もう一度、ANA創業時のイノベーションを--トランスコスモスとベンチャー支援する狙い

CNET Japan 2017年12月07日(木)07時00分配信

 トランスコスモスは、スタートアップ企業向けイベント「Infinity Ventures Summit(IVS)」を運営するインフィニティ・ベンチャーズと共同で、大手企業のオープンイノベーションを推進するアクセラレータプログラム「DEC Studio」を設立し、航空大手の全日本空輸(ANA)が第1号スポンサーとなった。12月12日には、ピッチイベント「IVS Connect Produced by DEC Studio」を開催する。

 トランスコスモスは、今回のプログラムにどのようなシナジーを求めているのか。一方で、ANAはベンチャー企業との協業に何を期待しているのだろうか。ANAグループの中でマイレージプログラムの企画・運営、新規事業開発などを行うANA Xの代表取締役社長である稲田剛氏と、トランスコスモス イノベーション推進本部 DECAds推進部の部長である亀井昭宏氏に話を聞いた。

――まずは、DEC Studioを設立するに至った経緯や狙いを教えてください。

亀井氏 : 世の中に大手企業とベンチャー企業をマッチングさせるアクセラレータプログラムは数多くありますが、実際のところ大手企業になかなかイノベーションが生まれにくい、新しいことが始めにくいという課題があるなかで、トランスコスモスとしても少しでもその課題を打破するための取り組みを対外的にしていくべきではないのかという考えが背景にありました。

 さらにその前提を話すと、2016年頃から縦割りになっている事業領域をデジタルトランスフォーメーションで変革しなければならないという課題が社内にあり、組織そのものを大きく改編しました。その改編後の組織が「デジタルマーケティング」「EC」「コンタクトセンター」という3事業の頭文字をとった「DEC」なのです。その組織から、新しい価値を世の中に創出しようという考えのもと、DEC Studioが立ち上がりました。自社で新しい価値を生み出しながら外部パートナーとの連携でもイノベーションの創出を目指すという考え方です。

 ただ、私たちはスタートアップ支援の分野では後発企業になりますので、従来との差別化と本気で取り組むという熱意を伝えていかなければなりません。そこで、スタートアップから認知が高く歴史も長いインフィニティ・ベンチャーズとの協業によって、IVSの仕組みを生かしたマッチアップの場=IVS Connectを作ることになったのです。

 このイベントから大きなシナジーを生み出すことで、他のプログラムとの差別化をはかっていきたいと思います。今回、ANAに第1弾スポンサーとして参画していただくことになりましたが、今後もさまざまな大手企業と継続的な取り組みをしていく予定です。

――ANAがスポンサーとして参画することになった経緯を教えてください。

亀井氏 : これまでも、トランスコスモスとANA、そしてANA Xはサイト制作やマイレージプログラムなどの領域でビジネスをしており、特にマイレージプログラムについては、外部とのオープンイノベーションで新しい取り組みができるのではないかという議論は以前からしていました。そうしたお付き合いの中で、今回DEC Studioに参画いただくことになりました。

 トランスコスモスとして初めてのアクセラレータプログラムで不安もある中で、ANA Xには「ローンチパートナーとしてでなければ参画しない」という言葉をいただきました。結果を出せるよう、私たちもベンチャー企業の方々と同じように情熱と覚悟をもってイベントを盛り上げていきたいと思います。

――ANAではこれまで社内ベンチャーや外部との協業など、どのようなオープンイノベーションの取り組みをしてきたのでしょうか。

稲田氏 : ANAグループではこれまでクラウドファンディングの「WonderFLY」を設立したり、宇宙旅行をはじめとする宇宙輸送の事業化を目指してHIS<9603>などと資本提携したり、イノベーションの創出を目指して活動している非営利団体であるXPRIZE財団(米国)とパートナー契約を締結したりと、新しい領域への取り組みを数多く展開しています。私どもANA Xは2016年12月に設立された新しい会社ですので、こうしたアクセラレータプログラムへの支援は初めてになります。

――今回、どのような考えでDEC Studioに参画することになったのでしょうか。

稲田氏 : ANAグループの基幹事業はご存知の通りエアライン事業になりますが、その事業を中核に据えながらも、ANA XはANAから引き継いだマイレージプログラムの企画・運営と併せて、エアライン事業以外の領域で派生的なビジネスをスピード感をもって創出していくことを目的に設立されました。マイレージプログラムが築いてきた顧客基盤やブランドを活用しながら、新しいビジネスを作り出すことを目指しているのです。

 その挑戦にあたっては、オープンイノベーションで取り組んでいくという姿勢が非常に重要です。エアラインの強みを生かしながら、特にテクノロジ領域でオープンにさまざまなパートナーと協業してビジネスを創出していきたいと考えています。

――ANAグループは非常に大きな企業組織ですが、その中で新しいビジネスやイノベーションの創出に挑戦するというマインドは、社内にどれくらいあるのでしょうか。また、ANA Xの設立によって風土に変化などはあったのでしょうか。

稲田氏 : そもそも、1952年にさかのぼるANA(の前身となる日本ヘリコプター輸送と極東航空の2社)の創設が、ベンチャーマインドから生まれたものだったという歴史があります。私たちは2機のヘリコプターからビジネスを始めましたが、そこから定期航空運送事業を開始するまでの間に尽力した先人たちは、まさに今のベンチャー企業と同じだった。そういう創業時からのDNAが引き継がれて今のANAがあり、そういうマインドを持った人たちが集まる企業であると考えています。

