介護施設で働く「Pepper」--血圧測定、個人データ管理ができるシステム開発の背景は

CNET Japan 2017年01月06日(金)11時27分配信

 「Pepperが何台も導入されている介護ホーム」──静岡県静岡市にある「まごころタウン静岡」では、AIの代名詞となりつつある感情認識パーソナルロボット「Pepper」にMicrosoft Cognitive Servicesを連携して実現した実証実験が行われている。

Pepperが出迎える最先端の介護施設

 2014年に登場し、2015年6月に一般向け発売され、家庭から店頭まで普及し続けるPepper。店頭で目にする機会が多いが、最近は介護施設などヘルスケア領域でも導入が進んでいる。

 今回、その実例として訪れた「まごころタウン静岡」は、社会福祉法人まごころが運営する2015年5月にオープンした比較的新しい施設だ。「eかいごナビ」の運営など、介護総合支援事業を行うインフィックのグループであり、約100人が生活する特別養護老人ホームを中心に、ショートステイや、併設する「まごころタウンでい草薙」でのデイサービス、居宅介護支援などを行う。

 IT環境の構築は同じくグループ会社のインフィック・コミュニケーションズ(以下、インフィック)が実施した。そのため、タブレットの導入によるペーパーレス化やセンサーによる居室の環境管理<4657>を行うなど、設立当初からIoTを積極的に導入。その一環としてPepperなどロボットの導入も行われている。エントランスでも、早速1人目のPepperから出迎えてくれた。

 さらに奥に進み、デイサービスが実施されている広いラウンジに2人目のPepperがいる。こちらのPepperが今回の主役だ。

 もともとPepperはさまざまなロボアプリを導入することで利用する環境に応じたカスタマイズが行えるが、まごころタウンのPepperにはイサナドットネットが開発したアプリが導入されている。システムにはクラウドサービスのMicrosoft Azureが使われ、「Microsoft Cognitive Services」の「Face API」で顔認識を、「LUIS」で自然言語解析を行う。

 このアプリで、Pepperは利用者を顔認識して「会話」するほか、連携する機器で行った脈拍や血圧データを、Wi-Fi経由でインターネット回線を通してMicrosoft Azureに送信。一方、IoTに関してはユニアデックスが担当し、館内や居室に設置した「IoTマルチセンサー」の計測した気温などの環境データをIoTゲートウェイを通して3G回線でMicrosoft Azureに送信する。

 これら2つのサービスを合わせてリポート表示することで、測定データ全体を可視化するという仕組みだ。

 まごころタウン静岡のPepperのメニューは「会話を始めます」「血圧を測ります」「顔を登録します」の3つ。Microsoft Cognitive Servicesの顔認識を使って登録を行うと、その人物と会話した内容を自然言語解析で分類、蓄積。次回からは顔認識が実行され、名前で呼ばれるようになる。

 「血圧を測ります」では、タブレットで連携計測機器を管理し、血圧や脈拍のデータをPepperに受け渡し、顔を登録したユーザーの情報ごとに管理する。Pepperの胸の画面では、ユーザー自身が腕に血圧計を巻く手順が細かく画面解説される。

 実際にPepperによる血圧測定を体験してみると、顔の登録から血圧測定までは比較的スムーズに進む。会話はまだ長く続かないが、「暖房が必要な季節になってきましたね~」「ボクにしか言えないことってつらいですよね」といった気の利いたセリフも飛び出し、介護施設向けにカスタマイズされた効果を感じた。

1カ月のスピード開発!「IoTビジネス共創ラボ」で実証実験

 このまごころタウン静岡に導入されているこのシステムをインフィック、イサナドットネット、ユニアデックスの3社が共同で行うことになったきっかけは、東京エレクトロンデバイスと日本マイクロソフトが協力して2月に発足した、「IoTビジネス共創ラボ」のヘルスケアワーキンググループでの出会いだったという。

 すでにまごころタウン静岡に導入済みだったものの、活用しきれていなかったPepperをMicrosoft Cognitive Servicesを活用した実証実験として使用することになり、もともとPepperのアプリケーション開発で実績があったイサナドットネットが名乗りを上げ、ユニアデックスが調整していった。

 Pepperを導入するまでの経緯や今後の展開について、イサナドットネット ビジネスデベロップメントの阿部将文氏、 イサナドットネット ソフトウェアエンジニアの山田耕平氏、まごころタウン静岡施設長の原﨑伸治氏、インフィック・コミュニケーションズ 取締役副社長 インフィックグループCIOの木瀬昌浩氏、ユニアデックス エクセレントサービス創生本部 プロダクト&サービス部 IoTビジネス開発室 チーフスペシャリストの藤井茂樹氏に話を聞いた。聞き手はCNET Japan 編集長の別井貴志だ。

木瀬氏:われわれは、まごころタウン静岡の運営元ですが、同時に介護現場で使うセンサ機器の開発も行っています。ですから医療や介護の現場では実証実験を行うためのハードルが高いことも実感していました。3社共同の取り組みの中で、次の価値を創造できる場として提供しました。

別井:そもそも、まごころタウン静岡にPepperを導入したのはいつごろですか?

