アーティスト視点で考えるROCKなCDO--エリック松永のデジタルIQ道場(5)

ZDNet Japan 2017年12月06日(水)07時30分配信

David Bowieとイノベーション

 2002年、今は亡き偉大なアーティンストであるDavid Bowie(デヴィッド・ボウイ)は『音楽は水のようになり消費される』と言い放ちました。事実、フリーミアムの時代になりスマートフォンを通して音楽は毎日流れ落ちるようになりました。デヴィドの発言は当時、ほとんどの人が理解できなかった突拍子もないものだったはずです。彼はアーティストとしての考え方もイノベーティブでした。

「ロックを”利用する”と言ったのは僕が最初だろうね」

「僕はロックをメディアとしてとらえているんだ。」

 天才的なアーティストとしての感覚は、筋道立った論理や既存のモデルをベースに考えたのではなく、直感として彼に訴えかけイノベーションを生み出します。直感をベースに考えることができる、しかも直感を前に進める実行力こそCDOの役割であると私は考えています。これからのデジタル時代の経営に必要なのは、こうした直感すなわち非連続的な変化を生みだす感覚なのです。今日は、そんなお話をしたいと思っています。

 

CDOの啓蒙者デビッド・マティソンとの出会い

 David Matison(デビッド・マティソン)との出会いは私に衝撃と自信を与えてくれました。Matison氏はCDO Clubというデジタル分野における世界初の経営陣コミュニティの創始者です。世界各国のメンバーは5000人以上。つまりCDOの本質を知るキーマンなのです。彼は私が昔アーティストだったことを知ってか、こう問いかけてきました。

「エリック、世界で最初のCDOは僕がCDO Clubを創設する前から存在していたんだ」

 謙虚な、しかし力強い視線で彼は続けました。

「考え方としてCDOが誕生したのは、音楽配信サービスのNapster、そして実際にその機能を企業に取り入れて革命を起こしたのは米ケーブルテレビのMTVなんだよ。」

ショーンパーカーはビジネス界のROCKスター、

 NapsterはP2Pの技術を活用し各ユーザが所有している音楽ファイルをインターネット経由で共有できるサービスを考え出しました。当時、検索した楽曲が聴ける事の衝撃はものすごいものでした。私自身、夢のサービスとまで思ったほどです。しかし、少し考えてみれば当たりまえの事ですが個人のライブラリから流通する楽曲の90%は著作権を無視したもので、アメリカレコード協会の裁判で敗訴し、その力は弱まっていきました。

 しかし、当時を振り返れば顧客視点ににマッチしたサービスはありませんでした。沢山の楽曲を聴ける環境がなかった時代、友達が持っている楽曲を共有できれば、さらに楽曲を共有できるコミュニティーがインターネットで世界中に広がれば、どれだけ沢山の楽曲に出逢えるのだろうと若者は誰もが思ったはずです。

 最初に著作権問題から議論していたら絶対に生まれてこなかったサービス。しかも権利(著作権)を主張する大きな組織と戦うNapsterの反逆精神は、ROCKの精神そのもの。ここから、Sean Parker(ショーン・パーカー<9845>)というビジネス界のROCKスターが生まれたのです。既存の制約ではなく、直感的に面白い、ワクワクするという発想から、このビジネスは生まれたのです。

CDOとテクノロジ

 デジタルはテクノロジではない。イノベーションの発想は、必ずしも技術起点ではなく、あくまで顧客視点である事は、Napsterの事例を見れば明らかです。Napsterが起こしたののは、P2Pという技術の革命ではなく、音楽業界のイノベーションです。つまりCDO Clubマティソン氏がCDOの考えか方として言いたかったのは、

“CDOの中心的な役割はイノベーションを起こすことである。”

 と私は解釈します。

CDOの役割

 イノベーションを起こすのがCDOであれば、つまり、CDOは必ずテクノロジ出身である必要はないし、マーケティング出身である必要もないはず。では、CDOは企業のなかでどんな役割を担うべきなのでしょうか。

 CDOがレポーティングするCEOから求められるのは、CEOが発想できないようなイノベーション。実際にCDOが扱う対象領域はリアルも巻き込み非常に多岐にわたっています。実際にCDOとして活躍している人を見ても、非常にさまざまで、全ての企業に共通したCDOのファンクションというものはないと感じることもあります。企業にも個性があるようにCDOにも個性があります。乱暴な言い方をすればCDOについて定義づけをしようという事自体が古い考え方であり、デジタルに反していると言えるのかもしれません。

 イノベーションというキーワード以外の役割の定義は不要なのです。CDOには技術や業界、既成概念を超えたもっと広い意味で、できるだけ広い大きな世を見据えて考えることが求められます。そこには『この技術を使えば次に何ができる』といった連続的な変化ではなく、突拍子がない、前後の脈絡もない、前例もない、でもワクワクするような非連続的な変化が必要なのです。

 ちなみに、これまでの記事で、ミレニアル世代の経営者の台頭により、経営者にも直感的なイノベーティブな発想が求められてきているとお話しました。つまりCEOとCDOの役割は極めて近づいていると言えるでしょう。ここで注目なのはマティソン氏によれば、2017年にCDOからCEOに昇進したのは全米で100人を超えているという事実です。言い方を変えれば、CDOはデジタル時代のCEOの役割を定義づける重要な役割なのです。

追伸:

 Matison氏が最初のCDOの機能を導入した企業と言わしめたMTV。24時間音楽に浸りたい、アーティストの存在を映像でも感じたい、音楽の新しい楽しみ方でもっと楽しみたいと顧客視点で当時の音楽業界にイノベーションを起こしました。イノベーションが起きた瞬間は、1981年8月1日午前12時1分。放送開始、COOジョン・ラック<3857>による第一声は、

"Ladies and gentlemen, ROCK and ROLL !"

ROCKでイノベーションをおこしましょう!!!

Peace out,

 
松永 エリック・匡史
PwCデジタルサービス日本統括パートナー
バークリー音楽大学出身のプロミュージシャンという異色の経歴を持つアーティストとしても活躍。アーティストとして第一線で活躍した経験を活かし、人間の欲求と官能を引き出すデザインに基づき未来をリードする独自の超右脳系理論はデジタル関係者をも唸らせ、異彩を放ち続けている。コンサルタントとして、アクセンチュア、野村総合研究所<4307>、日本IBM、デロイト トーマツ コンサルティング メディアセクターアジア統括パートナーを経て、現職。

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    最終更新: 2017年12月06日(水)07時30分

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