「勝率」は投資家の実力を表すものではない

会社四季報 2017年08月12日(土)06時10分配信
(写真:MN4/PIXTA)
 前回、投資家には「小さく儲けて、大きく負ける」傾向が備わっていると述べた。この点について、筆者が考えるもう一つの理由がある。それは人が「勝率」を重視しがちであるということだ。  これを聞いて、「勝率がいいに越したことはないじゃないか」と思われるかもしれないが、実はまったくそうではない。基本的に個々のディールの勝率と投資の通算成績は関係がないのである。場合によっては、勝率が高いことがかえって通算成績を悪化させる要因にもなりうるのだ。  それでも、多くの人は勝率が高いやり方を無意識のうちに好む。そしてそのやり方は「小さく儲けて、大きく負ける」ことにつながってしまうのだ。  相場は基本的に上がったり下がったりを何度も繰り返しながら水準を切り替えていく。たとえばある株を買って、たとえその後下落トレンドになったとしても、一度も買値を上回らずに下がり続ける可能性は小さい。一度くらいは買値を上回るのが普通なのだ。だから、小さな利益で満足するのであれば、買値を上回ったら小まめに利食いを入れることで、個々のディールの勝率をかなり高めることができる。  一方で、小まめに損切りを入れると逆のことが起きる。買った株の値段が下がっても、その後に反発する可能性はそれなりにあるわけだから、損切りはその可能性を捨てることになる。その分、自然と勝率は低下していくのである。投資の教科書に「損切りが大切」といくら書かれていても、多くの投資家が損切りをきちんとできないのは、その勝率の低下に耐えられないからである。  こうして投資家は、「小まめに利食いをすることは勝率を高めるいい方法で、小まめに損切りをすることは勝率を低めてしまう悪い方法」であることを経験から無意識のうちに学んでしまう。  だが、その勝率の高さは、利益の幅を小さくして損失の幅を大きくすることの代償で得られるものだ。前回のテーマとして取り上げた相場の急変が起きた時に致命的な痛手を負う可能性も高めてしまう。いくら勝率が高くても1回当たりの利益の額が小さく、いくら負ける確率が低くても1回当たりの損失の額が大きければ、決して通算成績を改善することにはつながらないのである。  スポーツに例えるならば、投資はプロ野球のリーグ戦や、高校野球のトーナメント戦とは違う。一試合一試合の勝ち負けを競うものではないのだ。競うのはトータルスコアである。スコア勝負のゴルフの試合を、エンドレスで一生延々と続けるようなものといっていい。だから儲けられるときは大きく儲けないといけないし、一度でも大たたきしてしまうと後々まで大きく響く。  この投資のトータルスコアは、以下の式で表すことができる。  トータルスコア=「勝率」×「平均利益額」-(1-勝率)×平均損失額  ここでのポイントは、上で述べたように、勝率を引き上げることは簡単にできるが、それは往々にして平均利益額の低下と平均損失額の増加を招くということである。この関係はどんな投資手法においても当てはまる基本法則といってよい。  たとえば社債に投資するのと国債に投資するのとではどちらがいいだろうか。同じ年限で比べると、信用リスクがある社債のほうが利回りは高い。それはデフォルト(元利払いが予定どおりに行われなくなること)のリスクの見返りに得られるものだ。だが、デフォルトが生じる確率は一般にかなり低いので、たいていの場合は社債に投資したほうがいい結果につながる。つまり、社債投資の勝率はとても高い。  だが、ごくまれにデフォルトが生じて一度に大きな損失を被る。結局、勝率だけでどちらに投資すべきか決めるべきではなく、トータルスコアを考えなくてはいけないのだ。そしてそのトータルスコアは、勝率と、平均利益額/平均損失額の比率との関係によって決まる。  もしサイコロを振って売買を決めたとすると、恐らく勝率は5割、平均利益額/平均損失額比率が1倍に近い状態になるだろう。この場合、通算成績はほぼチャラになる可能性が高い。ここで本能に従って「小さく儲けて、大きく負ける」やり方に流れていったとすると、勝率は上がるが、平均利益額/平均損失額比率は低下する。  そして、まれに起きる相場の急変に巻き込まれて大損を被ると、勝率の上昇以上に、平均利益額/平均損失額比率がさらに大きく低下してしまうということが起きやすい。そうすると長期的なトータルスコアは悪くなってしまう。これが少なからぬ投資家に実際に起きていることではないか。  勝率は決して悪くないのに、通算成績はなかなかよくならないと感じている投資家は、こうした「勝率のわな」に陥っていないか自己点検をしてみるべきだろう。 田渕 直也(たぶち・なおや)/1985年、一橋大学経済学部卒業。日本長期信用銀行(現新生銀行)で主にデリバティブのトレーディング、ポートフォリオマネジメントに従事。UFJパートナーズ投信(現三菱UFJ投信)債券運用部チーフファンドマネージャーとして、社債やストラクチャード・プロダクトへの投資運用体制を構築。『カラー図解でわかる金融工学「超」入門』、『投資と金融にまつわる12の致命的な誤解について』など著書多数。現在、ミリタス・フィナンシャル・コンサルティング代表。 ※当記事は、証券投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。
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    最終更新: 2017年08月12日(土)06時10分

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