木瀬氏:発売されてすぐです。介護現場の職員の負担軽減を目的として“静岡県で1台目のPepper”を導入しました。今日もエントランスでPepperに会われたと思いますが、手洗いやマスクを促すなど職員が行う声がけなどもPepperに行わせたいと考えています。それだけでも職員の負担軽減にはつながります。5秒でもいいので、その積み重ねがほしいんです。

別井:きっかけとなったIoTビジネス共創ラボでの出会いはいつ頃だったのでしょうか?

阿部氏:7~8月ごろですね。もともと弊社で血圧を測るシステムを持っていたので、それにMicrosoft Cognitive Servicesの顔認識を組み合わせるともっと介護の現場で役に立つものになるのではないかと考えました。こちらにお邪魔して現場を見学するなどして、実質1カ月ほどの開発で実装しました。

原﨑氏:まだ導入して日が浅いのですが、やはり顔認証して名前を呼んでくれることは喜ばれています。意外にロボットを“かわいいね”と愛着を持たれている方が多いですね。今後の可能性を感じています。

 今はデイサービスでの血圧測定を想定していますが、今後特養の入居者のバイタルチェックが移行できたり、その数値を管理して異常値があれば通知できたりするしくみができればかなり役に立っていくと思います。スタッフ自体幅広い年齢層が働いていますので、使い方も簡単なものがほしいですね。

高精度の顔認証。音声認識がネックになる自然言語解析

山田氏:血圧測定の数値をPepperで受け取り、Microsoft Azureにデータを送って蓄積していくところと、顔認証、自然言語解析を実装しました。

別井:AIにこれから学習を重ねていく段階だと思いますが、いま何割ぐらい達成されている状況ですか?

山田氏:正直まだ手探りな状態です。いつ人間と同じぐらい認識能力が高まるかわからないところがあります。顔認証はほぼ100%できますが、自然言語解析はデータのパターン認識が大変です。

 まずは例題となる文章を考える必要がありますし、その派生も認識できるよう、少しずつ変化させるなど工夫も必要になってきます。実際に導入して話しかけてもらい、学習させていく作業がどうしても必要です。

阿部氏:音声認識に関しては、正直ハードウェア的な限界もあります。解析するために聞き取ったものをまずテキスト化していますが、そこを間違えると言語の解析もうまく進みません。そのテキスト化の精度が上がると、認識の精度もぐっと上がるはずです。

山田氏:どこからどこまでを聞き取らせるかという区切りの認識が難しいですね。聞き取った音声を独自に解析していかないとうまくいかない現実があります。

別井:先ほど利用者さんがPepperの手を握っておられましたが、今後もっとアクションを組み合わせる予定などはありますか?

木瀬氏:そうですね、皆さんよくPepperの手を握られます。そこはPepperの良い部分だと思います。Pepperに「握手しましょう」と声をかけてくださる利用者の方もよくいます。コミュニケーションは介護の一種でもあるので、今後はそれに対してリアクションができるように言語解析していただけるとレベルがもう1段階上がると思います。

別井:ユニアデックスさんはPepperとは別のIoTで館内の管理にかかわっているのでしょうか。

藤井氏:そうです。当社は「IoTスタートキット」の導入を担当しています。センサをデイサービスやトイレに設置して湿度のデータを調べたり、トイレの明るさを計ることで、トイレの利用回数を確認したりしています。これらのデータを解析することで、先日はトイレが部屋と比べて少し寒いことなどをご報告しました。数値を取って可視化することで気付きにつなげることができます。

 例えば、将来的には血圧の測定データと館内・屋外の気温との関連性なども解析したいですね。IoTで、意外に数値にされるまで気がつかない、“こういう場所でこういうことが起こっている”という気付きにつなげたいと思っています。

別井:まだデータをこれから取っていく段階です。今回のプロジェクトのゴールはどこになるのでしょうか。

阿部氏:ゴールはありませんね。まだ導入したばかりですし。もっと改善し、スタッフの方の負荷を軽減して介護の質が良くなることを目指していますが、それも終わりがないものです。

別井:データはMicrosoft Azureにあり、今後開発で性能が上がっていくと考えられますが、ハードウェアとしてのPepperの性能は上がらない部分が難しい部分です。

木瀬氏:開発側から見るとPepperのハードウェア的な限界があるかもしれませんが、介護の現場からするとPepperのこの大きさと見た目はとても良いですね。この館内にはほかにも小型のロボットを導入していますが、やはりそれだと孫には見えない。Pepperはロボットの中でもちょっと違う存在感がありますから、この見た目のまま中身が進化していってほしいです。

 例えばPepperと朝「おはよう」と握手したらバイタルチェックができると最高です。そんな未来がひとつのゴールかもしれません。人の業務を1時間減らしてくれるだけでロボットには大きな価値があります。

別井:やり続けていくと想定外の価値も出てくるかもしれませんね。

木瀬氏:そうですね、現在100人の入居者がいますが、部屋にはすべてセンサが取り付けられています。毎日その数値とナースコールの情報をMicrosoft Azureに保管していますが、今後はその解析によって何が見えるかに期待しています。

 現場のスタッフが気がつかなかったことが見えてくることもあると思います。血圧や環境と事故の因果関係など、データ化することで見えるかもしれません。そこに価値が生まれる可能性はありますね。現場の負担軽減だけでなく、新たなサービスにもつながると思います。これからも現場のニーズを伝え続けて、開発に反映していってもらいたいと思います。

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    最終更新: 2017年01月06日(金)11時27分

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