総務省の「実質0円禁止」で“明暗”分かれた携帯電話業界--2017年は「代理戦争」へ

CNET Japan 01月18日(水)15時22分配信

 端末の「実質0円」販売が事実上禁止された影響を受けて戦略変更を余儀なくされる大手3キャリアと、逆にその影響が追い風となったMVNO。業界の商習慣を大きく変え、競争を促進することで通信料の引き下げを狙う総務省の施策によって、明暗がくっきり分かれた2016年の携帯電話業界を改めて振り返るとともに、2017年の動向を占ってみたい。

行政の関与で大きく変わった携帯電話市場

 2016年の携帯電話業界を一言で表すならば、「政」ということになるだろう。それほど今年は業界全体が行政、具体的には総務省の影響を非常に大きく受けた1年だったといえる。

 事の始まりは2015年にさかのぼる。安倍晋三首相の携帯電話料金引き下げ発言を受け、総務省のICT安心・安全研究会が「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」を実施。そこで、携帯電話料金引き下げに向けて議論された結果、MVNOなど新規参入事業者の競争力を高め、料金競争を促すため、大手3キャリアに対していくつかの指導がなされたのである。

 中でも、スマートフォンの端末購入補助の適正化を図るよう要請がなされ、高額なスマートフォンを「実質0円」など非常に安価な価格で販売し、割引分の料金を毎月の通信費で回収するビジネスモデルにメスが入れられたことは、携帯電話市場全体に“激震”といっていいほどの大きな衝撃を与えた。

 特に4月、「スマートフォンの端末購入補助の適正化に関するガイドライン」が打ち出された影響は大きく、総務省はこのガイドラインを基にキャリアの実質0円、あるいはそれを超えた割引を実施する施策に対して相次いで指導を実施。これにより、従来当たり前とされてきたスマートフォンの実質0円販売がほぼ姿を消すこととなったのである。

 また先のタスクフォースでは、ライトユーザー向けのより安価な料金プランを提供することや、長期利用者を優遇することなどもキャリアに対して求めていた。そのため各キャリアは、高速通信容量が1Gバイトで、5000円程度で利用できるライトユーザー向け料金プランの提供を開始したほか、長期利用者優遇プログラムを強化するなどの対応にも追われることとなった。

 だが一連の取り組みをもってしてもなお、キャリア側の取り組みには不足があると総務省側は考えているようだ。

 10月より実施された「モバイルサービスの提供条件・端末に関するフォローアップ会合」では、2015年に義務化したSIMロック解除に関して、解除が可能になる期間を2カ月に短縮することや、端末価格を2年前の機種の下取り価格を下回らないようにするなど、端末購入補助のさらなる適正化を求める方針が打ち出されており、2017年にはそれらがガイドライン改定などの形で反映されることとなる。

 キャリアの商習慣に対して厳しい目を光らせているのは、総務省だけではない。8月には公正取引委員会が「携帯電話市場における競争政策上の課題について」という報告書を公表し、独占禁止法の観点から従来のキャリアのビジネスに関する問題点を指摘。さらに中古端末の国内における流通量が少ない問題などに関しては、キャリアだけでなくメーカーにも警告をした。

勢いに乗って規模拡大を進めるMVNO

 行政側の施策によって勢いを増したのは、低価格で通信サービスを提供するMVNOや、キャリアのサブブランドだ。実質0円販売の事実上禁止によって端末価格が大幅に上昇したことを嫌った人たちが、安価なサービスを提供する事業者へと流れたためだ。

 MVNOやサブブランドは、一連の総務省の施策をビジネスチャンスと捉え、2016年に入ってから攻めの姿勢を打ち出してきている。中でも低価格サービスで先行する、ソフトバンク<9984>のサブブランド「ワイモバイル」は、大手キャリアの強みを生かし「iPhone 5s」を正規に取り扱ったり、基本料を1年間1000円割り引く「ワンキュッパ割」などを相次いで打ち出したりするなどして、低価格を求めるユーザーの獲得を進めていった。

 一方のMVNOも、従来のデータ通信を重視した30~40代の男性だけでなく、メイン回線としてMVNOのサービスを選ぶ若い世代やファミリー層などが増えたことから、従来あまり力を入れてこなかった音声通話サービスを強化する企業が増加。楽天<4755>モバイルが「5分かけ放題」の提供を開始して以降、各社がプレフィックスコールやIP電話などを活用し、キャリアと同様の定額通話を実現するサービスを提供するようになった。

 また、従来インターネット販売が中心だったMVNOが、全国への実店舗展開を進めるようになったのも、大きな変化といえるだろう。実際、楽天<4755>モバイルやカルチュア・コンビニエンス・クラス傘下のトーンモバイル、「FREETEL」ブランドでスマートフォンや通信サービスを提供するプラスワン・マーケティングなどが、全国への店舗展開を打ち出している。市場拡大を受け、コストをかけてでも攻めに出るMVNOが増えているのだ。