 ただ、グループがここまで大きくなってくると、変革をスピード感を持って進めることが難しくなるという一面も出てきます。その中で、エアライン事業に特化したドメインに加えて、エアライン事業以外の新しいドメインにチャレンジする時期に来ていると思いますし、そうした考えに共感した仲間たちが(ANA Xで)強く推進しています。ここからもう一度、ANA創業時の“イノベーションを起こそう”という文化が大きな潮流になればいいと思っています。

――社員は社内公募したのでしょうか。また人事異動などで組織したのでしょうか。

稲田氏 : 社員は50名ほどですが両方含まれます。ANA Xの母体はANAのマーケティング部門に組織されたロイヤリティマーケティング部という部門を分社化したものなのですが、並行して社内公募も行い、新しいチャレンジをしたいという志を持った社員が数多く集まっています。

――もうすぐANA Xの創立から1年が経ちますが、社内外の反応はいかがでしょうか。

稲田氏 : いろいろなご意見をいただいています。共感いただくこともあれば、批判をいただくこともあります。ただ、そうしたさまざまな意見が生まれる状態が健全だと考えています。その中で、多くのディスカッションが生まれる場を地道に作っていくことが重要だと考えています。

――ANAグループでは幅広い事業に投資をしていると思いますが、そのジャッジメントはどのような基準で行われているのでしょうか。

稲田氏 : 投資する領域によって基準は大きく異なりますが、ひとつは中核であるエアライン事業、そしてエアラインを含む旅行事業全般に幅を持たせることが期待できるビジネスに投資をすることが多い傾向にあります。また、私たちにはもともと創業時のベンチャー精神がありますので、これからスタートアップを目指す企業を応援していくというマインドは強いと思います。

 これは投資とは異なりますが、過去にはANAの予約アプリの企画・開発で当時まだ創業期だったチームラボと協業させてもらったこともあります。デジタル領域の制作業務などでベンチャーと協業することは多いですね。

――投資と協業という両輪でベンチャー企業とのパートナーシップを進めているということですね。

稲田氏 : これはANA Xという社名の「X」の意味とも関係しているのですが、この「X」には“掛け算”という意味や“未知数”という意味を持たせています。つまり、パートナーとの協業は足し算ではなく掛け算であり、両社の強みによってそのシナジーを増幅させることができると信じています。私たち1社ではできないことが、ベンチャー企業を含む多くのパートナーシップによって実現し、世の中に付加価値を提供できると考えています。

亀井氏 : この「X」という言葉は、今回IVS Connect Produced by DEC Studioで打ち出している課題テーマとも関係します。今回の課題は「ANAマイレージクラブなどを活用した次世代ビジネスモデルの構築」なのですが、そこには“解くべき方程式”というものを提示して、ANAのアセット、スマートデバイス、そして斬新な視点によるソリューションを掛け合わせることで、新しい顧客体験を創出するという命題を与えました。こうしたテーマも、ANA Xの企業理念を踏まえて考案しています。

 今回のテーマでは、マイレージプログラムという特徴的なサービスに、今までにない価値を生み出せるようなアイデアの原石を見つけ出し、ANA Xとトランスコスモスで磨いていければベンチャー企業にも喜んでもらえるのではないかと考えています。そのために、他のアクセラレータプログラムと異なる細かいメンタリングをしていきたいと考えています。ピッチに出場する企業には開催後の事業計画の立案のサポートなども予定しており、私たちの期待を下支えする支援を実行していきたいですね。

稲田氏 : 今回、私たちはANA Xとして初めてアクセラレータプログラムに参画します。今回の取り組みを通じて私たち自身も多くのことを学びたいと考えています。支援する企業自身もプログラムのなかで一緒に成長できればいいですね。

――今回のテーマであるマイレージは、昔と今で顧客にとっての価値も変化しているのではないでしょうか。

稲田氏 : そうですね。マイレージを巡る環境は(マイレージクラブ開始当時から)いろいろと変わっています。世の中にさまざまなポイントプログラムが台頭して独自の経済圏を構築しようとしていますが、私たちはマイレージが文字通りの文脈(=エアラインをお得に使うためのポイントサービス)にとどまるものではないと考えています。つまり、ANAグループはこれから構築していくエコシステムのなかで、顧客にさまざまな付加価値を提供していきます。その潤滑油としてマイレージになるのです。マイレージの価値が新しいステージに進化するものと考えています。

 一般的なポイントサービスでは1ポイントは1円と金銭換算されますが、私たちは1マイルに金銭的な価値だけでなく、心の豊かさや喜びなどの付加価値を提供したいと考えています。今後のビジネスでも単にお得だということだけではない付加価値を重視していきたいですね。今度のアクセラレータプログラムでも、そうした観点で新しい顧客体験の創出を期待したいです。

 私たちANAグループが、日本のマーケティングを変革したり、世界をより良くしたいと考えた時、新しい芽=ベンチャー企業を育てたり、企業規模の大小に関係なく優れた技術やアイデアを持つ企業とパートナーシップを構築して一緒にやっていくという姿勢が、これからの時代に非常に重要になってくると思います。今回のプログラムは、まさにこうした姿勢を具現化したものだと考えています。

 まずは、エアライン事業や旅行事業の中で、マイレージにどのような付加価値を生み出せるかというのがひとつのテーマになります。その次には、FinTechなどの領域のベンチャー企業とも協業しながら、お客様ひとりひとりのライフスタイルに寄り添う形で、いかにマイレージが価値を生み出せるかというテーマに挑戦したいと思います。

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    最終更新: 2017年12月07日(木)07時00分

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