、サプライチェーンファイナンスの仕組みのポイントですね。中小企業金融に“民主化”をもたらしたいと思います。

日本の中小企業には、成長資金が十分に供給されていない

――確かに、売掛金というのは今のビジネスの状況を反映したものですよね。過去に赤字であっても今の儲けを資金調達の根拠にできるということですね。

 1年前の決算書を分析するよりも、今月の売上を見て判断したほうがよっぽど確実ですよね。売上を伸ばしている成長企業であれば、過去にとらわれずどんどんお金を貸すことができるわけです。それが日本の中小企業を元気にすることに繋がるのではないかと思います。

 売上を生み出すということは、企業にとってはコストが先に出ていくことを意味しています。材料を買ったり、人材を雇用したりするのは、売掛金が実際に入金される前のことです。実は売上を伸ばすというのは、企業によっては資金繰りが厳しくなるケースがあります。そうした企業の成長フェーズで資金がしっかり供給できるかが大きな課題です。日本経済が停滞している要因の1つがここにあるのではないかとも思っています。日本の企業の大部分は中小企業であり、その中小企業には成長のために必要な資金が十分に回っていない。そのため日本経済全体の成長も止まってしまっているのです。

――ビジネスを興そうと思って会社を立ち上げても、自己資金があるか、VCなどから投資を受けるか、金融機関からお金を借りるかして先立つ資金を確保しなければ、ビジネスを成長させて軌道に乗せることはできません。その最初の第一歩で躓いてしまっているということですね。

 そうですね。実際に起業すればわかると思いますが、ビジネスを始めるための準備では、とにかくコストが出ていくだけの状態です。まず、それがなければ起業できない。次にそのビジネスを拡大するために拠点を増強したり人材を増やしたりしたいと考える。その時にもコストは先に出ていくのです。ビジネスは常に支出することからスタートしており、そのマイナスを補える資金がなければ成長させることはできないのです。本来であれば、それを補う役割を銀行などが担っているはずなのですが、中小企業向けには十分に機能していないのが現実です。

 イノベーティブな製品やサービスを生み出そうとしている優秀なベンチャー企業は、VCや投資家から資金を調達することができるかもしれません。しかし、それができる中小企業は全体のごくごく一部に過ぎません。その他大多数の中小企業は、人目を引くようなものすごい競争力など持っていないのです。他の中小企業と同じようなものを作ったり、同じような商売をして頑張っていますよね。しかし、それが人々の生活を支えているわけであって、そこにお金が回らなければ経済はおかしなことになるのです。そうした“普通の中小企業”に過不足なく金融サービスが提供されることが重要なのです。

――サービスローンチ後の反響について教えてください。

 このサービスは2016年7月に開始したのですが、上場企業5社が導入を決定していて、1社はすでにシステムが稼働しています。検討企業は20社を超えており、2017年にはさらに導入企業が増えるのではないかと思います。中小企業との間で約束手形を用いた取引をしているすべての企業がこのサービスを導入できるので、市場ニーズのポテンシャルは大きいのではないかと思います。

 想定される導入企業については、メーカー系企業など慣行として納品後の支払いサイトが長いビジネスでの活用を想定しています。導入にあたって大企業側にシステム改修などの手間はなく、中小企業に対する買掛データを送信してもらえば電子債権化を当社のシステムが行うことができます。また中小企業側には電子債権をメールかFAXで通知しますので、こちらもシステム導入などの手間はありません。

 ちなみに、建築業やシステムベンダーなど発注から納品までの期間がそもそも非常に長いビジネスモデルで、中小企業が納品までに必要な運転資金を確保できる仕組みとして、発注段階で発注書を電子債権化してそれを担保として資金を調達できる「POファイナンス」というシステムも、現在金融庁や政府系関係機関、融資する資金を供給してもらう金融機関などと協議しながら準備しているところです。

日本経済は“普通の中小企業”が支えている

――2020年の東京オリンピックに向けて、中小企業はますます頑張らなければならない。そのためには運転資金の需給バランスを適正にしてビジネスを活性化させる必要は急務だと言えますよね。

 そうですね。残念ながら中小企業は日本の経済システムの成長から置いていかれてしまっていると思います。金融スキームはこれまで大きく発展してきましたが、そのほとんどは大企業か機関投資家向けのもの。中小企業は蚊帳の外で、昭和の時代と同じスキームで苦労しているわけです。そこを電子記録債権というFinTechによって打開したいと思います。

――最後に、今後中小企業向けのFinTechビジネスについて目標を教えてください。

 繰り返しになりますが、いま中小企業に必要なのは成長資金であると思います。しかし、その成長資金は過去の決算書を分析しただけでは生み出せないものであり、中小企業の成長のためには企業のビジネスの“いま”を根拠に資金供給ができる金融スキームが求められると考えています。我々はFinTechを通じて、中小企業に“成長ファイナンス”を提供したい。多くの中小企業にとって、この成長ファイナンスを活用してもらいながら、ビジネスを拡大するためのチャンスを掴んでもらいたいと思います。

 中小企業のビジネスを巡っては、競争力のあるイノベーティブな商品やサービスを作ったり、上場を目指している企業が大規模な資金調達を実現していることがニュースになっていますが、日本経済の大部分は、大企業のビジネスを支えている“普通の中小企業”によって支えられているということを忘れてはいけません。そうした普通の中小企業が成長するための金融スキームとして、この“成長ファイナンス”をこれからのスタンダードにしたいと思います。

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    最終更新: 12月29日(木)07時00分

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