 そしてもう1つ、MVNOの拡大に合わせて急速な伸びを示しているのが、SIMフリースマートフォンを提供するメーカーだ。ASUSやFREETELなど主要SIMフリースマートフォンメーカーだけでなく、2016年はレノボ傘下のモトローラや、「アルカテル」ブランドのTCLコミュニケーションなどもSIMフリースマートフォンの販売を大幅に強化。成長市場を狙っての攻防が激しくなってきている。

 それらメーカーの中で、頭一つ抜け出したのがファーウェイである。同社の躍進を支えたのが、6月に投入した「HUAWEI P9」「HUAWEI P9 lite」。中でもP9は、発売当初は5万9800円と、SIMフリースマートフォンとしては高額な価格設定ながらも、ライカと共同開発した、2つのカメラを備えた「ダブルレンズ機構」が人気を博してヒットを記録。SIMフリースマートフォンは低価格でないと売れないという、これまでの常識を覆したことは、今後のSIMフリースマートフォン市場に大きな影響を与えたといえる。

高付加価値戦略に加え“味方”のMVNOを増やして戦うキャリア

 一方の携帯キャリア側は、行政の施策によって、従来のように他キャリアから直接ユーザーを奪って規模を拡大する戦略をとるのは難しくなってしまった。そのため3キャリアとも、現在抱えているユーザーを基盤に通信以外のサービスを強化することで、1人当たりの売上を拡大する戦略へとシフトしてきている。

 特にそれを象徴しているのが、auが打ち出した「auライフデザイン」だ。auは決済サービスの「au WALLET」や、実店舗を活用したEコマース「au WALLET Market」など、auの会員基盤を生かしたサービスの拡大を進めてきた。auライフデザインではさらに、生命保険や損害保険、住宅ローンなど、ライフスタイルに影響を与える商品やサービスを、auサービスと連携させることで、総合的な売上拡大へとつなげる戦略に出てきたのである。

 同様の取り組みは、「ドコモ光」で固定回線を取り込んだNTTドコモ<9437>なども進めてきていることから、今後大手キャリアは携帯電話をキーとして、高付加価値サービスを提供することで売り上げを高めていくことになるだろう。だが、ユーザーがキャリアに対して通信以外のサービスを求めているかどうかは不明瞭な部分も多く、ドコモは2015年に開始したばかりの、カタログ制でさまざまな体験ができるサービス「すきじかん」を、2017年に終了することを発表している。当面はサービスの模索が続くことになりそうだ。

 一方、主力の通信サービスや端末に関しては、ソフトバンク<9984>が20Gバイトの高速通信容量を月額6000円で利用できる「ギガモンスター」を開始したことや、iPhoneの新機種「iPhone 7」「iPhone 7 Plus」が耐水・防じんやFeliCaに対応したことなどが注目された。だが全体的に見れば、やはり実質0円販売の事実上禁止措置の影響、そしていくつかのキャリアが発売予定だった「Galaxy Note 7」が、発火事故を起こして未発売となったことなどの影響もあり、やや閉塞感が漂っている印象を受ける。

 ただし、行政に押される形でキャリアの通信事業がこのまま停滞・衰退していくかというと、そうとは限らない。従来“敵”として位置付けてきたMVNOを、キャリア自身が“味方”として活用することで、競争力を高めようとする事例が最近増えているからだ。

 たとえばドコモは、自社が展開するコンテンツサービス「dマーケット」の一部サービスを、MVNO経由で販売するようになるなど、MVNOの仲間を増やして協力関係を築きつつある。またKDDI<9433>は、低価格サービスでの出遅れを取り戻すべく、UQコミュニケーションズがauのMVNOとして展開する「UQ mobile」への大幅なテコ入れを進めたほか、12月にはMVNOとしても大手のISP、ビッグローブの買収を発表。外部のMVNOを自身のグループへと取り込んでいく様子を見せている。

 そのため2017年は、携帯キャリアがMVNOやサブブランドに大きく関与し、他のキャリアや他社回線を用いたMVNOからユーザーを奪う「キャリアの代理戦争」が激しくなるものと考えられる。その過程で、ビッグローブのように買収が進むなどして、キャリアを起点としたMVNOの再編が進む可能性も十分考えられるが、キャリアがMVNOに大きく関与することは、寡占化につながることから総務省もあまり快くは思っていないだろう。

 急拡大するMVNOを巡り、MVNO同士、キャリア同士、そしてキャリア対総務省と、各レイヤーでの攻防がより一層激しくなりそうだ。

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    最終更新: 01月18日(水)15時22分

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